夜は眠れるかい? 4
ぐわんぐわんする。頭が揺れているのか、周りが揺れているのか…いや、自分が揺れているのだろう。
そう思えたのは頭がくらくらしたからだ。
目を回しているのか?では何故?わからない。なんとなくだけど感情や意識が制御できないと感じた。
けどそう気分の悪い話でもないみたいだ。揺り篭に揺られているような心地の良い感覚すら感じて取れる。
なら人間は、それに委ねるのが正しいのだ。
もう一眠りだけ…そうしよう。
「Gigaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
巨人の轟がルインを襲った。
これは咆哮?いや単なる叫び声だ。
それが威力を持ってルインに襲いかかっているだけだ。
空中にいたルインはその叫びに数メートル飛ばされる。
体中がビリビリしている。怯んでいるのだ。
「おいおい…一体お前は何を貰ったんだよ。やろう出し惜しみしてやがったのかチクショウ…」
ここで言っても仕方がないことだが言いたくもなってしまったのだ。
しかしルインにしてもこの力を不満に思ったことはなかった。
地の利はこちらにある。いつだってそうだった。戦いにおいて空を制した者が勝つ。
それが当然だと、摂理だとこの新米に分からせる。意識がないのなら本能に叩き込む。
そう決意してルインは拳に力を込める。
自然に炎も現れて両拳包み込む。
イメージしろ、こいつは格上の存在である。
しかして…勝機はこちらの手の中にある!
「うらぁ!!」
右腕を振りかざした。二度目の攻撃が巨人の額に直撃した。
すかさずルインは左腕を同じ箇所にぶつける。
「もういっちょ!!」
巨人の体が傾いて倒れる。奇しくもその巨人が倒れた先には先程巨人自身が自ら剣を振るって切り倒した剣山の如き木々があった。
流石に鎧は貫通せず、逆に木々をへし折るが鎧の隙間、関節部分に当たった木はそれを例外だと言わんばかりに貫いた。
巨人の悲鳴が木霊する。
「へっ、これだけのやつを倒したんだ、相当レベルも上がるってはなっ!?」
言葉を突然遮られた衝撃と驚きに加え更に目に映る光景に驚愕を隠せない。
今自分がいる場所は?答えは空だ、未だに自分は空にいる。しかし動けない、何故なら掴まれているから。誰に掴まれている?答えは巨人だ、巨人の腕が切り離され噴出しこの俺を掴んだのだ。が、完全に切り離されているわけではなく中に鎖がありそれが飛んできた腕と本体を繋げているのだ。
「おいおい…ありかよ…ッ!?」
そのまま巨人は腕を振り上げてルインを地面に叩き潰した。文字通り。
正確には上半身がミンチになった。巨人が掴んだまま叩きつけたので下半身は健在だった。
巨人の手が離れて元の場所に戻っていく。
その場に無造作に捨てられたルインの下半身だが彼は死んでなど無かった。
燃えている。赤く、そして明く。自身の場所を示すかのように。
それに吊られてやってくるのは虫ばかりではない。彼の、彼だった者の肉片がそれを目印にして這ってきたのだ。
それが彼の恩恵である。不死鳥の心臓を有している彼は傷つきはしても瞬時に治り寿命以外で死ぬことはない。まあ、破損状態の善し悪しはあれど、基本的には不死鳥の其れなのだ。
「あー、あー」
集まった肉片と瞬時に回復した身体の調子を確かめる。
残念ながら衣服までは直してくれないのがネックだがそれは欲張りである。
「マジで何なんだこいつ…」
既に巨人は起き上がっていた。今度は何をするでもなく呆然としている。
ルインなど眼中にないのか、いや、既に魔犬にすら眼中にないようだ。
不思議とルインはこの巨人に勝てる気がしなかった。逆に負ける気もしないのだ。
今のあいつは弱くて強い、強くて弱い。頑丈そうで脆く、またその逆も然りといったルイン本人も意味のわからない感覚。
唯一つ、分かったことがある。この巨人は…。
「寝てやがる…」
ルインは拳に特大の炎を纏わせるとそれを巨人とは反対側の空に振り上げた。
その巨大な火球は空にいた何者かに向けられたものだった。
その人物は火球を手でひらりと振り払うとルインに目線を向けた。
「久しぶりだね、元気?」
「テメーの仕業かこれ」
ルインは親指を後ろに指してその男、彼らをこの世界に転生させた人物に問うた。
装飾過多を通り越した衣服を身に纏い、懐中時計がぐるりと一周するシルクハットを被った男。
今はゴーグルを帽子にではなく普通に目元につけ、もう一つのゴーグルを首にかけていた。
「仕業と言うほどの事ではないよ。ただ僕が転生させた人間でこんなに早く死んでしまうのはちょっとばかしつまらない。それではいけない。死ぬにしてももっと僕を楽しませてくれなきゃ死んでも死にきらせられない。だからちょっとばかり未来の可能性の彼を呼んでみたんだ。まあそれに今の彼が耐え切れなかったみたいだけどね。でももういいかな。魔犬に食いちぎられた箇所は再生してるようだし戻してあげよう」
そう言うと男…神は指を一度鳴らした。
するとそれだけで巨人は霞のように姿を消した。
巨人が立っていた場所には騎士団が探していた子供、アルトが横たわっている。傷一つなく。
「えーと今はルイン君だっけ?今日はもう遅いしこのへんでお暇しなよ」
「は?なにを…」
神が手を右にスライドさせると言葉の続きを言う暇もなくその場からルインの姿が消えた。
「安心していいよ。君の仲間のところに送っただけだから…って聞こえちゃいないか」
森に横たわるアルトに目を向ける。
その視線は何を内包しているのか…誰にもわからない。
ひとまず、この騒動はここで終わりを告げたのだった。




