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神々のスターダスト  作者: フィルワーズ
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私のイモウト

 喉が焼けるようだ。体が石のように固まっている。力が……入らない。


「……ぁ…………」

 目を開けると、そこには灰色の壁があった。その傍には蛍光灯が光っている。

 いや、これは建物の天井……?


「はぁ……はぁ……。……ぁー……」

 息を大きく吸って、吐く。

 不思議と体に痛みはない。腕や足の感覚もある。指も……動く。服が汗で張り付いて気持ち悪い。


 あれは夢だった?


「ぅ……」

 でも、あの白い腕に掴まれたときの感覚は間違いなく現実だった。

 どれだけ力を入れても振りほどくことが出来ず、体を握り潰されてく感覚。それと焼けていく肌の嫌な臭いは、忘れられそうにない。もしかして、ここは天国だったりするの?


 体勢を変えてみると、私は硬いベッドの上で眠っていたようだった。薄い掛け布団が私の体にかかっている。目を覚ました際に見るいつもの景色じゃないのは確かだったけど、見覚えもあった。


 ふと、違和感。

「アオー……? どこにいるの?」


 ……返事がない。いつもはすぐに返事がするはずなのに。


 上半身を起き上がらせてみる。首元にいつもの感覚がない。

「あれ? なんでっ!?」

 いつもは首にかかっているはずのロケットペンダントがなかった。薄い水色の病院服のような薄い部屋着のいたるところを手で触れて探す。

 いくら探しても見つからない。手にはゴワゴワとした布の感覚しかなかった。


「アオっ!? 返事をして!」

 薄い掛け布団を払いのけ、ベッドの上から降りようとした。だが、私の体を支えようとした左手に力が入らず、起き上がろうとした勢いでベッドから転落してしまった。

「わふ!」

 体を地面に打ち付ける。左半身が痛い。


 だけど、アオを探さなきゃ。

 滴が溜まる目を抉じ開け、部屋を見る。

 自分が眠っていた白い入院用のベッド。近くには小さなチェスト。そして、積み重なった丸椅子がある。窓あったが、外は何かが積もっているらしく見えない。そんな一人用の小さな病室だった。


「アオ?」

 チェストについた引き出しを開ける。絆創膏や薬に関しての資料。包帯といったものが入っていたが、そこに見慣れたロケットペンダントはない。

「アオー……?」

 アオは一人で動けない。いくらその姿を小盾に変えることが出来ると言っても、私と一緒じゃないとただの喋るロケットペンダントでしかないのだ。そんなアオがいなくなる要因といえば……。


 ほんの少し、最悪な考えが頭をよぎる。が、その考えを吹き飛ばすが如く、個室のドアが開いた。

「さっきの音はなんだ? ……ああ、目が覚めたのか、アネモネ君」


 入ってきたのは白衣の男性。ひげが無法地帯のように伸び、癖毛がいくつも飛び跳ねた天然パーマという不潔なイメージを受け取ってしまう。だが、何よりのトレードマークはその目の下のクマだった。大きく、丸い巨大なクマが二つ出来ている。

 彼を見てようやくここが私のいる拠点であることを理解した。


「転んだだけです! それよりも、イテム博士、アオを知らないですか?」

 イテム博士。病室にいる彼は、白衣を着ていることも手伝ってまるで医者のようだ。でもこの人の本質は研究者であり、人類の英知そのものだ。なにせ私の喋るロケットペンダント――アオも彼の発明により、命を吹き込まれたのだから。


「……確か君を助けた少女が持っていると、君がここに運ばれてきたときに連絡を受けているな」

「私を……助けた?」

 ああ、とイテム博士は眉間を押さえながら続けた。


「……だが、彼女はどこであったんだ? 彼女は……」

 少女? よく覚えていない。

「そんなことよりも! 今はその少女はどこにいるんですか!?」

 まずは、アオを早く取り返さないと。


 イテム博士の表情は必死に苛立ちを隠そうとしているように見えた。私が話を遮ったのだから当然だ。だけど、私も必死なんだ。

「ふぅ……。全く君は……」

 諦めたような表情をした後に「作戦室だ」と答えた。


 その言葉を聞いて、すぐさま素足のままイテム博士の傍を走り抜ける。ドアを開けた先は手擦りのついた廊下が伸びている。そうだ。ここは見覚えがある。作戦室はすぐ近くのはずだ。


 ヒタヒタと自分の足音が続く。

 すぐに目的の部屋を見つけることができた。中から談笑が聞こえる。そして、その聞き覚えのある声の中に、知らない声が混じっている。


 ドアに手をかけ、力任せに開く。

「アオっ!」

 視線を何人かいるグレーの迷彩服を着た男女達はお喋りを止めて私の方を見る。みんなが驚いている。


 そして、私はその中でただ一人浮いた服装をしている少女を見つけた。


 少女の首元には確かに、ロケットペンダントがあった。あの傷の付き方、錆び具合。どう見ても見間違うはずがない。あれはアオだ。


 少女と目線が合う。

「あ、お体は大丈夫で……」

「誰……?」


 迷彩服ばかりの中で、紺色のジャケットと煤汚れた白いシャツ。それに薄い水色の短パン。まるでゴミの中から直接拾ってきたような少女の服装はどう考えても浮くに決まっている。

「アネモネ先輩! こ、この方はあなたの“妹”だと……!」

 ツーサイドアップした茶髪の女の子が私と少女の間を遮る。だけど、これくらいの身長じゃ、この薄汚れた少女に向ける視線をやめさせることは出来ない。


「妹……?」

 毛先に行くほど白くなるグラデーションのかかった青い髪。こんな特徴的な髪をした少女が私の妹――?


「――知らない……。私はあなたのことを知らない。アオを返してっ!」

 返せ。返せ。返せ!


 茶髪の女の子を押しのけて“妹”の襟元を力の限り掴む。


『アネモネ! やめて!』


 なんで?


 私はアオのために怒っていたのに、アオの怒声を聞くだなんて。

 その声を聞いて、身体が制止する。緩んだ左手から“私の妹”は空中に放り出されて、臀部を床にぶつけた。その様子を見ていて……さらにあることに気が付いた。


 首元からロケットペンダントはなくなっている。彼女の左腕には小盾バックラーがあった。

「なんで……」

 分かることは一つ。"私の妹"は私にしか使えないはずのアオを使うことができるということ。


 私は間違いなく動揺をしていた。その様子を見て、私の妹が立ち上がる。動揺をしてフラフラな私とは反対に、しっかりとした姿勢で私を見る。

「……お姉さま。ボクを覚えていないんですか?」

 長く伸ばした髪を見なければ、女であることに気づけなさそうなほど、中性的な顔。


 ――確かに思い出す。

 瓦礫に覆われたあの街で、白い腕に掴まれたあと、私はすぐに開放されたんだ。その解放をしてくれたのが、青と白の髪をした彼女だ。


「――あなたは……“ナナシ”?」

 瓦礫の山の上に立ち、私にその顔を向けた相手が目の前にいる。


「やっと思い出したですね。でも、改めて自己紹介をさせていただくです。ボクの名前は、“ナナシ”です。よろしくです」

 間違いない。彼女があの時、私を救ったんだ。


 だけど、どうにも奇妙な感覚が残っている。確かに白い腕に掴まれた私のもとに颯爽と現れて、白い腕を切り裂いたのは間違いなく彼女だ。だが、白い腕に掴まれて“潰された”感覚も私は覚えている。

 ……でもそれ以上は、やっぱり、思い出すことはできない。


『……あんたは忘れたかもしれないけど、ナナシはあんたの妹よ』

 アオの言葉を聞いて、覚えていない理由が分かった。私は忘れている。彼女との思い出を"使ってしまった"らしい。


「もしかして、アオ……」

 バツが悪そうな声が届く。

『そうよ。あたしが燃やしたの……この子との記憶を……ね……』


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