147.戦争開始
12月30日
ランウォーカー辺境伯領国境砦「ラーシル砦」
「いや〜、あれだけ並ぶとなかなかのもんだなぁ〜」
「何を呑気な事を言っているのです。指揮官なのですからしっかりとして下さい」
俺が砦から見える景色に、感想を述べると、副官としてやって来たメリア殿が俺に苦言を言う。まあ、メリア殿の言っている事が正しいんだけどな。
「まあ、そう言うなよ。あいつらが近づいて来れば嫌でもやらなきゃいけなくなる。それに今から肩に力が入ってもしんどいだけだぞ?」
「……それはそうですが。民のみんなは逃さなくて良かったのですか?」
メリア殿は、国境とは反対の街に視線を向けてそう言う。街には未だに民が残っている。みんな男性は武器を持ち予備軍として後方待機をし、女性は兵士たちの食事などの後方支援をしてくれている。
「逃がそうとしたさ。でも、誰1人街から出ようとしない。その事を民に話した次の日には屋敷の前に民が集まり、自分たちも手伝うと言う始末。魔の大地が近すぎて慣れてしまったのかな」
俺は笑いながらそう言う。ここの民は他の領地の民に比べて、戦いには慣れているだろう。なんせ10年ほどに1回魔物と戦争をしているのだから。
「……なんだか納得してしまいました。でも、ご家族もよろしいので?」
「あいつらもいるって言って聞かないんだよ。2週間ほど前にマルコも帰ってきたし、つい一昨日にはエイリーンも帰ってきた。全くバカな家族だ」
マルコも2年ぶりぐらいに帰ってきて、俺の手伝いをしてくれると言うし。しかし、見違えたな。4年前はあんなにぽっちゃりだったのに。今では、逞しい男になっていた。
「ジーク様」
「ギルか。どうかしたか?」
そんな風にメリア殿と話をしていたら、ギルバートがやってくる。隣には今考えていたマルコも付いている。
「はい、兵たちの配置が完了しました。砦に兵6万。街中に2万です」
まあ、そんなところだろう。この砦に入れる限界がそのぐらいだからな。しかし、何年もの間、レガリア帝国からの侵略を防いだだけあってなかなか強固だ。
高さは20メートル近くあり、幅は魔の大地の魔物がほとんど住んでいない崖付近から、ナノール側にある山まで繋がっている。
というよりかは、魔の大地の中で魔物の少なかった箇所を切り崩したと言った方が正しいのか。この辺りは辺境だけあって山が多い。その中の1部をご先祖様は切り崩し砦を作ってしまった。
昔はそのおかげで、魔の大地の向こうの国と交易していたみたいだが、その全ての国がレガリア帝国に吸収されてしまったからな。
「各隊の準備は?」
「はい、各隊の準備は整っております。いつ攻められても対応出来ます」
「そうか。まあ初めは魔法の撃ち合いになるんだろうけどな。魔法障壁の準備は出来ているか」
「はい、滞りなく」
向こうが姿を現してから2時間。そろそろ隊列を組み攻めてくる頃だろう。周りの兵士たちも緊張の面持ちをしている。
そして
「ジーク様。レガリア軍から馬が走ってきます」
とギルバートが報告してくる。向こうから馬に乗り旗を掲げた兵士が1人走ってくる。そして俺たちへ声が届くであろう距離で止まり
「ナノール軍へ告ぐ! 今すぐこの門を開けレガリア帝国へ降伏せよ! さすれば被害も出さずに生かすことを約束しよう!」
向こうが口上を述べ終えて、こちらが発言するのを待つ。周りは俺を見る。まあ、俺が言わなければならないよな。俺はレガリア側の男が見える位置に移動する。そして
「今の話を聞いて答えを述べよう! 答えはノーだ! 我が国を土足で踏み込んで来ようとする侵略者どもに通す門は無い! 帰って伝えろ! 首と胴が分かれたく無ければ尻尾を巻いて逃げろ! と」
俺が答えを述べると、周りにいた兵士たちが雄叫びを上げる。中々士気が高い。いい感じだ。レガリア側の使者は、この光景を見て苦々しそうな顔で自軍へと戻っていく。
「ギルバート、メリア殿、戦争の準備だ。すぐに奴らがやってくるぞ」
「「はい!」」
それから1時間後。目前には地面が見えないほどのレガリア帝国の兵士が、砦に向かって前進してくる。ドドドドッ! と兵士が歩く足音が地響きとなって、砦まで聞こえてくる。
「魔法師部隊、攻撃用意」
「魔法師部隊、攻撃用意!」
ただ、そのまま歩みくる敵を見ているわけにはいかない。俺の指示をギルバートが復唱し、波のように指示が行き渡る。そして魔法の当たる距離まで近づいたのを見計らって
「撃てぇ!」
魔法を放つ。こちらの魔法師部隊は1万ほどになる。本来ならかなりの人数なのだが、レガリアもそう変わらないだろう。
レガリア側も魔法師たちに障壁を張らせて防御をする。……一際大きな障壁があるな。こちらの魔法をピクリとも寄せ付けない。もしかして勇者か? そう思った瞬間、かなりの魔力量が現れる。
「ちっ! 障壁を張れ!」
俺が指示を出し、魔法師たちが障壁を張った瞬間、レガリア側からかなりの威力の魔法が放たれる。初っ端からなんで威力だよ!
何とか防いだが、障壁を張った魔法師たちの魔力を根こそぎ持って行きやがった。これが後9人もいるのか。そしてそれに続いて向こうの魔法師たちも魔法を放ち始める。
ドドドドンッ!
と魔法障壁に大量の魔法がぶつかる音がする。1日目は多分魔法の撃ち合いで終わるだろう。本番は明日からだな。
「てめぇら! 侵略者どもを死んでも自国の土を踏ませねぇぞ!」
「「「「オォォォオオオオオ!」」」」
絶対通さねえからな!
◇◇◇
「……始まったわね」
お母様がぼそっとそう呟く。戦争が始まったのですね。確か砦から10キロほどは離れているにここまで音が響いてくる。
「マーリン先生、お父様は大丈夫でしょうか?」
あまりにも不安になったので一緒にいるマーリン先生に聞くと、マーリン先生は微笑みながら
「ジーク様が大丈夫なのはフィーちゃんが1番よく知っているでしょ? お父様を信じてあげなきゃ」
そう言い頭を撫でてくれる。そうだ。私が信じなきゃ! お父様は最強なんだから!
周りを見渡すとクロナたちも頷いてくれる。ここは辺境伯領の屋敷。ここにいるのは私、お母様、エイリーンお母様、クロエおばさん、クロナ、マーリン先生、ドロテアさん、ミルミ、ドライ、グミン君だ。
他にこの領地に住んでいる人たちも逃げずに残っている。みんなお父様が勝つのを信じているんだ。
私はここで祈る事しか出来ないけど、お父様が帰ってくるのを待っているから!
評価等よろしくお願いします!