Bet the world on her life
PL(参加プレイヤー)による前日譚。
hitoさん、だった、はず!(曖昧)
「ううん……とてもマズイ状況な気がする。
どうしようかな。後手にまわっちゃったのは仕方がないとして、これ以上の流出は抑えないと……
でも、それでも、どうしようかな。
現状、1対3。
もともとの戦力差を考えたら絶望的。
でも、絶望的だからって手をこまねいてることはできないし……」
シルヴィアがぶつぶつ呟いていると、ティアロットが現れた。
このガキは文字通り、何もないところに突然現れる。どうもいつもソファーの上を狙っているらしい。
「この上は玉砕あるのみ、か。
陳腐だなあ。
我ながら」
「なんか難しい話だなー」
俺は晩飯を食いながらシルヴィアの独り言を牽制する。
独り言でこんなふうにごちゃごちゃ言われると、気が散って飯もろくに味わえない。
「ん?
べつに難しくはないかな。
世界が終わるか終わらないかってだけの話だから」
「それはわかりやすいな」
世界の終わり、ときた。
やっぱりこの女はただの女優ではないようだ。
まあただの女優がこんな宿を出入りするはずもない。
ティアが鉛弾を魔法でシルヴィアの頭に飛ばす。
何度もポコポコと。こいつはいつでも容赦ない。
「いていていていて。
やめろー。
弱ってるんだから」
「ふむ」
「いじめっ子かよ。
まったく」
「ここで、ある程度の実力者が抽象的なことをぼやいていた場合、かなりの確率でたちの悪い事を起こす前触れじゃからな」
なるほど、こういうわけのわからない話というのは、大抵は厄介ごとらしい。
「確かに抽象的だなー。
というか自己完結か」
独り言でお悩み、聞いてる分には訳の分からない内容。
しかも世界の終わりらしい。
まったくもって面白みがない。
「で、何をよからぬ事を考えておったんじゃ?」
「まあ、ティアには隠し事をする気はないから言っちゃうけど、あたしの力が弱くなってる。
どうしてかっていうと、魔王の力が弱まっているから」
「知っておる。
むしろ何を今更」
「や、もちょっと意味が違うんだ」
「ザッガリアの欠片が食われておるんじゃろ?」
魔王とかザッガリアとか、途方もない言葉はまるで明日の天気のように語られる。
この宿の特性と言ってもいいだろう。
「うん。
そういうこと。
うーが阻止に動いたけど、ちょっと遅かった」
「たいしたことはない」
「7つに分かたれた欠片のうち、3つが性悪女に奪われた。
つまり簡単にいうと、あたしはいま、7分の4の力しかない計算なんだ」
「たいした問題であるまいに」
「たいした問題じゃないのかなぁ。
まあ、ティアがたいしたことじゃないって言うなら、そうなのかもなぁ」
「前々から思うんじゃが、転生者やら代行者やら、そういう連中は元値が大きすぎて全体像を上手く
見切れておらん気がするのぅ」
「と、言うより、スティアロウ殿とか、シルヴィの話がデカすぎて、自分らにはとうてい理解ができない」
テオドールが言う。
話の大きい小さいの問題よりも、こいつらの間で話す必要のない前提を俺達が知らないだけだと思う。
「たいしたことでないよ。
結局は盤上の遊戯に他ならん。
歩兵では女王の足には敵わんと、的外れな嘆きをしておるだけじゃ」
「何の盤なのかもわからないんだが」
聞いてる人間を置いてきぼりにして話を進めるのもいい加減にしろよと言いたい。
「でさ、結局今はどういう局面なのよ?」
ティアットも話がわからないという顔をしている。
まあ、こいつらが自分たちだけで話をする分にはいいんだろうが宿に来る人間皆を巻き込んで話を進めるからたちが悪い。
「ここにおる以上全くの他人事……とはいかぬじゃろうからの……最小限で構うまい。
世界の危機じゃて。
失敗すると、ザッガリア以上の魔王が生まれる」
「それはいきなりな。
いきなりクライマックスー」
「すっごい端折り方」
「防衛条件は木蘭を殺すか、木蘭を護りきること」
「で、その言い方だと、護る方に賭けるのか?」
花木蘭。
この宿のオーナーにしてアイリンの王よりも慕われているらしい人物。
だが実際見たところは、とんでもない事を言ったりしたりで世の中や周囲の人間の人生を狂わせる傍迷惑な女だ。
実際俺が依頼にかかわったときも失敗したら消すなどといわれたし、アイリーンの盗賊ギルドをぶっ潰したのも木蘭の仕業らしい。
盗賊を全部なくす事が出来るというならギルドを潰すのもわかるが、実際は秩序を失った盗賊たちの抗争が増えただけだ。
「護る条件として、木蘭の戦略的価値を失わせるアイテムを死者の宮殿から持ち帰る事。
それと同時にそれまでの時間、物理的に防衛を行う事じゃ」
「確かに、それだけ聞いたら十分ね」
「物理的な防衛の相手は腹心シャミィと魔剣士カラミティ。
そしてシャミィは異界の魔物を召喚する能力を持つゆえ、そこらのアークデーモンを遥かに凌駕する魑魅魍魎が沸いて出てくるじゃろうな。
物理的防衛の方で一秒でも生きておられるのは現世の英雄連中じゃよ」
「まあ、木蘭さまを守ることと、世界の終わりがどう結びつくかって言うと、およそこの世に、あの人ほど依り代に適した人はいないってのが1つと、べつに木蘭さまが死んだら、ここが反木蘭派からの弾圧を受けるなんて次元の話ではなくて」
「木蘭さまの中身が魔王になるのね?」
「そう」
「で、普通に顕現するより強いとか安定してるとかそーいう絶望的なおまけつきね?」
「しかも、木蘭さまの姿形をしている以上、アイリン220州のうち、23州は最初から持ってるのと同じ」
「この国の騎士連中は動揺するわねー」
それだけのことをしなければいけないんだったら、木蘭を殺してしまったほうが早いし確実だろうに。
「ま、恩も何もない人は、殺して遺体を灰にしてしまえって思うだろうね。
そしたらそれ以上、利用のされようもない」
ちょうどそう思っていたところにシルヴィアが言う。
「個人的には、わしもそちらに賛成なんじゃがな」
ティアがそういうとは意外だ。木蘭を慕っているわけではないのか。
「アイリンの中に居る以上は、そんなの難しいに決まってるじゃない」
「反対なぞ余り意味はないよ。フィランダーと、カイトスが納得すればよい」
「個人的には常勝将軍、フィランダー中将、カイトス師に恩義がある。
それからカラミティに借りがあるもんでね。
ま、盾にもならんでしょうが」
「面倒な話だなー。
つまり、敢えてリスクの高い方に賭けるわけだろ?」
死者の宮殿、そして防衛戦、それを潜り抜けるだけでも戦いは過酷極まりないはずだ。
犠牲は必至というやつだろう。
そしてタイミングが悪ければ、そのアイテムとやらを木蘭に持っていくことも、殺す事もできず、ザッガリアの腹心とやらに木蘭の体を奪われる。
つまり世界が終わる。先に殺してしまえばそういった憂いは残るはずもない。
アイリンが権力争いやらなんやらでごたごたするかもしれないが、別にアイリンじゃなくたって生きていけるし、逆に仕事も増えるかもしれない。
どう考えたって木蘭を殺したほうがいいだろうに。
「まぁ、あれじゃなぁ。
この国には阿呆が多いし」
「あとで蜂の巣にされそうな発言だなぁ」
「リスクって言うか、あたしは木蘭さまに恩があるから返さないうちに死なれると困るんだよ」
「ふぅ~ん」
「実は、国も世界もどうでも良い。
あたしはあたしのために戦うの」
「おばちゃんを助けたいってー言ってるのってー、けっこう、お偉いさん方なんかね?」
「だろうな」
「助けたいと言っておるのは、立場的には偉いじゃろうが、私情の連中だけじゃよ」
私情の連中。
つまりはシルヴィアの言うように国や世界より木蘭の方が大事というわけだ。
厄介なのは、そいつらが口先ひとつで人の命をどうこうできるお偉方だということだ。
「まぁ、どうであれ。
わしが望むのは、聖戦が再発せんことだけじゃよ。
上屋敷に詰めておる者達も……それは重々承知しておるじゃろうからのぅ」
「ここで俺らのような小市民が、簡単な道にベットするのは命を捨てるようなもんだな」
「難しい方に突っ込まないとそれだけでフラグゲットよねー」
「面倒な話だ」
木蘭を殺せば世界は救われる。
だが私情の連中とやらがその実行者を生かしておくはずもない。
世界を救って、その世界に生きる事ができないなんて、本末転倒に過ぎる。
俺達は大陸やエオスのために生きているわけではないのだから。
「分の悪い賭けか……裏が出るか表が出るか……」
ただ木蘭一人を生かすため、世界を賭けのテーブルに載せる。
庶民からすればとんでもない話だが、それを止めることが出来ないのが庶民というものだ。
いや、出来たとしてもその後に死ぬのだろう。
「んー、それは無意味よ?
ダメな方が出たら、生きてないでしょうからねー」
「確かにな」
ティアットの言うとおり、ダメな方が出る事を考えてもどうにもならない。
代償が世界の終わりである以上、勝手に失敗されるのはごめんだ。
別に世界を守るなんて大それた事を考えるわけじゃない。
ただその世界に自分も組み込まれているのが許せないだけだ。
冒険者の命は安いもの、と誰かが言っていたか。
だからと言って勝手にチップされてその上決着も勝手につけられてたまるものか。
改めて弓の引きを確かめる。
この間新しく手元に来た相棒の初仕事は、かなり派手なものになりそうだ。




