冒険者ギルド
ストックがまた少し貯まったので、本日もやります……二話更新……!
という事で、本日一話目です。
僕を冒険者登録する為、母様は僕の手を引き、登録専用の受付けカウンターへと並ぶ。僕達親子以外は、やはり生まれたばかりの赤ちゃんを抱いた母親や父親、その親類などが並んでいた。
登録を待つその人達の人種は、やはりバール村を表す様で、ドワーフやエルフに獣人と、変化に富んでいる。
「うーん、結構かかるかもね……」
列に並ぶ人達の最後尾に並び、母様がその人数を見て呟く。登録にどれだけの時間が掛かるか僕には分からないけど、確かにそれなりの時間は掛かりそうだ。
現に、たった今登録を終わったばかりの親子は、時間にしておよそ15分は登録に費やしていた。そして、僕達の前に並ぶ親子の人数は20人程。
登録受付けカウンターは二列で対応しているけれど、それでも僕達の番になるまで二時間半は掛かる計算だ。
「先にお昼にする訳にもいかないし、鍛冶屋だってまだ開いてないものね……。仕方ないか。ねぇルウ? 母さんが並んでてあげるから、ルウはギルドを見学してても良いわよ? ただし、冒険者を怖いと感じたらすぐに母さんの所に戻って来る事。ルウがそれを守れるんだったら、行っても良いわよ?」
「……ホントに良いの? でも、ありがとう母様! 少し気になってたんだぁ……!」
僕が並ぶのをつまらなそうにしていたのがバレたのか、母様はギルドの中を僕の自由に見学して良いと言ってくれた。並ぶのは嫌いじゃないけど、確かに二時間半近くも並ぶのはつまらない。色んな人種の冒険者を見ているのもそのうち飽きるだろうし。
「一応、これだけは言っておくわね。いい? 母さんから見える範囲にいる事。それならば変な人に絡まれてもすぐに助けてあげられるからね。それじゃ、行っても良いわよ?」
「はーい! ありがとう、母様!」
そう、快く返事を返した僕は、まずはギルド内をぐるりと見回す。ギルドに入った時にも多少は確認していたけど、やはりこのバール村のギルドの広さはラノベとは桁違いだ。相当な人数の冒険者が来ても全然余裕そうな広さである。恐らく、千人は入るんじゃないだろうか。
そんな広さを誇るギルドの内装は、建物の外見は総石造りだったのに対し、中は総木造りの内装である。前世の教科書で見た事がある、一昔前の役所の様な雰囲気を感じる。中々にノスタルジックだね。
さて、ギルドの入口から何があるかの確認をするか。
入口から中に入りすぐの右手側には、まるで図書館の書棚を見ているかの様な錯覚を覚える空間がある。それぞれ通路があり、そこでは多くの冒険者達が書棚らしき物をマジマジと眺めている姿が見受けられた。
アレは……そうか、あの書棚と思ったのは実は掲示板で、そこに貼られた依頼票を冒険者達は見ているのか。
さすがは巨大なギルドの本部、依頼の量も桁違いという事なのだろう。大量の掲示板にも納得だ。
その掲示板……掲示棚の反対方向、つまり入口を入って左手側には、各種カウンターが勢揃いしている。今僕が母様と並んでいるのもこの辺りだ。
まず登録カウンターがあり、依頼受付けカウンターと依頼達成報告カウンター、報酬受取りカウンターに、魔物の素材を買い取るカウンターと……やはりギルドの業務を担うカウンターが並んでいる。
この時間は特に、依頼受付けカウンターが混雑している様だ。全部で10人が座れる受付けカウンターの全てが受付嬢で埋まっており、それぞれの窓口……衝立で仕切られた長机の前には、やはり数多くの冒険者達が並んでいる。
きっと、早朝からお昼の少し前までは混み合ってるんだろうな、とラノベの知識を引用し、たくさんの冒険者の依頼を捌く受付嬢には心の中でお疲れ様と呟いておいた。
後は……あ、入口から入って真っ直ぐ進んだ辺りに食堂らしきものがあるね。という事は、あそこはギルド併設酒場って事になるのかな? この時間は疎らだけど、何人かの冒険者が何かを飲みながら食事をしている姿が見える。何かを飲みながらの何かは、恐らくお酒だろうね。いつかは僕も飲んでみたいと思う。
何日間か掛けての依頼を終えた冒険者が飲み食いしているのか、それともこれから受けた依頼に行く前の腹拵えをしているのか分からないけど、僕も将来はあそこで食べてみたいなと思える雰囲気だ。
という訳で、僕が一番気になるのは掲示棚だから、そこを見学しに行こう。
「どうしたの、ルウ? 見学しに行かないの?」
「……こ、これから見に行こうとしてたの!」
「……? 変な娘ねぇ……。じゃあ、行ってらっしゃい」
……母様は意外とせっかちなんだろうか? 普段はおっとりしてる様でも、時たま凄く怒るし、急かす時もある。……あの日、だろうか? 女の人に毎月訪れるというアレ。
僕はまだ五歳児という事で経験してないけど、やはり辛いのだろうか。神狼形態の時も人狼形態の時も経験してないだけに、少し不安を感じてしまった。
ま、まぁ、僕がソレを経験するのは、最低でもあと五年は先だ。今から憂鬱になっても仕方ないし、母様があの日になってるとも限らない。
そんな事を心配するより、また母様に急かされる前にさっさと掲示棚へと行こう。
「なるほど……! 棚じゃなくて、やっぱり掲示板になるのか。それに、一つの掲示板が同じレベルの依頼で纏められてもいるみたいだね」
掲示棚……いや、掲示板コーナーへと行き、それらを見て呟いた。
大きな掲示板の縁……上部の真ん中には【鉄級】の文字があり、種類がたくさんある依頼票にはそれぞれ番号が振ってあった。そして掲示板の下には【鉄―〇】と書かれた木札がたくさんフックにかけられている。〇の中にはそれぞれ数字が書いてある事から、その数字は依頼に振られた番号を表しているのだと思う。
つまり、依頼を受けるには受けたい依頼の番号が書かれた木札を取り、それを依頼受付けカウンターへと持って行き、そして受理されれば正式に依頼を受けた事になるんだろう。
このシステムならば依頼票を奪い合う事もなく、円滑に依頼を受けられるという事か。なるほど、巨大なギルドならではのシステムである。
しかし、掲示板にある鉄級の文字とは何の事だろうか?
その文字に疑問を持った僕は、他の掲示板も順に見ていく。すると鉄級の他に【青銅級】、【銀級】、【金級】、【白金級】、【魔銀級】、【神金級】と、全部で七種類の文字がある事に気付いた。
「これは……もしかしてだけど、冒険者のランクを表してるのかな? でも、そうとしか思えないよね」
思わず口にしてしまったけれど、まず間違いなくそうなのだろう。一番種類が多い依頼は鉄級で、逆に一番少ないのが神金級だ。つまり、それぞれに冒険者のランクを当て嵌めると自ずと答えは出てくるだろう。
ちなみにだけど、それぞれの文字には振り仮名が振ってあって、鉄級から順に、アイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ミスリル、オリハルコンとなっていた。
「邪魔だ! ガキがこんな所でチョロチョロしてんじゃねぇ!」
「あうっ! ご、ごめんなさい……!」
「ガキはガキらしく、ママの所でオッパイでも飲んでろッ!」
青銅級の掲示板から鉄級の掲示板に戻る時、僕は人間の冒険者の一人に突き飛ばされて転んでしまった。咄嗟に床についた手が痛い。
しかも、何をイライラしてるのか分からないけど、その冒険者は僕へと悪態をついた。
確かにチョロチョロしてた僕が悪いとは思うけど、何も悪口まで言う事はないと思う。僕は五歳児の女の子だよ? 酷い人もいたものだよね。
「んだぁ!? その目は!? てめぇみてぇな小便臭い小娘がチョロチョロしていい場所じゃねぇんだよ!」
酷い人もいたものだと、その冒険者を見ていたら、どうやら僕はその冒険者の癪に触ってしまったらしい。
その人間の男の冒険者の歳の頃は30歳半ばといった所で、どこか落ちぶれた騎士崩れの様な顔をしている。身に纏う鎧は使い古されたフルレザーアーマーであり、腰には柄巻がボロボロにまで使い込まれたロングソードを佩いている。うだつの上がらない低ランク冒険者って感じだ。
「あうっ……痛っ……痛いぃ……!」
その冒険者の男に、僕は胸ぐらを掴まれて掲示板コーナーの外へと投げられてしまった。背中から床へと叩き付けられた僕は、その言葉とともに、涙が溢れてしまう。
情けない。そう思うと同時に、悔しさも込み上げてくる。
僕が正体を現せばこんな奴なんて瞬殺なのに。
「あんた! あたしのルウに何してくれてんのよ!? これも人生の勉強だと思って初めは黙って見てたけど、もう我慢出来ないわ! 殺してやるから表に出なさい!」
僕の思想が危ない物へと変わりそうだったその時、母様が僕の思想よりも物騒な事を怒鳴りながら近付いて来た。その表情は普段僕を怒る時のものではなく、それこそ鬼と表現しても良い程に険しいものとなっていた。
と言うか、母様!? そ、そこまで怒らなくても良いのでは!?
「ご、ごめんなさい! 僕がチョロチョロしてたばっかりに冒険者のお兄さんを怒らせちゃって……。本当にごめんなさい……!」
母様が本気で冒険者を殺すとは思わないけど、僕は慌てて立ち上がって冒険者へと頭を下げて必死に謝った。……こ、これでどうか穏便に済ましてくれませんかね?
「あ、あんたは……い、いや、貴女は……! このガキ……い、いえ、こちらの可愛らしいお嬢様は貴女様のお嬢様でしたか! 俺……いや、私はそんな気は全くもってありません! だ、だから……ごめんなさーいッ!!」
冒険者は母様を一目見た途端に顔色を悪くし、しどろもどろにそう言うと、一目散にギルドから出て行った。結構な強面の冒険者なのに、そんな冒険者を怯えさせる母様って、実はとても凄い人なのかもしれない。確かに怒ると凄く怖いけどね……。
「ホントにムカつくわね、アイツ! 大丈夫、ルウ? どこも怪我してない? 痛い所はある?」
「ど、どこも痛くないよ、母様!」
「ホントに? なら、どうしてお尻を両手で触ってるの? アイツに投げられてお尻を床にぶつけて痛いんじゃないの?」
「こ、これは……条件反射と言うか、なんと言うか……。と、とにかくどこも痛くないから安心して母様!」
「あらそう。うん、分かったわ。母さん、ルウを信じる! と、そう言えば、母さんとルウの順番が来たわよ?」
母様にお尻を心配されたけど、それは母様に叱られた時のお尻叩きを思い出したからである。条件反射とは実に怖いものだ。
まぁ、冗談はさておき、色々と掲示板を見ていたらもうそんなに時間が経っていたのか。
ん? あれ? 僕達より前に並んでた親子達が片方のカウンターだけに列を作ってるぞ?
も、もしかして……本当に母様は凄い人なのかもしれない……!
だからこそ、あの親子達は列を譲ってくれたのではないだろうか。
と、ともあれ、僕はちょっと気まずいものを感じながらも、母様と一緒に登録カウンターへと向かうのだった……。
夕方頃に本日二話目を更新しますので、そちらもよろしくお願いいたします。
お読み下さり、ありがとうございます。
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