10.守りたいもの
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ジークside〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
鐘が鳴り始めてから直ぐに俺とエリスとエイリーンは魔の大地側の門へと辿り着いた。
「これは、ジーク様。お早いお着きで」
そう言って礼をしてきたのは、この辺境伯領軍で俺の次に権限を持ち、普段はこの軍の隊長をしているギルバートだ。通称ギル。こいつが居るから俺は部屋で領主の仕事ができる。まあ、ギルの自慢は置いといて。
「状況はどうだ?」
「それがですね、変なんですよ」
「変? どういう事だ?」
「確かにあいつら魔物たちは魔の大地の森から出てきたんですが、例年に比べて何だか大人しいんですよ。いつもなら我先にと走ってくるのですが、今回は魔物たちが隊列を組んで進んできているんです」
確かに、言われてみればこんなに大人しいのは初めてだ。俺も大行進はこれで3回目だが、知能の低いゴブリンなどは指示などは聞かずに、矢が降ってこようが魔法が撃たれようが気にせず突っ込んでくるのに、今回はどのゴブリンも、他の魔物も大人しい。何なんだ一体……
「理由がわからんのは痛いが、考えていても仕方がない。相手がゆっくり来るなら、こっちは相手が反応できないぐらい速攻で攻めるぞ!!」
「おおう!!」
「エリス! 雷魔法で援護を頼む! 俺とエイリーンは各部隊1千人ずつ連れて敵陣に攻め込むぞ!」
「わかったわ!」
「了解した! いざ参る!」
そうして俺とエイリーンは馬に乗って敵陣に突っ込んでいった。その間にエリスは
「雷よ、天より降りて万物を焼き払え!
雷撃の嵐!」
エリス得意な雷魔法で魔物たちを一掃していた。
幾千の雷が地上に降り注ぐ中、俺はオークキング目掛けて走っていた。後ろはエイリーンの部隊が支えてくれるし、エリスの魔法の援護もある。今回はなかなか早くに決着が着きそうだ。
そしてオークキングの眼の前まで行った俺は槍を構える。
「さあ、殺ろうか。このブタ野郎!」
そう言って挑発したが、帰ってきたのは不敵な笑みだった。見た目はブタみたいな顔立ちで顔の表情なんてほとんどわからないが、今のオークキングの表情だけは、はっきりとわかった。あれは罠に嵌めて愉悦に浸っているときの笑顔だ。その笑顔に俺は何か、何とも言えないような不安を感じた。絶対にさせてはいけないような、絶対に後悔する事だ。
何だろうと考えながら構えていたら後ろから伝令兵が走ってきた。
「ジーク様! 大変です!」
「何だ!? 今からオークキングとの戦闘だ! 直ぐにお前も下がれ!」
「ジーク様! それどころではありません! 領内にオークが100体近く出現! そしてそのオークをの中にまとめ役としてオークジェネラルが確認されています!」
俺は直ぐに判断する事ができなかった。どういう事だ? 壁の中に敵が出現だと? 俺は直ぐに伝令兵に詳しい話を聞こうとしたが、伝令兵はすでにオークキングに潰されていた……
「そうか、さっきの不安な感じはこの事だったのか。そしてこの1万近くの魔物たちとお前含めて全て陽動だったとはな……」
クソッ! まんまと嵌められた。直ぐに戻りたいが目の前にいるオークキングをどうにかしなければ!
「そこをどけぇ! ブタ野郎!」
「ブウォォオオウ!」
こうして俺とオークキングの戦闘は始まった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜レイside〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ジークたちを見送った俺たちはこれからの事について話していた。
「姉上。このままでは危険なので一旦屋敷に戻って武器を取りに行きましょう。今持っているのは木剣しかありませんから」
「そうね。使い慣れた武器を持っている方が何かと安心できるわね。さあ、フィーリアとクロナも一緒に戻りましょ。クロエも何かあった時はよろしくね」
「畏まりました、エアリス様」
「わかったのです!」
「わかりました!」
そうして屋敷に戻った俺たちは取り敢えず自分の武器を持って一階のホールに集まった。
「これからどうします、姉上? 他の領民が避難しているところに行きます?」
「そうね。ここで私たちだけで篭るよりかは、そっちの方が何かあった時に協力し合えると思うし」
そう言って屋敷を出た瞬間、街の中央の空に大きな魔法陣が展開された。
「な、何よあれ?」
そして光り輝いた瞬間、中からオークの大群が降ってきた。
「なっ!?」
「まさか!」
今、領軍の殆どは大行進の方に当てられて、街の中には100人程しか兵士は残っていない。
「まさかこれを狙っていたのか?」
「どういう事よ、レイ?」
「今、父上を含めた実力者たちは、どこにいると思います?」
「それはもちろん、大行進の方じゃない? それがどう……まさか!」
「その通りです。その大行進すらも囮でこの魔法陣で転移してきたオークたちが本命です!」
そう、今街に残っているのは、避難誘導をしている100人程度の兵士と住民しか残っていない。実力者の居ない隙を狙って転移して来たオークで街を蹂躙しようとしているのだ。
「そんなことさせないわ!」
「姉上! 待って下さい!」
そう言って走っていくエアリスを俺は止めることが出来なかった。
「お兄様ぁ」
「レイ様ぁ」
不安で泣きそうなフィーリアとクロナをめいいっぱい抱きしめてあげる。
「大丈夫だからな! 安心しろ、俺が守ってやるから!」
そう言って笑ってあげると2人とも
「「はい!」」と笑い返してくれた。
よし! やる気出てきたぞ! まずは姉上を追わないとな。
「クロエ。申し訳ないが2人を頼む。俺は姉上を追う」
「畏まりました、レイ様。無茶だけはしないでくださいね。レイ様にもしものことがありましたら、エリス様もジーク様も悲しんでしまいます」
「大丈夫だって! なんせ俺は女神に観察されている男だぜ! そう簡単に死なねえよ!」
そう言って俺は守りたいもののため、初めての戦場へ赴くのだった。
次は戦闘シーン。
頑張って書きます!
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「召喚された勇者に婚約者を取られた男は、魔王として彼らを見返す!」