表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の華  作者: 桜華
第四章 七大罪篇其ノ壱 暴食
77/105

◎『長閑な田舎亭』にて

新キャラ、出ます!

 

 ルウファが自らの正体を明かし人狼形態でアリオクと戦い始めた頃、その場から逃げ延びたライム達は『長閑な田舎亭』へと戻ってきていた。

 宿を営む女将やその家族は全てあの場に集まり、そして肉のスライムと化した為に不在である。


「しかしあんなガキがワーウルフだったなんてな。化け物同士、共倒れになってくれりゃあ俺たちは楽なんだがな……」


 誰も居ない宿の中をそれぞれの泊まる部屋へと武器などを取りに戻り、宿の食堂に再度集まった時に沈黙を嫌ったジャッシュが口を開く。

 ワーウルフはジャッシュにとってはまだまだ勝てない魔物。それに、あの肉のスライムだってあれ程の数に囲まれれば確実にジャッシュは死ぬ。

 だからこそ、ジャッシュはそれを願って口にしたのだろう。


「そうね、ジャッシュ。でも……ルウちゃんがワーウルフだったんだから、もしかしたらガイアスさんもワーウルフなのかしら……? そう考えると、あの強さにも納得よね。しかし、何でワーウルフなのに人間を襲って食べないのかしら、ガイアスさんもルウちゃんも……」


 ジャッシュに相槌を打ちながら、アニーはそう疑問を口にする。子供がワーウルフならば、その親もワーウルフと考えるのは当然の結果だろう。

 真実を明かせば、ワーウルフとしてはルウファが親でガイアスが子供にあたるのだが、そんな事を知る由もないアニーは知らなくて当然である。


「ルウ……。ライム、親友だと思ってたのに……まさかワーウルフだったなんて……ぐすっ……」

「ライムちゃん……」


 食堂にて涙を流すのはライムである。


 宿に戻り、命の危機が去った所で緊張が途切れたのだろう、ライムは泣き出してしまっていた。今も溢れる涙を手の甲で拭いながらもルウファとの想い出に浸り、そして現実を知って葛藤している。

 ライムのその沈痛な様子を見て、アニーもいたたまれなくなっていた。

 この八日間、依頼で臨時パーティを組んだとは言え、ライムとアニー、そしてルウファはとても仲良くなっていた。

 当初はアニーがガイアスに取り入る為に近付いていたものだが、いつの間にかそんな考えもなくなり、いつしか本当の親友の様に接していたのだ。ライムの様子にアニーもそっと涙を拭った。


 そんな三人の重い雰囲気を気にする事なく言葉を発する男がいた。ガルバである。


「さて、そろそろ戻っても良い頃でしょう。ルウの剣やナイフもルウに渡してあげなければなりませんし、事の顛末を確認しないでバール村にも戻れません。それと…………ルウはどんな姿でもルウです。例えワーウルフだろうが魔王だろうが、ルウはルウです! ライム。ルウは私たちを襲いましたか? ジャッシュさん。ルウが正体を明かさなければ、私たちはあの場で肉のスライムに食い殺されていたでしょう。アニーさん。例えガイアスさんがワーウルフでも、ガイアスさんが人間の為に戦っていた事は事実です。つまり、私たちはこれからもルウとは一緒に行動するし、冒険者として依頼も受ける。遊びもするし、互いに切磋琢磨していくという事です。今回、私は自分の力の無さを痛感しました。私にもっと力が有れば、ルウに正体を現す選択はさせなかったはずです……! この件が無事に終わったら、私はルウに鍛えてもらうつもりです。ともあれ、これが私からライム達に言える全てです」


 ガルバは全員を見ながら、一人一人に語り掛ける様に自らの考えを話した。

 ガルバの言葉に、一同はハッとする。確かにガルバの言葉は的を射ていた。

 ルウファは全員を無事に逃がす為に正体を明かしたのだ。その時の苦悶に満ちた決意の表情は、思い起こせば涙を誘うものである。

 ガルバの言葉を聞いたジャッシュも、それに気付き、さすがに俯き項垂れている。


 ──バリバリバリバリバリ!! ズガガガガァアアアアアーーーンッ!!!


 その時、耳を(つんざ)く音がセイル村中に響き渡る。あまりの音の大きさに、一同は一様に耳を塞ぎ、床へと蹲る。


「な、何、今の!? 雷が鳴る様な雲は無かったはずよ!?」

「落ち着けアニー! 雲が無くても雷なんぞ鳴るだろ! ……たぶん」


 音が止んだ事を恐る恐る確認後、アニーは皆へと確認する。そんなアニーをジャッシュが珍しく宥めている。

 雲も無いのに雷が鳴る事を表した青天の霹靂という言葉があるが、ジャッシュはそれを知らないで口にしている。奇跡的な言葉の一致であった。……まぁ、意味はまるで違うであろうが。

 むしろ、その様なニュアンスの言葉を言うジャッシュの言葉こそが青天の霹靂か。


「……少し出ちゃった……」

「……ライム、聞かなかった事にします。それよりも早くルウの所に戻りましょう! このままだと、ルウは私たちの前から居なくなってしまうかもしれません……!」


 こちらはこちらで、十歳児相応の反応のライムと紳士な対応をするガルバである。誰もがガルバが十歳児だと言うと驚くが、正真正銘ガルバは十歳児だ。紳士な態度のガルバを、ジャッシュとアニーが十歳児だと信じなかったのは公然の秘密である。


 ともあれ、ガルバの言葉で全員が頷き、『長閑な田舎亭』を出ようと動き始める。


 すると、


「助けてぇーッ! 私、雷はダメなのよぉ〜……! ……ジュル!」


 セイル村のギルド支部の受付嬢が扉を開け放ち、助けを求めてきた。受付嬢の格好はギルドの制服のままである。

 業務を終え、自らの家へと帰る途中に先程の現象に遭遇し、避難場所として慌てて『長閑な田舎亭』の扉を開いたのだろう。


「お、お前……! 本物の【アリエス】なのか!? まさか肉のスライム……か?」


 突然の来訪者に驚く一同だが、代表してジャッシュが訊ねる。

 セイル村の全員があの場に集まり、そして肉のスライムに変わったと思っていただけに、まさか受付嬢が人間の姿でここに現れるとは思わなかったのだ。


「肉のスライム……ですかぁ? 何の事ですかぁ? 私はアリエスですよぉ? さ、最近お肉の付きが気になるのは確かですけどぉ……って、何を言わすんですかぁ! ……ジュル!」


 自らのお腹を見ながら恥ずかしそうに話すアリエス。話の最後に鼻を啜るのは彼女の癖なのだろう。


 冒険者ギルド、セイル村支部の受付嬢アリエス。

 今年で二十歳を迎える彼女は、肉付きの良い体だけが特徴の人間である。獣人でもドワーフでもエルフでもない。他に特徴を述べるとすれば、肩まである淡いピンク色の髪をボブカットにしており、瞳の色は碧をしている事か。

 そのアリエス、身長は150セルトと女性としては比較的背が低く、その割りには体重が60セキもあるので体型を気にしている。その為、ギルドの受付嬢をしているだけあって可愛らしい顔をしているのだが、本人は太り過ぎを気にしている為彼氏を作る勇気がない。


 それはともかく、アリエスは肉のスライムの事を知らないとジャッシュに答えた。


「た、確かにアリエスの話し方だな……」

「ええ、デニス達とは違うわね……」


 アリエスの話し方にデニス達とは違うと呟くアニー。

 ここで何故その名前が出てくるかと言うと、ジャッシュとアニーが昼間に会いに行った顔見知りとは、実はデニスとジャニスの二人であった。二人がバール村から居なくなった事を知り、二人の故郷であるセイル村へと手紙を届ける依頼のついでに確認の為に訪ねていたのである。

 しかしその二人の興味はルウファに向けられていた為、ジャッシュ達に対する態度は素っ気ないものだったのだが、それをジャッシュ達が知る由はなかった。


 デニスとジャニスの事はともかく、


「……他のギルド職員はどうしてる?」


 更に確認の為、ジャッシュはアリエスにギルドの様子を訊ねる。


「他の人、ですかぁ? 皆さん、至って普通ですよぉ? 支部長はまだギルドに残ってますけどぉ、他の人は帰りましたぁ! ……ジュル!」

「どうやらギルドは大丈夫らしいな……」

「何かあったんですかぁ? ……ジュル?」


 アリエスの言葉でギルドの人間が正常だった事に安堵し、ルウファの所に戻る前にアリエスへとセイル村で起こった出来事をジャッシュ達は話す。ほとんどの説明はガルバが行ったのは言うまでもないだろう。


 ちなみに何故ギルドが無事であったかと言うと、それは事の発覚をデニスとジャニスが恐れたからである。

 ギルドに知られるという事は、当然討伐依頼を出されてしまうという事。そうなると、まだ力を付ける前の二人では対処出来ず、かと言って力を得た現在でも事が公になればラディアス王国の守護軍に討たれてしまうだろう。

 なのでギルドだけは無事であったのだ。


 ともあれ、アリエスへの説明は続いている。


「そ、そんな事がこの村に起きてたなんてぇ……! と、とにかく現場まで行ってみましょう! ……ジュル!」

「ええ、私たちも大事な仲間が残ってます。すぐに向かいましょう! それと、アリエスさん……くれぐれもルウとガイアスさんの事は内密に。刺激したら殺されますよ?」

「……ゴクリ! わ、分かってますよぉ! それに、ガイアスさんがワーウルフなんて言っても、誰も信用しませんってぇ……ジュル」

「……それもそうですね。ともあれ、行きましょう」


 アリエスに事の説明をした後そんな会話をし、改めて『長閑な田舎亭』を出て件の現場、セイル村の中央に位置する牧草地を目指す。

 急いでると言うには全員の足取りは重く、進んでいる気がしない。事態が事態だけに、それは仕方ない事だろう。

 しかし程なくして、向かっている方向から月明かりに照らされた小さな人影が微かに見えてきた。


「お前ら止まれ……! 何かがこっちに来るぞ」


 先頭を歩いていたジャッシュが制止の声を掛ける。それと同時に灯の魔道具を向ける。

 ジャッシュの制止の声にドキリとするが、全員が足を止めて様子を窺う。


 すると、小さな人影はオドオドしながらも声を掛けてきた。


「あ……こ、こんばんわ! ぼ、僕、自分の持ち物を取りに来ただけだから! マイキーさんが僕の為に造ってくれた大事な物だから、それを持って僕は居なくなるから安心して……あはは」


 小さな人影とはルウファであった。

 ルウファは努めて明るくそう言うと、儚く笑った。その柳眉は、切なそうに八の字を描いている。

 自らの正体がワーウルフであると明かしたのだ、もう人間達の中では暮らしていけないだろうという覚悟はあるが、やはり別れの悲しさにその様な表情を浮かべてしまったのだろう。


 そんな切ない表情を浮かべるルウファに、ガルバが声を掛ける。


「ルウ! あなたの荷物ならば私が持っています。宿に戻る必要はありませんよ? それと、今回の件を詳しく調べてバール村のギルド本部に報告もしなければなりません。手紙を届けたのに、受け取るべき人が居なくなってしまった事も含めて、です。だからあの場に戻って調べますよ! ほら、ルウもボサっとしてないで、一緒に行きましょう! 肉のスライムはルウが倒してくれたのでしょう? ならば、私たちの命の心配もありませんし、何も問題ありません。……いや、問題だらけでしたね。村人が肉のスライムに変化したのですから」


 俯きながら悲しそうにしているルウファに対し、ガルバは何を言ってるのか分からないといった感じに語り掛けた。当然ルウファは自らの耳を疑った。

 このまま別れようと思っていたのだ。人間の暮らしに別れを告げて、バアルゼブブを殺した後は神滅の森の奥深くの岩山に帰ろうとしていたのだ。

 それなのにガルバは、ルウファがワーウルフだった事なんて知らないとばかりに……いや、ルウファはルウファのままに接してくれているのだ。

 その事を理解したルウファの瞳からは、本人の意思に逆らって涙がとめどなく溢れては零れ落ちていく。


「あり、がとう……ぐすっ……ガルバぁ……ぐすっ……うぇえええ〜ん」

「うん、ルウはルウだよ! ライムもルウの勇姿を見たかったな! ……うぅ、泣かないって決めてたのにぃ、やっぱりダメだよぉ……おかえりぃ……ぐすっ……ルウ〜……うわぁあああ〜ん!」


 抱き合いながら泣きじゃくるルウファとライムの姿を、ガルバを含め全員が優しく見守っていた。アニーも笑顔を浮かべながら涙を流している。


「うぅ〜〜〜! 何だか知らないですけどぉ、感動の名場面ってやつですぅ〜! ジュル!」


 ……何故か人一倍アリエスが涙を流していたが、ともあれ。


「よし、とにかく現場を調べるぞ、お前ら! そんで明日の朝一番でバール村へ戻る。かなりハードな道程になるとは思うが、ちんたら歩いてっと置いてくかんな!」

「馬鹿ジャッシュ! って、何だかんだであんたも泣いてるのね……。ううん、そうね、そうしましょ!」

「……うるへぇ!!」

「ははは、とにかく一刻も早く報告する為、みんなで力を合わせて頑張りましょう!」


「「「「「おう!! (ジュル!)」」」」」


 締めとなるガルバの一言でルウファを含めて全員が元気良く声を上げる。一部締まらない鼻を啜る音も聞こえるが、この場でそれを指摘する者はいない。

 ルウファの正体を知っても、それを受け入れてくれる優しい人物しかここにはいないのだから。

お読み下さり、ありがとうございます。

もしよろしければ、↓の☆にて応援して下さい、励みになります!

また、ブクマや感想などもお気軽にお寄せ下さい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ