第5話:鍛冶の神バルカドロス
道中は、強敵はアルトが狩るものの、他の所謂雑魚は、レベルが1まで下がったクレイドルが積極的に狩っていた。
『だから、誰がアナタの無双を観たがるのよ、クレイドル!!』
クレイドルはクレイドルで、フォルトゥ・ブレサの監視を確信していたし、アルトに気取られないよう、声に出して言うこともしない。
『ふぅ~、我が圧倒的な強さを以って、雑魚を掃討するのは、最早気持ち良い程であるな!』
「馬は狩るなよ?奴らは食用だ!」
『解っておる。儂も、なるべく若くて柔らかい馬肉が喰いたい』
「スレイプニルが出現したら教えてくれ!」
『ウム!必ずレベルサクリファイスするのじゃぞ?』
「判ってるって!」
そんな調子で上層へと脱出を目論んでいる一人と一柱だが、脱出まではひと月を見込んでいた。
その為に、比較的下層でスレイプニル肉を確保しており、元はクレイドルのスキルだった異空間収納に溜めていた。
「システムがどうなっているのか知らないが、スレイプニルが無限湧きしてくれるのがありがたい」
『ウム!母個体を撃破しておらぬが故にな!』
「……母個体?」
『スレイプニルの女王であるな!』
「何それ。間違って母個体を撃破したら、もうスレイプニルは出て来ないとか?」
『追加のスレイプニルは出て来なくなるのぅ……』
「絶対避けなきゃいけない個体じゃないか!」
スレイプニルの肉が確保出来ないと云う事態は、アルト達に飢える可能性が出て来ると云うことだ。ソレは、アルトが絶対避けたい事態だった。
『じゃが、今はもっと面倒な事態に巻き込まれそうだな』
「もっと面倒な事態?」
『魔物に追われる冒険者じゃ』
クレイドルが短い人差し指で指す先には、確かに魔物に追われる冒険者達の姿があった。
追う魔物は、オーガ亜種であるオニーガであった。
「おーい、加勢は必要かー?」
「助けられるものなら、助けてくれ!コイツ、並のオーガの比じゃないくらいには強い!」
「ならば、『レベルサクリファイス』!
──良しッ、コレで、お前らでも倒せるくらいには弱体化した筈だぞ?」
「──本当にか?
良しッ、皆、迎撃するぞ!」
ソレを、クレイドルの目から観ていた者が居た。
『キターッ!オニーガを弱体化させて、ワザと本人達に闘わせるアルト、親切なのか、鬼なのか!』
『うン?何じゃ、この配信。神界から覗けるようになっておるが、何か地上の面白い情報でも配信しておるのかのぅ……』
『フォルトゥ・ブレサだけでなく、何処の神が覗いているかと思えば、バルカドロスではないか!』
『ン?ああ、ドレイク殿の目を通しての配信なのかよ。
儂は鍛冶と戦闘を司る神じゃからのぅ……。戦闘場面の配信じゃったら、ちょいと興味を引かれるわい。
それにしても、弱いオニーガよのぉ……』
『アルトの能力でLV.1に戻されておるからのぅ……。
その分、若返って多少厄介じゃが、ココまでの下層まで潜る、上級冒険者の相手ではあるまい』
アルトは静観していたし、クレイドルは戦闘の様子見をしていたが、間もなく、オニーガは無事に冒険者の手で狩られる。
『若返る、と言っていたな。
儂も若返らせて貰う事が出来るかのぅ……』
『……チト、アルトに打診してみてやろうか?』
『ウム、よろしく頼む』
『アルト、チト良いか?』
「ん?何だ、クレイドル?アイツらの決着を見届けてからでは構わないか?」
『ウム、然程急ぎの案件では無い』
「なら、ちょっと待ってくれ。もうじき終わる」
『それにしても、一方的な戦闘じゃったのぅ……。
もうちょい、見応えのある戦闘は観られんのか?』
『バルカドロスは物騒じゃのぅ……。
アイツらが相手では、今の儂でも危ないわい』
『クレイドルは非戦主義者でもあるらしいからの。
私は、人間の信仰心の獲得が経験値になるし、人間が魔物から護られて、祈りの一つでも捧げてくれれば、それに越したことは無いのじゃ』
フォルトゥ・ブレサの発言に、バルカドロスは反論する。
『何の!闘いは対等に近い方が燃えるでは無いか!』
『その燃える焔が、鍛冶に活かせるんじゃな?』
『熱量を得る為に必要であることは否定し切れない』
『おっ、奴ら、オニーガの魔石を持って来よった』
『ウム、見上げた奴らじゃ。誰の戦果なのかを理解してよる』
オニーガの魔石を持って来た、恐らくパーティーリーダーだが、アルトはソレに受け取る資格を見て取らなかった。
「助かりました!コレ、少ないですが、オニーガの魔石です」
「お前らの戦果だろう。俺は俺で得ているものがある」
「しかし!……手助けを受けていなければ、俺たちは成す術なく、ヤラれていた……」
「確かに、俺の助力が無ければ厳しかっただろう。
だがなぁ……容量に限界がある訳では無いが、俺は俺でコレまで狩ってきた獲物の魔石がゴロゴロあるし、その魔石程度なら、誤差程度の価値しか無いんだよ」
「……確かに、オニーガの魔石にしては、価値が低そうですが……。誤差、ですか。俺らにとっては、大きい収入源なのですが……」
「なら、引き受けておけ。生還出来たら、良い飯の一回でも食う資金になるだろ?」
「……──では、ありがたく。
正直に言えば、借りを返して頂ければとでも思ったのですが──」
「フハハッ!それなら尚更、その程度で返せる貸しだと思うか?
な?貸しを返して来るなら、生還してから、美味い酒の一杯でも奢ってくれ。
その程度で充分だ。
そもそもが、未だ生還出来る保証は無いんだぞ?」
「……ですね。
てしたら、少しの間だけでも、帰還までの道を共にしてくれはしないだろうか?」
「それはちょっと待て。
おい、クレイドル。さっき言い出しかけた用件は、コイツらと同行していても構わない用件か?」
『いや、儂とアルトの2人の間で相談したい』
アルトはクレイドルに確かめると、パーティーリーダーの肩を叩いて言う。
「俺の相棒がそう言っている。申し訳無いが、帰還は別々にお願いしたい」
チラリと、パーティーリーダーが頭の高さを翔ぶクレイドルを見て、「ドラゴンをテイムしているのかよ……」と呟いて、「いや」と一言呟く。
「ありがとうございました!では、魔石はありがたく。
何かの機会がありましたら、この礼は必ず!」
「生還してくれるだけても、ソレは一つの礼に通ずる。
帰り道は、無難に、な!」
「失礼致します!」
そう言って、冒険者パーティーは帰って行った。
そして、2人になったことを確認してから、アルトは聞き出す。
「で?用件ってのは?」
『鍛冶の神・バルカドロスは知っておるか?』
「代表的な鍛冶の神様だな。それがどうした?」
『『レベルサクリファイス』を受けたい、と』
ややしばらく考えてから、アルトは言った。
「マジで、か?
つーか、情報はどっから漏れた?──ああ、いい、言わなくて。どうせ、フォルトゥ・ブレサ様からに間違い無いだろうし」
見抜かれて、クレイドルは『そうなのじゃがな』と呟いてから、事情を話そうとしたその時。
「で?バルカドロス様はココにお越しになられる、と?」
『ウム、直ぐにでも来て頂ける様子なのじゃがな』
「いいぜ、『レベルサクリファイス』すれば良いんだろ?むしろ、美味しい話だ。なら──」
『呼び出し不要!!』
その声に、クレイドルは短い腕で頭を押さえた。
「吾輩、参上!
説明は不要であろう。『レベルサクリファイス』を受けたい!」
「……何?神様って、そんなに若返りたい程に歳食ってるの?
まさか、次々と神様とか女神様とかが現れて、『レベルサクリファイス』で若返りたいとか言い出すの?」
「そうなるかも知れないし、そうならないかも知れない」
バルカドロスが率先して言い出した。
「……確かに、古い神々の経験値を得る事は俺にとってメリットだし、ソレで俺が老化する訳でも無く、成長するだけだから、リスクも低いし。別に構わないとは思うけれど。
ただ、人前では避けたい事態かな?」
「言質は取った!何しろ、何百億年ぶりの若返りの機会だ!儂はその権利を手放すことは無いぞ?」
「……で?ソレで『レベルサクリファイス』で得る以外の、何のリターンが俺にはあるのかな?」
「ムッ!そうじゃな……簡易的な神棚を備えて、加護を受けたい武具の類に、儂が神授の加護を授けてやろうではないか!
一応、約100件までの制限付きということにしようではないか!」
「乗った!では、早速、『レベルサクリファイス』を施しても構わないかな?」
「ウム!早速、頼む!」
「では、レベルサクリファイス!」
バルカドロスはソレにレジストすることをせず、若返りと共に漲るエネルギーを感じ取って、「オオオオオッ!」と声を上げた。
「コレなら、加護を授けるのも容易いわい。
どれ。先ず、お主に『鍛冶の加護』を授けよう!
フハハハハッ、あと数万年は、生きられる!」
鍛冶の神・バルカドロスは、そう言い残すと、「ではな」と挨拶一つ残して立ち去った。
アルトはふぅ~、ッと息を吐いた。
「流石、戦闘をも司る神様だ。威圧感もフォルトゥ・ブレサ様とは比べものにならん!
だが、俺はその威圧感までもを引き継いだか!
フハハハハッ。恐るべきものは、残り少ない……!」
だがソレは、神々の娯楽の源と、若返りの機会の提供に繋がる事を、未だアルトは知らない。




