アリオク
アリオクとの戦いを一話でまとめたら、いつもより文字数が多くなってしまいました。
分ける事も考えたのですが、中途半端になるのでやめました……てへ。
体の中央に女性器にも似たグロテスクで巨大な口を持つ巨大な肉の塊、アリオクとの戦いが始まった。その巨体は身長10メルトを超える。
以前、ドラゴン平原で戦ったドラゴンよりアリオクは小さいけど、やはりその大きさと質量は圧倒的だ。僕の人狼形態の2・5メルトの巨躯も、アリオクのグロテスクで巨大なその口には一呑みにされてしまうだろう。
『ぶははは! いぃたぁだぁきぃ〜〜〜まァーーーすぅッ!!』
十体の《ソウルウルフ・アグニ》と僕自身の視線がアリオクに集中する中、アリオクはその言葉と共に体のグロテスクな口を大きく開いた。
いただきますと言うのだから何かを喰らうのだろうと見れば、何とアリオクは、《ソウルウルフ・アグニ》の能力《地獄の業火》の豪炎をその巨大な口に吸い込み始め、やがて全ての炎を喰らってしまう。
それは、未だにアリオクの体を燃やしていた炎さえも同じだった。
全ての炎を喰われた事で辺りは途端に暗闇に包まれ、仄かな月明かりだけの視界となってしまう。
いくら人狼形態の僕の夜目が利くと言っても、明るかったのが突然暗くなれば慣れるまでは全くと言っていい程見えない。
炎を喰らった事には驚いたけど、もしもこの効果を狙ってやったとしたら、アリオクの知能の高さにも驚きだ。単純な力押しでは勝てないかもしれない。もしも不意打ちされては僕も一溜りもないだろう。
『おぉ〜〜いし〜〜いぃ!! うぉれ様、うぉまえにお返しぃ〜〜!! 《暴食の炎》! ふぁいやぁ〜〜〜!!』
炎を喰らい終わったアリオクはそう叫び、炎を喰らった体のグロテスクな口から直径5メルトの紅蓮の炎の塊を吐き出した。小刻みに動く巨体が気持ち悪い。
不意打ちじゃない事にホッとするけど、《地獄の業火》よりも強力そうなアリオクの炎に警戒する。
しかし、アリオクは僕の姿が見えてるのか?
いや、見えてないみたいだ。お返しと言いながら放った膨大な熱を誇る炎の塊は、まるで見当違いの方へと飛んでいく。しかし凄い勢いだ、まるでロケット砲の様である。
数瞬後、アリオクの炎は1000メルト以上離れているセイル村の城壁へとぶつかり、その場を炎の地獄と化した。炎の塊がぶつかった城壁は粉々に破壊されている。この場からでも確認出来たそのとんでもない威力に、僕は度肝を抜かれた。
もしも僕に直撃していたら、下手したら即死だったかもしれない。いや、僕の体に生える白銀色の体毛はあらゆる攻撃に対して超耐性を誇る。それに、僕自身の神狼としての耐久力もある、あれくらいじゃ死なないはずだ。
しかし魔法を喰らって、その魔法の威力を倍にして返されるのであれば、魔法を使うというのは悪手だ。いくら僕の体や身に纏うフェンリルコートの超耐性を以てしても、あんな威力の魔法を何発も喰らえばさすがの僕も死ぬだろう。死なないにしてもダメージで動けなくなり、その後はアリオクに喰われて一巻の終わりだ。
『みぃ〜つけぇたぁ〜〜! もぉっと、うぉれ様に美味いのぉ喰わせてくれぇ〜よぉ〜〜!』
くっ、アリオクの魔法の威力に気を取られていたら、アリオクの巨体が近付くのを許してしまった。地面に足をめり込ませながらも、短い足で良くも動ける。
体の大きさからして、アリオクの体重は2000セキ以上……2トン以上はあるだろうに、意外と素早い。
アリオクの身体能力に舌を巻いていると、そのアリオクのグロテスクな口からグロテスクの名に恥じない巨大な舌が伸び、触手の様に蠢きながら僕へと襲い掛かってくる。城壁を燃やす炎の明かりと仄かな月明かりに照らされ、アリオクの舌はどこか卑猥にさえ感じる。ヌメヌメとした光沢がそれを一層引き立てていた。
そんな感想を抱いてる時じゃない。
グロテスクな舌の攻撃範囲はおよそ10メルト。その間合いから離れれば攻撃は喰らわないはずだ。
僕自身は人狼形態の速度を活かして避けつつ、襲い来るグロテスクな舌へと十体の《ソウルウルフ・アグニ》を操り、防御かつ攻撃を仕掛ける。
炎などの魔法がダメでも、炎を纏わせた《ソウルウルフ・アグニ》の攻撃だ。拳の打撃と鋭い炎の爪、更に腕の数倍の力を持つ脚での蹴りは、アリオクの舌にかなりのダメージを与えるだろう。
一体の炎の人狼でアリオクの舌を受け止め、残りの九体の炎の人狼がそのグロテスクな舌を攻撃していく。拳による打撃は弾力によって阻まれるが、それなりにダメージは与えられているみたいだ。
『アバ? アバァ!? ブベエェエエ工!!』
舌への打撃によって苦悶の声を上げるアリオク。
その様子を窺いながら、僕は更に炎の人狼で攻撃していく。
──ドゴォン!
爆発音を上げながら炸裂する蹴りの一撃。
──ザジュゥウウ!
炎の爪による裂傷と、その傷口を焼く音が辺りに響く。
やがて──
ブチィイイイッ!!
『アギャアアアアアババババババ!!!?』
アリオクのグロテスクな舌を、その半ば程から見事に切断した。
体のグロテスクな舌を切断したのに、何故か本当の舌を切断された様な悲鳴を上げるアリオク。痛みに悶絶する様に、ブルドッグに似た顔を左右に揺らしている。その度に垂れ下がった頬肉がブルンブルンと醜く揺れ動く。
体の舌も本物の舌も感覚は繋がっているのだろうか。そんな疑問が湧いてくる。
だけど、舌を切断した痛みで悲鳴を上げてる今がチャンスだ。
僕は十体の炎の人狼全てをアリオクのグロテスクな口の内部へと突撃させる。体内を焼きながら、打撃や爪でグチャグチャにしてやる。
『なぁんてなぁ! ぶははは! 引っかかったァ! うぉれ様の体はァ、うぉれ様の自由自在ィ! いぃたぁだぁきぃまぁス!!』
『嘘でしょ!? そんなの反則だよぉ!!』
グロテスクな口から体内に侵入させていた十体の炎の人狼は、アリオクの言葉の直後に全て喰われてしまった。反則だと叫ぶのも仕方ないだろう。いや、悪いのは浅はかな攻撃をした僕か。
炎を喰らって吐き出す口に突撃するのは、自らを喰ってくれと差し出す様なものだ。自分の馬鹿さ加減にうんざりする。
しかし拙い。炎の人狼十体を喰らったって事は、さっきの炎の塊を使われてしまう。
アリオクの視線はしっかりと僕を捉えている。見当違いの方向に放つなんて事はしないだろう。
『お返しぃだぁ〜〜!! 《暴食の炎》! ごチィそぅさまぁあああ!!』
そう叫ぶアリオクは、体の巨大な口から先程よりも大きな紅蓮の炎の塊を僕に向けて放つ。その紅蓮の炎に照らされた女性器に似た巨大な口は、ヌラヌラと艶めかしく光り、ヌメヌメと蠢いている。
紅蓮の炎を生成したと思われる口の奥にはポッカリと穴が空いていて、その穴はパクパクと開閉していた。
はっきり言って気持ち悪い。あんな口には喰われたくないよね。
そんな事をゆっくり考えてるという事は、僕に危機的状況が訪れているという事だろう。死を前にすると時間の流れが遅く感じるというアレだ。
アリオクの放った巨大な紅蓮の炎の魂は僕に当たる直前から灼熱を感じさせ、そして瞬く間に僕を飲み込み激しく吹き飛ばす。
『うわぁああああああああああッ!!!?』
──ドゴォオオオオオン!!!!
どれ程吹き飛ばされたか分からないが、どうやら僕は地面に激突したみたいだ。直後、僕を吹き飛ばした炎の塊は、セイル村の城壁を破壊したみたいに爆発し、更に灼熱の炎地獄をその場に生み出す。激しい熱を感じるから、その考察で間違いないだろう。
爆発の衝撃が終わり閉じていた目を開けると、案の定、僕の周りが半径20メルトにわたって紅蓮の炎に包まれていた。
更にその紅蓮の炎で揺らぐ景色の向こうを見れば、炎で焦げてはいるが土の壁が見える。その事から、どうやら深く抉れた地面の穴に僕はいるらしい。つまり、爆発の衝撃と威力でクレーターが出来てしまった様だ。
『かなり痛かったけど、どうやら僕の体は耐えられたみたいだ。ん? 骨がグチャグチャになってたのかな? ま、いっか、どうせ人狼形態の超回復力で治ってるんだし。それよりも、どうすればアイツを倒せるんだろう? 炎は喰われて返されるし、かと言って水も同じだろうね。となれば、風属性か土属性だけど……《ソウルウルフ・ヴァーユ》で切り刻んでも効かなそうだからって言うか、アイツ再生しそうだし。そうなると《ソウルウルフ・アース》の《振動粉砕》を試す他ないね。……僕自身が雷を纏って突撃する手もあるけど、あの口には突っ込みたくない』
クレーターの中心、ゴウゴウと燃え盛る紅蓮の炎の中で僕はガウガウと独り言ちながら作戦を練る。遠くからこちらに向かってズシーンズシーンとアリオクの足音が響いてくるけど、作戦を練るくらいの余裕はあるはずだ。
それにアリオクは、僕が死んだと思って油断もしてるだろう。近付いてくるのは、恐らく炎ごと死んだ僕を喰らう為だと思われる。
『ふふふ、油断は大敵だよ? ──《ソウルウルフ・アース》!』
いつも自分に言い聞かせている、座右の銘の言葉を呟きながら、僕は十体の土属性の半透明な人狼を創り出す。並列思考によって繋がり広がった視覚と深まる思考に力が湧くのを感じた。
『さて、更にアリオクの虚を衝く為に小細工を弄しようか』
有り余る膂力にものを言わせて、僕は炎が渦巻くクレーターの底から一足飛びにアリオクとクレーターの中間地点に飛び出す。土の人狼達は僕の動きに合わせて、こっそりと迂回しながらアリオクに近付かせていく。
『ぶははは! 生きてぇたぁ〜! やぁっぱりぃ、踊り喰いぃが、さぁいこぉうだぁ〜!!』
アリオクはやはり僕だけに注目した様だ。さっきは知能の高さを警戒したけど、低能な様で安心する。そう思うのは、決して僕自身が馬鹿だからとかそういう事ではない。……はずだ。
『魔法は効かないみたいだけど、打撃はどうかな? ──はぁあああああ!!』
僕が生きてた事を喜び、醜い顔を更に醜く歪めるアリオク。やはり油断しきっている。
その油断したアリオクに対し、僕は自分自身を囮として突撃する。
足に力を溜めながら膝を曲げ、伸ばすと同時に溜めた力を解放。地を蹴り加速する僕はさながら弾丸か。
アリオクに向けて加速する中、上半身を右に捩りながら右手を握りこんで拳を作る。そしてアリオクに僕の体が当たる直前に体の捩りを戻す勢いをプラスして拳を突き出した。
『アベ!? アババババビャアアアアアア!!?』
気合いの声を上げながら体ごと放った僕の拳は、アリオクの脇腹付近に当たるとそのままズブリと穿き、更に僕の体ごとアリオクの体を貫通した。
体を貫かれた痛みに悲鳴を上げるアリオク。突撃した甲斐があった。
しかし、途端に全身に押し寄せるヌメヌメとした感触に、僕の全身は粟立つ。脳裏には下水路の汚水を被った嫌な記憶が浮かんでいた。
『うぇ……ヌメヌメするし、なんか臭いぃ……って、こんな事気にしてる場合じゃなかった! 《ソウルウルフ・アース》の《振動粉砕》を喰らえ!!』
『『『『『ウォオオオオオオオオン!!!』』』』』
こっそり近付けていた土の人狼十体を操り、四方八方からアリオクへと取り付く。うん、僕自身が突き抜けた穴が塞がり始めている。やはり再生能力を持ってるみたいだ。並列思考で繋がった土の人狼の視界でそれを確認した。
『ヒャッヒャッヒャッ! なぁにをするのか分からなぁいがぁ、くすぐったァいだぁけでぇ、うぉれ様には効かなぁぁい!! ッ!? ギ!!?』
アリオクの巨大な体の背中、両脇腹、グロテスクな口がある胸から下腹部に、それぞれ二体、二体、四体の土の人狼が取り付き、その半透明な体を密着させる。残りの二体は追撃の為に僕の傍で待機させた。
そうして発動する土の人狼の体全体を使っての《振動粉砕》だ。いくら再生すると言っても、さすがのアリオクも超振動で分解されるだろう。
見れば、初めは擽ったがっていたアリオクも自らの体の異変に気付き、醜いブルドッグに似た顔に焦りの表情を浮かべている。
『なぁにをしたァ!? なぁにをしてぃいるゥ!? うぉれ様のさいキョウな体ぁがァああああ!!』
土の人狼が取り付いた場所から再生出来ない程の細かい肉片……いや、血霧に分解されていくアリオク。苦しいのか、体の口から出た触手の様なグロテスクな舌があちらこちらと暴れている。
やがてその舌も《振動粉砕》によって血霧へと分解されていく。アリオクの他の部位に目を向ければ、短い足や腕は既に分解されていた。
この時点で、僕は待機させていた二体の土の人狼を解除する。もう必要ないだろう。
『やっぱりこれで正解だったね。────。うん、いつまでも醜い化け物を見ていたくないからもうトドメを刺そう。今の僕の最大の力で殺してあげる』
土の人狼の能力で正解だったと、僕はアリオクの様子を見ながら呟く。そして、いつまでも見ていたくないので、僕はトドメを刺す決断をした。
それに、セイル村の全ての人間や家畜の命を奪い、更には僕の幸せな生活を奪ったんだ。トドメは僕自身で刺さなきゃ気が済まない。
『──《災禍の神槌》』
血霧に分解されていくアリオクにゆっくり近付き、僕は静かにそれを唱える。厨二病を前世から発症していた僕が、人狼形態で使える魔法はないかと以前から考えていた魔法だ。
右手を天に掲げて手を開く。それと同時に、自然界のマナを体に取り込めるだけ取り込んでいく。更に取り込んだマナへと神狼だけの属性である雷属性を付与し、掲げた手の平から天に放出。そしてその場で留める。うん、上手くいった。
僕の頭上高くの空中に、バチバチと紫電を放出する直径5メルト程の漆黒の球体が浮かんでいる。後はこれをアリオクへと落とすだけだ。
『美味い物を喰わせろと言うならば、幸せな生活を奪ったお前に僕の怒りを喰らわしてやる。お前の主人のバアルゼブブも同様だ。……──死ねッ!!』
天に掲げていた右手を僕は振り下ろす。僕の動きに連動して、空中に浮かんだ紫電を放出する漆黒の球体もアリオク目掛けて落下していく。
──バリバリバリバリバリ!! ズガガガガァアアアアーーーンッ!!!
『アビャビャビャビャ!? バアルゼブブ様ぁは神にぃなるお方ぁ! うぉれ様に勝ったくらぁいでぇ図に乗るなァあアあア!! ──ギィエエエエエエ……エエェ……ェェ……ェ……ェ……』
漆黒の球体が落下する前にアリオクはふざけた事を叫んでいたけど、そんな事は僕が許さない。
ともあれ、漆黒の球体はアリオクに直撃して凄まじい轟音を辺りに響かせると、激しい放電現象を起こしながらそのアリオクの体を焼き、そしてグツグツと沸騰させながら分解していく。
しかしある時を境に、漆黒の球体の中心部へとアリオクの体が集束されていく。それは、辺りを漂っていた血霧も、僕の《災禍の神槌》で分解された肉片もだ。
まるで、ブラックホールに吸い込まれるが如くにアリオクの全てが圧縮され、そして魔法の効果が切れると同時に跡形もなく消え去った。
辺りには静寂な夜の空気だけが漂っている。さっきまで気にならなかった虫の音だけが響いていた。
『あれ? 雷だけの魔法だったはずなんだけどなぁ……? ま、いっか。それよりも、ライム達が戻って来たらお別れを言わなくちゃね。……もう戻って来ないかもしれないけど。あ、どっちにしても宿屋に〈双竜剣〉を置きっぱなしだから取りに行かないと! さて、人間の姿に戻るか』
自分で放った魔法の効果に疑問を抱きつつも、それはともかくと僕は人間の姿へと戻る。それに伴い、フェンリルコートやドラゴンローブも形状を僕の体に併せて変化する。しかし本当に凄い装備だ。造ってくれたマイキーさんの技術力には脱帽だね。
「あうぅ……やっぱり出ちゃったよ……」
人間形態に戻り、足元を見る。足を伝う感触で分かっていたけど、そこには水溜まりがしっかり出来ていた。
人狼形態に変身した時は肉のスライム達に集中していたから漏らさなかったけど、今回はしっかりとおしっこが漏れていた。だって……激痛なんだもん。
ホント、母様はよくこの激痛に耐えられるよね。うん、さすがは母様だ。
「はぁ……とにかく宿屋に行かなくちゃ。宿屋で股間と足も拭かないとだね」
ともあれ、アリオクとの戦いを無事に乗り切った僕はため息を吐きつつも、仄暗い月明かりの下を『長閑な田舎亭』に向かって歩くのだった。
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