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123.少女の叫び

 とある屋敷

「NO.258が剣聖に捕らえられただと?」


「はい。剣聖の暗殺に失敗し捕縛されました。その後は剣聖の弟子という者に預けられています」


「剣聖の弟子? 第1王女か?」


「いいえ、レイヴェルト・ランウォーカーという者です。今この国で1番有名な男で、4年前の王国の事件、教皇国での魔族の襲撃の阻止、ゴブリンの大群の討伐などの功績を挙げ、ナノール、ワーベスト、アルカディア3国の王女との婚約が決定している者です」


「ランウォーカーと言うと、あの辺境伯の家系か?」


「はい、その通りです」


「そうか。……仕方ない。剣聖用に用意していた術式を発動しろ。最高傑作のアレを剣聖以外で壊すのは勿体無い気がするが、ナノールとの戦争も近い。辺境伯の子供が死ぬ事で、辺境伯の動揺を少しでも誘う事が出来れば、結果としては上々だろう」


「わかりました。準備いたします」


「辺境伯の息子だろうと、我々が作り上げたアレには勝てぬだろう」


 ◇◇◇


「……あれはやばいだろ」


 お風呂から上がった俺は自分の部屋のベッドに倒れるように寝転がる。あの後結局3人の体を洗わされた俺は心身共に疲れてしまった。


 何とか説得して、背中だけにしてもらったのだが、それでも女性特有の柔らかさに、シミひとつないとても綺麗な背中。そして、俺が触れるたびに艶かしい声を出す3人。あれは本当にやばかった。だって触れるたびに


「……んっ……あぁん……ぅんっ!」


 って声を出すのだから、それはもうやばかった。俺の理性という名の糸がプッツンと切れかかっていた。


 ……今まで俺が入っている時に入ってくるなんて事は、今まで無かったのに突然どうしたのだろうか。やっぱり昨日の発表で色々と吹っ切れたのだろうか? それしかないよなぁ。


 一緒にお風呂に入った3人は満足げに帰ったが、入らなかったエアリス、フェリス、プリシアの3人が少し不満げにしていたので多分また入らないといけないだろう。


 一緒に入るのは嬉しいのだけど、さすがにそのまま勢いで手を出すという事はしたく無い。だから控えて貰いたいのだが……無理だろうなぁ〜。


 俺は寝転びながらそんな事を考えていたのだが、精神が思っていた以上に疲れていたのかいつの間にか寝てしまっていた。


 ◇◇◇


「……うぅん? なんだ?」


 ……いつの間にか寝てしまっていた俺は、外が少し騒がしい事に気が付き目を覚ました。何か物凄く良い夢を見ていた気がするがすっかり忘れてしまった。ただ手には物凄く柔らかかったという感触だけが残っていた。何だろうか?


 そんな事を考えていると、夜遅くなのにドタバタッ! と廊下を走る音が鳴り響き、俺の部屋のドアが勢い良く開けられる。


「お兄ちゃん、起きて!」


 そして入ってきたのはかなり焦った様子のメイちゃんだった。


「どうしたんだ、こんな夜遅くに? 近所迷惑に……」


「ハクちゃんが大変なの! 早く来て!」


 俺が近所迷惑になるぞ、と言おうとすると、それに被せるようにメイちゃんがそう言う。ハクが大変ってどう言う事だ。ただ、メイちゃんの表情は焦ったようで今にも泣き出しそうな表情を浮かべていた。


 俺は直様立ち上がりプリシアたちが寝ている部屋へと向かう。すると


「ハクちゃん落ち着いて! 大丈夫だから! ここは大丈夫だから!」


 部屋からプリシアが叫ぶ声が聞こえる。一体何があったんだ? 部屋に辿り着くとそこには、部屋の中でナイフを持って暴れるハクに、それを止めようとするエアリス、飛び回って牽制するエクラ。ハクに近づこうとするプリシアに、それを止めるフェリスとロイ。


「一体何があったんだ!?」


「レイさん! お願いです! ハクちゃんを助けてあげてください! お願いします!」


 プリシアは涙を流しながら俺に抱き付いてくる。いくら聞こうとしても、ハクを助けてあげてとしか言わない。俺が何があったかをもう一度プリシアに尋ねようとした時


「うわぁぁぁあぁ!」


「きゃっ!」


「キュルッ!」


 ハクから膨大な黒い魔力が吹き荒れる。なんて魔力量だ! 俺よりは少ないが、それでも、この歳で持てるほどの魔力量ではない。その吹き荒れる黒い魔力の風のせいでエアリスとエクラは吹き飛ばされる。


 しかし、よく見るとかなり辛そうに頭を抱え、腕輪の付いている右腕を握る。右腕の腕輪はエアリスたちを攻撃したから痛むのだろうが、辛そうに頭を抱えるのは何故だ? この魔力が関係しているのだろうか? しかしそんな事を考える暇をハクは与えてはくれなかった。


「うぅぅ、闇、魔法、深影の暗殺者シャドウ・ザ・リッパー!」


 ハクが闇魔法を発動する。これはまさか……レベル9の魔法じゃないか。先程まで吹き荒れていた黒い魔力が黒い影へと形を変え、ハクへと巻きついていく。


 その巻きついた影は、再び形を変えマントみたいになる。全身がマントに覆われ見えるのは赤い目だけ。両手にはいつの間にか、刀身が赤いナイフと全てが黒いナイフを持っている。


 そして右腕に付けていた制約の腕輪も魔力で無理矢理壊して外してしまった。その腕からは血が流れる。しかし、このままだとかなりまずい。


 あの腕輪のおかげで周りには攻撃出来なかったが、その制限が無くなれば、どう動くかわからない。あの魔法の効果もわからないしな。


 ただ、あの魔法が発動されてから、ハクの存在が曖昧になっている。目の前にいるのに、目を離したら消えてしまいそうになる程の存在感だ。


 そして、ハクはナイフを構え……なっ! 一瞬瞬きをした隙にハクの姿が消えた! 俺は直様気配察知と魔力探知を発動するが見つからない。くそ、どこに……後ろ!?


 突然、俺の背後に気配察知と魔力探知が反応したため、俺は前に転がる様に避ける。その時頭の上にナイフが通る感覚があった。……思いっきり首を狙って来ているな。


 そしてその間にハクの気配が再び消える。目の前から突然消え、そして背後に瞬時に移動する。俺の感知をすり抜けて。何かタネがあるはずだ。俺は背後を取られない様に壁に背を預ける。


 すると、床から黒い棘が飛び出してくる。ちっ! 俺は横へ飛び黒い棘を避ける。黒い棘は壁へと突き刺さるが、ハクは姿を見せない。そして今の俺は背を見せている。俺はアイテムリングからロウガを出し、直様振り返る。そして


 ガキン!


 と、武器がぶつかり合う音がする。目の前には床から半身だけ体を出してナイフを振るハクの姿があった。


 ……そういう事か。黒い影のマントは存在を希薄にして見つかりにくくする能力があり、影の中を移動することができる。そして影の形を変え攻撃する事も可能と。多分そんなところだろう。なんて暗殺者向けの魔法だろうか。


 闇魔法で個別に使う事は出来る魔法だが、この魔法によって全てが同時に使え、能力も上がっている。なかなか厄介だ。


「こっちだ、ハク!」


 俺はハクを呼びながら、窓から飛び出す。暗殺者相手に室内での戦闘はかなり不利だ。あの狭い部屋だとロウガも振れないしな。それなら外に出て戦った方が断然マシだ。ハクも俺を追いかける様に、窓から飛び出してくる。


 俺はロウガを構えハクを見る。しかさ、窓から飛び出して来たハクの様子が少しおかしい。先程から顔を俯かせて何かブツブツと話している。


 初めの方はあまり聞き取ることが出来なかったが、少しずつ聞こえてきて、俺は聞こえてきた言葉に涙が出てきた。ハクの呟きは「痛いのは嫌だ」「殴らないで」「暗いところに閉じ込めないで」というのを何度も何度も繰り返し、「殺したら痛くされない」「殺したら殴られない」「殺したら閉じ込めない」というのを繰り返している。


 昼の時はそんな事を言っていなかった。考えられる可能性としてはあの頭を抱える仕草。かなり辛そうだった。あれがハクのトラウマを呼び覚ますスイッチになっていたのだろう。


 ……小さい頃からいう事を聞かせるために、俺の想像にもつかない事をされてきたのだろう。ハクという暗殺者を作り出すために。


 ハクの目は虚ろで、もう俺の事は見えていない雰囲気だ。俺も今のハクには、自分の苦しみを抑えるための獲物にしか見えないのだろう。そう思っていたが


「ぐっ、うぅぅあ!」


 再び頭を抱えるハク。そして次に顔を上げると、苦しそうに、そして悲しそうに俺を見るハクの姿だった。目にはさっきみたいに虚ろでは無くて、光が宿っている。


「う、うぅ、お、にぃ、に、げて」


「ハク!」


 たどたどしくだが、ハクは俺に逃げる様に言ってくる。だけど、それを言うのもかなり辛そうだ。


「お、にぃ、きずつ、けた、くない。だ、れも、ころし、たく、ない!」


 涙を流しながらそう叫ぶハク。だけど、ハクが言う言葉は全て間違っている。俺はそんな言葉を聞きたいんじゃない。


「ハク、俺はお前を置いて逃げない。傷付けられるなら付けてみろ。全て受けた上で、お前を止めてやる!」


「ど、う、して? ……うぅぅっ!」


 俺の言葉に疑問に思ったハクは俺に尋ねてくるが、もう限界が近いみたいだ。


「どうしてかって? そんなの当たり前だろ? この家に着いた時に伝えたはずだ。お前はもう俺たちの家族だって。だからハクを止める事なんて当たり前だ。だからハク。今どうしてほしいが言え! ハクが今どうされたいか言うんだ!」


 俺が家族と言う言葉を使うと、ハクは目を見開いて俺を見てくる。そして、ハクの目から止めどなく涙が溢れてくる。そして意を決した様に俺が求めていた言葉を叫ぶ。


「お、にぃ、たす、け、て!」


 涙を流しながらそう叫ぶハク。……ようやく言ったな。だけど次の瞬間、ハクは再び頭を抱えて、大声で叫ぶ。そして力が抜けた様に膝から崩れ落ちる。少ししてから顔を上げたハクの目には、先程の光は宿っていなかった。だが


「……ライトやるぞ!」


『わかりました、レイ様』


 待っていろよ、ハク。必ず助けてやるからな。

みなさんやっぱりお色気回が好きですね(笑)

評価等よろしくお願いします!

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