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165.束の間のひと時

 エクラが一瞬でジークたちに認められるという恐ろしい事をやってのけた後は、その流れのままキャロを紹介して、王都に残したプリシアの話もする。


 2人には少し呆れられたけど、まあまた会わせろよと言われて許して貰った。


 それが終わると、ジークは再び砦に戻ってしまった。俺たちも行くべきなのだが、ジークが今日ぐらいはゆっくりしろと言うので明日の朝一に出る事にした。


 そして今は


「レイ様! お背中お流ししますね!」


 とクロナに背中を洗われている。場所はもちろん屋敷にある浴場だ。今は戦時中なのでお風呂はあまり使ってなかったらしいのだが、俺が魔法でやれば直ぐなので、みんな入ってもらう事にした。


 この浴場広いから水入れるのも時間かかるし、沸かすのも苦労するからな。俺が水魔法でバシャンと入れて、火魔法でボンとすれば出来た。


 初めは女性陣に入ってもらおうと思ったら、エリスとクロエが


「レイが入れたのだからレイが最初に入っていいわよ。それに彼女をかまって上げなきゃ」


「レイ様、よろしくお願いします」


 2人はニヤニヤしてそんな事を言ってくる。普段あまりそう言う事を言ってこないクロエが、そう言う事を言うと事は、と思い振り向くと、上目遣いでじっと見てくるクロナがいた。


 そうだよな。4年間も離れ離れになって、手紙だけのやり取りしかやってこなかった。その上危険な目に合わせてしまったからな。


「それじゃあ、クロナ。背中を流してくれるか?」


 俺がそう言うと、パァーッと笑顔になり、準備してきます! と走って行ってしまった。アレクシアたちも今日は譲ってあげるわって言っていた。


 周りの侍女たちは、そんなクロナを初めて見たのか驚いた表情だったが。


 そして、今。クロナは楽しそうに鼻歌を歌いながら、背中を流してくれている。予想はしていたがタオルを巻いてだ。


 アレクシアたちとお風呂に入ったりするので、女性の素肌に少し慣れてしまっているな。昔だったら何が何でも断っていたけど。そんな事を浮かべて苦笑いしていると


「レイ様。指輪ありがとうございました。送られた時、私嬉しくて泣いちゃったんですよ」


 とクロナが照れながら話してくれる。泣くほど喜んでくれたのなら俺も嬉しい。


「本当は手渡しで渡したかったんだけどな……あっ、そうだ。クロナ、指輪を付けている手を出してくれ」


 俺はお湯で背中を流してくれたクロナに振り向いて言う。クロナは首を傾けながらも左手を出してくれる。


 俺が左手から指輪を抜くと、クロナが何故か物凄く悲しそうな顔をする。もう泣きそうなぐらい。俺はそれを見て苦笑いする。別に取り上げようという訳じゃないのに。


「クロナ。そんな悲しそうな顔をするなよ。別に取り上げようという訳じゃない。クロナにはしっかりと伝えていなかったから」


 少し場所はおかしいが、俺は風呂場に片膝をついて、クロナを見上げながら


「クロナ。大好きだ。これからの人生を俺と共に歩んで欲しい」


 そして左手薬指に再び指輪を付けてあげる。それをじっと見ていたクロナの目からはブワッと涙が溢れてきた。こ、これは嬉し泣きだよな? そうじゃなかったら焦るのだが。


「ぐ、ぐすっ、れ、レイ様! 私もレイ様の事が大好きです! お慕いしています! 私もこれからの人生をレイ様と一緒に歩んでいきたいです!」


 良かった。嬉し泣きだ。俺は泣きじゃくるクロナの手を引いて、お風呂に入る。俺はあぐらで座り、あぐらの上にクロナを座らせる。


 泣きじゃくっていたクロナは、俺の上に座る事に驚いて泣き止んだが、今度は座れません! と慌て出す。だけど、そこを無理矢理膝を抱えるように座らせる。いわゆる体育座りと言うやつだ。しかも、抱えるのは俺だ。


 クロナは緊張しているのか、尻尾も耳もビンッ! と立っている。だから緊張をほぐすために、クロナの耳元で


「これからもよろしくな。愛しのクロナ」


 ボソッと言ってあげると、クロナの顔がみるみる内に真っ赤になっていきそして、ボンっと音がしそうなくらいまでなった。俺はそんな可愛らしいクロナの頭を撫でながら、ゆっくりとお風呂に浸かるのだった。


 ただ、その後もクロナは顔を真っ赤にして、お風呂を出たため、それを見たアレクシアたちに一体何をしたのと、問い詰められる事になったのだが。


 別に何もしていないのに……。


 ◇◇◇


 レイたちがお風呂に入っている頃


 あわわ、な、なんでこうなったのでしょうか。な、何故私は皆さんに囲まれて?


「この子がフィーリアちゃんね。可愛いわね」


 仮面をつけた女の人、キャロラインお義姉様にそう言われながら頭を撫でられます。私は皆さんに助けに来てくれたお礼を言っていただけなのですが。


「本当可愛いわよね。エアリスとは違う可愛らしさね」


「ちょっと、それどういう事よ、アレクシア」


「んん? エアリスは綺麗な感じだけど、フィーリアちゃんは可愛らしい愛くるしい雰囲気があるって事よ」


 とみんなが楽しそうに話しています。お兄様の婚約者の皆様は物凄く仲が良さそうですね。エアリスお姉様と、アレクシアお義姉様が楽しそうに冗談を言い合っています。


 そこに


「良いお風呂だった。な、クロナ」


「は、はいでしゅ」


 とお兄様とクロ……クロナ? がお風呂から出て来ました。クロナはどうしたのでしょうか。顔を真っ赤にして。それにいち早く気がついたアレクシアお義姉様たちがお兄様を囲みます。そして


「ちょっと、レイ。浴場で何したのよ?」


「浴場で欲情したんじゃないでしょうね!?」


「ち、ちょっと待てアレクシア。別に何もしていない! まだ10歳だぞ! それにフェリス今そんな冗談いらないから!」


「問答無用!」


「ぐへぇっ! え、エアリス首締まっているって! キャロも地味に抓るな! 痛っ! エクラも噛むんじゃない!」


 お兄様はそう叫びながら、アレクシアお義姉様たちに何処かへ連れていかれました。多分お兄様のお部屋でしょう。その後ろをクロナもフラフラとついていきます。


 そんな姿を見ていると


「楽しそうですね」


 と後ろから誰かに声をかけられました。振り向くとそこには確か


「ティグリス様」


 お兄様と一緒に助けに来てくださった、ティグリス・ランパート様がいらっしゃいました。


「はは。今の僕に様は必要無いですよ」


 笑いながら言われます。確か今はお兄様の奴隷と言っていましたね。でも、お兄様は一時的なものとも言っていましたので


「いえ、私はこっちの方が合っているので。それよりもティグリス様も敬語似合ってませんよ?」


 私がクスクスと笑うと、ティグリス様も参ったなぁといった風に頭をかいています。でも、それよりも不思議に思っている事があります。


 先ほどキャロラインお義姉様とお話しした時も思ったのですが、キャロラインお義姉様とティグリス様はお兄様と似た雰囲気があります。


 この暖かい感じはなんでしょうか? そんな風にティグリス様をじっと見ていると


「フィーリア様?」


 はっ! 余りにも不思議な感覚だったので、ティグリス様の顔をじっと見てしまいました。余りの恥ずかしさに俯いてしまうと、頭を優しく撫でられました。


「ふふ、フィーリア様みたいな可愛らしい人に見られると勘違いする人が出るから注意するのですよ」


 と言い、ティグリス様も部屋を出ていってしまいました。むむ。今の言い方だとティグリス様はその勘違いする中に入っていないみたいな言い方です。別に勘違いさせようとか思っているわけでは無いのですが、何か複雑です。


 それに、ティグリス様たちの不思議な感覚を尋ねる事が出来ませんでした。この戦争中、終わった後も落ち着くまではいると言っていたので、また聞いて見ましょう。

評価等よろしくお願いします!

「黒髪の王」もよろしくお願いします!

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