負けヒロインと引越し祝い前
「終わったーーー!」
そう言った小鳥は荷解きが全て終わって気が抜けたのか、新品のカーペットにグデーとうつ伏せになった。
「思ったよりも早く終わったな」
俺は潰したダンボールをガムテープで纏め、時計を見ながら答えた。
時計の針が指し示す時刻は午後6時。俺達が買い出しを終えて戻ってきたのが3時だから、三時間で荷解きが終わった計算だ。
まぁ、俺は家から持って来たものが少ないから午前中でほぼ荷解きは終わってたし、小鳥の方もある程度業者の方がやってくれていたおかげでダンボールを開けて本棚やクローゼットやカーペットを敷いたりするだけだったからこの程度で済んだのだろう。業者に両方とも頼っていなかったら今日中に終わることは無かったはずだ。
「そうだけど、普段は使わない筋肉使ったから腰とかが痛いよ」
(おい、聞く人によっては変に捉えられるからその言い方やめろ誤解を招くから。)
と思わずツッコミたくなったが、その後の展開を考えると余計なことを言うのは良くないと思い何とか堪えた。
「俺も階段の上り下りは地味に堪えた。引越し作業はやっぱり一階の方が楽だって思い知ったわ」
「それは私も思った。明日絶対筋肉痛だよ〜。この感じ」
「父さん達はもっと酷そうだけどな」
俺たち若者ですらキツいのに、父さん達の歳だったら相当キツいだろうな。今頃、俺の部屋で屍のように全く動かなくなってそうだ。
「今から料理を作るのは無理だ〜。かと言って外に出るのもしんどいし、これは出前頼むしかないね。お母さんに頼んでみよう」
小鳥はそう言ってスマホをポケットから取り出し、メッセージを送っていた。
下の階に母親がいるのに、降りずにメッセージを送るあたり本当に疲れているのだろうことは分かるが、それくらいは頑張って伝えようぜと思った。
「奏くん、お母さん達も動きたくないから出前にしたいって。後、食べる物は私たちが決めて頂戴だってさ。何食べたい?」
「そうだなー。昼は肉食ったし俺は寿司が食いたい」
「私もさっぱりした感じのが食べたかったから、寿司で決定。お母さんに送っとくね」
「トロサーモンが、あるやつ頼んでって追加しといてくれ。あれが無いと寿司って言えないからな」
「ヘェ〜、奏くんトロサーモンが好きなんだ。やっぱり子供舌だね」
「そういう小鳥もちゃっかり卵多めのやつって書いてるじゃん」
「えへへ、そうだね。わたしも人のこと言えないや」
小鳥は俺に指摘され、恥ずかしそうに笑っているが何処となく嬉しそうだ。
(俺と子供舌っていう共通点を改めて認識したからか?前話した時は、こんな反応じゃなかったから本当に俺惚れられてるんだな)
と俺は可愛らしく照れている小鳥を見ながらそう思った。
相手が好意を持っているのは分かっているが、こういうふとしたタイミングで意識すると何だか照れ臭い。俺は気持ちを落ち着けるため纏めたダンボールを外のゴミ捨て場に捨てに行った。
小鳥の部屋に戻る前に両親達は大丈夫だろうかと思って、俺の部屋を覗いてみると案の定、家の父さんも小鳥の父さんも折りたたみ式椅子の背もたれに深く体重を掛けて疲労困憊という感じだった。
「お疲れ………奏」
「お疲れ様……奏くん」
声の方からも疲労がにじみ出ていて、これが歳を取るということだと見せられているようで思わず苦笑いになってしまった。
「お疲れ様です。お茶買って来ましょうか?喉渇いたでしょう」
冷蔵庫はまだ俺の部屋には無いのでぬるいお茶しか飲めないのでそう提案した。
「いや、寿司頼んだ時に飲み物もついでに頼んだからいいぞ。奏」
「そういうことだからお気遣いありがとう。奏くん」
「そうですか」
どうやら、父さんが既に手を回してくれていたようなのでここは素直に引き下がる。こういうお金を使うべきタイミングで勿体ぶらずに使えるのは我が父の良いところだ。偶に、趣味のゴルフクラブにお金をかけ過ぎて母に怒られているけど。
「奏、お寿司屋さんが一時間後に来るって言ってたから、小鳥ちゃんを連れてその時間には降りて来なさい」
「それまでの間、小鳥の相手お願いね?奏くん」
母親達の方を向くと動くのが同じように億劫なのさ座布団を取り出して寛いでいる。
「了解しました」
「それでね奏が昔、自転車に乗った時ね……」
俺は返事を返した後、母さんが俺の黒歴史を語り出したので耳を塞ぎながら俺の部屋を後にした。
あの人どれだけ俺を虐めたら気が済むんだ。と内心愚痴りながら俺は水瀬の部屋に向かうのだった。
久しぶりに投稿。




