二度目の高鳴り 水瀬視点
私は耐えられなかった。弱くて、泣き虫で、寂しがりな私はまた彼に、湊川君に頼ってしまった。分かっていた。今日一日だけで彼がどれだけ優しいのかを、誰かのために怒って真剣に行動できる人だと分かっていた。そんな彼にこの話をすればどうなるか分かっている、でも耐えられなかった。
私の13年間を好敵手であるなっちゃんに、それでいて私たちの想い人であるゆうくんに否定されたのだ。私の13年の想いを。
始めはすぐに弁明した。だがしかし母親がたまたま私と湊川君が仲良く笑い合っている写真を撮っていて、それを二人に見せたらもう打つ手がなくって、罵声や非難、まるで路傍のゴミを見るかのような酷い軽蔑の視線を送った後二人は私の家を去った。
(どうして……どうして?……私の言葉を………信じてくれないの?……何で私よりもお母さんの話を……信じるの………何で、ねぇ何で)
そして、ズタズタに心を引き裂かれた私はお母さんが何か言ってきていたがもう何も聞きたくないと心を閉ざした。私には届かない。
フラフラと覚束ない歩きで、私は家の階段を登りベットの上にうつ伏せに突っ込む。そして、私は枕を濡らしながら嗚咽を漏らしひたすら空虚な時間を過ごす。そして、何時間何十分かは分からないけど私はそれだけの時間を経てようやく私は枕から顔を離し、私は鏡を見る。
今日のために普段はしないお化粧が涙で落ち人様に決して見せられるような状態ではなかった。
(ひどい顔………)
私は自分のことなのにまるで人ごとのように思いながら、化粧を落とすためにシートで顔を拭く。薄く付けていただけなのでそんなに時間がかかることなく拭き終えた私は、とうとうすることがなくなり手持ち無沙汰になった。
スマホで音楽でも聞いて心を落ち着かせようと思い曲を流しても、その全てが悲壮な歌に感じられて私はすぐに止めてしまう。友人に勧められていた動物の動画を見ても心は癒されるどころか、さらに荒んでいくのを感じた。
私はこのままだと自分が押し潰されてしまうと思い、気がつけば湊川君にこのことを話し少しでもこの痛みを共有しようとした。この選択をとればどんなことになるのか分かっていたけど限界まで追い込まれていた私にはそれしかなかった。
「もしもし」
「あっ、出た。急にこんなことしてごめんね」
嘘だ全くそんなことは思ってない。
「うん、家に帰ったらさ。なっちゃんとゆうくんが私の家に来てね。『私達付き合いました』って報告に来たの」
彼も関係者だからそんな無責任な言葉を心の中で呟いて言い訳して
「私は凄いビックリしてさ、まさかわざわざ家に来て幸せ報告されるなんて思ってなくて」
「それは何ていうか災難だったな」
彼が本当に心配している声色なのが分かり、味方がいるんだと安心して
「ううん、ビックリはしたんだけど別に湊川君に連絡するほど困ったわけじゃないんだ。問題はその後なんだけどお母さんとお父さんもそれを聞いてたんだ。そしてお母さんが言ったんだ『なら、今度ダブルデートして来たらって』」
彼を、湊川君を利用した。
「それでね、それを聞いた二人がお母さんにどう言うことなのか聞いちゃって……………うぐっ……湊川君が私の彼氏だってお母さんが伝えたの……」
「そしたら………私二人に非難されたの。『僕に今日言ってくれたあの言葉はそんなに軽いものだったのか』……『私はこんな尻軽と戦ってたんなて信じられない』って。………当然私は弁解したよ……でも、二人は聞いてくれなくって……そのまま家から出て行っちゃって」
そしてスマホからドタバタと物音を立てる音が聞こえ、バンッと音が聞こえたと思うと音質が悪くなり、走っている音が聞こえた。
「ふざけるなーーー!」
それは彼の心からの咆哮だった。私はこれが私のために真剣に怒ってくれているのだと何となく思う。都合の良い解釈かもしれないでも彼の言葉を聞いて、胸が熱くなり思いの丈をぶつけた。
そこから先は何を言ったか覚えていない、途中で力尽きた私はひたすら嗚咽を漏らしていた。
そして彼の足音が止んだと思うと、彼の携帯から届く音が聞こえ辛くなった。
「お前は何を見ていた!お前は彼女と、……水瀬と何年間一緒にいた!答えろ!」
「不正解だ!お前と水瀬は13年、保育園から高校まで一緒なんだよ!?チッ、本当にクズだなお前!」
何で君は知ってるの?
「うっせぇ黙れよ!まずお前ら勘違いしてるが俺は水瀬と付き合ってなんかいない!それを勝手に勘違いしやがって。お前ら水瀬がそんなに人を簡単に乗り変えられる奴だと思っているのか!ありえねぇだろ!あいつは保健室で一時間もお前に振られて傷ついて泣いてたんだ!」
何で君はそんなに私のために怒ってくれの?
「それをお前らがさらに家に行って報告なんかして、勝手に勘違いして!また水瀬を傷つけた!今もあいつは泣いている理由がお前らに分かるか!?」
「違ぇよ!確かにそれもあるだが一番彼女が涙を流しているのは、自分の気持ちをその程度だと思われてしまったことだ!13年間思い続けた気持ちをお前らはそんなもの無意味だと言い渡されたんだ!一番言って欲しくないお前達に」
何で君の声は私の心に響くの?
「なぁ、知ってるか?水瀬お前から貰ったプレゼント全部大切に引き出しに保管してるんだぜ?しかもどんなに劣化しようとも。知ってるか?水瀬今日告白するために原稿用紙10枚も使って告白の仕方を考えてたんだぜ、夜の2時まで。知ってるか?水瀬は日記に十三年前からずっと毎日お前と過ごしたどんな些細な出来事でも書いてるんだぜ?そんなに一途にお前を慕っていた彼女をお前は傷つけたんだ!」
何で私のことをそんなに知ってるの?
「星川、お前は知らないだろ?水瀬がお前のことをライバル以前に最高の親友だと未だに思ってることを!お前なら堺と付き合っても良いと認めてることを!そんな親友をお前は尻軽だと非難して怒って傷つけた!」
何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で!
「謝れ!そこに水瀬はいる。誠心誠意謝れ!お前達の犯した罪を懺悔しながら」
「例え水瀬がお前らを許そうと、俺はお前らを絶対に許さない!俺の大切な友達を、水瀬を傷つけたお前らを絶対に」
何でこんなに私の胸が高鳴るの!?あの十三年間ずっと感じていたものよりも遥かに大きく!
私はこの時、恋に落ちた。湊川 奏 という男の子にゆうくんの時よりもはるか深く。
「ごめん、小鳥僕は…………………………………」
「ミナ、私もごめんなさい………………………」
二人の謝罪が聞こえてきたがそんなことは聞こえない。この身体中の血液が沸騰して、心臓がバクバクと尋常じゃない速度で動いて煩い。
(私は湊川君が好き)
この気持ちの心地よい温もりに、私は湊川君がスマホを回収するまでの間浸り続けるのだった。
女の子視点はやっぱり難しいですね




