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月の華  作者: 桜華
第四章 七大罪篇其ノ壱 暴食
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オーク一体の討伐・5

忘れてるかもしませんが、ガルバはハーフエルフです。

見た目がミイラに似てる残念白髪ハーフエルフです。

 

「まさかのコボルトに遭遇するなんて……!」


 パーティ猛き白狼こと僕達三人は、見事な連携によりゴブリンを倒して更に神滅の森の奥へと進み、一時間程経過した所でコボルトに遭遇した。僕の言葉はその際に呟いたものである。


「コボルトが一体だけで現れる事はありません! ルウもライムも、常に周りを気にしながら戦闘をこなしましょう!」

「分かってるわよ、ガルバ! ルウも気を付けて!」

「了解……!」


 以前にも述べたけど、コボルトは群れをなして獲物を狩る魔物である。そのコボルトが一体だけで現れるとはどうしても考えられない。

 僕の考えが正解ならば、目の前にいるコボルトは斥候もしくは囮で、僕達が戦闘に突入した段階で隙を突いて他のコボルトが一斉に襲い掛かって来るんだと思う。

 ガルバはそれを理解しているからこそ、僕とライムに向けて周りを気にしろと言ったのだろう。


 そうして二人は戦闘準備に取り掛かる。


「でも……ちょっと待って、二人とも。あのコボルト……何だか様子が変だよ?」


 しかし、戦闘準備に移行するライムとガルバに僕はそう告げる。


 僕も〈双竜剣〉を抜こうとしていたけど、どうにもコボルトの様子が変な事に気付いたのだ。

 そのコボルトは、しきりに後ろを気にしているし、よく見ると体に傷を負っている。つまり何かに襲われて、命からがら逃げ出した様に僕には見えたのだ。


「……確かに変ですね。何かに怯えている……?」

「うん、ガルバの言う通りにライムも見えるよ……」


 改めてそのコボルトを僕は確認していく。

 顔は前世で可愛いと評判だったチワワに似た顔をしていて、体は長い体毛に覆われている。尻尾は短いが毛がフサフサで、尻尾を含む体毛の色は薄い茶色だ。

 手にはどこから手に入れたのか錆びたナイフを右手に持っていて、腰にはゴブリンと同様に襤褸切れを巻いて股間を隠している。


 更にそのコボルトをよく見てみる。


 左腕の肘から先が何かに喰い千切られたのか失われていて、左脇腹も大きく抉れている。脇腹の傷からは内蔵が飛び出しているのも確認出来た。当然その両方の傷口からは大量の血が流れ落ちている。


「あのコボルト……もう死にそうだよ……!」

「まさか……ワーウルフにでも襲われたのでしょうか?」

「え!? ワーウルフって言ったら、あの!? ガイアスさんがかつて追っていたって言ってたやつ……!」


 …………。


 ……ライム? そ、その話題は僕の心を抉るからやめて欲しいなぁ……なんて。


 冗談はともかく、確かにあのコボルトの傷口を見ればワーウルフに襲われたと言っても可笑しくはない。むしろ、十人が十人ともそう答えるだろう。


 しかし、


「いや、よく見て二人とも。あの傷口は喰い千切られた傷じゃないよ……! まるで何かで溶かされて、そこを無理やり自分で切り取ったかの様に僕には見えるんだ」


 そう、躊躇い傷じゃないけど、コボルトの傷口の周りにはいくつもの浅い傷があり、痛みに耐えながらも自ら切り取った様になっているのだ。

 その証拠に、コボルトが持つ錆びたナイフには血がベッタリと付着している。ナイフが錆びた様に見えていたのは、コボルトの血で染まっていたからだろう。


「つまりルウが言いたいのは、あのコボルトは一体だけで何かから逃げている……という事でしょうか? それならば私たちには好都合です。あの様子からしてあのコボルトは間もなく死ぬのでしょう。それを待って討伐証明の尻尾を切り取ってこの場を離れるのが得策でしょうが、何かに追われているという『何か』が気になります。ならば、あのコボルトに今すぐトドメを刺して討伐証明を切り取ってすぐにこの場を離れる事が最善ですね」

「そうだね……うん、そうした方が僕も良いと思う……! このまま放置していて、もしも僕達が進む方にあのコボルトが逃げてきたとしたら、『何か』も僕達の方に来るだろうし、その『何か』が僕達の手に負えない化け物ならば……あのコボルトの次に死ぬ事になるのは僕達の方だからね……!」


 ガルバの提案に、僕はすぐに返答を返した。


 このままここにいたとしても危険だろうし、かと言って、あのコボルトを無視して進めば僕の懸念する通りになる可能性が高い。

 ならば、あのコボルトをすぐに仕留めて討伐証明の尻尾を切り取り、コボルトの死骸を残して僕達はすぐにこの場を去った方が無難だろう。

 本来であれば、毛皮を剥いで持ち帰った方が素材を買い取ってもらえるから稼ぎが良いんだけどね。そうも言ってられそうにない。


「ライムはどう思う? 僕は今言った様に、ガルバが言った案が最適だと思うけど……」


 異常とも取れるこの事態の判断をリーダー初心者のライムに聞くのは酷だけど、これもゆくゆくはライムの為だ。それに、僕達はライムを信用してるし、ライムの指示なら余程の事がない限りはその通りに行動するつもりだ。


「うん……二人の話を聞いたけど、ライムもそうした方が良いと思う……! そうと決まれば、さっさとあのコボルトを仕留めて移動しましょ! ルウとライムで突撃するから、ガルバは様子を見て危なそうだったら魔法で援護して! それじゃ、行くわよ!」


「「了解!」」


 リーダーとしての成長著しいライムの号令の下、僕達は瀕死のコボルトを仕留めるべく行動を開始した。


「僕は向かって右から攻めるから、ライムは左をお願い!」

「分かったよ、ルウ! 〖マナよ。我が言葉に従い熱となれ。体内を巡りて力となれ! 《フォース》!〗──やぁああああっ!!」


 森の木々を避けながらコボルトに肉迫する僕とライム。

 僕は姿勢を低く保ちながら腰の〈双竜剣〉を抜き放ち、コボルトに向かって右側から両剣で胴へ横薙ぎの一撃を狙う。コボルトの左脇腹の傷狙いだ。

 僕に並んで突撃するライムは《フォース》を唱えて身体強化した後、大剣で左袈裟斬りを狙って振り下ろした。


「キャウ!? ──ギャン……ッ──!」


 何かに怯えて後ろを気にしていた瀕死のコボルトは、僕とライムが突然現れた事に驚きの声を上げていたけど、直後の僕達二人の攻撃に為す術なくその命を落としていった。


「二人ともナイスです! さ、早く尻尾を切り取ってこの場を去りますよ!」

「うん、分かってる!」

「ライムがコボルトの気にしてた方を見てるから、ルウは出来るだけ早く切り取ってね……!」

「分かってるから焦らせないで……! ──良し! 切り取ったよ! 早く行こう!」


「「了解!」」


 こうして僕達は初めてのコボルトとの戦いを終えた。


 しかし僕達は言い知れぬ不安を感じていた。

 いったい何がコボルトを襲ったのか。

 どうしてコボルトは自らの体を切り取ってまで何かに怯え逃げていたのか。


 その答えが出ないままに、僕達は不安を振り払う様に更に森を北東方面に向けて進んでいく。


「ガルバ、ライム……止まって……! 見付けたよ……オークだ」


 得体の知れない『何か』の不安を抱えたまま北東方面に二時間程進んだ僕達の視線の先に、今回の依頼の目的であるオークを遂に見付けた。

 朝7時頃に夜営地から出発して二時間後にゴブリンと遭遇して倒し、その一時間後に瀕死のコボルトを倒したのだから、今の時刻はだいたい12時前後だろう。

 昼食時という事でお腹は減ってるけど、見付けたオークは幸いな事に一体だけだ。言うまでもなく今が絶好のチャンスである。


「他にオークは……どうやらあの一体だけみたいですね。どうします、ライム? このまま戦闘にしますか?」


 僕と同じ考えに至ったのか、ガルバはライムにそう切り出した。


「…………。……そうねぇ……お腹が空いてるけど、今なら一体しかいないし……うん、チャンスなんだからライム達はこのままオークと戦おう!」

「リーダーの雰囲気が出てきたね、ライム! それでどう戦う?」


 戦闘の判断を下したライムに、僕は尋ねた。


 オーク一体と戦うというのは、ゴブリン五体を同時に相手する程に厳しい相手だ。今までの様には行かないだろう。


「うーん……ちょっと待って……」

「さすがの私も初めてのオークとなると中々良い案が浮かびませんね……。第一、あの迫力です……ゴブリンやコボルトよりもあの大きな体は脅威と言えるでしょう」


 ライムはともかく、さすがのガルバもオークの迫力に驚いてるみたいだ。


 二人が作戦を考えてる間に、僕はオークの姿を見ていく。


 視線の先にいるオークの身長はおよそ200セルト程……つまり、2メルトの身長だ。顔は当然オークの最大の特徴である豚面であり、下顎からは二本の牙が上に向けて突き出ている。豚と言うより猪みたいな顔付きだ。

 その体型は厚い脂肪に覆われているけど、厚い皮下脂肪の下には強靭な膂力を生む筋肉の鎧が隠れている。恐らくだけど、視線の先にいるオークの体重は200セキはあるだろう。あ、以前にも言ったけど、1セキは1キロの重さを表すこの世界の単位だよ。


 オークは巨大な棍棒を肩に担いでいて、辺りを睥睨する様に視線をあちらこちらへと向けている。……偵察を命じられたオークなのかな?


 それと…………あまり言いたくなかったけど、視線の先にいるオーク……何も身に付けていない。つまり……ドリルの様な形状をしたシンボルが剥き出しに見えているのだ。


 しかし今回のオーク一体の討伐依頼達成の条件となる討伐証明は、そのドリルの様なシンボル一式なのだ。討伐後は当然それを切り取って持って帰らなければならない。

 本当はその体ごと持って帰る事が出来るならば良いんだけど、例え荷車を用意したとしても、子供の僕達では重過ぎて持って帰る事が出来ない。もしもオーク一体の全てを持ち帰る事が出来るならば、素材買い取りと依頼達成報酬を含めて何と金貨20枚にもなるのだ。

 だけど僕達には無理だから、討伐証明となるオークのシンボル一式しか提出出来ない。報酬も金貨1枚から2枚となってしまうのだ。シンボル一式を切り取って提出するのは嫌だし切ないけど、求められてるんだから仕方ないよね。


 ちなみにだけど、オークのシンボル一式は精力剤の材料になるらしい。うん、僕は飲みたくないし、女の子だから必要もないね。


「決まりました。ちなみに聞きますけど、ルウはガイアスさんから双剣を学んでましたから接近戦は得意ですよね?」


 僕がオークの事を考えてる間に、何やらガルバは作戦を思い付いたみたいだ。その表情からは自信が窺える。


「うん、お手の物だよ! さすがに母様には勝てないけど、オークくらいなら攻撃をもらわない自信があるよ」


 だから、僕はガルバの質問に自信を持って答えた。


「ライム、私からの案ですが……あのオークの相手はルウ一人にしてもらいましょう」


 ッ!?


 な、何を言い出すんですかね、この白髪ミイラハーフエルフは!?


 さすがの僕でもオークを相手に一人で勝つのは無理だよ、この姿じゃ! 第一、この姿じゃ体力がもたないよ……!

 オークは厚い皮下脂肪でも分かる通り、スタミナは無尽蔵じゃないかと思う程にある。そんなスタミナお化けに今の非力な十歳児の女の子である僕が勝てる訳ない。僕に死ねと言ってるのだろうかと、小一時間程問い詰めたい所存である。


「ルウが一人でオークを相手にしてる隙を突いてライムが大剣で背中から攻撃し、私は今回は精霊魔法でサポートします。この作戦ならばオークの一体ならば確実に勝てるはずです!」

「なるほど……! うん、それなら何とかなりそうだとライムも思うよ……! ルウには一番大変な所を任せる事になっちゃうけど、ルウが無理だと言うならライムがルウの代わりをやるから安心して!」


 そ、それなら何とか勝てそうだね。ガルバ……疑ってごめんなさい!


「それなら何とかなりそうだね……! それに、ライムに僕の代わりは務まらないよ。僕にライムの代わりにリーダーが務まらない様にね! それじゃあ、僕も本気で頑張ってみるから、ライムとガルバは上手い事やってね!」

「任せて下さい……! 《ノーム》と《シルフ》にお願いしてオークを抑えてみせます!」

「ライムもオークの隙を突いて重たい一撃を与えてみせるから、ルウも頑張ってね!」

「うん、ライムとガルバもね!」


 こうして凡その作戦は決まった。後は機を見て上手く立ち回れば良いだけだ。

 オークは今の僕達には強敵だけど、僕達なら必ず勝てるはずだ。なんと言っても、三人集まれば文殊の知恵だからね。……こういう時の例えって三本の矢だっけ?


 ともあれ、僕達はオークに対して行動を開始した。

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