161.暴風女帝
ランウォーカー辺境伯領
屋敷
俺は、魔族の女性に槍を向ける。エリスたちは俺を咎めるような声を出すが、俺の耳には入ってこない。
「何故、ここに魔族がいるんです、母上?」
「彼女は魔の大地に倒れていたのをフィーリアが助けたのよ。それから、フィーリアに魔法を教えてくれて、今回も私たちの事を助けてくれたの。だからレイ、ドロテアちゃんに槍を向けるのはやめなさい」
「そうよ、レイ君。彼女は色々と私たちの事を助けてくれているわ。だから」
……どうするべきか。別に全ての魔族が敵対するとは俺も思ってはいない。だけど、この魔族の女性からは
「あなた、七魔将ですよね? 何故こんなところにいるのですか?」
そう、アゼルやギルガス、ベンジャルたち他の七魔将たちに似た雰囲気が、この魔族の女性から出ているのだ。
「へぇ、その感じだと、他の七魔将たちに出会った事あるみたいね、坊や」
魔族の女性は珍しそうにクスクスと笑うが
「ええ、何度か戦いましたから」
俺の言葉に驚いた魔族の女性が、真剣味を帯びた目で、俺を見て来る。
「夏前に王都近くの森でアゼルと、夏頃のアルカディア教皇国でギルガス、そしてついこの前に王都でベンジャルの作ったゾンビヒュドラと戦いました」
「なら、ギルガスを倒した少年って」
「俺のことですね」
別に隠すような事では無いので正直に話す。魔族の女性は驚いた表情のまま俺を値踏みするように見て来るが、納得したのか
「なるほどね。それなら私をどうするつもり?」
と尋ねてくる。その目には覚悟を決めたような雰囲気があった。しかし、俺が何かを言う前に
「お兄様!」
と、後ろからフィーリアの声が聞こえてくる。たぶん、戦闘の音が聞こえなくなったので、やって来たのだろう。声のする屋敷の方を見ると、クロナたちや、他の侍女たちもいる。
「お兄様! 何故ドロテアお姉さんに槍を向けているのです!」
そして怒られた。
「いや、彼女は魔族で、その中でも最強の7人の1人で……」
「でも、私たちを助けてくれました! お兄様は魔族だからと言って差別するのですか!」
「いや、そういう訳じゃあ無いのだが……」
「なら、他の種族と同じ様に扱って欲しいのです!」
ふんすーと気合の入れた雰囲気で両手を握り俺に言ってくるフィーリア。俺は何度も魔族の女性とフィーリアを見る。うっ、フィーリアの上目遣いでお願いされると……。今まで構ってあげられなかった分余計に。仕方ない
「ああもうっ! わかったよ! あなた! 万が一俺の家族に手を出すような事があれば許さないからな!」
俺は殺気を放ちながら魔族の女性にそう言う。魔族の女性は慣れているのか苦笑いしながら頷く。そして
「ありがとうです、お兄様! 大好きです!」
と抱きつかれた。……はぁ。これだけでなんでも許してしまいそうだ。一応魔族の女性、ドロテアさんに関してはジークも対処していたようで、フィーリアが渋々ながら制約の首輪を付けていたのは安心した。
もし外したままで! とか言われたら流石にそれは受け入れるわけにはいかなかったからな。
それから、今回の侵入で亡くなった兵士の確認や、街の被害状況の確認などを行なっている。フィーリアたちも治療の手伝いや、瓦礫の片付けをしてくれている。俺も破壊された魔法障壁を、予備のものに交換しているところだ。そこに
「レイ、ここのことはいいからジークのところへ行って欲しいの」
とエリスからお願いされた。しかし、俺は首を振る。
「ここの安全がまだ確保出来ていない状況で離れる事は出来ません。予備の魔法障壁を張っているので、少し待っていただく事になります」
「だけど、その間に、戦争が進むのよ。ここでこんな奇襲をしたって事は向こうでも何か起きているかも知れないわ。だからここは良いからレイにも……」
そういえば伝えていなかったな。俺が1人で来たのでは無いことを
「それなら大丈夫ですよ」
「え?」
エリスは何を言われているのかわかっていなくて、コテンと首を傾ける。
「向こうには、ナノール最強が向かいましたから」
◇◇◇
ランウォーカー辺境伯領国境砦
「ラーシル砦」
「突撃だぁ!」
「うおおおお!」
ちっ、面倒な事になった。俺は切られた傷を押さえながら、他の兵士たちに指示を出す。
「ジーク様、傷を治療しなければ!」
「そんな事は後でいい! それよりも、これ以上レガリア軍を砦に入れさせるな! なんとしても食い止めるのだ!」
俺も槍を持ち直し、登ってくるレガリア軍へと向かう。他の兵士たちも抑えているが、その間をすり抜けてくる兵士もいる。奴らの目的は門を開ける事か、魔法障壁を止める事だ。
門を開けられれば、一気に兵士が流れ込んで、魔法障壁を止められれば、空間魔法で移動してくる事が可能だからな。
なんとしても食い止めなければならない! マルコの方も突破されて乗り込んで来ている。マルコも奮戦したが、全身傷だらけだ。あれ以上血を流すと命に関わるだろう。
敵を薙ぎ払っていくが再び
「通さねえぞ!」
少年が割り込んでくる。少年の実力は俺より少し下だろう。しかし、やり合う度に少し動きが良くなっていくのだ。本当に面倒な相手だ。やればやるほど強くなっていくのだから。
「せいっ!」
「はぁあ!」
俺と少年は何度も何度も打ち合う。どちらの体にも傷は増えていくが、俺も少年も引かない。このままでは拉致があかないと思ったその時
「薙ぎ払え暴風女帝」
本来なら聞こえて来るはずのない声。落ち着いた雰囲気のある声だが、俺の体を震え上がらせるには十分すぎる。な、なぜここにあの人が……。
そしてこの背筋が冷える感じ。これは……まずい! そう思った俺は既に叫んでいた。
「全員、伏せろぉぉぉぉ!」
ナノール軍の兵士は咄嗟のことだったが伏せたが、レガリア軍はこれがチャンスだと思ったのだろう。先ほど以上に声を上げて攻めて来たのだが、その瞬間
ドゥン!
と空から落ちて来た風の塊。その塊がレガリア軍の上に落ち爆発。とんでもない突風が吹き荒れ、直撃したレガリア軍は、余りの風の勢いに空を舞った。
地面に伏せている俺たちも、へばりついていないと飛ばされる程の風だ。立っていたレガリア軍はたまったものではない。
それが後3発放たれた。一つはマルコの場所。後二つは雲梯の上に落ちた。雲梯はひしゃげてバラバラに壊れ、その部品が吹き飛び新たな被害を生んでいた。そして近づくだけで、吹き飛びそうになる程の風を纏った
「あらまあ、やり過ぎたかね?」
ナノール王国最強が戦争に参加した瞬間だった。
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