第4話:女神の訪問
アルトはクレイドルを引き連れ、ダンジョン最下層の魔物を、次々にレベルサクリファイスしていっていた。
レベルそのものは、その後、さして上がらない。それでも、1日平均3レベル程度は上がっていた。
ベルゼブブとの接敵までに、一週間掛かった。ダンジョン最下層、広すぎである。
食事は、魔物の肉を喰らっていた。水分は、魔物の血を呑んで補給していた。
「はぁ~、馬形魔物の肉が美味い!」
アルトは、馬形魔物の肉を好んで食べていた。その殆どが、八脚馬だったが。
そしてその日、こんなダンジョンの最下層だと言うのに、一人のレディと遭遇した。
クレイドルは平気で相手していたが、アルトはそうはいかなかった。
何しろ、相手は女神の一柱、幸運と健康と長寿、更には金運をも司る、フォルトゥ・ブレサであり、アルトがレベルサクリファイスされる原因となった、邪神認定された女神様だったからだ。
因みに、ベルゼブブは既に、レベルサクリファイスにて一匹の小蝿に返っており、フォルトゥ・ブレサの目的がベルゼブブの救済であったなら、とうに手遅れだったが、彼女(?)の目的は、レベルサクリファイスに因る若返りだった。
その目的を聞いた時、アルトは「は?」と云う驚きに満ちた声を上げ、まじまじと未だ若く見える女神様を見つめるのみだった。
「いや、充分に若いような……」
「ホホホ。お上手じゃな。じゃが、コレでもかなりの高齢なのじゃよ。──レディに歳を訊ねるほど不粋でもあるまい?」
「それに、若返りの保証は無いし、そもそもレベル1からやり直しですよ?」
「長生きが故の精神的疲労感は、もう随分溜まっておるんじゃ。
それに、『レベルサクリファイス』の具体的な効果は確認済みじゃ。安心して掛けよ。
何じゃったら、現ステータスを譲渡してくれれば、私に損害は無い!」
「そうか……ステータス譲渡が出来るのか……。
なら、リスクは……あっ!スキルも!?」
「スキルはレベル上げの過程でまた身に付けて行くわい。
今は兎も角、邪神認定された事実をリセットし、『神格レベル』を上げる他無い」
「ン?レベルサクリファイスすると、邪神認定まで消えるの!?」
「私の調べではそうじゃ。そして、再び信者が増えると、神々の一柱である私にとっては、ソレだけで経験値を積み、レベル上げに繋がる。加えて言えば、邪神認定された原因を昇華し、ソレを司る側面を追加して得る!
神々とは、本来そうして、『神格レベル』を上げ続けるものなのじゃ」
「司る側面を追加する!?……成る程、貴女はそうして司る側面を増やして来た女神様であらせられるのか」
「そう認識して、ほぼ間違いは無い。ただ、手段の一つが『レベルサクリファイス』であると判明したのみじゃ!」
「……ん?なら、クレイドルも?」
『儂は『非戦』を新たに司るに至った。
あとは齢を重ねるだけでも、儂の場合、またドレイクに至る』
「クレイドルの信者は?」
『フンッ!人神の手によって、龍信仰はイコール魔王信仰と見做されるに至った!』
「え?……ひょっとして、神々の間で、諍いがあったり……とか?」
『仲の良い神々の例の方が少ないかのぅ……』
「例えば、アナタの祖国の信仰する神は、未だタダの偶像で、神としての人格も、人間の手で創られたもので、自我に芽生えた頃に邪神認定されて、自らの不運を嘆くところから、本当の邪神として生きるか、それとも真っ当な神々の一柱として独立・成神するかを、自らの判断で決めねばならぬ。一部、魔王として認定されたモノは、神々への復帰はかなり難しいわよ?」
『ウム、魔王認定されたことを利用し、諸悪の根源となる魔王もおる。
それより、サッサと『レベルサクリファイス』を施せば良かろうに。それまでは、フォルトゥ・ブレサは邪神じゃぞ?言い包められて、邪悪になりとぅなければ、急ぐことじゃな』
「ああ……なら、『レベルサクリファイス』!
……!数十レベル上がって、遂にLV.800を超えたぞ!」
「ああ……疲労が消えていく……。
ありがとう。出来れば、ステータスを返して頂きたいわね」
「あ、そうか!……えーっと……譲渡!
……成功した……かな?」
「ありがとう。律儀に、全ステータスを返して来たのね。なら、幸運値の贈り物よ?」
フォルトゥ・ブレサがそう言った瞬間、アルトの幸運値が跳ね上がった。
「序でに、鑑定。……うん、『神格レベル』は上がってないから、アナタが神に近づき過ぎて死んでしまう可能性は、殆ど無いわ。安心しなさい」
「……『神格レベル』?」
「そう。神としての人格とか、格付けのレベル。
コレは、たったLV.5から、『雑神』、LV.6で『女神』、LV.7で『神』として認められて、LV.8で『邪神』扱いされるの。
中々、神々の世界も世知辛いのよぉ〜?」
「じゃあ、LV.9やLV.10に、もしも届いちゃったら?」
「LV.9は『鬼神』として滅される。もしも突き抜けてLV.10に届いちゃったら、大抵は『馬鹿者』扱いされる。
だから、LV.8から神格レベルを下げる手段は、非常に重宝される」
「……その一つが、『レベルサクリファイス』」
フォルトゥ・ブレサは、黙って頷いた。
「さて。じゃあ私は、神界に戻って、管理者権限でアナタを見守りましょうか♪」
そう言うと、フォルトゥ・ブレサは「バイバイ」と手を振って消え去ってしまった。
「あの女神様、本気でレベルサクリファイスを受ける為だけに……?」
『ウム』
その返答に、アルトは違和感を覚えて、クレイドルに問い質す。
「まさか、レベルサクリファイスの情報を彼女に与えたのって……」
『ウム、儂じゃな』
正々堂々と開き直るクレイドルに、アルトは追及する気を失った。
「はぁー……ッ。今後は、要報告の上で迎えさせて頂きたいね!」
『ウム、努力する』
この時、アルトもクレイドルも気付いていなかった。
クレイドルの目が、アルトを監視する配信媒体にされていた事を。
クレイドルは、間もなく気付くだろう。
問題は、ソレが如何なる形でアルトに報せられるかと云うことであった。
『さて。他の神々が気付く前に、私が彼を加護してあげなければね』
今はフォルトゥ・ブレサが一柱、クレイドルの目を通してアルトを見守るのだった。




