15.情勢(1)
俺と先生はジークの書斎へと着いた。先生がノックをすると中から
「入れ」
と、ジークの声が聞こえてきた。
先生が入り続いて俺が入る。中に入るとすでにエリス、エアリス、軍隊長のギルバートさんとその部下らしき人3名ほどが既に待っていた。
「遅くなったかな?」
「いや、大丈夫だ、エイリーン。レイも座ってくれ」
「わかりました」
俺と先生が座るとギルバートさんが、机の上に地図を広げる。
「まずは今回の大行進ご苦労だった。軍の方は軍隊長のギル、近距離部隊ではエイリーン、マルス、遠距離部隊のメル、ケイ、魔法師部隊はエリス、メイジェーンがまとめてくれたおかげで被害が最小限に抑えることが出来た。今までで数が一番少ないと言ったってそれでも1万近くはいたからな」
そう言った後にジークは俺とエアリスを見た。
「それからエアリスとレイ。お前たちが街の中に侵入したオークたちを殲滅してくれたおかげで被害が余り出ずに済んだ。お前たちがいなければ今以上の被害は間違いなかっただろう。まあ、まだ子供のお前たちには余り無茶をして欲しくはないのだかな」
そう言い苦笑いをする。それを見たエリスは
「前にも言ったけど、本当に無茶はしないでよね! エアリスは傷が深ければ治癒魔法で完治が出来ず、もう少しで二度と剣を振ることが出来なかったのよ。レイにしても魔力の枯渇が酷ければ、生死に関わっていたんだから!」
俺の話は聞いたが、エアリスの傷がそんなに深かったとは……
「でも」
と言いながら、エリスが急に立ち出し、俺とエアリスの方へ向かってくる。俺とエアリスの所に来ると2人揃って思いっきり抱きしめてくれた。
「前から注意してばかりだけど、あなたたちはよく頑張ったわ! エアリス、レイ。あなたたちの母親で私も誇らしいわ!」
エリスはそう言うと穏やかな顔で微笑んでくれた。その顔を見るとエアリスも俺も何だか涙が出てきた。やはり、幾ら納得しようと心の中では、生き物を殺したことや人を死なせてしまった事、自分が傷つき、死にかけた事などを気にしていたのだろう。
その事を、エリスに抱きしめられることで実感する事が出来た。
だから、俺たちは自然と2人でエリスを抱きしめ返した。今更ながら生きている事をこれでもかと実感する様にしっかりと……
数分ぐらい泣いてようやく落ち着いたところでジークが話し出した。ニヤニヤした顔で。
「エアリスとレイのこういう姿を見るとやっぱり子供だなぁと実感するよ」
「当たり前だ。幾らジーク、私、エリスの血を引いていようと子供は子供だ。私たち親がこれからも教えて行かなければ」
そう言うエイリーン。顔はもちろんニヤニヤしている……ジト目で睨むが、全く気にした様子はない。それに見かねたギルバートさんが話し出した。
「家族でお話しするのはよろしいのですが、本題に入りましょうよ」
「ああ、そうだな。ギルも早く奥さんや子供に会いたいよな。お前は大行進の後始末のせいで、ようやく帰ってこれたしな。早く2人のネコミミを愛でたいよな〜?」
「もちろんです! 早く帰ってクロエとクロナを愛でたいです!」
そう言って悪い顔をするジーク。だけどそれを普通に返すギルバートさん。そうなのだ! この人が俺の侍女をしてくれて、今では侍女長をしているクロエの旦那で、クロナの父親になるのだ。
話しだすと長くなるが、ギルバートさんは以前の大行進の時はジークの直属の部下で、エリスの護衛をしていたクロエと面識があったそうだ。その時からギルバートさんは惚れていたそうだが、大行進の後始末などで全く会う事が出来ず、ランウォーカー家の侍女としてクロエが来た時に再会し、付き合い始めたそうだ。
そのあとはとんとん拍子に話が進んでいき結婚に至ったとの事。
ジークはその返しに苦笑い。ギルバートさんは何故かドヤ顔。エリスと部下たちは溜息をついて、エイリーンは爆笑。なんだ、このカオスな空間は?
ジークは話を変えるように話し始めた。
「じ、じゃあ、今回の大行進について話をしよう」
「はい。今回の大行進は、今までのに比べて一番数が少なかったと思われます。おおよそになりますが数は1万に届かない程。オークが中心となった大群でした」
大行進はどの様な理由があるのか、出てくる魔物がよく変わるらしいのだ。前回の大行進の際は、今回の様な魔物に、ドラゴンが3体出てきたと言っていた。その対策に追われてかなりな期間がかかり被害も大きかったらしい。その前はアンデッド中心の大群だったりとその都度対策を取らないといけないとか。
「今回は、オークキングが大群を率いたせいでオーク中心の大群となったのだろう。前々回の時はリッチが率いてアンデッド中心の大群だったしな」
今のところの予想としては、大群を率いるリーダーによって魔物が変わるのではないかと考えられている。
「多分そうではないかと思われます。しかし皆様お気づきだとは思いますが、今回の大行進は今までと違います」
「ああ、今までのに大行進では無かった奇襲という作戦を使ってきているからな」
ジークが言うと、部屋の中がピリピリした雰囲気になった。
「エアリスの話を聞くと、オークたちが街の中に現れる前に、上空に大規模な魔法陣が出現したそうだ。まあ、オークたちが現れたという事は、空間魔法の転移を魔法陣として発動したのだろう」
「そうだと思います。空間魔法を使える魔物は聞いた事がありません。ということは」
「ああ、十中八九人間が絡んでいる。しかも高レベルな魔法師だ」
「エリス様。この様な大規模魔法陣を作るのに魔力はどの位必要になりますか?」
「私が直接魔法陣を見たわけじゃないから確実とは言えないけど、そんな大規模な魔法陣に100体近くのオークを送るとなると、1万近くの魔力は必要になると思うわ。ただ魔法陣を使用しているから、魔力を貯める事ができる分、人数でまかなっているのかもしれないけど」
「なるほどな。魔法陣を作るにも精密に作らないといけないから時間がかかるだろうし、俺たちに気づかれない様に作るために慎重にやっていたのだろう。この様な事を考えるのはあの国しか考えられん」
みんなが苦い顔をしている。
「やっぱりあの国か」
先生がそう言って溜息を吐く。
「ああ、この様な事をしてくるのはほぼ間違いなく、魔の大地を挟んで反対側にあるこの大陸でも巨大な国。レガリア帝国だろう」
ジークも溜息まじりにそう言った。
2つに分けます!