第22話:フォルトゥ・ブレサ、二つ目の未練
アルトは、パン屋の店長を卒業し、次の目的地に向かう迄に、毎日、主に女神様への『レベルサクリファイス』を施していた。だが、アルトとフォルトゥ・ブレサとの繋がりには強いものがあり、特別な加護を授かり、その代わりに昇神する際の未練を三つに限って代理として晴らすことを、密かに約束していた。バルカドロスからも強い加護を授かっていたが、ソレは神剣『バルカ・レガリア』に宿り、出来得る限り、その神剣が抜かれることが無いことを願われていた。
つまり、基本的にアルトは、神剣を抜くようなトラブルは回避される加護を授かっているのだ。
そして、次の目的地は、不毛の大地、砂漠地帯だった。
「この地を草花で満たせと云うのだから、女神様も横暴な要求をするものだな」
ただ、アルトはこの地に向かうに当たって、『レベルサクリファイス』の際に『生命の宝珠』を用意し、少しずつ『生命のエネルギー』を蓄えておいたのだった。
そのエネルギーが充分に満ちていれば、その宝珠はこの不毛の地に花を咲かせる筈だった。
だが、そのエネルギーが未だ足りないことを、その地に着いた時に思い知ったのだった。
その為、充分な『生命のエネルギー』を蓄える為に、アルトは一行を連れて間近な街へと戻るのだった。
感覚的には、あと百柱の神々の『レベルサクリファイス』から、『生命のエネルギー』を満たす必要がありそうなのだが、勿論、『生命の女神様』からの『レベルサクリファイス』や、その際に得る加護のチカラを借りて、『生命のエネルギー』を得る方が近道なのは確かだ。
アルトはこの際、『生命』と、『成長・再生』や、『保護・慈愛』を司る女神様、『エルスウェア』と『フィオレヴァ』の二柱のレベルサクリファイスの優先順位を上げた。
勿論、苦情は来る。フォルトゥ・ブレサの未練を晴らすことを優先することや、二柱の女神様の優先順位を上げることに対して。
だが、主神パクス・エルクエンティアを味方に引き込むことで、アルトはソレラの苦情を黙殺した。
斯くしてアルトは、エルスウェアとフィオレヴァの二柱の女神様のレベルサクリファイスを行ない、充分な量の『生命のエネルギー』を蓄えたと確信した。
だが、話はそう上手くは行かないだろうとの、確かな情報が入った。
と云うのも、その地はかつて『フォルトゥ・ブレサの加護』を受けながらも、人間のエゴや戦火に因って生命の加護を拒絶され、完全に枯れ果ててしまった『神の原初の聖域』と云う名の、国境地帯だからだ。
今は不毛の大地だから国境は曖昧になっているが、草花が生えたら、また国境を巡って戦火で枯れ果てることは明白だ。
故に、事はココを国境の明らかな、豊かな大地にする為の、2カ国の王を説得することが必要な、政治的側面を帯びて来ることとなった。
幸い、アルトを害した国では無く、話が通じる相手かと思われた。当然、そんな期待はアッサリと裏切られる。
現状、その地は2カ国のどちらの領土である、曖昧な扱いを受けていた。ただ、不毛の地だから、どちらか一方が強く権利を声高に叫ぶ程の価値は無い。
だが、耕せば作物が実るなら、実力行使をして、例え不毛の地へと戻るとしても、その領土を獲得したいと云う思惑が双方にあった。
どちらも譲らない。女神の加護があるからこそ、獲得したいと云う希望を双方とも持っている。
交渉は、困難を極めた。
どちらか一方に手を引くことを、約束させることは出来ない。ならば、半分ずつ分ければ良いのかと云うと、その地には、町を築いて統治したいと云う希望が双方にある。
話の面倒臭さに、アルトは一度、フォルトゥ・ブレサ様に未練の諦めを打診した。結果は、ソレは呑めない。叶わぬなら今の加護も剥奪すると云う、女神様ならではの我儘であった。
そもそも、良かれと思ってしていることが、戦火を招きかねないとあっては、下手に手出し出来ない。
今や、『生命の宝珠』は、豊かな大地を約束するように、煌々と光り輝いている。
もう、『生命のエネルギー』は充分だ。ただ、条件だけが、その地を不毛の地として残している。
街を築くことは、ほぼ確定的だ。問題は、その所有権だ。
双方共に引かないことに、アルトは一度、中立の街を築くことを双方に打診した。簡単に言っているが、一週間を掛けて、片方からもう片方へ移動しての話し合いが、何往復もしている。
そう、双方の王都は、ソコまでにも近いのだ。だからこそ、領有を主張するのだ。
アルトは悩みに悩んだ結果、『独立都市国家とソレに付随する軍事力』と云う選択肢を両者に突き付けた。当然、断固反対する両国王。だが、アルトは宣言した。
「フォルトゥ・ブレサ様のご加護がある都市国家に戦力を向けるからには、フォルトゥ・ブレサ様からの怨嗟を受けることをご覚悟願いたい」
この宣言に、両国は震えた。と、同時に、問題となっている地を震源として、大規模な地震が起きた。
「女神がお怒りである!」
そのアルトの宣言には、確かな説得力があった。最初こそ一週間のラグがあったが、両国を訪れたことで、アルトは転移して瞬く間に情報を広められる。
アルトは早速、街を築く用意を整えていった。
場合によっては、神剣『バルカ・レガリア』を抜いて、アルトが主導して抗戦しなければならないかも知れない。
アルトは事前に、両国王に鞘に収まった神剣『バルカ・レガリア』を自慢しており。
「『バルカ・レガリア』に掛かった加護を破ることがあろうものなら……判りますよね?」
と、釘を差しておいてある。
町民は、最寄りの両国の都市にて募集していたし、建国に当たっては、両都市の技術者を募っていた。
ただ、統治に関しては、当初、アルトが国王を勤めざるを得なかった。どちらかの国の者に統治を任せれば、落ち着く先は明らかであったからだ。
王妃としては、当然、セレスティナが。そして、『生命の宝珠』にて、不毛の地に草花が咲き乱れる大地への変異が見られれば、湧き水も湧き出し、ソレは農業の可能性に繋がった。
そう、水の枯渇も、砂漠化の原因だったのだ。
一度、生命を宿した大地は、『フォルトゥ・ブレサの加護』に因って、何箇所も湧き水が湧き出し、街の民の生活の水源となり得て、あとは建物があれば、食糧は輸入を将来的に見込んで、アルトが買えば何とかなる。
建物は、当初、大金が必要かと思われたが、アルトがとある気付きから、全く問題にならなかった。
何しろ、大金貨を『コピペ』すれば、大金があっと言う間に手に入る。そして、金さえあれば、『何でもショップ』で手に入る。
そう、アルトはチートの果てから、無限湧きの財産を手に入れたのだ。
「軍事費もどうと言うことはないな」
等と大胆不敵に言い放つが、実際、金額は大した問題では無いのである。
『気付いてしまったか……』
クレイドルの目を通して見ていた柱が、そう呟く程である。久し振りの、柱の呟きである。
チートとチートを掛け合わせたら、もっと凄いチートになりました〜♪では無い。大問題だ。
レベル推定2000越えで、神剣『バルカ・レガリア』を持ち、亜無限大の経済力を持つ。しかも金さえあれば、何でも買える。
ねぇ、ソレって、どんな化け物?と云う話である。
一般の人間の限界がLV.99で、どうやって敵う?と云う、無茶な話であり、アルトにその気があれば、世界中の国全てを買って、世界統一国家の国王になることも可能であり、ただ、その野心が無いだけの話だ。
実際、国有地も含めて、国の全ての土地を買えれば、実質、国を買えるのであり、その資金は無限大だ。
あとは、余計な野心をアルトが抱かねば良いだけである。
金の価値の暴落は目前に見えている。
ただ、アルトは自分のスキルで何でも買えるから、いきなりそうはならないと云う、それだけの話なのだ。
場合によっては、人間も買える。奴隷を買えば、その所有権もアルトになる。
果たして、アルトの目指す、本当の願いは何なのか。それが何であれ、叶わないと云う可能性は、果たして本当にあるのだろうか?
あとは、セレスティナが上手く御することを願うのみだ。




