負けヒロインと引越し祝い
「二人の新しい門出を祝って!」
「「「「「かんぱーい!!!」」」」」
父さんの掛け声と共に俺たちは、カチャンと缶ジュースと缶ビールをぶつけ合う。
「ぷはぁっ、やっぱり仕事終わりのビールは美味いな」
「全くその通りですね。僕は帰ってこれをグイッとするために頑張ってるところがありますよ」
「分かります!いやぁ、私の周りにビールを飲む奴が少なくて寂しかったんですよ。最近の若者は乾杯はビールとかじゃなくて、カシスとかライチとか頼むから肩身が若干狭くて」
「そうですよね!何でみんなあんなジュースみたいなの飲むんでしょうか?料理を楽しむにはこれくらいの味が丁度いいのに」
親父たちはどうやら缶ビールを飲んですぐに酔っ払っているようで仲良くビールについて語り合っている。
(酒入ると人間関係が一気に縮まるのはああいう人がいるからだろうな。)
俺はそれを横目に見ながら、オレンジの缶ジュースを飲む。
やっぱりオレンジジュースが一番うめぇ、炭酸とかも飲めるちゃ飲めるけど、これが一番飲みやすい。
俺が親父達の輪に加わるのは一度も無いんだろうな。
俺がそんなことを思いながら、缶ジュースを飲み干したタイミングで隣から声が掛かった。
「はい、奏くん!トロサーモン取っといたよ」
「ありがとう……小鳥」
小鳥は俺が好きだと言っていたトロサーモンを紙皿に乗せて
渡してくれた。
俺は礼を言って受け取り、割り箸を割ってトロサーモンを口に入れる。
うめぇ、鮭の部位全部これにしてくれって思うレベルでうめぇ。
俺が頬を緩ませながらトロサーモンを堪能していると、小鳥はふふっと微笑んだ。
「本当に美味しそうに食べるね、奏くん」
「トロサーモンは寿司の中で一番美味いからな」
「そんなに美味しいなら、一個もらってもいいかな?」
「良いぞ」
俺はそう言って、小鳥の前に皿を突き出すが小鳥は手をつける素振りを見せない。どういうことだ?
そう思い、小鳥の方を見ると口を開けて待っていた。
「あ〜んして欲しいな」
何でこんなに積極的なんだ、親の前だぞ普通もっと恥ずかしがるところでしょ!
「奏、小鳥ちゃんが待ってるんだからしてあげなさい」
「ふふっ、昔の私を思い出すわ。私が星さんにアタックした時そっくりね」
「男なら、ビシッと行け!奏」
「小鳥が勇人くん以外に積極的なのは初めて見たね」
と外野がうるさいせいででやりにくい。前した時は周りにカップルばかりでしかもこちらに注目するような人がいなかったから何とか出来たが、第三者しかも親に見られていると思うとめっちゃ恥ずかしい。
「……早くして欲しいな」
俺だけ恥ずかしがってるのかと思ったがどうやら、小鳥の方も同じようで頬を赤く染めていた。
恥ずかしいならしなくて良いのにどうしてそこまでやりたがるんだ。
ああ、もう!
「ほら、………あーん」
「あ〜〜んっ、……確かに美味しいね」
「……だろ?」
なんていうか、とりあえず死にたい。親の目の前はめっちゃ恥ずかしい。
「ヒューヒュー、熱々だな」
「小鳥ちゃん可愛いーわー。本当に私の娘にならないかしら」
「そう言ったら、奏くんも初心で可愛いですね。これはもっと反応が見たいです。小鳥お返しをしてあげなさい」
「分かった……やるよお母さん」
「……小鳥、本当に小絵に似てきたね」
星さん、その同情の目向けるのやめてください。何かシンパシー感じちゃうんで。
てか、どんな風に迫られたか物凄く気になる。今後の参考までに聞きたい。
「はい、じゃあ奏くんに……お返し。あ〜ん」
そう言って小鳥は耳まで真っ赤にしながら俺の口に、彼女が好きな卵寿司を差し出す。
本当にそんなになるならするなよな……お互いのメンタルゴリゴリ削られてるから。
「あーんっ………」
「どう…?美味しい」
「美味しいよ。たまにはトロサーモン以外も悪くないな」
俺はさっさと終わらせてこの場を早く退散したいので、パクッと食べた。
口に入れた後、俺は顔を片腕で隠しながら小鳥に返事をする。
本当顔が熱い。何でこんなに今日は恥ずかしいことばかり起こるんだ。これ以上は本当に無理。死ぬ。
だが、そんな俺を逃がさないと言わんばかり親達が「もう一回」、「もう一回」と悪ノリし始めたため俺の願いは叶わぬものとなった。
その後、どうなったかはまぁ、察してくれ。




