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埃の積もらない街  作者: 山月 楓
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第一話 休めない日々

不定期投稿ですが、よろしくお願いします

俺の人生を言い表すなら……そうだな。


腐ってはいないが、美味しくもない果実。


そんなところだろう。


高校時代、俺の成績は学年二位だった。


なぜ一位ではなかったのか。


その始まりは、中学時代にまで遡る。


卒業式の日。


俺は、同じクラスの女子に告白した。


結果は、あっけないものだった。


「頭がいい人が好きなの」


それだけ言われて、簡単に振られた。


当時の俺は、ひどく単純だった。頭がいい人が好きなら、頭がよくなればいい。


そう考えた俺は、必死に勉強した。


そして高校で、学年二位になった。


まあ、その頃には、彼女への恋心なんてすっかり消えていたのだが。


それでも、勉強をやめる気にはならなかった。


机に向かい、問題を解き、間違えた箇所を何度も復習する。


昨日まで解けなかった問題が解けるようになる。


知らなかったことが、少しずつ分かるようになる。


その積み重ねが、俺には楽しかった。


(このまま努力を続ければ、一位になれるかもしれない)


そんな期待が生まれた。


二位まで来られたんだ。


あと一歩。


もう少し努力すれば、きっと届く。


そう信じて、俺は勉強を続けた。


自分でも驚くほど努力した。


今度こそ、一位を取れる。


そう確信できるほどに。


だが、結局、俺が一位になることはなかった。


一年も、二年も、三年も。


どれだけ努力しても、結果は変わらなかった。


二位。


いつも、二位。


そして、一位に君臨し続けた人間も、ずっと同じだった。


そいつは、俺と同じように必死に努力していたのだろうか。


俺以上に勉強していたのだろうか。


今となっては分からない。


ただ、俺には越えられない何かが、確かにそこにはあった。


──才能。


努力だけでは埋められない差。


手を伸ばしても届かない、絶対的な壁。


それでも、俺は二位だった。


悪い成績じゃない。


むしろ、十分に誇れる結果だったはずだ。


それなのに、俺は一位になれなかったことばかり考えていた。


高校を卒業する頃には、大学に行けば何かが変わると思っていた。


環境が変われば、自分も変われる。


もっと勉強すれば、今度こそ追いつける。


そう信じていた。


けれど、現実は甘くなかった。


大学に入ると、俺は周囲についていけなくなった。


高校までは解けていた問題が、解けない。


自分なりに考えても、答えにたどり着けない。


周囲の人間が当たり前のようにこなしていることが、俺にはできなかった。


何が違うのか。


どこで間違えたのか。


必死に考えても、答えは見つからなかった。


高校時代までは、努力すれば少なくとも二位にはなれた。


だが、大学では違った。


積み重ねてきたはずの努力が、通用しない。


自分より優れた人間がいることなんて、とうの昔に知っていた。


それでも、目の前にいる人間たちとの圧倒的な差を突きつけられると、今まで信じてきたものが揺らいでいった。


俺は、何のために努力してきたんだろう。


何を目指していたんだろう。


気づけば、前に進むことができなくなっていた。


それが、俺──鈴木歩の人生だ。


────────


俺は、溜まりに溜まった仕事の山を片付け、ようやく会社を出た。


空は真っ暗だった。ビルの窓には、まばらに明かりが残っている。こんな時間まで働いているのは、俺だけじゃないらしい。


……いや、そんなことを考えている場合じゃない。


腕時計に目を落とす。


『0:10』


「……訴えたら勝てるな」


思わず口から愚痴が漏れた。


もちろん、訴える気力なんて残っていない。

俺は鞄を握り直し、終電に間に合わせるために駅へ向かって走り出した。


革靴がアスファルトを叩く。走るたびに鞄が脇腹にぶつかり、肩に食い込んだ。息が上がり、喉の奥がひりつく。


……四十にもなって、何をやっているんだか。


ようやく駅にたどり着くと、俺は鞄から定期券を引っ張り出し、改札を抜けてホームへ駆け込んだ。


そこで、ふと足が止まった。


誰もいない。


ホームには、俺以外の人影が一つもなかった。


ベンチも、階段も、反対側のホームも。


いつもなら終電間際でも、何人かは残っているはずだ。


「……乗り遅れたか?」


嫌な予感がして、腕時計を確認する。まだ終電の時刻は過ぎていない。俺は安心して小さく息を吐いた。


「まもなく一番線に電車がまいります。危ないですから、白線の内側までお下がりください」


不意に、駅のアナウンスが響いた。


電車が来るらしい。


俺は乱れた呼吸を整えながら、線路の向こうへ目を向けた。


暗くて、よく見えない。


けれど、遠くには山の稜線が浮かび、風に揺れる木々の影が見えた。

サワサワ、と葉が擦れ合う音がする。


普段なら気にも留めないような音だった。


それなのに、今夜は妙にはっきりと耳に届いた。周囲に人がいないからだろうか。


俺は目を閉じた。


すると、どこか遠くから川のせせらぎが聞こえてくるような気がした。


湿った土と草木の匂い。夜の空気に混じる、ひんやりとした自然の気配。


いつからだろう。


こんなものを、心地よいと感じるようになったのは。


毎日、仕事に追われて。時計ばかり気にして。今日を生きるので精一杯だった。

そんな生活を続けているうちに、俺はいつの間にか、自分を見失っていたのかもしれない。


「ずっと自然豊かな場所で、ゆったりと過ごしたいな……」


ぽつりと、願いがこぼれた。


「叶えてあげる」


背後から、少女の声がした。


振り返る間もなかった。


背中に、突然、強い衝撃が走る。


「――っ!?」


足元が消えた。体が傾き、視界が大きく揺れる。


ホームの縁が目の前を流れていく。


落ちる。


そう理解した瞬間、線路の向こうから眩い光が迫ってきた。


電車の轟音が、夜の静寂を切り裂いた。

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