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36 一番上等なもの



 フィオナも高い志を持っているわけでもないし、マーシアたちのように国家の為に、より多くの人の為だけに動く人間にはなれない。


 というか自分にはそういうのは、まだ早いというか向いていないような気がするのだ。


 ただ自分の事を考えるだけで精いっぱいなタイプなのだから抱え込まずに少しずつ今を楽しんでいくのがいい。

 

 そして、同じくそう思ってくれるノアだからこそフィオナも気兼ねなく無理せずにやり取りができる。


 ……たしかに相性が良かったかもしれません。っていうかノアってそういう風に思っていたから王族の中でも不思議な存在として扱われているんでしょうか?


 結局のところノアの望むところはわかったけれども、フィオナは正しく彼と家族との関係性はわからない。


 フィオナはノアの事をあまり深く知らない。しかし前回言われた心配しているという言葉で、フィオナはすこしだけ勇気を出して小指につけている指輪を指先で撫でた。


「ノア、相性がいいと言いましたよね」

「うん、言ったけど」

「……それならこれから先、きっと長くともにいられる。だからこそ、私あなたの事を正しく知りたいんです」


 言いながらフィオナは一人だけベッドから立ち上がって、そのアメシストの瞳を見つめた。


 キラキラと輝く瞳はなんだかとっても純粋そうに見えて、不思議だった。


 彼は大人でまっとうなことをフィオナに教えてくれる。しかし、大人とは純粋なだけではいられない生き物なのだ。


 彼だって酸いも甘いも知っているような人のはず、深くかかわるからこそのすれ違いも、それをなくすためのすり合わせも必要だと知っているはずだ。


「ノア、あなたの秘密を教えてください。代わりに私は、あなたに差し出せるもののうちで一番上等なものを差し出します。どうでしょうか」


 彼を理解するうえでとても大切なこと、今までは踏み込むつもりはなかったからこそスルーしていたノアの秘密。


 手を取って助けてくれたからこそフィオナだって自分から手を伸ばしてもっとそばへと行きたい。


 しかし、簡単には教えられないからこそ秘密なのだ。そこでフィオナは、男女として深い関係を望むからこそ、フィオナが渡せる最大級の大切なものを提案した。


 それはそこそこ覚悟のいる行為だったが、ノアは、ピンとこなかった様子でしばらく考えてから「秘密?」と聞き返してきた。


「はい、私、あなたの事知りたいんです」


 珍しく察しの悪いノアに、フィオナは少し考えつつもそういう。


 普段なら何が言いたいのかすぐに理解して適切な回答をくれるのに珍しい。


 しかし少し考えてから「ああ、なるほど」とわかったらしく笑みを浮かべてフィオナを見上げた。


「私がなんの女神の加護を受けているかって話?」

「はい」

「うーん、教えてもいいけど……何を差し出してくれるんだって?」

「私が差し出せる物の中で一番上等なものです」

「なにそれ?」

 

 どうやらフィオナの知りたいものの方へは察しがついたらしいが、フィオナの渡せる一番大切なものはノアにはわからないらしい。


 ……そんなことないと思うんですが、これはいらないという事でしょうか?


 さすがに直接的な表現をすることは出来ないし、自分から言うのは恥ずかしい、ここばかりは察してほしい、そういう思いでフィオナは静かに床に膝をついた。


「あ、わかった。君の魔法の情報でしょ」

「……知りたいですか」

「どっちでもいいよ。知りたくなったら自分で調べるから」


 床に膝をつくとフィオナの目線はノアよりも下になる。そして彼はなんとなくそんなフィオナの事を目線で追って言葉を続けた。


 ……私の魔法……。


 ふと、昼に話をしたメーベルの質問が頭をよぎった。


 ……触れない限りは使えない。でも、こうして皮膚接触をする場合にはたからしたらリスクしかないです。


 考えつつもノアの腿に手を置いて、彼の手を取ってフィオナは自分の頬に触れさせた。


「っ、……」


 ノアは小さく息をのんで、フィオナをじっと見つめた。先ほどまでは飄々とした感じて適当に話をしていたのに、急に固まって無言になった。


 ……緊張している? こんな程度触れただけで?


 それはなんだか、らしくないように思えて、緊張ではなく昼のメーベルのように恐れているのかもしれないとふと思ってしまった。


 触れ合えばフィオナの魔法は簡単に使える。


 飄々と話をしていたように見えて、彼は彼でどこかしらかから情報を仕入れていて、触れられるようなことをしたくないからこそ、フィオナが自分を差し出そうとしていることが、わからないふりをしたのではないかと仮説を立てた。


「……私は、いりませんでしょうか?」


 フィオナはフィオナがもっている中で差し出せる一番上等なものはフィオナのつもりでいたが、彼にとってそうではないのなら強要するつもりはない。


 記憶の魔法を扱う女になど価値はなく、触れたくないというのならば悲しいけれどもそれでもいい。


 フィオナの言葉にノアは目を見開いて、それからばっとフィオナから手を離した。


 ……やっぱり私は……。


 それでもいいと思ったけれど、好きな人に触れられないのはとても悲しい。


 魔力をできる限り少なくして絶対に事故が起きないようにするなり、なんとか解決するすべがないだろうか。


 そう考える合間にノアは、急いで自分のシャツの袖口から小さなブレスレットを引き出した。


 そのブレスレットには小さなチャームがついており、女神さまのモチーフが彫りこまれた美麗なものだった。


「ノア?」


 問いかけると間もなく彼はぐっとそのチャームを握りこんで、その場から消失した。


 消失とは言葉通りの意味で、まったく彼の面影も何もなくなって、腿に置いていた手は支えを失ってぱたりと落ちる。頬に感じていた手のぬくもりはまったくない。


 不思議な現象にフィオナはしばらく呆然とし、それからやっとフィオナは彼が時空の女神の聖者だと知ることになったのだった。





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