セイル村へ・3
お盆前はいつも忙しいです……
バール村の西に面した門から、バール村の南を沿う様に造られた街道をセイル村のある東へ向けて僕達は歩く。
途中で南方面に伸びる道も見えるが、そちらは王都ラディアスに向かう為の道である。もちろん僕達はその道には曲がらず、真っ直ぐ東を目指して歩いていく。
セイル村まで八日程掛かるというのに、寄り道なんてしてる場合じゃないからね。
それはさておき、臨時パーティを組んだ僕達の先頭を歩くのはジャッシュさんだ。その次にアニーさんと続き、僕、ガルバ、ライムの順で街道を進んでいく。
とは言え、アニーさんから僕までの距離は少しだけ離れている。臨時パーティを組んだけど、まだジャッシュさん達に慣れてないから仕方ない。
ともあれ、バール村は巨大都市の為、バール村に沿って歩くだけでも二時間程を要した。ホント、おっきな都市だよね。
改めてバール村の大きさに感嘆していた僕をよそに、アニーさんは僕達の傍に来て気軽に話し掛けてきた。
「ねぇねぇ、君たちは誰に憧れて冒険者の活動をしてるの? やっぱりガイアスさんかな? それとも【クラウド】さんかな? 二人ともこの国が誇る神金級ランクの冒険者だから、どっちにしても憧れるよねぇ〜♪」
母様が神金級ランクの冒険者だと僕が知ったのは少し前だけど、この国にはもう一人の神金級ランクの冒険者がいる。アニーさんの言葉にも出てきた通り、その冒険者の名はクラウドさんというらしい。
名前からして、巨大な大剣を振り回しそうな人物である。……ソルジャーで一番強いとか言いださないよね?
ソルジャー云々はともかく、会えるならば一度は会ってみたい人物だ。
ともあれ、アニーさんの質問にまずはライムが口を開く。気さくなアニーさんに慣れてきたのか、ライムの表情は楽しそうである。
「ライムはねぇ、やっぱりガイアスさんかな? 同じ女性なのに凄く強くて、それに美人だから憧れちゃうよね!」
ライムはやっぱり母様に憧れてたのか。
だからなのかな? ライムは母様の前だとかなり礼儀正しい気がする。……気のせいかもしれないけど。
ライムの次に、ガルバが答える。うん、ガルバはいつも通りの表情だ。微妙に微笑んでる気がするけど、ガルバを良く知らない人からすれば無表情に見えるだろう。アニーさんにミイラと呼ばれないか心配だ。
「私もガイアスさんですね。やっぱり身近に英雄と呼ばれた人物がいると憧れますよ。ガイアスさんは魔法も凄まじいので、やはり魔法を専門的に使う私にとっては師匠の様に思ってます。……まぁ師匠と勝手に思ってるだけですけどね」
そっかぁ、ガルバも母様に憧れてたんだね。
神狼としての僕からすれば母様の魔法は弱いけど、人間達からすれば母様の魔法は強力だもんね。それに、扱える魔法の種類も母様は豊富だし。
まぁ、僕の眷属となった事で無属性魔法は使えなくなったし、ガルバみたいに精霊魔法も当然使えないけどね。それでもガルバからすればやっぱり凄いんだろうね。
「やっぱりガイアスさんかぁ! うん、わたしもガイアスさんに憧れて冒険者として活動してるんだよね。あ、そう言えば二日前にガイアスさんと会ったんだ、わたし! ホント、美人だし、カッコ良いし、それに強いし! それなのにわたし達みたいな冒険者にも気さくに話してくれて……とにかくもう、凄く嬉しかったんだぁ!」
「確かになぁ。ガイアスさんが美人ってのは俺も認める。だがしかし! たぶん俺の方が強ぇんじゃないか? やっぱ人間よりも獣人の方が強ぇかんな!」
「……青銅級から上がれないのは誰よ……。はぁ〜〜。あ、ねぇねぇ君は? えっと……確かルウファちゃんって言ったわよね。ルウファちゃんもやっぱりガイアスさんに憧れて冒険者として活動してるのかな?」
アニーさんもやっぱり母様に憧れてるんだね。
そう言えば母様の話に二人組の冒険者が出てきたけど、どうやらジャッシュさんとアニーさんの事だったみたいだ。アニーさんも母様と会って凄く嬉しかったって言ってるし、間違いないよね。
そんなアニーさんの話にジャッシュさんが横槍を入れてきたけど、ジャッシュさん……青銅級から上がれないんだね。うん、頑張って下さい。
ジャッシュさんはさておき、僕もアニーさんの質問に答えるか。
「僕は誰かに憧れて冒険者活動をしてる訳じゃないよ。僕が冒険者として活動してるのは、実力を付けて、いずれ世界を見て回る為だよ。まぁその前に母様の実力を超えないと無理だけどね」
僕の夢……世界を見て回るという為にも、まずは母様よりも強くならなくちゃね。もちろん、人間の姿でって事だ。神狼形態や人狼形態だと堂々と見て回れないから当然だね。
色んな国に行って街や都市を巡り、その土地の美味しい物を食べて、珍しい動物や植物なども見てみたい。
この世界にあるかどうか分からないけど、もしもあるならばダンジョンにも潜ってみたいね。ファンタジーな世界と言ったら、やっぱりダンジョンは外せないもんね!
僕が夢について妄想していたら、アニーさんが更に質問してきた。
「ふーん、そっかぁ。あ、でもでも、お母さんの実力を超えなきゃって事はさ、ルウファちゃんのお母さんもやっぱり冒険者活動してるんだ?」
「アニーさん! 実はルウって、ガイアスさんの娘なんだよ! だから、ライムもたまにガイアスさんに剣を習ってるんだ!」
「嘘……!? ルウファちゃんって、ガイアスさんの娘さんなんだぁ! こ、これはもしやガイアスさんとお近付きになれるチャンスなのでは……? いや、間違いなくそうよね……! きっと神様がわたしにチャンスをくれたんだわ! ジャッシュみたいなうだつの上がらない男と行動を共にする苦難も、きっとこの為にあったものだったのよ!」
…………。
……ライムのせいでアニーさんは勝手に盛り上がり始めた。
「あ!? 悪かったなぁ、うだつの上がらない男でよぉ! だけど、そんな男に惚れたお前も同じだって気付いてんのか!?」
…………。
……何故かジャッシュさんも参加し始めるし。
「うっさい、ボケ! はぁ〜〜……なんでわたしこんな男と結婚しちゃったのかしら……。いや、まだ諦めちゃダメよ! 別にジャッシュが居ちゃダメな訳じゃないし、わたし達揃ってガイアスさんと縁を結べればきっと全てが上手くいくはずよ! そうよ、そうに違いないわ! って事で、ルウファちゃん! わたし達をガイアスさんに紹介してくれないかな? その為ならばわたし……ルウファちゃんの妹分にも下僕にもなるわ!」
…………。
「はぁ!? ちょっと待て! その理論からいくと、俺もそのガキの舎弟になるってのか!? いくらガイアスさんの娘って言っても、俺はそんなのごめんだぞ!?」
…………。
「あんたは黙ってて! どうかな、ルウファちゃん? なんなら、今回の依頼の最中に魔物や野盗が出てきたら、わたし達がルウファちゃんの代わりに戦っても良いわよ? ねぇ、どうかな?」
…………。
……なんだか面倒臭い事になってきた。
「一度言い出したら聞きゃしねぇよ……ったく! まぁいい、この依頼が終わったらガイアスさんに俺が模擬戦を頼んでみるから、そんで俺が負けたらお前の案に乗ってやるよ。それで良いだろ?」
「もちろんよ! あんたじゃどう逆立ちしたってガイアスさんには勝てないからね。……という訳で、ルウファちゃん、これからよろしくね♪」
…………。
僕、帰って良いですか? え? ダメ?
「じゃあ、この依頼が終わってもライム達とずっと一緒にいるのね、アニーさん! ルウ共々、ライムの事もよろしくお願いします!」
「もちろんよ! ライムちゃんもガルバ君もよろしくね!」
「……はぁ〜……」
何とはなしに話がまとまったみたいだ。ジャッシュさんのため息に哀愁を感じる。しかし、そこに僕の意見がなかった事はどうなんだろうか?
……バアルゼブブの件が片付いたら、とにかく母様に相談してみよう。
「話は終わりましたか? そろそろバール村も見えなくなってきたので、周りに注意しながら進みましょう」
和気あいあいとした雰囲気(?)を払拭するべく、我らがご意見番ガルバが場を引き締める。要所要所を締めるガルバは、実は隠れた主人公なのかもしれない。
案外、ガルバの様な人物が世界を救ったりするんだよね。うん、ガルバならそんな事も平然とやりそうな気がする。それで、後世で大賢者なんて呼ばれたりしてね。
ともあれ、セイル村に続く街道からは人の姿も見えなくなった。ここからは野盗などに注意しなくちゃならないだろう。
「よし、お前ら……! ここからは野盗も出没するからより注意して進むぞ。風も無いのに草原の草が揺れたりしたらすぐに報せろ!」
ジャッシュさんもやはり冒険者だね。しっかりと僕達に注意を促してくる。きっと、ジャッシュさんも野盗に襲われた経験があるのだろう。後輩である僕らにその経験を教えてくれるのはありがたい。
実力はともかく、ジャッシュさんのそういう所は見習うべきだろうね。
ジャッシュさんに言われた通り、僕も周りを注意しながら進む事にする。草原の草の動き、視界に入る物全てに注意を向けて歩いていく。
──む!? 何だ……鳥が飛び立っただけか。驚かさないでよね……!
その様に、全員がジャッシュさんの言葉で周りに注意を向けて歩いていた所、その雰囲気を壊す様にアニーさんが口を開いた。
「ジャッシュ……。まだこの辺は大丈夫なはずよ? バール村からはまだ近いし、さすがにこんな場所では野盗も襲ってこないわよ……」
「な!? ば、バカ! 俺は冒険者は常に周りに気を付けて進めって事をガキ共に教えただけだ……!」
「ふーん……?」
「こ、心構えってやつをだな……!」
「はいはい、分かったわよ。それよりも、とりあえずそろそろお昼にしない? お喋りしながら歩いていたから、時間が過ぎるのもあっという間ね。ほら、お日様も真上に差し掛かってるわ」
…………。
と、とりあえずお昼だね。確かにお腹が減ってきた……と思う。
……調子が狂うけど、これも臨時パーティを組む事の経験だ。
いずれはキャラバンを組む商人の護衛依頼を受ける事もあるだろうし、その時はもっと多くのパーティが参加するだろう。そうなれば、今回以上にままならない事も起こり得るはずだ。
その時の為の予行演習だと思えば、とても良い訓練だと言えるよね。
その後、何だかんだで昼食を摂り、午後は午前中の様にだらけずに街道を進む。ライムの表情も、いつにも増して真剣だ。ガルバは言うまでもない。
ライムと同じ様に周りの景色に注意を払いつつも、僕は進む先を見据えた。僕達が越えるべき山がかなり近付いてきている。
バール村とセイル村を隔てる山には夕暮れ前には着くはずだけど、この分だと少し遅れるかな? 少しお喋りしすぎたかもしれないね。……主にジャッシュさんとアニーさんが、だけど。
「あ、そうだ! この先の山……【ロック山】には野盗だけじゃなくて【ハーピー】も出没するから気を付けてね? 見た所、君たちの中でハーピーに対処出来そうなのはガルバ君だけだから、もしもハーピーが出たらわたしの背に隠れる様にね!」
バール村を過ぎた時から山は見えていたけど、そうか、あの山はロック山って言うのか。
それはともかく、近付くにつれて次第に山の端が見えなくなってきた頃、アニーさんはロック山に出没する魔物について教えてくれた。
怪鳥ハーピー。
胸から顔が人間の女性の姿で、それ以外の部位が鳥という、空を飛ぶ魔物の代表格の内の一つだ。主に山岳地域に出没する事でも有名だ。神滅の森では、ドラゴン平原よりも北に多く棲息していたね。
そのハーピー、風属性の魔法を得意としていて、上空から鋭い風の刃を放ってきたりする。他にも超音波の鳴き声で方向感覚を狂わしたり、獲物を生きたまま上空へと連れ去って落として殺したりする。かなり厄介な魔物でもある。
ちなみに僕はハーピーを倒して喰らった事があるけど、やはり空を飛ぶので中々仕留める事が出来ず、その為ハーピーの力は得ていない。ハーピーの力を得ていれば、あの時のグリフォンももっと楽に倒せた事だろう。
ま、今となってはグリフォンの力があるんだから、今更ハーピーの力は要らないね。
「よーし、今日はここらで夜営にすっぞ!」
ハーピー云々について考えていたら、既に夕暮れを迎えようとしていた。その段階でのジャッシュさんの言葉である。
うん、ロック山まで少し距離が残ってるけど、わざわざ無理をしてまで進む事はない。
それに、無理してロック山に入った所で夜営となったら、それこそ野盗に襲われる可能性が高くなるだろう。
ジャッシュさんは実力が無くてもやはり冒険者としての経験が豊富な為、その辺りの決断力はライムよりも格段に高いよね。
ともあれ、僕達は街道から少し逸れ、適当に草を刈って夜営の準備を始めるのだった。
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