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月の華  作者: 桜華
第一章 生きていく為に!
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体の異変

 

 巨大なドラゴンの魔力を伴った暴風に地面へと押し付けられ、身動き出来ないまま潰されて圧殺されそうになる中、僕は思い付いた事を実行に移す。


(自然界の魔力を体に取り込んで無限の魔力として使えるんだから、このドラゴンの魔力だって取り込めるはずだ!)


 僕が思い付いた案とは、ドラゴンの魔力を自らの体に取り込む事だった。


(思った通り、ドラゴンの魔力でも自然界に放出されていれば体に取り込める!)


 だけど、ドラゴンの魔力を体に取り込む事にも懸念はあった。それは、僕の体が取り込める魔力の許容量だ。

 通常、魂魄魔法を使う時は許容量に限界を感じた事はない。しかし、それは通常時の自然界の魔力を使用した際の話だ。

 今回の様に膨大な魔力……それもドラゴンが放つ圧倒的な魔力量だ。もしかしたら体が弾け飛ぶかもしれないし、弾け飛ばないにしても壊れるかもしれない。


(だったら、ドラゴンの魔力を取り込みながら魂魄魔法を使えばいい!)


 ドラゴンの膨大な魔力を取り込みながら、それを魂魄魔法へと注いでいく。

 ここからがこのドラゴンを倒す為の秘策だ。僕は、魂魄魔法の融合を試み始めた。

 以前より、イメージとしてはあった。切っ掛けは母様が見せてくれた《雷炎(フレア)》である。

 雷属性と炎属性を合わせる事が出来るならば、魂魄魔法だって合わせる事が出来るはずだ。


 果たしてその考えは正解だった。思い付きが功を奏したのだ。


 融合させた魂魄体はフレイムエイプ、テイルブレード、ホーンラビットにメタルタイガー。テイルブレードはリスの体に刃の尻尾を持つ魔物で、メタルタイガーは剣の様な一本角を持った魔物だ。

 それらを融合させた魂魄魔法……名付けるならば《スピリット・キメラ》といった所だろうか。


『これが僕の力だぁあああッ!! 《スピリット・キメラ》! モード【炎神(カグツチ)】!』


 僕はそう叫び、融合させた魂魄魔法を放った。その姿はフレイムエイプを基本とし、両腕はテイルブレードとメタルタイガーの特徴である大剣を形成、更には膂力と硬度はホーンラビットの能力を付加した。その姿は炎を纏った剣魔神といったものだ。大きさは優に30メートルを超える。夜空を、剣魔神の炎が明るく照らした。


 僕はカグツチと命名した《スピリット・キメラ》の両腕を形成する剣を合わせて巨大な大剣とし、それをドラゴンへと振り下ろした。

 振り下ろされたカグツチの大剣はあっさりとドラゴンを一刀両断する。まさかこんなに凶悪な威力が出るとは自分でも驚きだ。


 ドラゴンの魔力を吸い尽くし、暴風が止んだ所でドラゴンのお腹の下から逃げておいて正解だった。そのままいれば、自分の攻撃で自分が死ぬ所だったよ。さすがにそんな情けない死に方はしたくない。以前、トードの水球を自分の頭に受けない様に気を付けようって心に誓った事が役に立った。


 ドラゴンを仕留めた所で、僕はカグツチを解除した。そのままだと森林火災になりかねないからね。自然を大事にがモットーです!


『さて、ドラゴンのお肉の味はどうなんだろうね』


 カグツチが炎の大剣で両断したドラゴンの断面は肉が焼かれ、辺りに食欲をそそる芳しい香りを漂わせていた。その香りに思わず涎が垂れてくる。尻尾もご機嫌だ。


『さすがに一日じゃ食べ切れないね。しばらくここで寝泊まりするか』


 そう呟き、僕はたった今仕留めたばかりのドラゴンの肉を食べ始める。勝者が敗者を食べる。弱肉強食において絶対の法則だ。

 ドラゴンの肉は最高の味わいだとラノベの一つに描かれていたが、正しくその通りだった。

 味付けなんて当然されてないにも拘わらず、その肉はあらゆる味がしていた。甘味、塩味、辛味、苦味、旨味。それらが渾然一体となっていて極上のハーモニーを口内で奏でている。

 肉質は蕩ける様でいて、歯応えもしっかりとあり、脂の美味さ、肉本来の美味さ、焼けた美味さや生肉の美味さと、その全てを味わう事が出来た。


『うわっ!?』


 最も美味しい部位だと思われる心臓(神狼としての僕の好み)を食べていた時の事、エメラルドグリーンの色をした巨大な光が僕の体へと吸収された。ドラゴンの美味さに夢中になり過ぎて、魂を吸収してしまう事を忘れていた。ちょっと本気で驚いた。


『こんなに巨大なドラゴンでも魂は吸収出来ちゃうんだね。そう言えば、今日は満月か。……という事は、今日で僕は満一歳になったんだな』


 ふと夜空を見上げると、まん丸の大きな月が輝いていた。この世界に神狼として転生して今日で一年。そう考えると感慨深いものがある。

 色々あったなと一年を振り返りながら、改めて月を眺める。この世界の月は地球の月よりも大きく、その大きさはおよそ2倍程はある。それだけ大きいと、当然月の模様などもハッキリと良く見える。

 地球では兎の餅つきだったり、巨大な蟹だったりと例えられていたけど、この世界では花が咲いた様にも見える。それを含めてなお、今夜の月は美しく見えていた。


『あれ? 花と言えば、何か大事な事があった様な……?』


 目の錯覚だったのか、月に花が咲いた様な模様はどこにもなく、ただただ明るく輝いているだけだった。


 しかし──


『ぐああああッ!? な、何!? 何なの、この激痛! まさかドラゴンの肉は食べちゃダメなやつだったの!? ぎゃああああああッ!!』


 ──突然襲ってきた体の激痛。それは、全身の骨という骨をへし折られるかの様だった。あまりの激痛に地面をのたうち回る。

 しかしその痛みも序の口で、次の瞬間には圧縮によって肉を潰される様な激痛までもが襲ってきたのだ。

 例えるならば、芋虫が蝶へと変態する為に蛹の中で味わう痛みだろうか。体の全てが別のものに変わる。それ程の激痛だ。

 これ程の激痛を味わったのは、母様の巣穴から落ちた時以来か。いや、あの時よりも今回の方がより激痛だ。


(助けて、母様……!)


 もう助けてくれるはずのない母様に縋った僕の意識は、そこで途切れてしまった──


 ☆☆☆


 翌朝、朝日の眩しさと小鳥の囀りで目を覚ました。体の感覚に意識を向ければ、昨夜の激痛が嘘のように消えていた。だけど、生きているという事は、ドラゴンの肉を食べても問題なかったという事だろう。少し……いや、かなり安心した。


 だって……すっごく美味しかったんだもん、ドラゴンのお肉。もう食べられなかったら悲しみが止まらなかったよ。


 しかしそうなると、あの激痛はいったい何だったのだろうか。ドラゴンのお肉じゃなければ、何が原因だったのか。

 そんな事を考えつつ、僕は()()()()()()()


「グルァ!?」


 思わず素で驚いてしまった。それ程までに衝撃的だった。

 そう、僕は上体を起こしたのだ。まるで、人間みたいに。


『いったいぜんたい何が起きて、何がどうなってるの!?』


 そう叫び、自らの手を見つめる。白銀色の体毛に覆われているけど、人間と同じ様に手の平があり五本指がしっかりと動く手だった。


 次に下半身を見てみる。白銀色の体毛に覆われているのは手と同じだけど、形状は狼のままだ。幾らか足の長さが伸びているくらいだろうか。しかし、筋肉の付き方が二足歩行出来る様に発達していた。思わず手で確認してしまった程だ。


 その際、ついでに股間を触ってみた。母様からメスだと教えられていたけど、まだ自分では確認していなかったし、今日までそれを忘れていた。結果……やはりシンボルの存在は無かった。凄く、悲しい。


 最後に顔だ。ここまでの変化でだいたいの予想は出来るけど、鏡が無い以上触って確認するしかない。人間の様になってしまった手で、恐る恐る僕は自らの顔に触れた。


『……これ、アカンやつやん……』


 三度の関西弁、平にご容赦願いたい。

 僕の顔は予想通り狼のままだった。つまり、今の僕の姿は俗に言う人狼形態……いわゆるワーウルフというものであった。


 こんな姿になっちゃったら王侯貴族に飼ってもらえないじゃないか!


 愛読していたファンタジー物のラノベでは、そのほとんどが人狼を魔物として忌み嫌い、(ことごと)く討伐の対象としていた。この世界が僕の想像通りの世界ならば、人狼は間違いなく討伐対象だろう。


 ……狼の獣人としてならいけるかな?


 人狼も狼の獣人も大して違いはないだろう。……獣人は体毛はほとんど生えてないかもしれないけど。


『まだだ! まだ諦める時間じゃない! 諦めたらそこで試合終了だ!』


 人間を襲わず、人間の言う事を聞く。そんな人狼ならば、王侯貴族も珍しがって過保護に僕を飼ってくれるはずだ。そうに違いない!


『そうとなれば、先ずは人間っぽい事をしなくちゃね……ドラゴンの肉を食べ終わったら、だけど』


 そう呟き、自分の体を見る。うん、全身が体毛に覆われているね。人間で言うならば、全裸の状態だ。

 この先森の出口へと進めば、まず間違いなく人間に遭遇する機会もあるだろう。その時に人狼そのものといった状態よりは、何かを身に纏っていた方がより好印象を与えられるはずだ。そう、死んだじっちゃんも言っていた。……前世で先に死んだのは僕の方だけど。


『ドラゴンの鱗って、ラノベだと最強の防具の素材だったりするんだよね、確か。それに皮も。あぁ、牙や角も最強の武器の素材になるんだっけ! ……どっちにしろ、肉を食べ終わんないとだね。さ、それはともかく朝ごはんにするか!』


 人狼となってしまったけど、神狼である事には変わりない。人間に飼われたいけれど、無理ならばこの姿で世界を旅するさ。


 そんな事を考えながらも、僕はドラゴンの肉という朝から贅沢過ぎるご馳走に舌鼓を打つのであった。

お読み下さり、ありがとうございます。

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