99.怒りの理由
俺たちが門に近づくとこちらに気が付いたアレクシアとヘレンが笑顔を見せてくれる。
「お疲れ様アレクシア。無事帰って来てくれて良かったよ。ヘレンも無理させてごめんね。ありがとう」
そう言いアレクシア、ヘレンの順に抱き締める。するとアレクシアとヘレンも嬉しそうに抱き締め返してくれる。
「良いのよ。私にしか出来ない事ってわかっているから」
「そうですよ。戦いでは役に立たない私が唯一役に立てる仕事なんですから遠慮なく言って下さい」
そう言い微笑んでくれるアレクシアとヘレン。やっぱり俺には勿体無い人たちだ。そんな風に話していると、エアリスたちもやってくる。メイちゃんはアレクシアに突撃して「ふかふか〜」と喜んでいる。ロイは心なし羨ましそうだが。俺も羨ましい。
「とりあえず男爵にはお願い出来たんだな」
そう言い俺は、アレクシアたちの後ろに並ぶ馬車を見る。そこには6人乗りほどの馬車が10台ほど並んでいる。これなら全員乗せて行けるだろう。しかし、その事を聞くとアレクシアたちは、怒った表情を浮かべる。
「ど、どうしたんだ?」
「実はその事で話があるのよ。ちょっとここで話させないから屋敷に行きましょ」
そう言い歩き出すアレクシア。俺は仕方なく、その後ろについて行くしかなかった。
屋敷に辿り着いた俺たちは、席に着く。此処には俺、アレクシア、ヘレン、フェリス、エアリスと俺の頭の上に乗るエクラになる。ダグリスたちはレビンさんと修業中だったし、レーネたちは被害にあった女性たちを見てくれている。
「マングス男爵のところで何かあったのか?」
俺がアレクシアにそう聞くと、アレクシアは頷く。
「レイはこの村にいた盗賊たちの事が不思議に思わなかった?」
「あの盗賊たちか?」
俺は此処に滞在していた盗賊たちを思い出す。確かに不可解な点はあった。本来であれば50人ほどの規模の盗賊団になれば、近くの領主たちから討伐隊が組まれ、大きくなる前に討伐されるのが普通だ。
上手い事隠して少しずつ規模を大きくする盗賊団もいるが、それでも150人に届かないほどだ。だが、この村にいたのは、昼間に襲われた盗賊団も合わせて300人ほど規模になる。何故このような大きさになったのかが不思議だった。
「本来ならあの半数の規模が出現すれば、確実に討伐隊が編成され、既に捕らえられているはずなのよ。だけど、此処に2月以上は居座っている。この村は定期的に商人が通っていた様だし、近くには私たちが通った街道もあった。なのに此処にいた盗賊団は討伐されなかった。何でだと思う?」
そうアレクシアが聞いてくる。上手い事隠していたってわけではないだろう。先程アレクシアが言った通り、この近くは街道が通っており、ここに休むために立ち寄る人もいた筈だ。それなのに討伐され無かったという事は
「討伐隊が編成されなかった?」
俺がそう言うと、アレクシアは頷く。
「私たちがこの村の事を話した時に、マングス男爵の様子が明らかに様子がおかしかったので問いただしたのよ。すると答えた理由が、お金がないので討伐隊を組めなかったって言うのよ!」
アレクシアは余りの怒りに興奮して、机を思いっきり叩く。俺の頭の上でウトウトとしていたエクラがその音に驚き、俺の頭から落ちてしまった。俺の前に落ちてきたため受け止めれたが。
「あっ……ごめんなさい。少し興奮してしまったわ」
その光景を見ていたアレクシアは少し冷静になった様だ。逆に驚いて落ちてしまったエクラが、今度は怒り出した。俺の膝の上でキュルルと怒った声を出し、机をパシパシと叩いている。俺が撫でる事で落ち着いてはくれたが。
「そういう事はあり得るのか? うちの辺境伯領は元々特殊な場所だろ? だからあの辺で盗賊が出るって話は聞いた事ないし、元々常備軍がいたからそういう話も出た事がないためわからないんだ」
俺がそう言うとエアリスも頷く。まあ、あそこは魔の大地が近いから盗賊自体が寄り付かないし、冒険者のレベルも他の領地に比べて高い様だし。その辺で盗賊がうろちょろとしていたら即刻狩られるだろう。
「まあ、辺境伯領は特別だからね。魔物の大行進にレガリア帝国との国境って事もあるから、お父様が他の領地に比べて兵を多く置いているし」
「はい。けれど他の領地、特に小さい領地だとありえない事では無いんです。そういうところには、治安維持のための兵士しかいなかったりしますから。それでも盗賊が出現すれば、借金をしてでも他領から兵を借りたりします。その事を後で国に報告すればそのお金は返ってきますから」
「なら、マングス男爵はその事すらしなかったと?」
「ええ。先程話しました借金をして兵を借りた場合はお金を後で返すという話ですが、その後にその領地に調査官が派遣されるんです」
「調査官?」
また、新しい役職が出てきたぞ。昔ヘレンに習った事を思い出しても出てこない。
「はい。王宮内の財務職の1つで、他領で不正が無いか調べたりする役職です。今回の様な場合だと、兵士を他領から借りれない程、お金が無い理由を調べられるでしょう。マングス男爵は、調査官が来て調べられるのを嫌だったのでしょう」
「という事は、マングス男爵は何かやましい事があったという事か?」
俺が聞くとヘレンは頷く。
「マングス男爵はその隠している事がばれるのを嫌がってあの村を見捨てたのよ。その上、あの村へ商人には行かせない徹底ぶりでね。そして盗賊を放置した。その盗賊がマングス男爵領以外で被害を出せば、そちらの領主が討伐隊を編成するでしょ? それを待っていたのよ」
それは何ともまあ狡い手を使う。自分は見て見ぬ振りをして、他の領地に擦り付けようとしたのか。
「その隠している事はわかったのか?」
そう尋ねると2人は頭を横に振る。まあ、いくら王女と侯爵令嬢だからといって、他領の経営まで口は出せないか。
「わからなかったから取り敢えず王都に帰ったら、報告して調査官を派遣するって言ってあるわ。その事で崩れ落ちてたけどね」
それは自業自得だな。まあ、向こうもまさかこの国の王女がそんなところを通るとは思っていなかったのだろう。それでも許される事では無いが。そのせいで被害にあった女性たち、殺された人々に売られた子供たちまでいるのだから。そう考えたら腹が立ってきたな。
「キュイッ!?」
おっと、俺が怒りに魔力を放出してしまったためエクラをびっくりさせてしまった。俺は謝りながらエクラを撫でる。少し怒っている様だが、俺の手に頭を擦り付けてくるのは可愛い。
「それであの馬車は?」
金が無いと言っているマングス男爵に10台もの馬車を出せるとは思えない。どこから持ってきたのだ?
「マングス男爵が盗賊の件を擦り付けようとしていた隣の領地、ケンヌス子爵の領地から借りてきたわ。その事を話せば快く貸してくれたわ」
ふふふ、と黒い笑みを浮かべるアレクシア。……ちょっと怖い。
「それじゃあ、出発するのは?」
「明後日にしましょう。もう大丈夫だとは思うけど、明日もう一度みんなの体調を確認してそれから出発しましょう」
それもそうだな。無理に行って、途中で体調を崩したら俺たちでは対処できないかもしれないし。ただ、
「このペースだと新学期に間に合わないな」
その事にみんな、うっ、と詰まる。事情を話せば師匠やメアリー先生も許してくれるのだろうけど、何を言われるかわからないため少し怖い。俺はエクラを撫でながらそんな事を考えていた。
評価等よろしくおねがいします!