156.作戦決行
1月5日
ランウォーカー辺境伯領 レガリア軍
「それでは済まぬが頼むぞ、勇者コウキ殿。タクミ殿」
「はい! 俺に任せて下さい!」
おおぅ、すげぇ気合入っているな伊集院のやつ。しかし、俺はかなり憂鬱だ。昨日は香奈ちゃんたちの前では大丈夫だ! とか言ったけど、いざとなるとかなり緊張してしまう。
「ははは、緊張してるタクミ? 気持ち悪いなぁ〜」
そう言い笑ってくるガルガンテ。こいつ本当に殴ってやろうか? 返り討ちにされるだろうけど、1発殴らないと気が収まらない。
「まあいいや。タクミにも皇帝陛下から賜ったものがあるから。ほいっ」
こ、こいつ! 皇帝陛下から頂いたものを投げやがった!? 俺は慌てながらも受け止める。あ、危ねぇ。っていうか、頭おかしいだろこいつ。俺が睨んでもヘラヘラしやがって。
でもまあ、貰ったものは使わせてもらおう。俺は手にある物を見る。皇帝陛下から貰ったものは剣のようで、両刃剣のようだ。しかしどこか雰囲気がおかしい。なんだろう?
「それは魔剣だから、発動するとかなりの力が得られるよ」
とガルガンテが補足してくる。魔剣か。なんて厨二をくすぐる言葉なんだ! 元厨二の俺からしたら有難いものだ。能力は使ってからのお楽しみって言われたが。まあ、楽しみにしておくか。
「それじゃあお願いエインズ」
「ああ」
俺たちの準備が出来たのがわかったのか、ガルガンテが、ローブを着た男、エインズにお願いする。このエインズという男が今回の作戦の要だ。
「それじゃ行くよ」
って、こっちのタイミングではなくてお前のタイミングで行くのかよ!? ちょ、まだ、心の準備が、ちょっ、ああっ!!
気がつけば空だった。そしてそのまま……うわあああああっ! 落ちるっ!
今回の作戦というのは、あのエインズという男に、空間魔法で転移させてもらうというものだ。
砦の中に転移出来たら良かったのだが、今砦には、砦を囲うように魔法障壁が発動されている。そのため、空間魔法では中に入る事が出来ないらしい。魔法は防いでしまうらしいから。各国の王宮にもあるようなやつらしい。
そこで考えた突拍子も無い作戦が、空から奇襲というものだ。魔法障壁の範囲外から転移をして、空から砦に降りる。そして雲梯が近づける場所を力づくでこじ開けるというものだ。
この無茶な作戦を成功させるためには、まずは砦の上、100メートルほど上のここから、砦に落ちるのに耐えなければならない。その後は雲梯が近づける位置までの敵兵士を倒す程の力がないといけない。これが最低条件になる。
そして、この作戦に白羽の矢が立ったのが伊集院と俺だ。普通の兵士だと上空から落ちるのも耐えられないし、敵兵士に殺されてしまうからと初めから除外。
将軍とかは役職があるので無理。それなら勇者ならどうか? と決まったらしい。そこで勇者組で1、2番目に強い伊集院と俺が選ばれたわけだ。完全に貧乏くじだ。
取り敢えずこの落下を抑えなければ。
「風魔法ウイングブラスト!」
俺は風魔法を何度も発動して、落下速度を落とす。って、気付かれた! まあ、何度も魔法を発動させていたらバレるか。でも、これじゃあ良い的じゃないか。
そのまま、魔法を避けながら落ちて行く。もう直ぐで砦だ。俺は魔法を何度も放つ。……お、魔法が何かに弾かれた。今のが障壁か? 障壁は通り抜けたな。俺は身体強化を使い衝撃に耐える。
ズドォン!
砦に着いた瞬間前回りをして勢いを逃す。ひぃぃ〜。足が痺れる。でもそんな事を言っている暇は……。
「奴を殺せぇ!!!」
って、既に囲まれている!? 俺は直ぐに腰の剣を抜く。魔剣じゃ無くて俺の愛用している方だ。剣には風魔法を付与。切りかかってくる兵士を逆に切る!
俺は転がるように避けながら、敵兵士を切って行く。手に残る感触が気持ち悪いが、今はそんな事も言ってられない。手を抜けば俺が殺される。
「絶対に行かせるなぁ!」
「ここで奴を止めるんだ!」
あちらこちらから怒声が聞こえる。でも、そんな声を聞いている暇もなく俺は兵士を次々と切って行く。周りは敵兵士しかいないので振りやすい。周りを気にしなくていいからな。
剣の横薙ぎをしゃがんで避け、兵士の腹を切る。槍で突いてきたのを足で踏みつける。そして兵士の首に剣を突く。
「せいっ!」
「ぐぅっ!」
腰に槍が刺さる。痛ぇなこの野郎! 俺は腰の槍がこれ以上刺さらないように、抜きながら振り向き、刺してきた兵士を切る。
雲梯を近づける予定の場所まで、まだ距離がある。早く行かなければ。次々と切りかかってくる兵士を切る。
しかし、それと同じ様に俺の体にも切り傷が増えて行く。特に腰の傷が一番深い。ヒールを使っているけど治りが遅いな。
「ふんっ!」
横から巨大な男が斧を振り下ろしてくる。しかも結構早い。俺は体をずらして避けるけど、男は斧をそのまま切り上げてくる。ちっ、速い! 少し肩に掠った。このままじゃあ不味いな。伊集院の方も手こずっているみたいだし。
俺はさっきガルガンテから渡された魔剣を抜く。確か魔力を流せば発動出来るって言っていたっけ。こんな早く使う事になるとは。でも、しのごの言ってられない。
「発動!」
俺は左手に持った魔剣に魔力を注ぐ。すると、ドクン! と魔剣が脈打ち、何かが流れてくる感覚がする。な、何だこれ!? 俺は右手に持っていた剣を落とし、左手を掴む。
魔剣から何かが流れ込んでくる感覚。何かが俺を蝕んで行く。く、くそっ! 魔剣が手から離れない。
「何がどうなっているかわからんが、今がチャンスだ。ナノール王国のために死んでもらうぞ!」
そう言い兵士は再び斧を振りかぶってくる。……くそ。俺の意識も持ちそうに無い。このまま消えてしまいそうだ。俺もここまでか……。
『……タクミ。必ず生きて帰ってくださいね』
……そうだ。帝都にはルシィーを待たせているんだ。こんなところで死ねるかぁ! 俺は帰って
「ルシィーとイチャイチャするんだ!」
そう叫んだ瞬間、俺の中から光が溢れてくる。さっきまでの魔剣が俺を蝕んで行く感覚はもう無い。しかも、さっきまでの痛みもなく体も軽い。
……もしかして『耐えし者』のお陰か? 魔剣の侵食に耐え切ったからこの力を得たのか。
「見た目が少し変わっているが、お前を殺すのには変わらん!」
そして男は再び斧を振り下ろしてくるが、先ほどみたいに速さを感じない。俺はその斧を魔剣で防ぐ。……軽い。見た目より全然軽い。俺が軽く魔剣を振ると、斧は大きく弾かれる。
「ぬぅ! なんて力だ!」
……そうなのか? 俺は結構軽く振ったつもりなのだが。でもこの隙を見逃さない。俺は足元の剣を拾い二刀流にする。これも中々厨二をくすぐる。
「う、うおおおおぅ!」
横振りで迫る斧を、俺は剣で防ぎ、そのまま男に近づき魔剣で袈裟切りをする。男は血を吹き出しながら倒れる。
この男はどうやら、この辺りにいる隊長だった様だ。周りの兵士の士気を上げてしまった。でもこのまま行けそうだ。そう思った瞬間
「小僧。これ以上暴れられては困るな」
と、さっきの男以上の威圧感を放った緑色の槍を持ったナイスミドルな男がやってきた。この人、ガルガンテと同じぐらいじゃね?
……あれ?
タクミがなんだか主人公ぽくなってる(笑)
評価等よろしくお願いします!
「黒髪の王」もよろしくお願いします!