セイル村へ・2
梅雨が明け、夏本番といった暑さがやってきました。
コロナ騒ぎもありますが、くれぐれも熱中症にはお気を付け下さい!
ギルドでセイル村に手紙を届けるという依頼を受けた僕達猛き白狼は、例の如く、バール村の門前広場にて荷物の確認を行っていた。
「えっと、依頼の手紙を入れた革袋と……後はテントに、着替え……携帯食料に布でしょ? あ、今回はしっかりと薬草もあるわよ!」
荷物を確認し、我らがリーダーライムは胸を張り、そしてドヤ顔を披露しながら薬草はあるぞと言い放つ。うん、オークの依頼の時にライムも頑張って採取したからね。それでも持ってこなかったら……ドジとしか言い様がない。
「今回は忘れ物も無いようで一安心ですね。……所でルウ、君の荷物に下着類が無い様ですが、まさか履き替える事はしないつもりですか? 男の私が心配する事でもないですが、さすがに女の子は気にした方が良いのでは?」
ライムの荷物に忘れ物がない事を確認後、僕の荷物の中に下着類が無い事を指摘してくるガルバ。さすがご意見番だ、よく気が付く。
……と言うか、何を確認してくれてるのかな? 女の子の下着類を気にするなんてとんだ変態だよ、ガルバ。
あ、でも、ガルバも十歳なんだよね。変態は言い過ぎだけど、ガルバもそろそろそういう事に興味を持つ年齢って事だね。僕も前世ではそうだった。
それはともかく、ガルバに言い訳しなくちゃ。
「僕は汚れたら洗う主義なんだよ。母様にも余計な荷物を増やさない為にはそうしなさいって教えられたしね。だからガルバとライムもそうすれば良いと僕は思うよ?」
僕がドラゴンローブの下に下着類を付けていないなんて言えないからね。うん、上手い言い訳が出来たはずだ。
ライムは僕がドラゴンローブの下は何も付けてないって知ってるから怪訝な表情を浮かべているけど、その事を誰かに話したら絶交だと言ってあるので何も言ってはこない。
「なるほど……そういう事でしたか。ならば私も次回からはそうしてみますか」
「さ、さすがガイアスさんね! うん、ライムも次回からはそうしてみる!」
「うん、おすすめだよ!」
よし……! 完全に誤魔化せた! ライムも上手く話を合わせてくれている……!
……嘘をつくなんて信じられないという苦情は受け付けない。
人間、誰しも嘘をつくものだ。それに、僕の嘘は歳相応の可愛らしい嘘だと自負している。人に迷惑をかけてないから無罪のはずだ。
「それじゃ、バルデスさんに挨拶して出発よ!」
「「おー!」」
ともあれ、荷物の確認も終わった事だし、いよいよ出発だ。知らない場所に向かう事に、僕の気分も高まってくるというものだ。楽しみだよね、セイル村。
確か、セイル村に向かうには山を一つ越えなくちゃならないはずだ。
僕と母様が住むログハウスからはバール村の城壁が大きすぎてその山が見えない。かと言って、見た事が無い訳ではない。神滅の森に向かう時、東を見ればうっすらと見えてるからね。大きな山だって事は何となく分かっている。
そして、この世界に転生してから、山と言えば僕が生まれたあの岩山しか僕は知らない。それ以外の山がどんな山なのかはやっぱり気になる。ワクワクするね!
山はともかく、僕達はバール村を出る為にバルデスさんが守衛を務める門から伸びる人の列へと並ぶ。まだ朝と呼べる時間帯の為それ程人は多くなく、程なくして僕達の番となった。
そんな僕達に、バルデスさんはギルドカードを確認しながら声を掛けてくる。
「お、ルウファちゃんにライムちゃん、それとガルバ君が三人揃ってバール村を出るって事は依頼を受けたんだね? 神滅の森は今は無理だから、セイル村に手紙を届けるか、セイル村との中間にある山に素材採取に向かうかのどちらかだけど……今回は手紙を届けるとおじさんは予想したけど、どうかな?」
守衛のバルデスさんは髭が似合う強面の顔にニカリと笑みを浮かべ、僕達の依頼を予想してきた。うん、今日も一本だけ鼻毛が出てる。
そろそろ指摘した方が良いのかな? それともチャームポイントとしてあえて出しているのかな? 悩みどころだ。
「やっぱりバルデスさんも分かるんだ! そうだよ、ライム達は手紙をセイル村に届けるんだよ!」
「ええ、ライムの言う通りですバルデスさん。私たちは誰もセイル村に行った事がなかったので、今回行ってみようかとこの依頼を受けました」
バルデスさんの言葉に、ライムとガルバが答える。
二人の楽しそうな表情を見て頷いた後、バルデスさんは少し気になる言葉を口にする。
「やっぱりそうだったか! ならば丁度良いかな。君たちと同じく手紙を届ける依頼を受けた二人組の冒険者がいるんだが、その二人と君たちを合わせた五人で臨時パーティを組んでみないか? 君たちも冒険者として自信があるのは分かるんだけど、途中の山には野盗の類いも出没するから、少しでも安全に依頼を達成する為にはそういう事も経験した方が良いとおじさんは思って提案してみたんだが……どうする?」
やっぱり出るのか、野盗。
野盗とは、盗賊の集団の事である。
つまり野盗とは、一人で盗むよりも集団で襲う方が成功率も高くなる上、更に集団の方が生存率が高まる為に徒党を組む連中の事だ。普通の人にとっては迷惑極まりない存在だよね。しっかり働いて生活しろと言いたい。
ともあれ、そんな悪人がセイル村に向かう山には出没するとバルデスさんは言うのだ。
今まで人間の姿で暮らしてきて僕が出会った事のある悪い人達は、あの時僕を攫ったうだつの上がらない冒険者達だけだ。それでも僕はあの時本当に怖かった。
結果はご存知の通り、僕が恐怖でキレて皆殺しにしちゃったけどね。
しかし今回はライム達が一緒にいる。つまり、いざとなったら変身すれば良いやって事は出来ないだろう。
となれば、より安全にセイル村へと向かうにはバルデスさんの言う通り、臨時でパーティを組む方が良いと思われる。僕が攫われた時の様な恐怖は二度と味わいたくないし、ライム達にも味わわせたくない。
「どうする、ライム? 野盗が出るんじゃ、僕は臨時パーティを組んだ方が良いと思うけど……」
なので、僕はライムに聞く。僕がどう思おうと、リーダーはライムなんだから、最終的な決断はライムの気持ち次第となる。
「そうですね……私もルウと同じで、バルデスさんが言う臨時パーティを組んだ方が良いと思います。それに私たちは人を相手に戦った事がありません。もちろん、それは人の生き死にという意味で、です。だからこそ私たちの生存率を高める為にも、私もルウの意見に賛成という訳です」
僕に続き、ガルバもバルデスさんの提案をライムに勧める。
僕はともかく、ライムもガルバも人間を相手に戦った事が無いから、その点をガルバは考慮したのだろう。ガルバはご意見番だけに、物事を良く考えてるよね。
「うーん……そうだよね……。二人がそう言うんなら、ライムもそれが良いと思う。ライム達……人間と戦った事は無いもんね……。うん、バルデスさん! ライム達、バルデスさんの言う通りにするよ!」
初めは少し悩んだみたいだけど、ライムもそう決断してくれた。うん、ライムはリーダーとしての自覚が出てきたみたいだ。
今もライムは悩み、僕達二人の事を考え、そして決断した。そんなリーダーとして成長していくライムを見て、僕も頑張ろうって改めて思うよ。
「そうか! じゃあアイツらを呼ぶから少し待っててくれ。あ、次の方どうぞ! ……他の守衛に呼んでもらうから少し待ってくれ」
…………。
……バルデスさん、守衛の仕事を忘れてたよね、今……。
長話しちゃった僕達もそうだけど、話に夢中になると周りが見えなくなるから注意しなくちゃね。
それから、バール村から出る人々や入る人々に苛立ちの視線を向けられながら待つ事五分程。バルデスさんの守衛仲間の人が二人組の冒険者を連れて戻ってきた。どうやらギルドカードを忘れたとかで一人が取りに戻ってたらしい。
冒険者がギルドカードを忘れてどうするのかと聞きたい。と言うか、ラディアス王国では国民証にもなっているギルドカードを忘れるなと言いたい。
「ったく、なんだって俺らがこんなガキ共と一緒にパーティを組まなきゃなんねぇんだよ……」
「あんた! オークが狩れなかったんだから仕方ないでしょ!? それにこんな依頼でも金貨3枚なんだから真面目にやるのよ! 向こうでの宿泊代もギルド持ちだし、途中で食べる携帯食料もギルド持ちだし……ブツブツ……」
やって来た二人組の冒険者は、男と女の二人組だった。なんと言うか……うだつの上がらないチンピラ夫婦の様な雰囲気の二人組だ。二人の様子からしてギルドカードを忘れたのはきっと男の方だね。
「はぁ〜あ……! 俺の名前は【ジャッシュ】だ。いいかお前ら、ちんたら歩いてっと置いてくかんな!」
「こんな子達に何を凄んでんのよあんたは! それに、ギルドカードも忘れるようなあんたに言われたくないでしょうよ、この子達も! ……ジャッシュがごめんなさいね? わたしの名前は【アニー】よ。よろしくね、可愛い冒険者さん達」
……やっぱり男の方がギルドカードを忘れたらしい。
まぁそれはともかく、見た目に反して意外と礼儀正しい二人だね。ジャッシュさんは威張りながらも自己紹介をし、アニーさんはそんなジャッシュさんを窘めながらも優しくウインクして自己紹介しれくれた。
そんな二人組の冒険者をよく見てみる。
まずは男の方……ジャッシュと名乗る冒険者からだ。
髪の色は完全なる茶髪で、丸刈りにしてから二ヶ月くらい経った様なボサボサ頭をしている。
視線はさっきチンピラと例えた様に鋭いんだけど、結構な垂れ目だから少し愛嬌のある顔に見える。
歳は二十代前半くらいかな? あ、よく見ると頭の上に丸っこい耳があるや。見た感じハムスターっぽいから、ハムスターの獣人かもね。
次は女の方だ。
名はアニーと名乗っていたけど、前世でミュージカルとして有名だった女の子とは違い、こちらのアニーさんは絵に描いた様なボンキュッボンな体型である。しかし、母様には敵わないだろう。
髪の色はジャッシュさんと同様、こちらも茶髪だ。肩ぐらいの長さの茶髪を頭の左右で分けて無造作に結っている。ウサギの耳みたいだ。
あ、結ってる紐がリボン結びになってる! 意外とファンシーな人かもしれないね。歳もジャッシュさんと同じくらいだから、アニーさんがファンシーな感じでもまだ許されるだろう。
ジャッシュさんがハムスターならば、アニーさんの顔付きは髪型もあってウサギといった所だけど、残念な事に純粋な人間みたいだ。でも、可愛らしい顔をしている。
あ、二人とも青い革の軽鎧をお揃いで身に付けてる。武器は、ジャッシュさんが長剣で、アニーさんは槍を装備してるね。
そんな二人に対する僕の感想はともかく、今度は僕達が挨拶を返す番だ。
「は、初めまして! ライムはライムと言って、猛き白狼って名前のパーティのリーダーをやらせてもらってます! それで、黒髪の女の子がルウファって言って、白髪の痩せてる男の子がガルバです。二人ともパーティメンバーなので、よろしくお願いします!」
「ルウファです、よろしくお願いします!」
「ガルバです、どうも」
そんな僕達の挨拶に、ジャッシュさんは横を向きながら手を上げ、アニーさんは優しく微笑んで頷いてくれた。うん、何となくだけど上手くやっていけそうな気がする。
「それじゃ君たち、気を付けて行くんだぞ?」
臨時パーティを組んだ所で、バルデスさんはそう言って見送ってくれた。ただし、今回はしっかりと守衛の仕事をやりながらだ。入村、出村の許可をしっかりと行っている。いつもお疲れ様です、バルデスさん!
「ほれ、さっさと行くぞお前ら」
「もう! またあんたは! ライムちゃん達もジャッシュの事はあまり気にしないでね? それじゃ、行きましょうか!」
「「「は、はい!」」」
ともあれ、ジャッシュさん達と臨時パーティを組んだ僕達はセイル村へと向けて歩き出す。
何だかんだとあったけど、とにかく今回の依頼も頑張ろう。そんな気持ちを胸に、僕はセイル村に思いを馳せながらも歩くのだった。
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