冒険者登録と母様からのサプライズ
本日更新二話目です!
「はい、こちらがルウファちゃんのギルドカードよ。今回は初めての登録という事で無料で発行されたけど、紛失して二回目の発行となると料金が発生するから気を付けてね? それでは良い冒険者ライフをお過ごし下さい!」
その言葉の後に、僕は受付嬢からギルドカードを受け取った。大きさは大人の手の平サイズで、色は鉄級を表す鈍色である。表面には黒色で、僕の名前であるルウファの文字が刻まれていた。
「これでルウも母さんの本当の娘ね! それと……おめでとう、ルウ! 行商人の娘として生まれて、それで色々あったけど、これで誰にも文句を言われる事はなく正式にこの国の国民として認められたのよ。母さんも凄く嬉しいわ!」
「ありがとう、母様……。僕……僕……! うぇえええ〜〜ん……」
僕が泣いてしまったのには理由がある。
今までも、母様とは親子としては認められていた。しかしそれは、言うなれば仮初のものだった。
何故かと言えば、僕が行商人の娘だと認定されていても、実際にはその娘のギルドカードを僕が持っていなかったからだ。書類上は養子縁組となっていても、そのギルドカードが無かった為に実際には仮初となっていたのだ。
その事を今回の登録の時に母様から聞かされて、それと同時に、仮初とは言え……今までもずっと本当の親子として接してくれていた事に僕は感極まってしまったのだ。
だけど、これで気兼ねなく誰にでも僕の母様はガイアス母様だと胸を張って言える。それがたまらなく僕は嬉しかった。
「でも、ルウ? ちゃんと説明を聞いて内容は覚えられたの?」
「うん、バッチリだよ母様! えっと……ギルドカードには個人のマナ紋が登録されていて──」
僕が泣き止んだ後、母様に確認の為に登録時に受けた説明の事を聞かれた。僕はそれを一つ一つ答えていった。
登録時に受けた説明とはこうである。
・ギルドカードは、個人のマナ紋を登録する魔道具である。
・カードの色は冒険者としての格付けを表すもので、格上げ試験で冒険者としての格が上がれば、ギルドでの更新手続き後に格に準じた色となる。
・ギルドカードには受けた依頼の数と、その格、そしてそれぞれの格で達成された依頼数が記録される。
・ギルド銀行に貨幣を預けてあれば、どこのギルド支部でもギルドカードを介して貨幣の出し入れが出来る。
・紛失時の再発行には金貨一枚が必要である。
・このギルドカードはラディアス王国の正式な国民証である為、ギルドの魔道具とラディアス王国が認めた機関でしか変更ないし確認は出来ない。
・ルウファは正式にガイアスの娘である。
という事を、説明された順番は違うけど僕は母様にしっかりと答え、母様はいちいち僕の言葉に頷いて、そして涙ぐみながらも美しい笑顔を浮かべて聞いてくれていた。
その母様の様子を見ていたら、また僕の目からは涙が溢れてしまった。
……というのを、登録カウンターの前でしばらく続けてしまった。僕達の他に登録に来ていた子供の登録を待つ親達は涙ぐんでいたけど、受付嬢は気まずそうにしながらも笑っていた。
その後母様と二人してハッ! とその事に気付き、慌ててギルドを後にしたけど、僕達の顔はしばらく真っ赤に染まっていた。本当に、恥ずかしかった。
ともあれ、僕の冒険者登録は無事に終わった。感無量である。
ちなみにだけど、行商人の娘としてのギルドカードを持ってないのに、紛失ではなく今回初登録として扱われたのは母様のお陰である。詳しくは教えてくれなかったけど、色々とあちらこちらへと手を尽くして実現したらしい。
ギルドの中でも思ったけど、母様っていったい何者なんだろうか。それを知りたいとも思うし、やっぱり知るのが怖いと思う気持ちもある。……知らぬが仏って言うし、考えるのはやめとくか。
そんな事を考えながら通りを歩き、路地を曲がった所で母様が口を開いた。
「あー……変な汗かいちゃったわ……。さて、じゃあ母さんが贔屓にしてる鍛冶屋に行きましょうか」
「うん! 所で母様? 鍛冶屋では何をするの?」
確かに僕も変な汗が出たよ……。
それはともかく、母様は鍛冶屋に何の用事があるのだろうか?
「行ってからのお楽しみ!」
「教えてくれてもいいのに……! 母様のケチ!」
「うふふ、こういうのはその時になって知った方が楽しいと母さんは思うの。だから、お・た・の・し・み・に!」
うーん……確かに僕もそうだとは思うけど……。
まぁ、母様がお楽しみにと言うんだから、きっと僕にとっては良い事が起きるんだろう。
あ、もしかして、僕にカッコ良い武器や防具を買ってくれるんだろうか。それならば凄く嬉しいし、母様がお楽しみと言うのも分かる。
漆黒の鎧に漆黒の武器……憧れる。ちょっと身に付けた自分の姿を想像してみるか。
……凄く、良い。黒髪に、漆黒の鎧。その姿で漆黒の剣を構える僕。その後、押し寄せる魔物共をバッタバッタと斬り伏せていく。ダークヒーロー的なその妄想に、僕の顔もニヤけるというものである。
「ルウ? 気色悪い顔しないの。で、鍛冶屋に着いたわよ?」
「う、うん……」
気色悪かったらしい。いくら母様とは言え、気色悪いというのは大変遺憾である。
さて、そんな僕と母様の前には、これぞ鍛冶屋と言わんばかりの店構えをした建物がある。平屋の石造り建築だ。
入口の上部には看板が掲げられ、その看板には盾の前に二本の剣が交差する絵が描かれている。あ、その絵の上に金槌の絵が描いてあるや。なるほど、確かに鍛冶屋の看板だね。
盾と剣だけだと装備を売るお店に間違われるかもしれないけど、金槌が描かれているから間違える人はいないだろう。
次に、入口を見てみる。うん、ボロボロの剣や鎧などが置かれているね。修理を待つ装備類なのかな? 一応屋根がかかってるから雨には当たらないと思うけど、かなり扱いが雑に感じる。
それとも、廃棄処分された装備類なのかな。溶かして、新しく装備類を造る為の物かもしれないね。
「【マイキー】! いるかしら? マイキー!」
店構えや入口脇に置かれていた装備類を考察していたら、母様が大きな声で店の奥へと呼び掛けた。どうやらこの鍛冶屋の店主、もしくは鍛治職人の名はマイキーというらしい。
マイキーと言えば、マイケルって名前の愛称だったりするけど、この場合はどっちなのかな? 本名? 愛称? 実は全く違ったりして。
そんな事を考えていたら、店の奥からはドスの効いた声で返答があった。
「うるせぇぞ、この小娘がぁ! いくら儂が鍛冶屋だろうが、しっかりと聞こえるって話よ!」
「あらそう? で、早く出て来なさいよ! マイキーに紹介する為に今日はルウを連れて来たんだから!」
「……嫌じゃ!」
「マイキー、あんた……相変わらず人見知りなのね……。じゃあ、あたし達が中に入るわよ? それなら最低限の人間しかいないし。……さ、ルウ、入るわよ」
「……は、はい」
内弁慶極まれり的な人なのだろうか。まぁ、中に入ればどんな人かは分かるんだから、とにかく入るか。
僕は母様と共に、マイキーという人物の鍛冶屋の中へと入っていった。
「うわぁ……! 凄いカッコ良い! それに、凄く綺麗だね! ね、母様!」
思わず言葉が口をついて出てしまう。店の中は所狭しと剣や鎧が飾られていた。そのどれもがピカピカに光っていて、僕は目移りしながら興奮してしまう。
「そうでしょ? 店の中にあるのは全てマイキーが鍛冶の技術をふんだんに詰め込んで造った物なのよ?」
「…………(ポッ)」
ッ!?
「び、ビックリしたぁ……! あ、初めまして! 僕、ルウファって言います!」
「…………」
「……マイキー。はぁ……。この娘はあたしの娘でルウファよ? で、ルウ、そこの鎧の陰で隠れてる様で隠れてないずんぐりむっくりなのが、この鍛冶屋の店主のマイキー。見ての通り、爺さんドワーフよ」
「マイキーさん、よろしくお願いします!」
「…………(こくり)」
ひ、人見知りにも程があるのではなかろうか!?
店に入る前の威勢の良いあの声は何だったのかと小一時間程問い質したい。しかも、ツンデレ属性の持ち主だって!? ドワーフの爺さんのツンデレ属性なんて誰得なんだよ、と叫びそうになってしまった。
そんなドワーフのマイキーさん。身長は150セルトと小柄で、その体はこれでもかってくらいにはち切れんばかりの筋肉の鎧に覆われていた。肌の色は赤茶けている。
顔は目と鼻が辛うじて見えてるくらいに髭モジャで、その色は白髪なのか真っ白である。髪の毛も白髪でボサボサだ。あ、デニム生地の袖無しオーバーオールっぽいのを着ているね。うん、生粋の鍛治職人って感じだ。
「それで……マイキー、頼んでた物は出来てる?」
「…………」
「マイキー! もうルウにも慣れたでしょ! こっちはお客さんなのよ!? いい加減にしなさい!」
「ッ!? お、おお……! わ、分かったわい! 改めてよろしくのぅ、ルウファ。儂がマイキーじゃ! しかしガイアス……お前さんはそんなキャラじゃなかったはずじゃが?」
「マイキーがそうさせるんでしょ!?」
「わ、分かったわい! 注文の品ならほれ、そこのケースに入っておるわい」
…………。
なんだろうか、この売れない芸人を見てる様な気分は。
そ、それはともかく、母様は、どうやら何かを造ってくれと注文していたみたいだ。その受け取りに僕を連れてここまで来たという事は、もしかしたら僕へのプレゼントという事かもしれない。
だとしたら、今日はなんて嬉しい事ばかりが起きる日なんだろうか。
初めてバール村に連れて来てもらえた事に始まり、ギルドでの冒険者登録と正式に母様の娘として認められた事。そしてマイキーさんのお店での僕へのプレゼントだ。こんなに良い事ばかりが続くなんて、もしや明日は世界が滅びるのではなかろうか? 嬉しすぎて、そんな事さえ考えてしまう。
「じゃあ開けてみて、ルウ」
「ほ、本当に僕への物だったの!?」
「そうよ。今日の為に以前から頼んでたんだからね。だからそれを受け取って、そして喜んだルウの顔を母さんに見せて?」
「……ぐすっ……!」
涙がまた溢れてきた。こんなに幸せで、僕は本当に良いのだろうかと思ってしまう。苦労して、辛い思いまでして神狼の母様の毛皮を取ってきて、本当に良かったと心から思えた。
神狼の母様……貴女のお陰で僕は本当に幸せです。ありがとうございました……!
と、神狼の母様への感謝を天へと捧げ、僕はマイキーさんが指し示したケースの蓋をそっと開いた。
「これは……!」
「それはね、ルウをワーウルフから助けた時に手に入れたドラゴンの牙を使って、マイキーに造ってもらった物よ。形状は綺麗なナイフに見えると思うけど、ただのナイフじゃなくて、魔法を使う為の媒体にもなっているの。それを腰に差した状態でも装備して呪文を唱えれば、今のルウでも一人前の威力の魔法が放てる様になるはずよ? それに、今日からは冒険者なんだもの、ナイフの一つも持ってないと格好がつかないものね」
「儂の自信作となった一振りじゃ! 頑丈さ、斬れ味、性能の面の全てを保証するぞい! 遠慮なく受け取ってくれい!」
「……マイキー? あたしとルウの感動の場面に割り込まないで!」
「す、スマン……」
ぐ、グダグダになってしまった……。鍛冶の腕前は確かなのかもしれないけれど、マイキーさんは芸人としての素質も持っていそうだ。芸人としてデビューする事があったら、その時は是非とも応援してあげよう。
ともあれ、母様からの初めてのプレゼントだ。大事にしないとね。
「母様、本当にありがとう。僕……ずっと、ずーっと大事にするね!」
「えぇ、ルウが喜んでくれて母さんも凄く嬉しい……! じゃ、お昼を食べに行きましょ!」
話の切り替えが速い!? か、母様も芸人の素質……あ、いえ、何でもないです。
「また何かあれば何でも造ってやるから、二人とも遠慮なく儂の店に来い! またの!」
という訳で、母様からのプレゼントでドラゴンナイフを手に入れた僕は、その母様と二人で手を繋ぎ、芸人マイキー……もとい、鍛治職人を極めた老ドワーフの店を後にしてお昼を食べに向かうのだった。
お読み下さり、ありがとうございます。
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