141.ブチッ!
俺が玄関に来た事がわかったのだろうか、クラリエさんが下げていた頭をゆっくりと上げる。
「レイヴェルト様、食事中に申し訳ございません」
なんで食事中ってわかったんだろ? 匂いかな?
「いえ、それは良いのですが何の用ですか?」
ただ、俺の頭の中には昨日の事がぐるぐる回っているので、あまり友好的に対応するつもりはない。
「はい、私がこちらに伺ったのは、ミスト様が昨日の件で謝りたいためレイヴェルト様のご都合の良い時間を確認するように仰せつかったからです。いつなら大丈夫でしょうか?」
そう言われてもな〜。正直言うともう関わるのも面倒くさい。だから別に謝らなくてもいいからシーリアに帰ってもらいたいのだが。
「別に俺に謝らなくてもいいです。俺は関係ありませんから。では」
俺が扉を閉めようとした時
「待ってくれ」
と、今1番聞きたく無い声が聞こえて来た。クラリエさんはえっ!? といった風に声のした方へ振り返っている。これは予定外だったのだろう。
「クラリエさん。都合の良い時間を聞きに来たのでは?」
「……すみませんレイヴェルト様。少々お待ちいただいても?」
俺が頷くと、クラリエさんは頭を下げ、勝手にやって来たと思われる人物、ミストガルト王子の下まで歩く。そして
「俺と少しはな……がぁっ!」
「あなたはバカですか!」
クラリエさんがミストガルト王子の頭を鷲掴みする。アイアンクローだ。しかもミストガルト王子が地面から少し浮いている。クラリエさん怖いな。
「あああっ! く、クラリエ! 痛いって!」
「何のために私が時間を確認しに来たと思っているのですか! 今回は王子が全面的に悪いから謝りたいと仰ったからでしょう!
だからこちらが悪いというのを相手にわかってもらうために、ミスト様の都合では無く、レイヴェルト様の都合に合わせるために時間を確認しに来たのに!
あなたが出て来たらレイヴェルト様は断れないじゃ無いですか! あなたは相手を舐めてるのですか!」
メリメリメリと、俺まで音が聞こえる。かなりの強さで握っているな。相当怒っているなクラリエさん。
「だ、だが、彼はそれを断ろうとして……」
「断られてもです! その時は何度も伺うのが筋でしょうが! ミスト様は本当にご自身が悪いと思っているのですか!?」
「お、思っているから、こ、この手を……うわっ!」
うおっ、クラリエさんが手に掴んでいたミストガルト王子を放り投げた。3回ほどバウンドしてようやく止まったミストガルト王子。そしてクラリエさんは
「すみませんでした、レイヴェルト様! 今日は一度戻って後日また……」
と謝って来た。こうして何度も謝られるのは困るなぁ。クラリエさんが悪いわけじゃ無いし。それにまた今度にした時も今日みたいに騒がられても面倒だ。
「……クラリエさんに免じて話だけは聞きましょう。中へ入ってください」
俺がそう言うと、クラリエさんはパァアと顔を明るくする。昨日のように、刺すような視線とは違って女性らしい柔らかい視線だ。
こっちの方が……って、クラリエさん笑顔でミストガルト王子を引きずって来た。2人の主従関係はどうなってるんだ? まあ、取り敢えず入ってもらうか。
◇◇◇
「……やっぱり入れるんじゃなかった」
「ははは! こんな綺麗どころばかり集めて羨ましいなレイヴェルト殿は。誰か1人でも俺に譲って欲しい程だ。どうだエアリス嬢、今からでも俺とシーリア王国に行かないか?」
こいつは何人の家で、人の婚約者口説いてんの? ぶっ飛ばすぞオラァ!
「結構です。私にはレイがいますので」
エアリスはにっこりと返すが、目が笑っていない。あれはキレているな。他のみんなも似たような感じだ。アレクシアなんていつのまにかツインベルを腰に提げているし。
「そうか、それは残念だ。なら君はどうだ? 今なら玉の輿が狙えるぞ?」
「ちょっ、は、離してください!」
そして次の標的にプリシアを狙いやがった。プリシアが初めて見るような表情で物凄く嫌がっている。プリシアは嬉しそうに笑っている顔が可愛いのにあんな顔させやがって。その事に腹が立つ。だから
「……ミストガルト王子。さっさと本題に入ってくれませんか? さも無いと、ぶっ飛ばすぞ!」
俺は魔力をミストガルト王子限定に放出しながら話す。いい加減にしないと、チリも残さず消すぞ?
「お、おおう。わ、わかったから、その魔力を抑えてくれ」
「なら、さっさと話してください」
俺が机を指でトントンとしながら聞く。
「俺が今日ここに来たのは、レイヴェルト殿に謝罪にき「結構です。はい話は終わりましたのでお帰りを」た……いやちょっと」
俺はこの王子にはもう遠慮はしないと決めた。だから俺基準で話させてもらう。王様も許してくれるだろう。エアリスの話だと昨日の時点で若干キレてたみたいだし。
まあ、王様が出る席であんな事をすれば当然か。あれだとナノールが舐められているのと一緒だからな。俺は玄関の方を指差し
「さあ、さようなら。もう会う事は無いでしょう」
「ま、待ってくれ。話は謝罪だけでは無いのだ」
「なら何ですか? さっさと言ってください」
「シーリアまで来て私を助け「嫌です。お帰りを」て……え?」
この王子はどこまで頭のネジが取れているんだ。後ろのクラリエさんも呆れを通り越して笑い出してしまっているぞ。キャロたちが物凄く可哀想な顔で見ている。
もう話す事はないので、俺が再び帰ってもらおうと催促しようとした時、ミストガルト王子が立ち上がりそして
「レイヴェルト殿、幾ら何でもそれはあんまりでは無いのか! シーリア王国の第2王子である俺がここまで頭を下げているのに、詳しく話も聞かずに帰そうとするなんて」
俺はもう開いた口が塞がらなかった。こいつは一体何を言っているんだ? 俺のスキルが発動してないのか? 周りの女性陣もあまりの言動に黙ってしまった。
「……すー、はー、すー、はー。ふぅ、最後にもう一度言います。帰って頂けますか?」
これが俺の最後の我慢だ。これ以上はもう……。
「だから何を言っている! 私が直々に頼んでいるのにその態度は何だ!」
ブチッ!
「雷装天衣発動」
俺は雷魔法を発動してそのままミストガルトを殴り飛ばす。家の壁に穴が空いたが、そんなの気にしないぐらい俺はキレている。
「もう、我慢の限界だ! ぶっ飛ばしてやる!」
「レイ、ちょっと! このままじゃあ不味い! みんなも止めてぇ!」
俺が我慢の限界を超えたのが、女性陣も分かったのだろう。全員が俺の体にしがみ付いて止めようとしてくる。クラリエさんはガクガクと震えながら、ミストガルトが飛んで行った穴から先へ行かさないように立ち塞がる。
流石の俺も、体を張って止めようとする女性陣たちを振り払ってまで、向かう事は出来なかった。
魔法を解いた後は、クラリエさんにミストガルトを持って帰ってもらい、ミストガルトは2度と俺の前に出さない事をクラリエさんに誓って貰った。
俺はこのイライラが収まるまで、女性陣を順番に抱き締めて行ったのだ。
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