Armour Zone 6
その光景を唯々眺めるアルト。
このままではまずい、それだけがアルトの脳裏を過ぎった。
レオナルドは自身の巨大な両腕の感覚を確かめるように手のひらを開き閉じ、肩を回していた。
よろよろと立ち上がるアルトに視線を戻すとレオナルドは走り出す。それは先程よりも遅く感じた。
しかし今のアルトでは避けるのは困難だと感じた。
そして巨大な左拳が眼前へと迫り…。
怯んだアルトは目を瞑ってしまった。
それはある意味での敗北を認めたようなものだった。
しかし次の瞬間に来るはずの衝撃が来ないことに疑問を抱いて恐る恐る目を開いた。
そこには…。
「だから、他所でやれ三下共」
そこにはレオナルドの巨大な拳を片手で制するフィエロの姿があった。
フィエロには微塵の気の揺れも無く、澄まし顔でレオナルドの攻撃を受け止めていた。
そんなイレギュラーな状況にレオナルドは反応が遅れてしまった。
次の瞬間にはレオナルドもアルトも空高く舞い上がっていた。
簡単な話だ、フィエロはレオナルドの拳とアルトの胸ぐらを掴むとそのまま空へ投げ捨てたのだ。
しばらくして二人は街の外の草原に落下する。
アルトは我ながら生きていることに驚きを隠せなかった。
「かはっ!?何なんだあいつは!?」
地面から顔を抜きながらレオナルドは悪態をつく。
今の衝撃だけで顔を覆っていた兜が半壊していた。
それに気がついてレオナルドは息を呑んだ。
「おい、アルト。あいつは本当に何者なんだ?」
「名前はフィエロ、俺の師匠だ。吸血鬼らしい」
「らしい?…そうか吸血鬼か、それにしたって…」
「別に師匠の事は今はいいだろ。やるんだろ?」
「なんだ、急に雰囲気変えやがって」
今のアルトからは先程と違い落ち着いた戦意が感じられた。
レオナルドはそれを好意的に受け止める。
直ぐ様壊れた兜を修復して拳を構える。
アルトもこの清々しさすら感じる感覚に驚いていた。
先程の敗北を感じた瞬間、目の前の師匠の姿を見た瞬間。
自身が何かを悟ったのかもしれない。それは感覚的で精神的なものだ。
決して考えて言葉にできるものではなかった。
だけど今はそれでいいと思える。目の前の敵をどうにかするんだ。
「行くぞアルトォォォ!」
「来いレオナルドォォォ!」
両者の渾身の力を込めた拳がぶつかり合う。
衝突で起きた衝撃は辺りに旋風を巻き起こす。
結果、アルトは負けた。右腕の装甲は粉々に砕けて元の腕を曝け出す。
膝に力が入らずにその場に崩れ落ちる。
けれども意識だけは残っていた。
「勝負あったな…ん?」
レオナルドは勝ちを確信して左拳を下ろして異変に気がついた。
左拳にできた罅だ、それは最初は小さかったが次第に大きく広がって左腕の肘まで届いた。
そして、左腕の装甲がボロボロと剥がれ落ちたのだ。
「ハハ…ハハハハハ!やってくれたなアルト!さすがは俺と同系統の特異者だ!いやそれだけじゃない…お前のあの師匠!それの成果でもある訳か!惜しい!非常に惜しいぞアルト!俺はこの世界に生まれて二度目の高揚をしている!止めだ!お前を殺すのは止めだ、今じゃない。お前はもっと強くなる!その時にまた手合わせ願いたい!そして最高潮を迎えたお前を、完成したアルトをその時こそ俺は打ち倒すのだ!」
「うるせぇよ…」
本当にこいつとは対極だなとアルトは思った。
特異体質も、今感じている感情もだ。
アルトは敗北した。しかし悪い気分でも無かった。
それはレオナルドがアルトの命を取らないと言ったからではない。
心が軽いのだ。今なら空だって飛べそうである。まあ体は動かないけど。
「じゃあなアルト、俺は一度帝国の方に戻る。次会う時は今より強くなっていることを願うよ」
そう言うとレオナルドは再び武装を復元すると今度はそれを腕から外して背中に戻した。
驚くことにそれはブースターの様に火を吹き出してレオナルドを空へと持ち上げたのだった。
そしてあっという間にレオナルドは空の彼方へと消えていった。
「何でもありかあいつ…はぁ、力が欲しいなぁ」
結局、その晩は誰の迎えも無くアルトはその場で次の日の朝を迎えた。




