163.どうやって来たのか(1)
ランウォーカー辺境伯領
屋敷
「ほれ、足下がお留守だぞ」
「うへぇっ!?」
俺が槍で足を払ってあげると、ドライは顔面から地面に倒れていった。これを見るとロイを思い出すな。あいつも初めは良く引っかかって顔からこけてたものだ。
その度メイちゃんに顔を拭いてもらって満更でもない顔してたからな。気がついたらこけなくなっていたな。
「く、くそっ! こっちは剣なのに槍なんて卑怯だぞ! ……です!」
……敬語下手とか言うレベルじゃないぞそれ。後ろでクロナが物凄く睨んでいるし。今後もフィーリアの護衛を続けるなら直さないとな。他の貴族に侮られるから。それに
「ドライだったか? お前はそれを敵に言うのか? 槍だと戦いづらいですから武器を変えてくださいって?」
「ううっ、そ、それは……」
「もちろん、そんな優しい奴はいない。逆に苦手だと分かれば、嬉々として槍を使って来るだろう。その相手にどうやって対抗するかを考えないと。それじゃあ、今度は3人で来い」
そして、フィーリアの護衛3人は俺を囲むように立ち剣を構える。なんでこんな事をしているかと言うと、暇だからだ。
侵入者を捕らえた後、屋敷の状況や、死者や怪我人を確認していたのだが、屋敷の被害は表の玄関の魔法の跡や俺が壊した壁ぐらいで、死者は10人程、怪我人が多かったが既に治療済みで、魔法障壁も張ったらやる事が無くなったのだ。
街の方は全然被害が無かったようだし、修理は街の人がしてくれる事になったし。戦争の方も、今日は敵が撤退したと伝令がやって来たので行く必要もない。後少しすればジークたちも帰って来るそうだ。
だからそれまで暇だったので、体を動かそうと思ったら、ミルミだったかな。修行してほしいと言ってきたので、相手をしているのだ。
「よし、それじゃあ行く「キュルル!」ぶへっ!」
俺がミルミたちに行くぞと言おうと思ったら、空から何者かが顔にへばりついてきた。そしてよじよじと俺顔を這い上り俺の頭の上でぐでぇとする。私にもかまえと頭をペシペシと叩いて来る。
「お疲れさんエクラ。ヒルデさんはどこに行ったんだ?」
俺がエクラに尋ねると、エクラはビシッと指を指す。その方を見ると、エクラの指を指す方が光り出し、ヒルデさんが現れる。
「レイ君。シルフィーたちを届けてきたわ。その後少しエクラと空中散歩しちゃったわ」
ヒルデさんはうふふと嬉しそうに笑う。親子水入らずで楽しそうなのは良かった。エクラも楽しかったみたいだし。ただ
「お、お兄様、そのり、竜は何でしょうか? そ、それに突然現れたこの綺麗な女の人は?」
後ろで見ていたフィーリアが俺の下に来て尋ねて来る。クロナもうんうんと頷く。周りを見るとミルミたちや侍女たちも驚き、エリスまで驚いている。
あれ? エイリーン先生に伝えてもらうように言っていた筈なのだが。俺がエリスの隣にいるエイリーン先生を見ると
「あ、忘れてたよ」
と。たはは、と笑うエイリーン先生。まあ別にいいのだけれど。そして俺がエクラやヒルデさんたちの事を説明しようとした時
「失礼します。エリス奥様、エイリーン奥様、ジーク様がお戻りになられました」
と兵士がやって来た。エリスやエイリーン先生は嬉しそうに微笑みながら門の方へ向かう。説明は後だな。俺も2人の後ろについて行く。
◇◇◇
「レイ。今回は本当に助かった。お前や学園長たちが来てくれなかったら、かなり危険な状況になっていただろう」
そう言い頭を下げるジーク。今は屋敷の会議室に来ている。ここならみんな入れるからな。
ここにいるのはジーク、エリス、エイリーン先生、師匠、ヒルデさん、俺、アレクシア、フェリス、キャロ、エアリス、俺の頭の上にエクラ、俺の後ろにティグリス、フィーリア、クロナ、クロエ、マーリンさん、ドロテアさん、ミルミたち護衛だ。
ティグリスとクロエとミルミたち以外は席についている。
「間に合って良かったです。俺たちもティグリスから話を聞かなければ、間に合わなかったでしょうから」
俺たちが王都で起きた事から、ここに来る事になった経緯について話す。
◇◇◇
1月4日
ナノール王国王都
「ティグリスが俺を呼んでいるですか?」
「うむ。戦争の事で話したい事があるそうだ」
グルタスの反乱から3日経った。あの後はグルタスが死んだ事により、反乱は収まり、グルタス側に付いていた兵士たちも全員投降した。
本来なら反逆罪で全員死刑なのだが、兵士たちは隊長クラスも合わせて全員で2万はいた。その兵士は当たり前だが元々はナノール王国の兵士だ。
2万全員を死刑にすると、兵力も下がり、民の反発もあるだろうからと、関わった貴族の死刑だけで済ませて、兵士たちは半年間の無償労役となった。
まあ、結果的には被害が出なかったからこそのこの軽い罰なのだが。王都の民に被害が出ていれば、さすがに無償労役では済まなかっただろう。ちゃんと食べ物は出るそうだし。
それから今日、王様は王都にあるグルタスの屋敷を調べさせた。隊長に第一騎士団長のマルクスさんという方が選ばれ、俺もそれについていった。中にいたグルタス派の兵士が反発して来たが、全員捕縛、もしくは殺して押さえ込んだ。
そして中を調べれば調べるほど、グルタスは結構黒い事に手を染めていた様だ。誘拐や恐喝はもちろん、ナノール王国の機密情報をレガリア帝国に売っていた様だ。
その見返りに、今回の協力、魔剣の提供や、戦争の時期の申し合わせなどをしていた様だ。
そしてこういう屋敷には当然地下があって、そこには誘拐されて来たであろう女性などが地下牢に入れられていた。
そしてその中の1人には
「ランバート公爵! 何故この様なところに!」
マルクス騎士団長は面識があったのだろう。牢屋の1つに入っている金髪の男性を見てかなり驚いていた。この人がティグリスの父親でランバート公爵か。体は疲労している様だけど、放たれる威圧感は半端ない。
「お主は、確かマルクス騎士団長だったか。グルタスはどうなったのだ?」
「グルタスは反乱を起こしましたが、それを防ぎました。その反乱の際にグルタスは死亡しました」
「そうか。あの馬鹿は」
それから、ランバート公爵を含めて、牢屋に囚われていた人たちを助け出したのだが、みんながみんな疲労がしており、中には病気になっている人もいたので、グルタスの屋敷の空いている部屋を使って治療させてもらった。
その時に見つけたのが、ティグリスの母親だ。側にはお付きの侍女もいて、ティグリスは父親と母親、二重に人質を取られていたみたいだ。ランバート公爵は夫人を見るなり駆け寄り、側にいた侍女に夫人の容態を確認する。
「マーサ、ミリアの容態は?」
「旦那様! お怪我はありませんか!?」
「私はいい。それよりもミリアは?」
「……ここ数日、治療師が来て下さらないため、容態は悪化する一方です。このままでは……」
夫人は確か呪いにかかっているってグルタスが言っていたな。それをかけたのは、グルタスを裏切ってベンジャルと何処かへ消えたエインズとか言う奴だ。
「ライト。あれは『断ち切る者』で何とかならないのか?」
俺は側にいるライトに確認する。しかし
『どの様な呪いかわからないため断ち切る者では無理でしょう。ただ』
「ただ?」
『レイ様の光魔法のレベルは8。そのレベルなら光魔法の1つ、浄化魔法が使えますよ』
……は? 言っている意味がわからんぞ。
『レベル8以下の呪いであればアンチカースと唱えればいけるはずです』
なんで今更そんな事を言うのか釈然としないが、それで助けられるならまあいいか。
俺はライトに言われるがまま、夫人の側に寄る。ランバート公爵は怪訝な顔で、侍女は寄るなと怒るが、俺は無視して近づく。そして夫人の頭に手を置き
「アンチカース」
俺が魔法を発動すると、手から光が発し、その光が夫人を包んでいく。そして夫人から黒いモヤみたいなのが出て来て消えてしまった。すると
「う、うんん」
「ミリア!」
「あ、あなた、なの? こん、なに、やつれ、てしまって」
「馬鹿者! やつれているのはお前の方だ! 全く! 全くぅぅぅ!」
ランバート公爵も夫人も抱き合って泣き出してしまった。うぅ、そんな光景見せられたら俺まで涙が。侍女は号泣している。
それからランバート公爵たちに物凄く感謝された。侍女には地面につくぐらいまで頭を下げられたし。
そんな事もありながらも、グルタスの屋敷に囚われていた人々はみんな助けて、王宮へ戻ったらティグリスに呼び出されたのだ。一体なんだろうか?
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