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121.買い物

「う〜ん、女の子に必要なものと言えばやっぱり服よね。ハクちゃん可愛いから、可愛い物着せたらもっと可愛くなるわよ!」


 そう楽しそうに言うキャロ。俺、ハク、キャロの3人で商店街に来たのだが、なんだか、キャロの様子がハクと出会ってからおかしい。なんでそんなに嬉しそうなんだ?


「キャロ、ハクに会ってから物凄く嬉しそうだけどどうしたんだ?」


「ん? 実は私、妹が欲しかったんだ。でもいるのは弟のクリフォード1人でしょ? クリフォードが生まれた時も嬉しかったけど、少し残念って言う気持ちも無かったわけじゃなくてね。メリーはどちらかと言うと姉みたいな感じだったし」


 そう言い笑顔でこちらを見るキャロ。なるほどな。キャロはハクの事を妹のように可愛がりたいわけか。そのハクは周りの店が珍しいのか、キョロキョロと辺りを見回している。


「どうした? 何か欲しいものでもあったか?」


 俺がハクに尋ねると、ハクはビクッとして、首をふるふると振る。遠慮しているのかな?


「ふふ、ハクちゃん遠慮しなくて良いのよ。全部レイが出してくれるから」


 おい、なんてこと言うんだ。確かに俺が出すけど、ハクだけ甘やかす事は出来ないぞ。メイちゃんたちにもそんなにお金渡してないんだから。


「でも、3人の衣服や小物なんかがしっかり揃えるくらいは渡しているんでしょ?」


「それは当たり前だ。プリシアは俺の女だし、メイちゃんやロイは俺の家の手伝いをしてくれているからな。それぐらい出さないと」


 3人には俺たちが学園に行っている間の家の事をお願いしているからな。それぐらい出さないとな。


「でも、どうしてそんなに稼いでいるの? 辺境伯から貰っているとか?」


「いや、父上はエリザ母上とエアリスにしか仕送りは送ってない。兄上たちも食費だけだろう。俺には何も無いしな。男どもは自分で稼げって事だろう。マルコ兄上たちも必要な物があるときは、ギルドで稼いでるみたいだし。

 俺もギルドで稼ぐか、師匠の元に来るナノール陛下の依頼を手伝ってその報酬を貰ったりしていたくらいかな。まあ、その報酬の額がおかしいんだけどね」


 そのおかげで俺の懐はなかなか減らない額まで貯まっている。家なんか買ったら一瞬で無くなる額だけど、普通に生活する分には減らない程の額だ。この間のゴブリン討伐でも褒賞が出るって言っていたからまた増えるしな。


「へぇ〜、凄いわね。それならハクちゃん、いっぱい買おうね!」


「いや、程々にな」


 俺の呟きは聞こえていないのか、キャロはスイスイと商店街の中を進んでいく。仕方ない。取り敢えずついていくか。


「ハク、何か欲しいのがあったら言うんだぞ」


「ん」


 そんな風にキャロが物色して、ハクにいるかどうか聞いたり、俺にどっちが良いか尋ねたりしながら買い物をしていると、とある店に辿り着いた。


「……服屋か?」


「うわぁ、可愛い服がいっぱいあるわね! ハクちゃんこれとかどう!?」


 ショーウインドの中には、大人の服から子供の服まで色々と並んでいるから多分服屋なんだろうが


「なんで外壁の色がピンクなんだ?」


 周りの店は普通に白か灰色、色がついても茶色など普通の色に対して、この店だけ何故かピンクだ。しかも普通のピンクでは無くて、ショッキングピンクと明らかに周りから浮いている。


「もう、そんな事いいじゃない。外の色が何色でも。それより可愛い服が一杯あるみたいだから中に入ってみましょ!」


「あっ、ちょっ!」


「んん!」


 テンションが上がりまくったキャロを止める事は出来ないらしい。俺はキャロに腕を引かれ中に入り、ハクは引きづられるようについてくる。ごめんよハク。


 そして店の中へ入ると、中は外の色とは違い、落ち着いた雰囲気のある店だった。お客さんはちらほらといるみたいで女性客ばっかりだ。


「ハクちゃん、選びましょ!」


 ……目を輝かせ過ぎだろ。仕方ない。俺はハクの背中をぽんぽんと叩き


「好きなの選んでこい」


 と行かせてあげる。ハクは俺と服を持つキャロを交互に見ながら「ん」と言ってキャロの元へ向かった。その時の声が心なし嬉しそうだったのは気のせいかな?


「あ〜ら、いいお父さんじゃないのぉぉう?」


 俺が服を選ぶキャロと着せ替え人形になっているハクを見ていると、背後からおぞましい声が聞こえる。地の底から響くような低い声。背中に悪寒が走り、俺はその場から飛び退く。そして振り向くとそこには


「あらぁぁぁあ! よく見ればぁぁ英雄ちゃんじゃあないのぉぉおうう!」


 身長2メートルちょっとある筋骨隆々の女装したおっさんが立っていた。髪型は黒色の髪をツインテールにしており、左側には花型の髪飾りが付いてある。顔はこれでもかっ! ていうぐらい濃く化粧がされているが、口の周りのはヒゲを剃った後なのか青い。


 服装はサイズが合ってないのか、それともこういう仕様なのかはわからないし、わかりたくもないが、胸元ははだけており、胸毛が見えている。袖は半袖で袖のところにはフリフリのフリルが付いており、パンツは破れるじゃないかというほどパッツパツだ。しかも全身ピンクだ。


「あ、あなたは誰でしょうか?」


 いきなり斬りかからずに尋ねることが出来た俺を誰か褒めて欲しい。もし店の外で出会っていたら斬りかかっただろう。


「あらぁんん! わたしぃの事が気になるうぅぅ? 私はこの店ブロッサムガーデンの店長をしてるぅ、マダムブロッサムよぉ〜。 よろしくね英雄ちゃん。うふぅん!」


 そう言いこの女装筋肉ダルマ、マダムブロッサムが俺に向かってウィンクをしてくる。アレクシアたちがすると嬉しいのだが、この人にされると殺意が湧いてくる。


「……俺の事をなんで知っているんですか?」


「そんなのぉぅ、知らない方が少ないわよぅ。昨日の王様のぉ演説見てたしぃぃ。それにぃ、お姉様ぁから聞かされていたしぃ〜」


 喋るたびにクネクネと腰を動かしやがって鬱陶しい。小指立てんな。ウィンクをするな! はぁ、はぁ、この人かなり疲れるぞ。それよりお姉様って誰だ?


「お姉様って誰ですか?」


「あらぁん? 聞かされてないのぅ? この国最強の女、シルフィードお姉様に決まってるじゃないのぉぉう」


 ……まさかのここで師匠が出てくるとは予想外だ。そこからマダムブロッサムの話が始まった。


 マダムブロッサムは元々冒険者だったらしく、なんでも元Aランク冒険者だったらしい。もうすぐでSランクになるっていう程の実力者だったとの事。


 そんなある日、貴族の護衛の依頼を指名依頼として受けて、貴族の護衛をしていたところ、師匠がやってきたらしい。


 勿論マダムブロッサムは依頼として貴族を守るために師匠と対峙したのだが、他にいた護衛もろともボッコボコにされたとの事。


 マダムブロッサムはその時の師匠の圧倒的な強さ、可憐に舞う姿、師匠の美貌に惚れ込んでしまったらしい。


 因みにその時の貴族は当然、師匠に捕まったらしい。その貴族は元々、自分の領地の罪の無い民を金稼ぎの為に、裏で奴隷商人に売っていた罪があり、その事が王国にバレた為、逃げようとマダムブロッサムに依頼したとの事。


 そんな事もあって王国に戻ってきたマダムブロッサムは、どうやったら師匠に追いつけるかと考えた結果、何をどう思ったかは知らないが、まずは女になろうと思いこの格好になったらしい。そしてその時に女に目覚めたらしい。


 それから女性が必要だと思うスキル、食事、洗濯、裁縫、片付け諸々の家事スキルを片っ端から習得していき、その中でも特に好きな服飾を仕事にしようと冒険者を辞め、冒険者時代に稼いだお金を全てつぎ込んで、この店を作ったとの事。元々手先が器用だったのも幸いしたと。


 それらの女として生きる事が楽しすぎて、師匠に追いつく事は途中で止めたらしい。


「今ではぁ、お姉様がこの店に服を買いに来てくれてぇ、一緒にお茶をする仲なのよぉぅ」


 そんなに仲が良いのか。この4年間1度もそんな話聞いた事ないな。


「レイ、これで良いとおも……う……わ」


 そこに丁度やって来たキャロがマダムブロッサムを見て固まってしまった。キャロと手を繋いでいるハクも余りの驚きでくまさんを落としてしまった。


「あらぁん、可愛いわねぇ! 食べちゃいたいわぁ!」


 そして舌舐めずりをするマダムブロッサム。再び俺の背筋にゾクゾクと悪寒が走る。


「しょ、障壁!」


「んんっ!」


 マダムブロッサムの余りの凄さに、キャロは障壁を発動して、ハクはナイフを取り出す。その後説得して落ち着かせるまで10分ほどかかってしまった。


 それから自己紹介して、キャロが服の事をマダムブロッサムに色々と聞いていくうちに、やっぱり女同士(?)気が合うのか物凄く仲良くなっていた。


 ハクは少し怯えた表情でキャロの手をギュッと握っている。キャロとは大分打ち解けたようだが、マダムブロッサムには近づこうとはしない。仕方ないな。俺も近寄りたく無いもん。


 その光景を見ていると、キャロが俺のところにやって来て


「レイ、これで全部なんだけど……」


 と俺を引っ張って連れて来たのは、山の様に重なる大量の服の前だった。……あれ? 確かハクの服を買うはずでは? 明らかにハクの身長に合わない服もあるし、キャロでもない服が混じっている。


「……みんなに合うのを探してたらこんなになっちゃった」


 と少し申し訳無さそうにするキャロ。


「……まあ良いか。キャロ1人でこれ全部買うって言うんだった流石に止めるけど、みんなの分があるなら」


「ありがとう、レイ!」


 そう言い抱きついてくるキャロ。うん役得役得。胸は無いけど。


 ギリッ!


 痛い痛い! 締め過ぎだ! だからなんで気がつくんだよ!


 そして右手にピタッと誰かが引っ付く。その方を見てみると


「……ありがと」


 無表情ながらもお礼を言ってくるハクがいた。これだけでもここに来た甲斐があるな。あの店長を除いて。


「あんらぁ! こんなに買ってくれるのぉぅ! それなら全部半額で良いわよん。お姉様のお弟子さんだしぃ、これからも来てくれそうだしぃ!」


 そう言って値引きをしてくれたマダムブロッサム。話すたびにウィンクをしなければ素直に喜べたのに……。


 大量に買った服を全部店員さんに袋に入れてもらい(店員さんは全員綺麗な女性だった)、アイテムリングに入れて店を出た。


 店員総出でお見送りされたが、マダムブロッサムが手を振るたびに、ゴゥン、ゴゥン! と風を切る音が鳴っていたのは少し恐かった。


「ふふっ、楽しかったわね」


「あの店か? かなり強烈だったけど、楽しかったか?」


「違うわよ。レイとのデートがよ」


 キャロはそう言い微笑む。だけど、今日はキャロがハクの必要な物を選ぶのに俺が付いて行っただけだ。偶にこれが良いんじゃ無いかとか言っただけで、服なんかはキャロに任せっきりだったけど。


「それでも、レイと一緒にいれる事が楽しかったのよ。……将来子供が出来た時の練習にもなったし」


 そう言い顔を赤くしてそっぽを向くキャロ。そんな事言われたら俺まで赤くなるだろう。


 俺は誤魔化す様に反対側を見る。左手はキャロと手を繋いでいるので、ハクは右手で繋いでいる。


「ハクは楽しかったか?」


 俺がハクに尋ねると、ハクは俺の方を見て


「……楽しかった。おにぃ」


 そう言いほんの微かだが微笑んでくれた。……おにぃって俺の事か。予想外の呼び方だかこれはこれで嬉しいな。こんな風にもっと心を開いてくれたら良いな。そんな事を思いながら俺たちは家路についた。


 ……だけど、この子の心の中にある闇は俺たちが思っていた以上に深かった。

ある意味テンプレですね(笑)

評価等よろしくお願いします!

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