忘れられない日・1
ブクマ100件が見えて来ました……!
これも一重に、この作品を読んでくれる皆様のお陰です!
いつもありがとうございます!
どうしてこうなったのだろうか。今日は母様に初めてバール村に連れて来てもらい、冒険者として登録した記念すべき日のはずだったのに。
「ひっ!? ば、化け物──ッ!? ぎゃあああああッ!!」
僕を化け物と呼び、腰を抜かした人間を有り余る膂力で掴み上げ、その体を頭上で真っ二つに引き裂く。人間の体から溢れ出る血を僕は口を大きく開け、喉を鳴らしながら飲み込んでいく。その血の味に、僕の人狼としての体が喜んでいた。
「ひぃぃっ! た、頼む……ッ! 助けてくれぇええ!! ──ッ……!」
真っ二つに引き裂いた人間の血を飲み尽くした後、残る一人へとゆっくりと近付き、その頭をたわいもなく握り潰した。人間だった者の体はビクンと震え、その後力なく地面へと倒れる。
結果……
僕は……数十人の人間を皆殺しにしていた。
「ウォオオオオォォォォォンッ!!」
どうしてこうなってしまったのか。僕はそれを考えながら、悲しき遠吠えを闇夜の空へと放っていた──。
☆☆☆
マイキーさんの鍛冶屋を離れた後、母様と僕は食後のスイーツが有名なレストランへと足を運んだ。
レストランとは言っても、どちらかと言うと食堂なんだけど、食後に出て来たスイーツは正にレストランと名乗るに相応しい物で、僕と母様は最後まで美味しくいただく事が出来た。お腹がいっぱい、味も満足と、レストランという名の食堂を二人で堪能した。
ちなみに、ドラゴンナイフは母様に預けてある。せっかくの小洒落た町娘風な可愛い服装なのに、その腰に武骨なドラゴンナイフを差してたら台無しだ。という事で、そのドラゴンナイフは母様のベストの内側にあるホルダーに収まっている。
「美味しかったね、母様!」
「ホントねぇ……! このお店は初めて入ったんだけど、気に入ったわ、母さん♪ 次にバール村に来た時も必ずここのお店に寄りましょ!」
「賛成ーっ!」
食後のスイーツを食べ終え、紅茶を飲みながらの僕と母様の会話である。
母様が気に入ったと言ってるけど、当然僕も気に入った。僕も母様も、やはりスイーツの味の虜になってしまった。リンゴに似た果実のアプルをふんだんに使ったアプルパイ、もう最高でした!
……いや、スイーツ以外の料理も美味しかったよ?
母様が作る事が出来ないオーク肉のトロトロ煮込みや、やはりプロの味と言った白パン、それに……なんと言っても野菜のサラダがとても美味しかった。僕がほうれん草だと思って食べたテトロキシ草なんて目じゃない程に美味かった。……ホントだよ?
「さて、と。ルウはこの後はどこか行きたい所はある?」
食後の余韻に浸っていたら、母様からそう聞かれた。
僕としては、ここまでで既に大満足と言える程に満足していた。
初めて連れて来てもらったバール村に、ギルドで冒険者として正式に登録と母様との正式な親子認定。更にはマイキーさんのお店で今日の為に造ってもらっていたドラゴンナイフのプレゼントである。そしてたった今食べ終わった美味しい料理やスイーツと、これ以上を望めば、本当に嫌な事が起こってしまいそうな程に色々と嬉しい事が重なっている。
だから……
「……出来れば母様がいつも買ってきてくれる、僕の服を扱うお店を見たい……です……」
……僕はそう答えた。何だか、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。母様の優しさに甘えすぎな気がして。
「どうしたの、ルウ? 今日からは本当に本当の親子になったんだから、そんな他人行儀な聞き方をしないで、母さんにハッキリと言ってちょうだい! でも……さすがにいきなりって言うのもルウにはまだ難しいわよね。だって、ルウは凄く優しいからね。母さんに内緒でこっそり家のお手伝いをしてるのは知ってたのよ? 母さんが知らないと思ってたの? ちゃんと知ってたわよ、母さんの気付かなかった所のお掃除。いつの間にか綺麗になってたんだもの、気付かないはずないじゃないの……!」
全て……お見通しだったのか。
母様にはいつもお世話になってるから、母様が疲れて眠ってる間に、母様が気付かなかった所をお掃除したり、家の畑の雑草を率先して抜いたり、あとトイレを毎日お掃除したりしてた事を。
本当の母様と思って生活しているけれど、やっぱり心のどこかでは血が繋がってない事を意識してしまう僕がいる。だからこそ、その心の隙間を埋める様に、そして前世では出来なかった親孝行のつもりで色々としてきた。
その全てが母様にバレていた事を恥ずかしく感じるし、知っていてくれた事を嬉しくも感じる。そんな事を感じるなんて、僕は本当に幸せだよね。
「じゃ、じゃあ、僕……新しい服が欲しいんだ!」
「やっと素直になってくれたわね……! 母さん、嬉しくて泣きそう。でも、泣かないわ! 泣いてたら、ルウの服が買えなくなっちゃうものね」
「僕もだよ、母様……! これからも僕はわがままを言うし、きっと粗相もする。だから、母様はその度に僕をしっかりと叱ってね!」
「うふふ、ええ! しっかりと叱るわよ? それじゃ満腹だったお腹もそろそろ落ち着いたし、ルウの服を買いに行きましょ!」
「うん! ありがとう母様、そんな母様がいつも好きだよ? そして……これからもよろしくお願いします♪」
そんな、心温まる会話をし、レストランを後に服飾店へと向かった。またか、と思うかもしれないけど、僕は母様と手を繋ぎながら服飾店へと歩いていく。母様の手は柔らかく、そして暖かく……僕の全てを包んでくれる様に感じた。
本当に幸せだった──
──母様と訪れた服飾店までは。
「ここがいつもルウの服を買っているお店よ!」
母様が自慢げに教えてくれた服飾店は、まず間違いなく男性が入る事を拒否しそうな程に女の子女の子したお店だった。いや、ちょっと危ない雰囲気のお店にも感じる。だって……店頭には大人な下着がズラリと展示されているのだから。
本当にこのお店で僕の服を買っているのだろうか? むしろ、勝負下着を扱うお店にしか見えない。
ま、まさか……いや、そうとしか思えない。母様もやっぱり女性という事なのだろう。
母様は僕という子供を育てている。母様と僕。そこに足りないものと言えば……そう、僕にとっての父親だ。
つまり母様は、僕の父親になってくれる人を探す為にいかがわしい下着や服を買おうとしてるのではなかろうか。
くっ……! 母様、僕は母様がいるだけで嬉しくて、満足してます。どうか、自分の体を安く見る事はやめて下さい!
「あら? この娘がガイアスが言ってた娘なのね?」
「えぇ、そうよ? ルウファって言うの、可愛いでしょ? あたしの自慢の娘なんだからね、可愛い服を選んでよ?」
「まっかせなさい! 初めまして、ルウファちゃん。私は【レイラ】って言うの、可愛い服を選んであげるから覚悟しなさいね!」
母様の心配をしていたけど、どうやら僕の杞憂だったみたいだ。ひとまずは安心だけど、レイラさんという人が挨拶してくれたんだから、僕も自己紹介しないと失礼だよね。
あ、でも……
「ぼ、僕の名前はルウファって言います。母様共々、これから……あの、その……よ、よろしくお願いします」
「あら! ガイアスの娘にしては礼儀正しいわね! 気に入ったわ! うんと可愛い服を選ばなくちゃ! じゃないと、ルウファちゃんに申し訳ないわ! それじゃガイアスもこっちに来て、私と色々と相談しながらルウファちゃんに似合う服を選ぶわよ!」
「もちろんそのつもりだけど、レイラ……あんたもう少し落ち着きなさいよ? ルウが怯えて震えてるわ」
お、怯えてはいないです、母様。……実はさっきからトイレに行きたいのです。
「あら? ごめんなさいね、ルウファちゃん。おほほほほ!」
おほほほほ! と、どこぞの若奥様の様な笑い声を上げたレイラさん。トイレにも行きたいけれど、少しだけ怖いと思ったのも事実だ。……そのレイラさん、母様に負けず劣らずの素敵な美人さんだ。あ、母様より少しだけぽっちゃりしてるかな?
髪の色はコレぞファンタジーといった青色で、商売をしているからかその顔は少しキツめな感じだ。クールビューティと言えば伝わるかもね。
服装は……体のラインが際立つタイトなドレスだ。少し目のやり場に困る。
いや、それよりもトイレに行きたい。このままだとバール村の人通りの多い場所で粗相をしてしまう。母様にもお尻叩きの刑を処されてしまうだろう。
「か、母様……あの、その……僕、トイレに行きたいの」
「そう言えば少し前からモジモジしてたわね。ねぇレイラ、トイレは借りられる?」
「ああ、そういう事なら……トイレは店内には無いの、ごめんなさいね? 店の脇から裏に抜けて、そこにトイレがあるから自由に使って良いわよ?」
「じゃあルウ、母さんとレイラは店内で先に服を物色してるから、ルウもトイレを済ましたらすぐに入って来るのよ? 分かった?」
「うん、分かったよ母様。じゃあレイラさん、おトイレをお借りします!」
「ホント、ガイアスに似ないで礼儀正しいわね。じゃあ、行ってらっしゃいな」
トイレの許可をもらい、僕はいかがわしい雰囲気満点の店の脇から裏へと向かい、裏の小道に面したトイレへと入ろうとした。
「嬢ちゃん! ちょっと頼みがあるんだ! 少しだけ良いか?」
トイレに入ろうとした所で、僕は男の人に声を掛けられた。どこから声を掛けられたのだろうかと声のした方を見ると、服飾店から二軒程先にある路地の辺りにその男はいた。男は、その路地の陰から僕の事を手招きしている。
あの人は確か……ギルドで僕を突き飛ばした人だ。あの、使い古したレザーアーマーを着た、騎士崩れの様な顔をした冒険者だよ。
しかし何だろうか、僕は早くおしっこをしたいのに。早くしないとまた漏らしちゃうよ。
「何でしょうか、冒険者のお兄さん?」
しかし、外で僕のトイレが終わるのを待たれるのも何だか恥ずかしいので、先に騎士崩れの様な冒険者の話を聞こうとした。音を聞かれるのって恥ずかしいよね?
僕は話を聞く為に、小さく手招きしている騎士崩れの様な冒険者の下へと近付いた。何も疑う事なく。
「ああ、実はな……こういう事だよ! お前がガイアスの娘って事を恨むんだな!」
「え? きゃああああああ!!」
油断してたんだと思う。バール村の中って事もあるけど、母様が近くにいるし、今日は嬉しい事がたくさんあった事も油断していた理由だろう。
──僕は、その冒険者の男に攫われた。
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