Wild Challenger 4
アルトとキースは戸惑いつつも行動を開始した。
二人は急いで部屋の外に出て左右にバラけて走った。
まずは見つけることだ。それから戦闘に入ればもう片方が確実に気づくはずだ。
アルトは廊下を突っ切るとエントランスホールに出た。
静寂に満ちていた。やはりどこもかしこもボロボロで闇夜だとお化けが出てきても不思議ではない。
二階なので下が一望できるので見渡してみる。この世界での吸血鬼がどんな能力なのか、どれほどの力くを有しているのかまるっきり分からないが殆どの場合で不死身で血を吸う上位存在として書かれている。
元の伝説次第では弱点も想像できる。そしてフィエロ自身も太陽が出たら云々と口にしていたからもしかすると他の弱点もあるかもしれない。
そう思うとアルトは急ぎ足で厨房を探した。
厨房は一階の奥の方にあった。ここは他の所よりも割と綺麗目だった。
それは普段から使われていることを意味する。棚には食器が並び、厨房の奥の部屋には様々な食材が並ぶ倉庫になっていた。
アルトがまず探したのはニンニクだった。が、直ぐに探すのを中断した。
そもそもこの世界にニンニクがあるのかという疑問だ。少なくともアルトはこの世界に生まれてこの方見たことがない。
アルトが次に探したのは銀で出来たナイフやフォークだった。
とはいったもののこちらは食材を探すよりも直ぐに断念した。理由は簡単でアルトに銀の有無などわからなかったからだ。どれも同じに見える。多少の硬度の違いはわかるが銀が柔らかいのか硬いのかなんて全くもって知らないのだ。ただ折角なので細工の最も細かなナイフを一本拝借した。
金属の知識は無いがこういう食器は大抵見た目が良いと吸血鬼ものの映画などで知っていたのでそうしたのだ。全くもって浅知恵ここに極まりである。
アルトが厨房を出て左右と廊下を確認する。誰もいないことを確認すると再びフィエロを探すために走り…だすはずだった。その声をかけられるまでは。
「お目当ての物は見つかった?」
驚いて振り返ると厨房の入口横にもたれかかるフィエロの姿があった。
いつの間に、と思う。確かに確認したのにさっきまでそこには誰もいなかったのにいるのだ。
アルトは腰の短剣を抜くとすかさず斬りかかった。
が、しかしそれをフィエロは避けるでも応戦するでもなく左手でさも投げられた物をキャッチするかのように掴んだ。短剣の攻撃は最初から攻撃なのではなくそう振るったかのようにピタリと止められる。
口と目を大きく開くアルトを他所にフィエロはあっさりと短剣をアルトから奪い短剣を物色し始めた。
「ふーん、これが君の武器か、はっきり言って粗末、粗悪、粗雑。これじゃあ俺を傷つけることなんてできやしないよ」
フィエロはそれを実証するかのようにアルトの短剣を逆手に持ち自身の腹に勢い良く刺した。
いや、アルトの月明かり越しに見た光景を正確に言うのであればそれはフィエロの腹を刺すことは無かった。短剣は粉々に砕け散ってしまったのだ。
呆気に取られている間にフィエロがアルトに音もなく近づいて懐をまさぐった、抵抗をしようにもアルトはフィエロの一瞬の行動に気が付けなかった。
気がついた時にはフィエロは先程の位置に戻っていたのだ。
その手には先程拝借したナイフが一本。それをフィエロはくるくると右手人差し指で回していた。
「銀製のナイフね。確かに吸血鬼共通の弱点だ…でも」
再びそれを逆手に持つ、こんどはそれを左手に刺した。しかしこちらもフィエロを傷つけることは無かった。ポキンと音を立ててナイフは折れてしまった。
「わかった?この程度じゃ俺には勝てない。出し惜しみはやめなよ。出し惜しみしていいのは強者のみだ。ましてや君は今出し惜しみしていられる立場なのかな?出してごらんよ、君の特異体質ってやつをさ!」
「ッ!」
その言葉を合図にアルトは自身の右腕の力を開放した。
一瞬にして篭手が現れる。アルトの巨人の腕によって強化された腕力でもう一振りの短剣を居合い切りの如く抜刀する。
左下から右上にかけて放たれたその斬撃をフィエロはそれを避けるでも掴むでもなく受けた。
それはフィエロの油断に他ならなかった。フィエロはそのどこにでもありそうな短剣をただの剣だと勘違いしていたからだ。
「なっ!?」
短剣はフィエロの衣服を切り裂き、肉を深く抉り、マントの留め具を破壊した。
斬られた胸からは血が流れ出してこの吸血鬼に攻撃が通ったことを見たものに教える。
「そうか、これは…」
アルトはこの短剣をまじまじと見る。そしてこの短剣が同じ特異体質者の製作品と改めて思い出した。
行ける、これなら行ける!そう思いアルトは今一度覚悟を決めて気を引き締めた。
巨人の腕に力を込めて短剣を握る。フィエロの傷は既に塞がっているし驚いた様子も既に無いが問題はない。
アルトは床を蹴って突進した。
兎に角斬りつけるのだ、がむしゃらに、絶え間なく。そうしないとこの吸血鬼には攻撃は与えられないと本能が言っているのだ、故に隙間なく攻撃を繰り返すのだ。と、一撃を窓ガラスに当ててガシャンと音を立てた。そして直ぐにフィエロにターゲットを戻す。
窓を割ったのはキースに場所を知らせるためだ、これでしばらくすれば来るだろう。
…それにしても攻撃が当たらない。いくら振り回しても掠りもしなかった。
下手な鉄砲も数射ちゃ当たるとは言うが全くそんなことは無かった。
………。フィエロは不思議でたまらなかった。この少年はなぜ攻撃を続けるのだろうと。
先程のフィエロ自身の言葉を思い出して欲しい。二対一で勝負して一発でも自分に攻撃を与えられたら見込み有りってことで鍛えてやるよ。というものだ。
不意のことで両者とも驚いていたようだが条件は既に達成しているのだ。が、しかしどういう訳なのかアルトという少年は攻撃を止めなかった。とめどなく繰り返す剣撃をフィエロはひらりと躱し続ける。
ガラスを割ったのは最初分からなかったが自身の後方から走る足音が聞こえたことでもう一人の少年を呼ぶものだと理解できた。
本当ならもう戦わなくてもいいがそっちがその気なら止める気は毛頭ない。
フィエロは戦闘を続けることにした。




