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陰キャJKのやり直し転生~いじめられっ子のはずなのに運命が私を逃がしてくれません~  作者: LAST STAR
第2章 Hello Different world

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第4話 目覚めた世界

「しらとり――」


誰かが私を強く、つよく呼んでいる。


「起きてください! 白鳥先輩っ!」

「っ……? 稲森……君?」

「よ、良かったぁ……目を覚まさないかと思いましたよ」


私が目を開けると吐息を感じられるほど近い距離で見つめる稲森君の顔があった。あまりの近さに恥ずかしくなり、思わず頬が熱くなる。


「先輩、顔が赤いですけど……大丈夫ですか?」

「……はなれて」

「え?」

「その……顔、近いから離れて、くれる?」

「あっ! ご、ごめんなさい!」


私の言葉に状況を察してくれたのか、彼が慌てて離れる。

すると、目の前に現れたのはとても大きな天井だった。白を基調とする見事な石材の造りは、まさに古代遺跡を彷彿とさせる。そんな異様な光景に火照った頬の熱はみるみる吸われていった。


「(病院……? 避難所……なわけないよね? あんな揺れにこんな建物が耐えられるとは思えないし……それに――)」


体を起こしてみても特に違和感を感じないし、濡れていたはずの制服も乾いている。

得体の知れない恐怖を感じ始めた私を他所に近場で倒れていたクラスメイト達も目を覚まし、「ここはどこだ」と状況を把握しようと起き上がり始める。


「みんな落ち着け、落ち着くんだ。クソ……とりあえず、今は人数を――!?」


担任の斎藤先生はその場を何とか抑えようとする中、不意に正面の扉が開く。

その先からは甲冑姿の人間がぞろぞろと中に入ってきて入り口付近に広がる。

そして、その中の一人が一歩前に出て声を高らかに上げた。


「よくぞ来られました! 選ばれし神々の力を宿した皆様。エルンガルトの国王に変わり、感謝を申し上げます」

「――はぁ?」


美咲たちが騒めく中、兵士らしき人物は物怖じせずに堂々と語る。


「あなた方さえいれば――」

「フッ……」


そんな様子に稲森君は微笑を浮かべ、兵士が喋る言葉に重ね合わせるように小さく口を動かす。


「『数百年に一度の周期で目覚める、憎き人類の敵も葬ることができましょう。さぁ、国王陛下がお待ちしております。こちらへどうぞ』……」


「え? 稲森、君……? 今の――」

「後で詳しいことは話します。とりあえず、今はあの人たちに付いて行きましょう」


クラスメイト達は困惑しながらも兵士たちの誘導に従って歩き始め、私たちもその後ろを追従するように付いて行く。扉の先は豪華絢爛な装飾品や絵画が飾られた廊下になっており、別世界の上品さが伝わって来る。


「(すごい……。まるで映画の中みたい……)」


息を飲んでいるうちに私たちは大きい広間へと通された。簡素な作りではあるものの、白を基調とした立派な支柱が何本も建ち、床にはレッドカーペットが敷かれている。さらに、その奥には玉座らしき大きな椅子があり、青年が鎮座していた。


「陛下! 失礼致しますっ!」

「――っ!! おお、ようやくこられたか!! 転生者の皆様、よくぞエルンガルトへ来られた!」


その青年は私たちの到着を待ち詫びていたかのように立ち上がる。

その相貌は短く綺麗に切り揃えられたアッシュグレーの髪に青い瞳、長身細身という出で立ちで陽気な外国人のようにも見える。しかし、状況を掴めていない私たちからすれば不快でしかない。


「……これは一体、どういう状況なんだ? 私は生徒を預かっている。きちんとした説明をしてもらおうか!」


斎藤先生は先陣を切る形で目の前の男に話を投げるが、彼は少し硬い笑みを浮かべて真顔で答え始める。


「まずは自己紹介を。お初にお目にかかります。私はエルンガルト王国、国王のアルフレッド・ボルダー・エルンガルトです」


左手を胸に当てお辞儀をしつつ、アルフレッドさんは鋭い眼光で私たちを回し見る。その様子にクラスは何故か浮足立つ。


「マジモン!? マジモンの王子様みたい、すごーい!!」

「やばっ……」

「いいから静かにしろ!」


ただ、そんな変な反応を見せる一部に斎藤先生が喝を入れるとアルフレッドさんは同情するかのように口を開く。


「今、とても混乱されているでしょう。なにせ、この世界に突然、選ばれた方々だ。動揺されているのも無理はない。それでも選ばれた君たちにはその宿した力で今すぐ、魔王の討伐に向けて尽力してもらいたい。予言書によればもう魔王復活まで時間がないのだ」

「おい、待て待て! 言っている意味がわからん!! 魔王だと? 貴様は何を言っている!」


突然、湧いて出てきた『魔王』というワードに全員が混乱する。

しかし、アルフレッドさんだけは冷静に、そして冷酷に現実を突きつける。


「あなたたちは私たちの召喚魔術によって、この世界に招かれたんだ。それも魔王を打ち倒すための『戦力』としてな」

「戦力だと!? 馬鹿なこと言うな! これは列記とした拉致監禁だぞ! 悪いことは言わん。私と生徒たちを元居た教室に戻せ」


担任の斎藤は怒声を上げるように声を荒げた。それでもアルフレッドさんは動揺する様子は無かった。むしろ、淡々と物事を語る。


「威勢が良いのは結構なことだが、それは無理な相談だ。なにせ、君たちはもう既に《《死んでいる》》のだからな」

「なっ! し、死んでいるだと? そ、そんなことがあるか!」

「君たちは元居た世界線からこの世界線へと入った。それは時空を歪めることであり、超えることは生身の人間では不可能だ。だが、我々が保有する転移結界は元居た世界での死によってそれを可能にする――これは紛れもない事実だ」


『死んでいる』という言葉に全員が凍り付く。

しかし、その静寂もわずか数秒後には崩壊し、クラスメイト達はアルフレッドさんに食って掛かったり、泣き出したりと阿鼻叫喚な光景が目の前で広がった。


「(待って……じゃあ、私も死んでるの?)」


かく言う、私も恐怖を感じて呼吸が浅くなる。

自分が自分であるという感覚もあるし、両手に温もりだってある。


「(とても死んだなんて……思えない。いや、思いたくもないっ――!!)」


私がそう思っていると稲森君が突然、私の手を握る。

驚いた私は反射的に彼の顔を見た。


「すみません、急に手を握って。でも、明らかに先輩の顔色が悪くなっていたので……つい……」

「……だ、大丈夫。その、自分が……死んでいるなんて信じられなくて……。稲森君は怖く……ないの?」

「まぁ……そりゃあ、僕だって怖いですよ? でも、思うんですよ。あれだけの痛みを感じたからには助かってないだろうなって……。それでもなぜか、僕も先輩もここで生きてる感覚がある。だから、僕はそれだけで儲けもんかなって」

「……。稲森君は……本当に強いんだね?」


彼はこんな最悪すぎる状況でも微笑を零すが、この場に居る誰も彼もが状況を飲み込めていない。しかし、そんな私たちをいつまでも好き勝手にさせてくれるほど、アルフレッドさんの心は広くはなかった。


「はぁ……良いだろう! 君たちは是が非でも魔王に立ち向かわないのだな? それならば我々はあなた方を殺さなくてはならない。新たな転生者を呼ぶために!」

「な、なに!? 俺たちを殺すだと……!?」

「あぁ、そうだとも」


アルフレッドさんがゆっくりと腰から剣を引き抜く。

その音は騒がしかった場を切り裂き、静寂をもたらした。そして、その言葉に同調するかのように後ろに控えていた兵士たちも剣に手を掛けている。


「(この人たち……本気で私たちを殺そうと――)」


そんな恐怖に見舞われている中、稲森君は前に向かって声を張り上げた。


「陛下!! 今すぐそこを離れてください。敵が来ますっ!」

「なに? 敵だと――?」


稲森君がそう言った瞬間、地響きがその場に木霊した。

どうやら近くに何かが落ちたようでクラスメイト達は何事かと音が鳴った方向に歩を進める。その様子につられて私も足を進めようとするが、彼は繋いだ手をグッと引っ張って止めた。その直後、轟音と共に窓ガラスが粉々に飛散してくる。


「「きゃああ!!」」


悲鳴とタイミングを同じくして稲森君はスッと私の手を後ろに引き、引き倒すように床へと倒れ込む。


「ひゃっ……いたっ……」


咄嗟に守ろうとしてくれていたようだったが、ガラス片が足に当たったようで痛みが走る。思わず、私は痛みから目を少しだけ閉じた。すると、そこには見えてはいけないモノが見えていた。


それはゲームなどでよくありそうな『2つのパラメーター』だった。

そう思ったのも束の間で、すぐに兵士の大声が響き渡る。


「敵襲っ! 敵襲だぁ!! 魔物が来るぞぉ!!」


その声に釣られて目を開けると割られた窓から大きい蜘蛛のような生物が室内に侵入してきている最中だった。蜘蛛のような『ソレ』は、この世のモノではない異形の生命体で、どいつから襲おうかと私たちを品定めをしているようにも見えた。


「魔物を押し出せっ! 君たちも戦え! 抗うんだ!」


アルフレッドさんが声を荒げると腰に何かがぶら下がる感覚が走る。

しかし、当の私は目の前にいる『魔物ソレ』から目が離せなかった。


「(何……なんなの、アレ……。ここに居たら殺されちゃう……!)」


そして、次の瞬間には『逃げろ』と思考が訴えかけてくる。

周囲に居た兵士たちが次々と戦いを挑みにいく中、私は声を捻りだす。


「いなもり君……は、早く……に、逃げないと……」

「大丈夫です。心配しないでください。すぐに終わりますから。先輩はここでじっとしていてください」


立ち上がった稲森君はどこからか手に入れた剣を抜くと前へ駆け出す。

このままじゃ稲森君が死んでしまうかもしれない。それなのに、私の体は石のように動かない。『行かないで』と言わないといけないのに声すら出ない。


「(稲森君っ……!!)」


私が目を瞑って現実を見ないようにしていると拍手が上がった。

恐る恐る目を開けて見るとそこには異形の存在を斬った稲森君が立っていた。あまりの一瞬のことで私は言葉を失くす。


「君はすごいな! 我が兵士も苦戦する魔物を相手にたった一人で恐れることもせず、一撃で仕留めるとは!」

「(嘘……稲森君があれをやったの……?)」


あまりに現実離れした光景に目を疑った。

あんな大きな化け物を一人で倒すなんて普通できるはずがない。それでも彼はさも当然かのように堂々と私の方へ戻ってきながらアルフレッドさんの方へ険しい視線を向ける。


「……そう喜んでも居られないと思いますよ? アルフレッド陛下」

「ん? どいういうことだ? おっと……!」


意味深い発言をした稲森君はアルフレッドさんの方へ筒状のモノを放り投げた。

その中身を確認し始めたアルフレッドさんの顔が次第に強張っていき、近くに居た兵士にその紙を渡して声を荒げた。


「すぐに各所の守りを固めて警戒を厳にせよ! それから騎士団長にも緊急連絡だ! 魔王はまず、『エルンガルト』(ここ)を攻め落としにくるつもりだと伝えよ! いいなっ!」

「はっ!」


兵士が慌てて駆け出していく中、私たちの方を向いたアルフレッドさんは鋭い眼光で私たちを回し見る。その威圧感は最早、玲奈の威圧感をはるかに凌駕するほどだ。


「聞いての通りだ。まもなくこの地で魔王軍との戦いが始まる。すぐにレベル上げの準備にかかってくれ。もしも、まだ文句を語るようなら私が斬り捨てる。一切の異議は認めん。僅かだが支度金と念話やステータス確認に使う『ロミテック』を支給する。受け取ってくれ」


兵士たちがぞろぞろと私たちに近づき、半円状の腕輪と金貨が入ったお金を有無を言わせず、渡してくる。これが何なのか、どのくらいの価値があるものなのか私にはさっぱりわからない。


「(こんなの貰いたくない……。勝手に巻き込んであんなのと戦えだなんて……なんなの、本当に――)」

「その他、なにか質問がある者はいるか?」


私は依然として混乱し続けていた。それでも隣に立つ稲森君は冷静にロミテックを見てからお金の袋を軽く揺さぶった後、スッと手を上げる。


「ほぉ? よし、そこのお前。話してみろ」

「では、恐れながら陛下! 現状は理解できましたが、3つ質問があります。インベントリーはあるのか、それからヒットポイントパラメーターがゼロになったら僕たちはどうなるのか? 最後に今は大陸歴何年の何月なのか? それらを教えていただけませんか?」


稲森君は、堂々とした立ち振る舞いで軽快に質問を投げかけた。

その姿は頼もしい限りではあるけれど、異様な事が三度も続くと不気味でしかない。


「ふっ、お前は面白いことを聞くな? いいいだろう。今は大陸歴1251年5月だ。インベントリーはロミテックに『インベントリーオープン』と言えば開ける。あとは経験しながら学んだ方が早い。それからな、体力パラメーターがゼロになった時の話だが――それは万物と同じ死。ただ、それが待っているだけだ」

「わかりました。ご教授いただきありがとうございます」


質問を終えた稲森君は少し考えるように黙り込んだ後、すぐに私の方へ視線を向けてきた。正直、彼がこれから何を語ろうとするのか怖くて仕方がない。


「先輩、急な話ですけど僕と一緒に来てくれませんか?」

「えっ、どこに……? それに……みんなは? 私には……もう分かんない、わかんないよ。何がどうなってるのか、何をどうするのが正しいのか、分かんないっ……」

「色々と急すぎて、まだ先輩も理解が追いついていないとは思います。でも、今は僕を信じて付いてきてほしい、としか言えません。他の人は残念ですが、置いていきます」

「そんな……みんなだって混乱してるし、単独で行動なんて危な――」

「この世界で生き残るためには色々と準備が必要なんですよ。それも1か月以内に」

「え? だったらなおの事、みんなと一緒に行動した方が……」

「おい、白鳥と2年のお前も来い。これからの事を相談するぞ!」


私の意見を肯定するように斎藤先生が私たちを呼ぶ。その声に呼ばれるまま、私は足を進めたが、稲森君はすぐに私の手を掴んで引き止めた。


「先輩、ダメです。あの人たちは先輩をいじめた人たちですよ? この世界じゃ、助け合うどころか、むしろ切り捨てられる可能性が高い。だから……お願いです。僕と来てください」


本当は『それでも皆と一緒に居た方が良い』と言いかけた。

しかし、クラスメイトの方へと視線を向けると美咲が笑みを浮かべながらナイフを手にしていて、出かかった言葉は喉元で止まってしまった。


「(っ……。次は殺されるかもしれない。ううん……美咲ならやりかねない……)」


鈍い光を放つナイフが私の心を恐怖で染め上げていく。


「先輩……?」

「……そう、だよね。稲森君の言う通りかも……ここに残ってたら……きっと……」

「大丈夫です。僕が先輩を守りますから」


私は視線を落としながら必死に助けを求めるように彼の手を強く握った。今の私には稲森優輝という人間にすがるしかなかった。こんな弱すぎる私の手を取った彼は私のクラスメイトたちに向けて声を上げる。


「申し訳ないですが、僕らは好き勝手にやらせてもらいます。あなた達と一緒の行動は取らないし、混ざるつもりもありません! ――さぁ、行きましょう。こっちです」

「う、うん……」


私たちはクラスメイト達の視線を集めながらその場を後にした。

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