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105.甘えて

 ゴブリンの軍勢を追い払った翌日。俺たちは屋敷の無事だった部屋の中で、大きめの部屋に集まって話し合いをしていた。


 中には俺とアレクシア、エアリスにケイト、エレアにこの家の家令だったベントンさん。そして残った兵士の代表としてベルトさんが集まっている。エクラは俺の膝の上で寝ている。


「この度は、領地を救って頂きありがとうございます。もし、殿下たちがいなければ領民たちはみんな死んでいましたでしょう」


 そう言い頭を下げるベントンさん。それにつられてベルトさんも頭を下げる。


「頭を上げて頂戴。私たちはたまたま居合わせただけだし、領地はボロボロにしてしまったから、そんな頭を下げられるようなことじゃないわ」


 そう苦笑いをするアレクシア。確かに領地をボロボロにしてしまったからな。その点は本当に申し訳ないと思う。


「いえ、領地が幾らボロボロになろうとも、領民がいれば立て直せます。少しの間は辛いかもしれませんが何とかなるでしょう」


「そう。わかったわ。私もお父様に話して力になれるようにするから。ただ、この男爵領は……」


「ええ、わかっております。もうマングス男爵領としてはやって行けぬでしょう。領民たちは男爵の行いを知ってしまいました。たとえ温情によってご子息が後を継いだとしても、領民たちは言うことを聞かないでしょう。下手すれば反乱になってしまいます」


 そうだよな。マングス男爵は貴族としての義務を果たすどころか、領民たちを置いて先に逃げた。そのことを領民たちはみんな知っている。その家族が引き続き治めたとしても、領民たちは反発するだろう。下手すればさっき言っていたみたいに反乱が起こる。


「ただ、夫人たちのお命だけはお助け下さらないでしょうか? ご子息のバンテス様はこの3年間はずっと王都にいて知らないのです。夫人のリタ様は体が弱く、政治には全くと言って良いほど関わっておりません。ご息女のケイシー様は、私と一緒に男爵に何度もお伝えしたのですが、聞いてもらえずリタ様のお部屋に軟禁されておりました」


「……そうね。私の一存では決められないけど、その事もお父様に話してみるわ。ただ、助かったとしても、もう貴族としては生きていけないし、この領地にも残る事は出来ないと思うわ」


 今回の件なら、一家全員死刑とまではいかないだろうが、男爵は見つけ次第死刑、その他の家族は爵位を没収といったところか。


 その平民になった家族が領地に残ったとしても、最悪の場合は恨まれて殺されるだろう。今彼女たちが領民から何もされずにいられるのは、貴族だからだ。彼女たちもそんな辛い思いをするぐらいなら領地から出た方がいい。その後の生活は保障できないが。


「わかっております。私も夫人たちのお助けはしていきたいと思っております。命さえあれば良いのですから」


 そう言い再び頭を下げるベントンさん。この人は男爵や夫人と幼馴染だったという。そういう縁から夫人のことを助けたいのだろう。他にも理由がありそうだが、それは俺たちには関係ないことだ。


「まあ、夫人たちのことはこれ以上はどうしようもできないわ。今後の話だけど、ヘレンたちが今ケンヌス子爵のところへ行って援軍を連れて来てくれるはずだから、それを待ちましょう。援軍が来てくれてこの領地の中がマシになったら、私は王都に戻ってお父様に話してくるわ」


 その後も色々と今後の話をして解散となった。みんなが外に出て部屋に残ったのはアレクシアと俺と膝の上で寝るエクラだけだ。……ずっと寝てたなこの子は。


「どうしたのレイ? みんなと一緒に行かなかったの?」


 俺がエクラを見ているとアレクシアがそう話してくる。


「ああ、ちょっとアレクシアと話がしたくてな」


 俺はそう言いエクラを抱き上げアレクシアの隣の席まで移動する。エクラは抱き上げても起きない。羽をパタパタとしながら寝ている。仕方がないので少しの間は机の上にいてもらおう。少し硬いが我慢してくれ。


「私に話? ふふ、何かしら?」


 アレクシアは俺の顔を見ながら微笑むが、俺の目には無理して笑っているようにしか見えない。


「昨日からあまり寝てないだろ? 無理して1人で抱え込もうとするなよ」


 俺はそう言いアレクシアの手を握る。昨日ゴブリンの住処から戻ってきたら、アレクシアの部屋に明かりがついていたのに気が付いた。俺が男爵領を出てから戻ってくるまでは3時間ほどしか経ってなかったから、多分アレクシアもそれくらいしか寝ていないのだろう。


 アレクシアの方を見ると、苦笑いしている。


「やっぱり、レイにはばれちゃったわね。これでも頑張って化粧して隠しているんだけど。でもレイも人のことは言えないわよ?」


 そう言って俺の鼻をツンっと突いてくるアレクシア。もしかして昨日のことバレてる?


「指輪のおかげでレイが離れたらなんとなくわかるのよ。多分エアリスも気づいているわ。……前からこういう事ばかり続いているけど、レイも無理はしないでね。こういうこと言ったら王女失格なんだけど、私はここの領民たちよりレイのことが大切なんだから」


 そう言い、椅子を近づけて俺に体を寄せてくるアレクシア。アレクシアからいい香りがする。


「俺もアレクシアのことが大切だよ。だからアレクシアにもあまり無理して欲しく無いな」


 俺もアレクシアの肩を抱き寄せる。それだけでアレクシアは嬉しそうに微笑んでくれる。そして俺の肩に頭を預ける。


「ふふ、私はみんなの中で何番目かしらね?」


 うっ、それを言われるとかなり困る。あんまり順位とかはつけたく無いのだが。


「冗談よ。レイはみんなのことを大切にしてくれているのはわかっているから。でも、たまには私1人を見て欲しいな?」


 そしてそのままアレクシアは顔を近づけてき、俺と唇を合わせる。俺もアレクシアを抱き寄せ、2人の時間を楽しむ。


「んっ、ふぅ〜。こんなところをエアリスにでも見られたら怒られるわね。あとでエアリスにもしてあげてね? でも、これで元気が出たわ。この領地のためにももっと頑張らないと! レイも無理しすぎはダメよ?」


 妖艶に微笑みながら、そう言い部屋を出て行くアレクシア。……あれ? アレクシアを心配するはずが、逆に心配された。


 俺は頭をかきながらエクラの方を見ると


「キュイ〜」


 と前足で目を隠していた。ただ、少し見えるようにしているのはご愛嬌だろう。……さっきまで寝てたのに何故この時だけ起きているんだよ。


 そんな事を思いながらもエクラを抱き上げて部屋を出る。俺もアレクシアの負担を少しでも軽くするために頑張りますか。

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