父様
少しだけ物語の核心について分かります(´•ω•`)
バアルゼブブとの戦闘の最中、僕はバアルゼブブの策にハマり、その体内へと取り込まれてしまった。
何とか脱出、もしくはその状態からバアルゼブブを倒そうと意識を集中する僕は、何故か灰色の広大な空間に浮いていた。
そして、その灰色の広大な空間には体長200メルトを超える漆黒の巨大なドラゴンが横たわっていて、僕はそのドラゴンに誰何される。
しかし、不思議な出来事に理解が追いつかずに色々と考える僕に対し、漆黒のドラゴンは驚くべき事を告げた。
『そう勘繰るな。我が子の名前を知らぬのは変だろう? お前はルウフェンと我との子であるのだからな』
──ッ!?
僕がドラゴンの子供だって!?
僕がドラゴンの子供であるはずがない。ドラゴンの血が半分流れているならば、体のどこかに特徴が現れてるはずだ。
『そ、そんなはずない! どこから見たって、僕にドラゴンの特徴なんか無いじゃないか!』
僕は神狼の母様……ルウフェン母様の娘という事に誇りを持っている。それに、僕がルウフェン母様の跡を継ぐ神狼だという事にも。
それなのに、この漆黒のドラゴンは僕を自分の子供だと言う。
だからこそ、僕はカッとなって反論していた。
『クカカカ。お前は人化出来るだろう? それに今の人狼の姿は、恐らく我の血が上手く馴染まなかった名残りと見える。まだ幼き故に我の力は僅かしか目覚めておらぬ様だが、いずれはルウフェンと我の両方の力を存分に発揮する事が出来よう』
どうして僕が人間の姿になれる事を知ってるんだ、このドラゴンは……!?
しかも、人狼が中途半端な状態だと存外に告げている。
何だか腹が立つ様な、頭が混乱する様な、複雑な心境に陥ってしまいそうだ。
『疑っている様だな? おお、そうか! 確かにこの姿ではそうもなるか! どれ……!』
複雑な心境でドラゴンを睨む僕をよそに、漆黒のドラゴンはそう言うと眩く発光する。
あまりの眩しさに、僕は思わず瞳を閉じてしまう。
しかし、いったい何だっていうんだ……! 僕を自分の子供だって言ったり、混乱させたり!
更にはすっごく眩しくなったりして!
だいたい、僕はこんな所でドラゴンを相手にしてる場合じゃないんだ。早くバアルゼブブを何とかしないと、僕だけじゃなくてガイアス母様やライム達みんなが喰われてしまうんだから……!
『これならお前の疑いも晴れるだろう。この姿に見覚えはあろう?』
漆黒のドラゴンに対して怒りが湧いてきた僕に、ドラゴンは静かにそう告げる。
姿云々と言うって事は、発光は終わったって事か。
僕は閉じていた瞳を、恐る恐る開けた。
するとそこには漆黒のドラゴンの姿はなく、代わりに、漆黒の髪をした中性的な人間の大きさの男性が佇んでいた。
『そ、その顔は……!?』
『信用してもらえた様で何よりだ。そうだ、この姿がお前の人化の元となった姿だ。つまり……我はお前の父親なのだよ』
僕の父親と言うその男性は、確かに僕の人間形態の姿に似ていた。
漆黒の髪に金色の瞳。年齢的な容姿の違いを除けば、疑いようもなく僕の父親と言うべき姿をしていた。……全裸で。
その事を言うべきか悩むけど、何やらシリアスな雰囲気のこの場でそれを指摘する勇気は僕には無い。お陰で目のやり場に困る。せめて、シンボルだけは隠して欲しかった。
『所で、いつになったら名前を我に教えてくれる? 実の子供の名前も知らないのは悲しい故な……』
男性の容姿はともかく、改めて名前を訊かれた。……そう言えば名乗ってなかった気がする。
と言うか、人に名前を訊く時は、まずは自分から名乗るのが礼儀じゃないか!?
『……あなたが僕の父親ってのは何となく理解したけど、僕の名前を訊ねる前に、まずは自分の名前を教えるのが筋だと僕は思うよ?』
親しき仲にも礼儀あり、じゃないけど、こういう事は最初が肝心だ。
例え実の父親だろうと、礼儀に欠ける者とは仲良くなれるはずがない。シンボルも隠して欲しい。
『……中々手厳しい意見だな。まぁいい。我の名は【ウロボロス】。無限にして夢幻を体現する神竜なり。……さぁ、我は名乗ったぞ? 次はお前の番だ』
ウロボロス……って名前なのか。って言うか、神竜!? 神竜だって!?
ぼ、僕って……とんでもない血筋に転生したんだね……
うん、痛みに弱くて漏らしちゃうって事は黙っておこう。バレたらすっごく怒られそうだ。
それよりも、僕も名乗らなきゃね。名乗ってくれた相手に名乗り返さないのは礼儀に欠ける行為だもんね。
『と、父様の名前はウロボロスって言うんだね。うん、覚えたよ。それで僕の名前なんだけど、ルウファって言います。ルウフェン母様が名付けてくれたんだ』
出来るだけシンボルに目が行かない様に、僕は父様の目を見つめて名前を告げた。
『ルウファか……。なるほど、良い名だ。その名に恥じぬ様、努々精進を怠るでないぞ?』
良い名前と褒めてくれるのは嬉しいけど、根本的な疑問が残ったままだ。
どうして僕はこんな場所に居るのか。
そして、この場所はどこなのか。
それに、何故今のタイミングで父様と僕は出会ったのか。
色々と疑問があるけど、まずはこの疑問からだ。
『……どうやってルウフェン母様と交尾をしたの?』
恥ずかしくて赤面してるけど、今の僕は人狼だからその事はバレてないはずだ。
他の疑問をまずは訊くべきじゃないかと言われそうだけど、そこが一番気になってしまったんだから仕方ない。
『ば、馬鹿者! そ、そういう事はだな……! お前がその時になれば分かるはずだ! ……そ、そうだな、疑問に答えるのも親としての責任か。……うむ、我は頑張った! そ、それ以外は答えられぬぞ?』
『…………』
『な、何だその目は!? ウォッホン! つまりだな……その、ルウフェンと我は愛し合った。そ、その結果がルウファ、お前だ。これで満足か?』
……何だか釈然としないけど、愛し合った結果で僕が誕生したならそれで良いか。これ以上突っ込んでも答えてくれそうにないし。
とにかく父様との距離感は今ので縮まった気がするから、次の疑問をぶつけてみよう。
『愛し合ったから僕が生まれたのはとりあえず納得したけど、他にも疑問があるんだ』
『……子作りの話じゃなければ何でも聞くが良い』
……もう訊かないよ。
『僕はバアルゼブブって奴と戦闘中だったのに、どうしてこの場所に僕はいるの?』
最大の謎はその事だ。
バアルゼブブに取り込まれていたはずなのに、気付けばこんな場所に居たんだから、僕が混乱するのも頷けるだろう。
『その事か。それならば答えてやろう。だが、それにはまず世界の成り立ちと、【月の華】に関する事から語らねばなるまいな。そもそも我とルウフェンは──』
父様は語り始めた……神狼とは何か。そして、神竜とは何かを。
神狼と神竜はこの世界のバランスを取る為に、ある存在に生み出されたらしい。
そのある存在とは何の事かは父様にも分からないみたいだけど、前世でラノベを愛読していた僕には何となく分かった。つまり、神と呼ばれる存在だ。
この世界を創造したのもその神なのだろう。剣や魔法の世界を創造してくれた事に、僕は感謝してもし切れない。夢が叶ったんだからね。
しかし、その神も万能ではなかったそうで、色々と世界に綻びが生じたのだとか。
その綻びとは【虚無】と呼ばれる化け物の誕生である。
何故虚無と呼ばれる化け物が誕生したかは定かではないが、虚無は世界の調和を乱し、魔素を生み出したらしい。
その魔素はあらゆる物に宿り、やがて星を巡る地脈にも影響を与えたのだとか。
すると、普通の生き物として神に創られた者達にも影響が出始める。魔物の誕生だ。
魔物は色んな形態をとり、次第に勢力を伸ばし始める。
世界の創造当初から人間は創られていたみたいだけど、その人間では対処出来ない所まで魔物は世界を蹂躙していく。
それを見かねた神は、神狼と神竜の二柱を新たに創造した。
神狼は動物の中で気高き存在としての狼をモデルに、神竜はあえて魔物達の中でも恐れられるドラゴンをモデルに創造したのだとか。
『──そうして我と神狼は生み出されたのだ。神狼は元が動物であった故、世代交代が組み込まれてしまったがな。我か? 我は元よりその様な概念など無い。元が魔物だからな。それはまぁいい。そうして生み出された我らは虚無と戦った。そして永き戦いの末、ようやく倒す事に成功したのだ。その甲斐もあって、世界は魔物が減り、調和を取り戻した……だが──』
父様と当時の神狼は、虚無を倒す事には成功した。しかし、滅ぼす事が出来なかったそうだ。
ならばどうしたかと言うと、地上より遥か天空の彼方に封印したとの事だった。
その封印の際、より強固にするべく大地の一部を使って虚無を覆い、父様の力で天空の彼方に浮かべたらしい。
その虚無が封印された物こそ、僕達が地上から見上げる月だった。
『──つまり、お前たちが見ている月こそが虚無の封印という事だ。そして、我の本体も虚無と同じく月の中にある。だがそれだと、我がどうしてお前と話せるのかが疑問だろう。それに、さすがの我も一体だけでは寂しく感じたからな。だからこそ我の夢幻の力を用いて創り出したのだ、この空間を。ここは言わば、現実と夢との境目の世界……【幽世】と呼ばれる所だ。ちなみにだが、この場に来られるのは神狼の血を引く者と、我が呼んだ者だけだ。お前が来たのは、神狼と神竜の力が増した事で資格を得たのだろうな。……おお! 肝心な事を忘れる所だった。月の華はな……虚無の封印が弱まった時に起こる現象だ。我の力を以てしても、完全には虚無の力は抑えられん。虚無の力が増し、我の力が弱まる時は数百年に一度起こる。その際、虚無からは膨大な魔素が放出されるのだが、ルウフェンに聞いた所によると、その時月に華が咲いた様に見えるとの事だった。何にせよ、お前がここに来たのはお前の力が増した事だから、バアルゼブブとやらに未来は無いだろう』
…………。
……話が長くて眠くなってきた。
要所をまとめて考えてみるか。
この場所は幽世と呼ばれる場所で、それを父様が創造した。
幽世は夢と現実の狭間の為、神狼の血を引く者か父様に呼ばれた者しか訪れる事は出来ない。
僕が綺麗だと感じていた月の花模様は、虚無と呼ばれる化け物の力が増し、膨大な魔素を放出する為に起こる現象だ。
…………。
僕が幽世に来る事が出来たのは理解出来たけど、現実世界はどうなっているんだろうか。
僕が幽世に来てから父様と出会い、そして随分と長い事話を聞いていたけど、これ程長い時間ここに居たら、現実の僕はバアルゼブブに喰われてしまってるんではなかろうか?
父様が言うには僕の力が増したからここに来れたって事だけど、力が増したとしてもバアルゼブブに喰われてしまったんじゃ何の意味もない。
『色々と疑問は解けたけど、現実の僕はバアルゼブブに喰われて死んじゃったんじゃないの!?』
『ん? そうか、その事を話すのを忘れていたな。この幽世には時間の概念が無い。つまり、現実のお前はそのままの状態という事だ。更に言えば、今の我はお前の存在する時代には居ない。……いや、居るには居るが、我の能力で時間を超越した封印の中に自ら囚われているという事が正解だがな。もしも我の本体に会いたいのであれば、時間を超越する能力を開花させる事だな。ルウフェンの様に。それ以外だと、虚無が封印から解かれた時か。──何にせよ、我に会いたいのであれば、世界の狭間にして深淵となるこの場所にいつでも来るがいい。我も一体では寂しい故、いつでも歓迎するぞ? もっとも、時間の概念が無い幽世だからこそ、お前以外の神狼は絶えず訪れるのだがな。クカカカ! では、また会える事を楽しみにしてるぞ、我が娘のルウファよ! クカカカカ!!』
僕の疑問に答えた父様は再び神竜の姿となると、自らの尻尾を咥えて丸くなり、そして眠りに就いた。
そして、僕の体は灰色の空間を急激に上昇し始める。それと同時に、視界は眩い光に塗り潰された。
『なんだったんだよ、もう! って、現実に戻ってきたのか!』
視界の眩しさが消えると、そこはバアルゼブブに取り込まれた時と同じ、薄緑に包まれた薄気味悪い体内だった。
『現実だと? そうだ、お前が俺に喰われる現状こそが現実だ。今更理解した所で、現実は覆らんぞ? ふははは!』
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