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103.戦後処理

 ゴブリンの軍勢を追い払った俺たちは、屋敷へと集まっていた。ゴブリンを追い払う事は出来たが、それ以外に色々と問題が出来たためだ。


「みんな無事かしら?」


 アレクシアがホールに集まったケイトたちに確認する。ケイトとエレアは切り傷がいくつか。アレクシアとエアリスもだ。兵士たちは死者が40人ほど、他の兵士も所々に傷がある。俺は身体付与をしていたため、直ぐに治ったが。


 領地の4分の3が壊滅状態でも、死者が40人ほどで3千近くの魔物を追い払う事が出来た。戦果的に人的被害少なかったため、喜ばしい事なのだろうけど、自分たちがやったとはいえ領地が壊滅状態なのが痛いな。


「仲間が死んで悲しいのはわかるけど、まだやる事があるわ」


 そう言い、アレクシアは次々と指示を出していく。自分も悲しい癖に無理しやがって。兵士たちの生き残った50人のうち、10人ほどが領民の呼び戻し。


 残り40人とエアリス、ケイト、エレアがゴブリンの取り逃がしが無いかの確認。撤退せずに残っている奴がいるかも知れないし。


 俺とアレクシアは被害が少なかった入り口側の確認だ。俺たちが魔法を放ったところは、家屋がボロボロなのは当然として、あっちこっちにゴブリンの死体があるために帰ってきて直ぐには住めないのだ。


 これは、帰ってきた領民たちと協力して片付けるしか無い。早くても今日の夜から明日の朝に始めないと。まだ夏の終わりかけだ。直ぐに死体が腐って、病気を撒き散らす事になる。これが最優先事項だな。


 入り口側は、やはりほとんど被害が無かったため、この辺りが領民たちの臨時の居住地になるだろう。こっちに元々住んでいた人たちとは少し揉めそうだが、そこは上手い事しなければ。入り口を出ると死体が転がっているがこれも片付けないと。


 あとは食料の問題か。俺たちが家屋を巻き込んで吹き飛ばしたため、家の中にあった食料もすべて吹き飛んでいる。水は水魔法があるため何とかなるが、食料だけはどうにも出来ない。


 残っているのは男爵の屋敷の食料庫にあった食材と、被害が少なかった入り口側の領民の家と店ぐらいだろう。俺は転がっているゴブリンをチラッと見る。……最終手段だな。背に腹は変えられないが、なるべく他の方法を考えなくては。


 そうこうすること1時間。時折まだ息のあるゴブリンにトドメを刺しながら領内を歩き回る。すると、領民たちが避難した方の門が騒がしくなる。領民たちが帰ってきたようだ。俺とアレクシアは顔を見合わせて頷き、門の方へと向かう。


 門の元へ辿り着くと何か様子がおかしい。門を入ったところは少し開けたところになっており、そこに人だかりが出来ている。


 普通に集まっているだけならいいのだが、まるで誰かを囲むように円になっている。そして聞こえてくるのは誰かを怒鳴りつける声と罵声。兵士たちやエアリスたちが止めようとするがあの人数だ。意味をなしていない。


「お前らの一族のせいで! この野郎!」


「そうだ! 家まで滅茶苦茶になったんだぞ!」


「や、やめて下さい! お母さんは病気で……痛っ!」


 周りの怒鳴り声に混ざって聞こえてくる女性の声。女の人を囲んでいるのか? そんな事を考えていると


「やめなさい、あなたたち!」


 アレクシアが輪の中へ入っていく。アレクシアの凜とした声が響き渡り、領民たちはアレクシアの方を見る。アレクシアはそんな事を気にせずにズイズイと進んでいく。俺も後ろへ付いていく。


 人だかりを掻き分けて、事の中心へ向かうとそこには、木の棒や石を持った男たちと、倒れこむ女性に、倒れこむ女性を庇うように覆い被さっている女性がいた。


 覆い被さっている女性は、男たちに殴られたのか、石をぶつけられたのかはわからないが、額から血が流れている。


 年齢はアレクシアたちに近い年齢だろう。普段ならおっとりと優しそうな雰囲気がありそんな顔立ちだが、今は悲しそうに男たちを見ている。


「なんだてめぇらは! 関係ねえなら引っ込んでろ!」


「関係あるから来ているのよ!」


 アレクシアがそう言うと、男たちは怪訝そうな顔をする。まあ、いきなり関係あると言われてもわからないだろうからな。


「私の名前はアレクシア・ナノールよ」


 アレクシアの見た目は知らなくても、流石に国の王女の名前は知っていたのだろう。男たちは驚きの顔を浮かべ、段々と顔色が青くなっていく。汗もダラダラと流れ、少し可愛そうになってきた。


「しっ、失礼しました! 王女殿下とは知らずに!」


 そして跪き頭を下げる男。それにつられて周りの怒鳴っていた男たちも跪く。王都では、アレクシアが街中を歩き回っているので、殆どの人が友達みたいに接しているからあまり思わなかったけど、こういう光景を見るとやっぱり王女なんだな。


 そんな事を思っていると、何故かアレクシアがジトっと俺を見てくる。


「何か変な事考えなかった?」


 俺は急いで首を横に振る。頭の上で、エクラが「キュイ!?」と驚いた声を上げているが、今はそれどころではない。だってアレクシアが変な威圧感を放っているから。


「まあいいわ。それであなたたちは何をしていたの?」


 アレクシアが男たちに聞く。男たちは冷や汗を掻きながらも話し出す。


「だ、男爵が悪いんだ! 逃げる途中に兵士に聞いたが、男爵がちゃんと魔物を始末していればこんな事にならなかったはずだ! その上俺たちを置いてさっさと逃げやがって!」


 そう言いキッと女性を睨みつける男。という事はこの女性は男爵夫人で、側にいるのが娘さんか。


「そう思うのはわかるわ。だけど夫人に当たるのは間違っているわ」


 確かにな。アレクシアの言葉に男たちは黙ってしまう。多分本人たちもその事はわかっているのだろう。だけど、こんな状況になって、その上、張本人は既に姿をくらませている。この苛立ちをぶつける相手がいないから、1番近くにいたと思われる夫人とその娘にぶつけているのだろう。


 その気持ちはわからなくもないが、さすがに病人相手に当たるのは良くないと思うぞ。俺はそう思うが、周りの男たちの中には、憎悪の目で夫人たちを見ている。


 その目に怯え、女性は震えている。……さっきから夫人の反応が無いが大丈夫なのか? 心配になった俺は夫人たちの下へ近く。その事に女性はビクッと震え、俺を見上げてくる。


「な、なんだてめえは?」


 男たちも俺の事が気になるのか聞いてくるが今は無視だ。まずは夫人が先だ。


「お姉さん。夫人の状態を確認させてもらって良いかな?」


「え? お母さんの状態?」


 そう言い、夫人の顔下を覗き込む女性。見ず知らずの男に母親を預けるのはさすがに抵抗があるのか、俺の顔をじっと見てくる女性。そこに


「レイなら大丈夫よ」


 と後ろで笑顔を見せて言ってくれるアレクシア。女性もアレクシアが言うなら大丈夫と思ったのか、周りを警戒しながらも夫人を寝転がそうとしてくれる。おっと、汚れないように布を敷こう。


 俺が何も無いところから布を出して敷いた事に、女性は驚きながらも夫人を寝かしてくれる。うん、この女性が成長したら、この夫人のようになるのだろうと言えるほど似ている。


 しかし、普段ならおっとりと優しそうな表情は、苦しみなのか痛みなのかはわからないが、その苦痛で顔を歪ませている。体も痩せ細って見るからに体調が悪そうだ。


「お姉さん。夫人のこの状態はいつから?」


「お母さんは前から体調が弱かってあまり外には出ない人だったんですが、一昨年ぐらいから急激に体調を崩して、今では1人で歩く事もできません」


 そう言い目に涙を溜める女性。周りの男たちはこの光景を見てウッと気まずそうに眼を逸らす。それも無視して夫人を見ていくと


「……これは」


 ……何でこんなものが? 俺はあまりの驚きに黙ってしまった。

気が付けば500万pv達成!

皆さんに500万回も見てもらって感謝です!

みなさんもっと見てくれても良いのですよ?[壁]_・)チラッ

感想なんかも……


評価等よろしくお願いします!

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