負けヒロインと駄弁る
水瀬の後をゆっくりと追いかけながら、何を飲もうか数分考えていた俺はようやく何を飲むか決まったタイミングで自販機の前に来た。
だが、水瀬は何故か目的地に着いたのにも関わらず歩みを止めることなく明後日の方向に向かっている。
「水瀬、自販機着いたのにどこ行くんだ?」
「えっ、えーとちょっとお手洗いに行きたくなっちゃて、荷物ここに置いておくから私が戻ってくるまで見張ってて」
水瀬は、少し肩が跳ねたかと思うと、依然として俺の方を見ずに話し始め、荷物を置いた瞬間風のようなスピードで男子禁制のエリアに入って行った。
「?よほど我慢してたんだろうな。って、こんな道のど真ん中に荷物置いたら邪魔だろ。とりあえず近くのベンチに運んで待つか」
俺は水瀬が置いて行った小さめのリュックを片手で持ち、自販機の反対側にある長いベンチ達の一つに腰掛ける。
ふぅと運動による疲れとナンパ野郎達に絡まれたことによる精神的疲労は自分が思っていたよりも大きく自分が思っていたよりも重たい溜息が出た。
背もたれにもたれかかり何も考えずボーッとする。正直腕を上げるのすらかなりキツい、だから普段肌身離さず持っているスマホを触れるのも億劫だ。
まぁ、女子を待っている時にスマホを弄っているのはあまり評価がよろしくないらしいので今はこの状態で待っている方がいいだろう。
「そういえば、全く気にしてなかったけどスマホの機種の名前って前世の奴とおんなじだよな。iPhon◯とかギャラ◯シーとか何でだろ?…………あーそういえば、アニメ化した時にスマホケースを出してたな。そん時彼女達がこの機種達を持っている立ち絵があったしそれの影響かな。まぁ、気にしても何か変わることでもないか」
スマホで思いついたのだが、この世界は結構前世と似通っている部分が多い。音楽歌手とかアイドルグループも名前が少し違うだけで曲自体は前世の物と同じだった。政治の動きはあまり見ていないが、税率も前世と変わっていないからさほど違いはないだろう。
「ただなー、やっぱり前世と違って知らない芸能人はわんさかいるから流行とかには弱くなったな、例えばアリーゼ・カノンとか言う今話題沸騰中のハーフ系女優とか一ミリも知らんし。元々こっちの俺がテレビを見ないからあれだけど大学に入ったら沢山の人と関わるようになるから最低限の流行くらいは押さえなくちゃな。そうしないと大学が始まったタイミングの友達作り苦戦する羽目になりそうだし」
と前世の経験からこう言う話題を仕入れておくことは大事だと知っているので、家に帰ったら少しくらい調べようかなと考えていると、水瀬が出てくるのが見えたので背もたれから離れ少し姿勢を整える。
水瀬はキョロキョロと辺りを見渡し俺を見つけると、ゆっくりとこちらに歩いて来た。
「お待たせ。はは、お疲れみたいだね湊川君」
どうやら俺の顔に疲労が出ていたのだろう。水瀬はそのことを指摘すると力のない笑みを浮かべた。
「お帰り、あんなに白熱した試合は始めてだったからな。久々の運動だったのもあってめっちゃ疲れた。やっぱり普段から運動しないと身体が鈍るな」
「ついこの間まで受験してたから体力が落ちているのは仕方ないよ。私も結構疲れてるもん」
そう言って水瀬は俺の隣にあったリュックを漁り、財布を取り出した。
「さっき言った通りジュース買ってくるけど何飲みたい?」
「あぁ、ポカ◯を頼むわ。俺がここに来て買ったスポーツドリンク不味くてさ。やっぱ大手のやつがいいって思い知った」
俺はそう言ってリュックの横にさしていた空のペットボトルを取り出し、ヒラヒラと水瀬に見せた。
「あっ、それ安いやつだよね。私も飲んだことあるけど何か変な味がするから一回飲んでそれ以降は飲まなくなったよ」
水瀬も釣られて俺が持っていたスポーツドリンクの味が悪かったとニコニコしながら言う。
「そうなのか、やっぱり値段だけで決めるのは良くないな。今度からは値段に釣られずちゃんとしたものを選ぶようにしないと」
「意外だね。湊川君って結構思慮深いと思ってたからそういうのに騙されにくいイメージがあった」
「いや、全然そんなことないよ。俺がそんな奴だったら堺の家に殴り込みなんてしてないだろ」
「確かに。でもあれのおかげでゆうくんやなっちゃん、お母さんの誤解も解けて元の関係に戻れたからありがとね。湊川君」
そう言った水瀬の頰が赤く染まっていて、少しだけ鼓動が早まった。
流石にこんな美少女に礼を言われると照れてしまう、なんだかむず痒い気持ちになって俺はそっぽを向いて頰を掻いた。
当然それを水瀬が見逃すはずもなく
「あっ、照れてる。それバレバレだよー?」
と揶揄われるのだった。
ちなみにその後、頰を掻く際に腕を上げたせいで筋肉痛が走ったことを素直に話すと、それもまた水瀬に揶揄われたのは言うまでもないだろう。
スポドリって基本当たり外れないですけどたまに大外れのやつありますよね。




