193.鐘の音
「皇帝陛下がお会いになるそうです」
「わかった。すぐに向かう」
香奈たちの腕輪を外してから1時間ほど経った頃、流石に直ぐに皇帝陛下に会いたいと伝えて会えるわけでもなく、帝国の兵士にお願いして取り次いでもらっていた。
そして、ようやく兵士が戻って来て会える事になった。向かうのは俺とアレクシア、香奈に麻里ちゃん。このメンバーで会いに行く事は、皇帝陛下には伝えている。
部屋にやって来た兵士の後に続き、俺たちも部屋を出る。香奈と麻里ちゃんは不安そうな表情を浮かべている。
「香奈、麻里ちゃん」
「……どうしました、従兄さん?」
「何があっても2人は守るから、な?」
俺が振り返り微笑んであげると、2人の肩の力が抜けるのがわかる。余り気を張ってもいざという時に動けなくなってしまうから、今ぐらいの方が良いだろう。そうしてたら
「……私には言ってくれないのね」
隣から拗ねた声が聞こえて来た。声のする方を見れば、そこにいたのはもちろん、そっぽを向いて拗ねているアレクシアだ。口を尖らせて……可愛いなぁ。俺はアレクシアの手を握り
「アレクシアは大丈夫だって信じているからね。俺の頼りになる婚約者だから」
俺が微笑みながら言うと、アレクシアは顔を赤くして再びそっぽを向いてしまう。全く照れちゃって。頰をツンツンすると、うがぁーとアレクシアが怒る。そんな姿も可愛い。
アレクシアとじゃれあいながら、昨日謁見した広間までやって来た。兵士に案内されるまま、中に入ると、昨日よりは少ないが、両側に文官と兵士が立っている。
もちろん、勇者組と皇子たちも立っている。ガルガンテもだ。俺たちが入って来て定位置まで行くと、ひざまづく。すると、奥の扉から皇帝陛下が入って来るのがわかる。そして座る音がすると
「面をあげよ」
と、声が聞こえる。ようやく顔を上げると、玉座に座っているのは、昨日同様痩せ細った皇帝陛下だ。見るからにやつれている。やはり病気を患っているのだろうか。
「昨日は悪かったな。どうも最近は体調が優れなくてな」
「いえ、大丈夫ですわ。皇帝陛下は体の調子を治す事を一番にお考え下さいませ」
「ハッハ、そう言ってもらえると儂も助かる。それで儂に何か話したい事があると言っておったが、何を話してくれるのだ?」
前置きが終わり、本題に入る。アレクシアが横目で俺を見て頷いて来るので、俺が一歩前に出る。
「それでは、僭越ながら私がお話を。先ずはある物を見て頂きたくてお持ちいたしました。こちらはご覧ください」
俺はアイテムリングから、香奈たちの手から取ったら腕輪を取り出して、皇帝陛下の側使いの文官に渡す。文官はそのまま皇帝陛下に持って行き、皇帝陛下はそれを見る。すると
「こ、これは!?」
余りの驚きに皇帝陛下は玉座を立ち上がってしまった。当然の反応だよな。側にいた宰相もそれを見ると、驚いた表情で、俺たちを見て来る。
周りをチラリと見ると、後知っていそうなのは、ガルガンテと将軍ぐらいだろうか。ガルガンテも知っているんだな。
「何故これがここにあるのだ!」
「それは勇者である香奈さんと麻里さんの腕に付いていた腕輪になります」
「そんな事は知っておる! これは勇者たちのために魔力を増やす腕輪だぞ。何故それを取ったのだ」
「そうだ。皇帝陛下が僕たちのためにくれたものだぞ。それを外すなんてどうかしている!」
はぁ〜。溜息が出そうになる。今は俺と皇帝陛下が話をしているのに、なんで勇者君が間に入って来るんだよ。めんどくせえ。
「それじゃあ、勇者君はこの腕輪の効果をご存知で?」
「だから、それは魔力を増やす事だろ!」
「それが嘘だったら?」
「何?」
「この腕輪の本当の効果は……」
カラーン、カラーン、カラーン、カラーン
俺が腕輪の本当の効果を話そうとすると、突然鐘が鳴り出す。何の鐘だ? そう思っていると、謁見の間の扉が開かれ兵士が倒れるように入って来る。
「何事だ! 皇帝陛下の御前だぞ!」
「た、大変です! 魔国側の国境から竜種が帝都目掛けて飛んできます!」
「そんなもの、兵士を出して警戒態勢を取れば……」
「数は少なくとも100体以上! 全部が上級竜と思われます!」
兵士の言葉に謁見の間が静かになる。先ほどまで怒鳴っていた将軍も、まさかの数に顔を青くさせて口をパクパクとさせている。そして、ざわざわとする貴族たち。聞こえるのはどこに逃げればという声だけ。
「静まれい!」
しかし、そこに皇帝陛下の覇気のある一喝が入る。その一言で先ほどまで騒いでいた貴族たちは黙り込む。
「マエサル将軍よ。直ぐに帝都を守る結界を張るのだ。そして帝都にいる全兵士に出撃命令を出せ」
「はっ!」
指示された将軍が謁見の間を走って出て行く。それから次々と指示を出して行く皇帝陛下。病に侵されていても流石だな。
「それでお主たちはどうするのだ? 先ほどの腕輪の件で今は争う時間は無いぞ?」
「ええ、もちろんです。私も出ましょう。人が死ぬのを黙っては見ていられないので」
「そうか。勇者たちも帝都の存亡の危機だ。頼むぞ」
「わかりました、皇帝陛下」
勇者君が一歩前に出て頭を下げる。そして謁見の間から出ようとして、何故か立ち止まって俺たちの方を見る。なんだ? そう思っていると
「どうした、香奈、麻里。行くよ」
勇者君は香奈たちを呼ぶ。勇者組だから来いってか。俺は彼女を庇うように立つ。それを見た勇者君は顔を歪める。
「別に召喚された勇者だからって戦わせなくても良いだろ?」
「それじゃあ、勇者として召喚された意味が無いだろう! 何のために力を与えられたと思っている!」
こいつはまた面倒な事を。こういう考えは変わらない感じだよな。本当にめんどくせえ。俺は振り返って香奈と麻里ちゃんを見る。
「無理はしなくて良いからな。これから始まるのはあの戦争とは比べ物にならないぐらいの死闘になるだろう」
「えっ? どういう事?」
魔国側から竜が飛んで来るという事は、前にレビンさんから話を聞いていた黒竜王が目を覚ましたって事だろう。レビンさんでも拮抗すると言っていた相手だ。かなり厳しい戦いになるはずだ。
「アレクシア。彼女たちを頼むよ。ルシアーナ!」
「は、はいっ!」
俺は離れて俺たちの事を見ていたルシアーナを呼ぶ。表向きは婚約者だからな。これぐらいしないと駄目だろう。俺は側に寄ってきたルシアーナを抱き締める。
「ひゃっあ!」
「ごめん、ルシアーナ。表向きのためだ。我慢してくれ」
「わ、わかりました」
俺が耳元で囁くと、ルシアーナもわかってくれたのか抱きしめ返してくれる。一瞬とはいえ、彼女も婚約者の1人になった訳だ。彼女も危険な目には合わせたく無い。
「ルシアーナもアレクシアたちの側にいて」
「で、でも……」
「良いですよね、皇帝陛下」
俺が皇帝陛下に尋ねると、皇帝陛下は頷く。メリア将軍の下には兵士が2千いる。彼女の下に入れば少しは安全だろう。
「さあ、行こうか」
最低でも、彼女たちを逃がさないと。




