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118.小さな暗殺者

 俺たちは学園長室の応接机に座らされていた。俺が真ん中に座りエアリスが右側、フェリスが左側だ。そして向かいに師匠が座り、隣にメロディ副学長が座る。そこまではいいのだが、気になるのは


「彼女は座らないのですか?」


「ん? ああ、ハクは自分で後ろに立っているから良いんだよ。それより久し振りだねぇ、雷帝殿?」


 そう言いニヤニヤと俺を見てくる師匠。……なんだ急に。


「なんだ知らないのかい? レイは国をゴブリンの危機から救ってくれた英雄になっているだよ。演劇場ではレイを題材にした劇も始まるみたいだしね。それだけじゃなくて4年前の王宮での事件、この前の教皇国での魔族との争いもね」


 な、何だよそれ! 本人の俺が何も聞かされてないんだけど!


「因みに、劇をすると言ったのは勿論劇団の方だけど、レイの情報を漏らしたのはアレクシアとヘレンだから」


 ……あの2人にはちょっとお仕置きが必要みたいだな。こらフェリスとエアリス。俺を挟んで劇を観に行く話をするじゃ無い! っていうか、当事者の2人が行っても面白く無いだろ。


「はぁ、その事は後で2人を取っちめて聞きますが、お久しぶりに会ったのに、先程の仕打ちはあんまりでは無いですか?」


 俺は少し睨みながら師匠に先程の事を尋ねる。師匠は気にした様子も無くニヤニヤとしているが。


「なぁに、レイなら避けれると思ったからやっただけだ。でも途中まで気づかなかっただろ?」


 そう笑う師匠。後ろに立っているハクと言う少女は、避けられる前提で攻撃させられたと聞いて、不服そうに頬を膨らませていたが。


「もう、学園長は危ないことばかりして! この子だって本当は王国に出さないといけないんです!」


 隣に座っているメロディ副学長がプリプリと怒りながらそんな事を言う。どう言う事だろうか?


「この子は帝国が送って来た暗殺者なんです。小さい時から暗殺の訓練をさせられている帝国の裏の組織で、邪魔になるだろう学園長を殺しに来たんです」


「そこを私がとっ捕まえたってわけさ。私はね、帝国のこういうところが嫌いなのさ。まだ何もわからない子供を使って暗殺させようとする魂胆がね」


 めずらしく師匠が怒っている。確かにこの少女は俺たちとそんなに年は変わらないだろう。そんな彼女が、先程みたいな鋭い攻撃をするには、かなり小さい時から技術を磨かかされてきたのだろう。俺が少女を見ていると


「って訳で、レイ預かって」


「……は?」


 何を言っているだこの人は。


「この子との約束でね、レイを少しでも傷付けれたら自由にしてあげると、無理だったら私のいう事を聞くという約束をしたんだよ。結果無理だったから私のいう事を聞きなさいね。私がするのは1つだけで、女の子らしく自由に生きなさい」


 師匠が少女に向かって優しく微笑む。まるで母親のように優しく。メロディ副学長も溜息を吐いて諦めている。2人には珍しい事ではないのだろう。


 少女の方は少女の方で、目に見えて狼狽えている。それもそうだろう。彼女が今までして来た生き方を否定されて、新しい生き方を言われてもどうすれば良いかわからない筈だ。


「そこで白羽の矢が立ったのはレイ、お前だ。レイのところは女性が一杯だからね。みんなで女の子としての生き方を教えてやってほしい。普通の孤児院だと、この子の能力を抑えられる人がいないからね。レイのところが良いんだよ。ほら挨拶しときな」


 師匠は椅子の後ろに立っている少女に言う。


「……私の名前はNO.258」


 それっきりで黙ってしまったが、俺は余りのことに言葉が出せなかった。フェリスもエアリスも驚き、メロディ副学長は悲しそうに目を伏せる。なんで名前が番号なんだよ。


「何を言っているんだい。あんたの名前はそんな番号じゃ無くてハクってつけてあげたろ? それを使いな」


 ソファから立ち上がった師匠は、ガシガシと少女の頭を撫でる。あの名前は師匠が付けてあげたのか。それなら。俺もソファから立ち上がり、少女の前まで行く。


「俺の名前はレイヴェルト・ランウォーカーだ。よろしくなハク」


 彼女に手を差し出し握手を求める。彼女は俺の顔と手を交互に見て、出して来たのは、手に持ったナイフだ。って危ねぇ! 俺はナイフを持って振ってきた右手を掴み捻りあげる。これは確かに孤児院とかには置いておかないな。だけど


「師匠。この子の事はわかったのですが、家に置く事はちょっと無理かも知れません」


 俺は今の家の事を話す。家に戦闘の出来ないプリシアたちがいる事を。


「ふむ、それならこれを使うと良い」


 そう言われて渡されたのは無骨な腕輪だった。なんだこれ?


「それは制約の腕輪だ。それを対象者につけて1つ命令すると、それを守るようになる。違反すると腕に激痛が走る様になっている」


 師匠は俺の手にある制約の腕輪を取ってハクの右腕につけ


「『自分に襲いかかる敵とレイ以外は攻撃できない様になる』これで良し」


 何やってくれてんのこの人は!!!!!! それじゃあ、普段は俺に攻撃して来るって事だよな!?


 それをつけられたハクは反抗しようと師匠にナイフで攻撃しようとするが


「っ!」


 腕に激痛が走ったのか右腕を抑えるハク。


「攻撃するならあっちだぞ」


 そのハクを見て笑いながら俺を指差す師匠。だからなんでそんな事教えるんだよ! そして涙目になりながらも俺を睨んで来るハク。涙目がちょっと可愛いと思ったのは内緒だ。


「ハク。さっきも言ったが、これからは暗殺の事なんて考えなくて良いんだ。ここにはお前を殴る奴も、ワザとご飯を地面に落とす様な陰険な奴はいない。だから自分のしたい様に生きたら良い」


 師匠がそう言うとハクは顔を俯かせる。そんな事をされて来たのか。しかし何で師匠はそんな事を知っているんだろうか?


「……どうすればいいかわからない」


「それはこれから考えていけばいいさ。って事でレイよろしくね。彼の家にはハクの知らない事が一杯あるから教えてもらうといい。もし誰かを攻撃したいと思ったらレイだけにするといい」


 ……本当にこの人は。なんて事を教えるんだよ。これじゃあ俺が攻撃されるじゃ無いか。でもまぁ、他の子に攻撃されても困る。俺は頭を掻きながら


「俺がいつでも受けてやるから、大人しく家に来い」


 そう言いながら俺はハクの頭を撫でてあげる。ハクは少しびっくりした様子だが、されるがままになる。確かに女の子らしい生活をするんだったら家はうってつけだろう。後ろでフェリスとエアリスが可愛い服着せるとか言っているし。


 ハクは見た目は可愛いからな。雪の様に白い髪と肌に少し眠そうな目付き。……なんか猫みたい。コタツに入れたら丸まりそう。コタツなんて無いけど。


 それからはまた席について話をしようとすると、ハクは師匠の後ろで無く、俺の後ろに立ち出した。別に良いのだが少し気になる。まあ、攻撃しようとしたらわかるから大丈夫なのだが。


 座らないのかと聞いても首を横にフルフルと振るだけだし。


 師匠には教皇国に行ってからの話を順番にしていった。古竜と魔族の襲来、ガルレイクが飲んだ魔族になる薬。男爵領の盗賊問題。そしてゴブリンの大群。


 師匠は真剣に話を聞いてくれて、メロディ副学長はアワアワとしながら聞いていた。予想以上に危険に晒されていたからか物凄く心配された。


「そうか。ご苦労だったねぇ。男爵領についてはレイモンドがどうにかするから問題無いけど、そうか、ギルガスと戦ったか」


 やっぱり知っているのか。……そういえばあの事も話とかなければ。


「あとレビンさんとヒルデさんと言う方に会いました。その2人の娘が今俺の家にいますけど」


 俺がそう言うと師匠は疲れた顔で俺を見る。


「ああ、その事なら知っているよ。この前会いに来たからね。全く、あのバカップルは300年前から変わってなかったねぇ」


 そう言いながらも少し嬉しそうな顔をする師匠。やっばり嬉しいのかな。


 それからはたわいのない話を少しして、時間になったので師匠たちとは別れる。エクラに関しては周りに迷惑をかけなければ別に構わないとの事。これなら明日から連れていけるな。


 ハクも今日はここにいるらしいので、放課後に迎えに来よう。メイちゃんたちと仲良くなってくれれば良いのだが。別れ際にちょこっと俺の袖を掴んでいたのは可愛かったな。少しは懐いてくれたってことかな。


 そんな事を思いながら自分のクラスは辿り着く。校舎に入る前にフェリスとエアリスとはお別れしている。それぞれ階が違うからな。


 そして教室に入るとそこは


「うるさい! もう私に構わないで、バカ!」


「ちょっ、レー、がはっ!?」


 レーネに頬を思いっきり叩かれて吹き飛ぶダグリスの姿があった。……一体何があったんだ?

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