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186.本当の想い人

「あっ、す、すみません。本当は来てはいけないってわかっているんですけど……」


 俺とアレクシアが帝都にいる間滞在する部屋の扉がノックされたので、誰かと思い扉を開けて見ると、何故かそこには香奈が立っていた。その後ろには心配そうに香奈の服の袖を掴む麻里ちゃんもいる。


「何か用かな?」


 少しびっくりしたが、ここは平常心で。香奈は俺の正体を知らないから赤の他人だと思っているのに、俺だけ馴れ馴れしく話しては、明らかに怪しい人だからな。


「はい。少しお話がしたくて」


「それはルシアーナにかな?」


「ええっと……レイヴェルト様にもその……」


 俺にも何か話があるのか? ……別に構わないのだが、何だろうか?


「わかった。それなら中に入って」


 帝国からの差し金かと思い廊下を確認したが、いるのは俺たちがここに来た時にもいた帝国の兵士だけだ。他には気配が感じられない。俺の気配察知にもかからない奴は、そうそういないので多分大丈夫だろう。


 俺は香奈と麻里ちゃんを部屋の中に入れる。アレクシアは怪訝そうな顔をして、ルシアーナは驚いた表情を浮かべている。俺は元いた席に戻り、香奈と麻里ちゃんはルシアーナの隣に座らせる。


「どうしてあなたたちが?」


「ごめんね、ルシィー。どうしても我慢出来なくて」


 香奈はルシアーナにそれだけ言うと、俺の方を向く。少し不安そうに震えているが、意を決した顔をしている。……懐かしいな。前世でも何度か見たことある顔だ。


「それで話っていうのは?」


「はい……無礼をわかって言います。ルシィー……ルシアーナとの婚約を取りやめて貰えないでしょうか!?」


「カナ! あなた何を言っているの!?」


 香奈の発言にルシアーナは席を立って叫ぶ。どういうことなのだろうか?


「ルシィーは好き合っている相手がいるんです。本当は前の戦争が終わった後に結婚するはずだったんですけど……でも戦争は負けてしまってその話も無くなってしまったんです」


 ルシアーナから時々見られる陰りはそれが原因か。それだけが原因では無さそうだが、それでも納得の出来る話だ。


「カナ! それ以上はやめなさい! 私は望んでここにいるのです! それにこれは皇帝陛下がお決めになった話です。カナどうこう言って変わるものでは無いのですよ!」


「でも! ルシィーも匠君も見ていたらわかるもの! 2人が好き合っていて、この話が出て物凄く辛そうにしているのが!」


 香奈は両手を強く握りしめて叫ぶ。そして


「私に出来る事は何でもします! だから! だからルシィーとの話は考えて貰えませんか!?」


「カナ!」


「カナミン!?」


 俺に向かって頭を下げる香奈。ルシアーナと麻里ちゃんは香奈の発言に驚いているようだ。アレクシアは腕を組んで眉間にシワを寄せて香奈を睨んでいる。綺麗な顔が台無しだぞ。


「アレクシア、そんな怖い顔をするな」


 だから眉間を人差し指でグリグリしてあげた。アレクシアは「きゃあっ」と叫び俺を睨んでくる。さっきまで頭を下げていた香奈やルシアーナたちはきょとんとした表情で俺たちを見てくる。


「こんな時になにするのよレイ」


「そんな難しい顔をするなよ。綺麗な顔が台無しだぞ?」


「き、綺麗って!? い、今はそんな事を言っている場合じゃ無いでしょ!」


 アレクシアは顔を真っ赤にしてプイッとそっぽを向いてしまった。可愛いな。


「ええっと……」


「ああ、悪いな。君の話はわかったよ。俺個人として別に構わない。好き合っていない人同士がくっついても自分も相手もその周りも幸せにはならないからな。

 ただ、今回の話は国同士の話が関わっている。今回で言えば、レガリア帝国と俺たちがいる王領。まあ今はナノール王国になるのだが。酷い言い方をすればルシアーナは人質になるんだ。それはわかるかな?」


 俺の話に香奈は頷く。


「ルシアーナはレガリア帝国の第2皇女だ。彼女が嫁ぐ事によって、俺たちとレガリア帝国との間で、ハリボテではあるが友好が生まれる。彼女がいるから戦争は起きないという事になる。

 まあ、レガリア帝国側が彼女を切り捨てる事もあるし、こっちが破るかもしれない。だからハリボテなんだが。一応はそういう話になる」


「あなたはその彼女を返せって言っているのよ。それじゃあ今回の友好の話は全てなかった事になるわ。そうなればレガリア帝国側としては、私たちが友好を結ぶ気は無いと考えるでしょうね。そうなれば私たちはここでレガリア軍に囲まれるでしょう。そして戦争になる」


「えっ?」


 香奈は驚いた表情を浮かべアレクシアを見る。


「今回ばかりは大義名分がレガリア帝国側にあるからな。レガリア帝国側は友好を結ぶために自国の皇女を差し出したのに、相手側である俺たちはそれを拒否した。帝国の好意を無碍にしたって話になる。そうなれば多分他国は助けてくれないだろう。下手すればナノールもだ」


「そ、そんな……」


 香奈は今にも泣き出しそうな顔をする。自分が思っていたよりも重い話になって驚いてしまったようだ。まあ、今までそんな世界にいなかったから仕方ないと言えば仕方ないのかも知れないが。


 この話をしたのが俺たちでよかったな。他の人たちだと、もしかしたら3人とも捕まっていたかも。


「まあ、それは表立ってすればだけど」


「はぁ、レイは本当にお人好しね。まあ、レイのそういうところ好きだけど」


 アレクシアは呆れながらも俺に微笑んでくれる。アレクシアは俺が何を言いたいかわかるようだ。


「それはどういう事で……」


「簡単な話、婚約破棄をしなければ良いんだよ」


 香奈たちの頭の上に? が咲き乱れているようだ。


「表向きは俺とルシアーナは婚約して王領に連れて帰る。その後にその相手を連れてきて、2人で王領で暮らすってくらいかな。王領にいれば帝国にはそう簡単にバレないだろうし、バレたとしても証拠が無いから知らぬ存ぜぬで貫き通せるだろう。この世界にはカメラが無いから写真を残すって事も出来ないし」


「「え?」」


「表向きのために公務なんかで俺と出てもらう事にはなるとは思うけど。それは大丈夫か?」


「それは勿論です」


 ルシアーナに尋ねると頷いてくれる。まあ、今穏便に済ませるために思いつくのはそれぐらいかなぁ。俺たちがレガリア帝国と真っ向から戦える戦力があれば、すぐにでも突っぱねる事が出来るのだが、今は取り敢えず王領を治めるのが先だ。


 香奈と麻里ちゃんが驚いた表情を浮かべて俺を見てくるが何だろうか。俺の顔に何か付いているのか? まあ、今は話の続きをしよう。今度は相手についてかな。


「それでルシアーナが想っている相手というのは?」


「それは……タクミと言う勇者の1人です」


「……」


「……」


 まさかの勇者か。俺たちの間に沈黙が続く。かなり難易度が上がったぞ。うーん、どうしたものか。勇者がこの国から消えれば大騒ぎになるだろうしな。


 何か策は無いのだろうか。勇者がいなくなっても騒がれない方法。1つだけあるのだが、それには材料が必要になるしな。すぐには出来ないだろう。そんな時に再び扉がノックされる。


 先ほどと同じ様に俺が扉を開けて見てみると、帝国の文官らしき人が立っていた。話を聞くと、もうそろそろパーティーの時間らしく準備を始めてくれと言われた。もうそんな時間か。考えるのはまた明日だな。


 みんなにその事を伝える。みんなも出席のために準備があるからな。


「急な話で申し訳ありませんでした。私の浅はかな考えでレイヴェルト様にもご迷惑をかけて」


「構わないよ。さっきも話した様に好き合っていない者同士が一緒になっても自分たちだけでなく周りも不幸になるからな。それでも悪いと思うなら、今日のパーティーの後に少し話出来ないか?」


「話、ですか?」


「ああ、ちょっと伝えたい事があって」


「……わかりました」


 そう言って出て行く3人。色々とやる事は増えたけどまずは


「レ〜イ〜。婚約者の前で女性を誘うなんていい度胸してるわね?」


 俺の肩をギチギチ握りながら笑っていない笑みを向けてくるアレクシアを説得せねば……肩が痛い。

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