セイル村へ・4
暑すぎて執筆する気力も湧きません……
ロック山の麓付近で初日の夜営をしてから、早いもので今日で四日目となる。ジャッシュさんやアニーさんともかなり打ち解けた。
その二人と臨時パーティを組んで今回のセイル村に手紙を届ける依頼に挑んでる訳だけど、そのセイル村まで半分程の距離を進んできたという事になる。現在地はロック山の中腹辺りと言えば良いのかな。
そのロック山、渓谷と言っても過言ではない景色が続いている。つまり、山と山の間を縫うように街道が敷設されているのだ。
その為、わざわざ山頂まで登らずとも良い。体力に自信の無い人間形態の僕にとってはとてもありがたいという事だ。山を越える事に若干の不安を抱えていただけに、気持ちが随分と楽になった。
それと、ここまで野盗に襲われる事もなく、今の所は極めて順調に進んできている。
あ、でも、アニーさんが注意を促してくれたハーピーには何度か遭遇した。
その度にガルバの魔法とアニーさんの弓で撃退し、僕達は被害も無く済んでいる。
実はアニーさん、槍の他に弓を装備していたのだ。初めて会った時は気付かなかったけど、背中に背負う背嚢に隠れる形で装備していた。
弓を装備するならば当然矢も必要となるし、そうなれば矢筒を装備していても可笑しくはないけど、アニーさんは矢筒を装備どころか、矢の一本さえ持っていなかった。だから弓を装備している事に気付かなかったのだ。
しかし矢も無いのに、ハーピーをどうやって撃退するんだと言われそうだけど、なんとアニーさん……矢は自らのマナで創り出してそれを放つのだ。
風の矢、炎の矢、土の矢、水の矢とそれぞれ属性を宿した矢でハーピーを撃退する様は、惚れ惚れする程カッコ良かった。
そんなアニーさんは、今も威嚇の為にハーピーに向けて矢を放っている。
「わたしが居るかぎり、ルウちゃんには怪我なんてさせないわ! 《アクアアロー》──はぁッ!!」
自らのマナで半透明の水の矢を創り出し、それを上空を旋回しているハーピー目掛けて放つアニーさん。水の粒子が尾を引く様に放たれる矢が美しい。
何本かの矢は外れたけど、その内一本の矢が比較的低い位置を飛んでいるハーピーの一体に当たる。
威嚇の為に放っていたのに当たるなんて、あのハーピーは間抜けだね。
しかしそのお陰もあって、他のハーピーはどこかに逃げていった。
「キャアアアアア!!」
女性の顔と胸を持つハーピーはまるで乙女の様な悲鳴を上げて墜落していく。およそ50メルトの高さから墜落したらハーピーだって助からないだろう。南無南無。
「さて、先を急ぎましょうか!」
「悪ぃな、アニー。俺にも弓の腕前がありゃあ少しは役に立てんだけどよ……」
ハーピーを撃退し、先を急ごうと言うアニーさんに、ジャッシュさんが申し訳なさそうにしていた。
「何を言ってんのよジャッシュ。わたしとあんたで役割分担してるんだから、あんたはあんたの出来る事をやれば良いだけの話でしょ? わたしが苦手な夜営の準備とかしてくれるんだし、おあいこよ!」
「そっか……そうだよな! 分かった、先を急ぐぞお前ら!」
…………。
……いったい何のアピールだろうか、今のジャッシュさん達の会話は。
一緒に行動してから既に四日、今更冒険者同士の役割分担について教えてくれなくても良いと思う。
そんな事を僕が考えていると、アニーさんが僕の傍に来てこっそりと今の会話について教えてくれた。
「またか、って思ったでしょ? 実はジャッシュ……記憶力が弱いのよ。ほら、彼ってハムスターの獣人じゃない? だから少し……ね」
な、なるほど……!
つまりジャッシュさんは脳筋だって事をアニーさんは言いたい訳だね。
アニーさんの言葉が示す通り、確かにげっ歯類系の獣人にその傾向は強い。ようするに短絡的な思考をしているのだ。
これは又聞きだけど、母様が以前行動を共にした獣人にげっ歯類の人がいて、その人も同じ様な行動を取っていたらしい。
その人は結局その脳筋的な考えが災いして、自ら魔物の群れに突撃して死んでしまったみたいだけど、そのお陰で母様達が助かったと言っていたのだからある意味僕にとっても恩人だよね。
その人とジャッシュさんを比べるのもアレだけど、せっかくジャッシュさんとも知り合いになれたんだから、もしもそんな場面に遭遇した場合はジャッシュさんが突撃する前に止めてあげたいね。
「でも、ジャッシュさんって意外と良い人だよね! 口は悪いけど、ちゃんと僕達の事を考えているし、色々と教えてくれるから、僕はジャッシュさんの事は好きだよ」
アニーさんから聞いた話はともかく、僕はアニーさんにジャッシュさんをどう思っているかを伝えた。
ちなみに、好きと言ったのは異性を意識して言った訳ではないので勘違いしないで欲しい。
「優しいのね、ルウちゃんって。さすがガイアスさんの娘さんよね……うん、わたしもルウちゃんの事を見習わないとね!」
「あ、あははは、面と向かって言われると照れるから、あまり僕を優しいって言わないで欲しいな……」
「うふふ、そうね、分かったわ。じゃあ、先を急ぎましょ! ライムちゃん達もジャッシュも少し離れちゃったからね」
アニーさんとの話の間に、ライム達と少し距離が開いてしまった。野盗などの匂いがしてないから襲われる事はないけど、離れるのはやっぱり拙い。僕とアニーさんは少し小走りで追い掛けるのだった。
それから二日程経ち、大きなロック山を貫く街道も終わりが見えてきた頃……それは唐突に僕達の前に姿を現した。
それとは、二十人程の盗賊からなる集団……つまり野盗だ。二十人程の野盗がロック山を貫く街道の両脇の林からぞろぞろと現れたのだ。
「くっそ……! ここまで出没しなかったから今回は襲って来ねぇと思ってたが、まさか山を抜けるタイミングで来るとはな……!」
先頭を歩くジャッシュさんが警戒態勢を取りながら忌々しそうに言う。
「ルウちゃん達はわたしの背後に! それとガルバ君は魔法で援護をお願い……! わたしとジャッシュがやられそうだったら、ルウちゃん達は迷わず逃げて!」
弓を構えながら、アニーさんは戦闘の指示を出す。いつもの可愛らしい表情はなりを潜め、代わりに薄氷を踏むかの如く真剣な眼差しだ。
「分かりました。私もどこまで援護出来るか分かりませんが、出来る限りの事はしましょう!」
「ライムだって戦うわ! アニーさん達にばかり頼ってられないよ!」
アニーさんの指示にガルバは了承し、ライムも戦う意思を見せる。となれば、僕だって戦うさ!
「逃げるなんて出来ないよ! もちろん、僕も戦う。僕達五人で戦えば、野盗の二十人くらい倒せるよ!」
「良く言った! とにかく相手の動きを良く見て、それで自分でも勝てると思った奴だけを相手しろ! それじゃ……やってやるぜ!」
「「「はい!」」」
「こういう時は頼りになるのよね……! ここなら多少燃えても大丈夫ね。──《フレイムアロー》! わたしが女の子だからって、侮ってると火傷するわよ!」
ジャッシュさんの言葉に僕達猛き白狼は覚悟をもって頷き、そんなジャッシュさんを頼もしいと言うアニーさんが戦いの口火を切った。アニーさんが自らを女の子と言ったのはこの際不問に処す。
アニーさんは左手に弓を持ち、右手に炎の矢を次々と創り出しては放っていく。専門の魔法使いが炎の矢の魔法を放つ訳ではないので威力はそれ程強くはないけど、炎の矢が突き刺さった野盗の三人はその身を包む服に引火し燃えている。
「私も援護を任された以上、相応に応えましょう……! 〖マナよ。我が言葉に従い風と化せ。鋭い針となりて敵を穿け! 《風の針》!〗──私の魔法が途切れたタイミングに合わせてジャッシュさん、ライム、ルウも攻撃を開始して下さい!」
アニーさんが三人の野盗の体を燃え上がらせた直後、ガルバはそれを合図に風の針の魔法をそれ以外の野盗に向けて放つ。見えにくい風の針だ、野盗達は為す術もなく足を穿かれていく。
「よっしゃ、行くぞお前ら! うぉおらああああッ!!」
「もちろん! 〖マナよ。我が言葉に従い熱となれ。体内を巡りて力となれ! 《フォース》!〗──やああああッ!!」
ジャッシュさんが腰から抜いたロングソードを両手で構えながら突撃すると、ライムも即座に身体強化を唱えて大剣を留め具から外して両手に持つ。そして、《フォース》の発動と同時に大剣を肩に担ぐ様にして野盗へと斬り掛かっていった。
ジャッシュさんとライムには負けてられない。僕もそろそろ行くか……!
腰から〈双竜剣〉を抜き放ち、両手に構えながら野盗の様子を窺う。僕は《フォース》が使えない上に、獣人のジャッシュさんみたいに力がある訳じゃない。
じっくりと相手を見据えて、隙を見せた奴に仕掛ける。──見付けた……!
「ボーッとしてると危ないよ! なんて、ね!! はぁあああッ!!」
──ザシュッ、ザシュッ!!
左剣で野盗の脇腹を斬り付け、右剣で肩から袈裟斬りにする。野盗は悲鳴を上げる事なく崩れ落ちていく。
その段階で僕は気付く──
「え……?」
──何かが可笑しい。
マイキーさんが造ってくれた〈双竜剣〉の斬れ味は確かに凄まじい斬れ味だ。しかしそういう事じゃない。
手応えも無く野盗を斬り伏せるのも納得だけど、僕が斬り伏せた野盗はいくらボーッとしてたとしても斬られたのに悲鳴すら上げないのは明らかに可笑しすぎる。
「な、何なのよ、コイツら……! 悲鳴の一つも上げないなんて変よ!」
「確かに……! それに、コイツら反撃どころか、襲って来たはずなのに襲って来ねぇ!」
僕達よりも対人戦闘慣れしているアニーさんとジャッシュさんもその事に気付いたみたいだ。まるで人形みたいに黙って殺されていく野盗の様子を訝しんでいる。
思えば、野盗が現れた時から様子が可笑しかった。何せ、野盗達は何も言わずに姿を現したのだ。
本来であれば、金目の物を出せとか、女は攫うが男は容赦しねぇだとかの口上を述べるはずだけど、僕達が戦ってる野盗は無言で現れた。しかも、全員が全員心ここに在らずといった表情を浮かべながら。
「うぇ!? 初めて人を斬ったけど、人間って……思ったよりもスライムっぽい斬り心地なんだね……。ライム、初めて知ったよ……」
僕の怪訝をよそに、ライムは自らが斬り伏せた野盗の手応えに関してそんな事を言っていた。
……スライム?
言われてみれば、僕が攻撃した野盗もそんな手応えを感じた。まるで……ゴブリン五体の討伐の時に姿を見せたあのフォレストスライムと同じ様な。
いや、まさか人間がフォレストスライムの様な魔物に変わるとは思えない。しかも、バール村とセイル村を繋ぐ街道にフォレストスライムが居るはずもない。きっと気のせいだよね。
野盗のあまりの手応えの無さに不思議に思いながらも、その後、僕達は野盗の全てを討伐する事が出来た。
野盗の死体はそのままにしておくとアンデッドになる可能性が高いので、魔法で灰になるまで燃やし、そして土属性の魔法で埋めた。もちろん、その両方ともガルバの魔法だ。
ハーフエルフであるガルバは種族特性上魔法が得意なので、自らその役割をかって出ていた。
「何だか変な感じがするけどよ、とにかくあと少しでセイル村だ。お前ら、最後まで気を抜くなよ?」
野盗を埋葬した後にそう言ったジャッシュさんの表情は不安の色が見え隠れしていた。
そんなジャッシュさんの表情を見て、僕は嫌な予感を感じてしまった……
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