第2話:経験したレベルサクリファイス
「うっ……」
何十階にも及ぶ吹き抜けの一番下で、アルトは目を覚ました。
「ココは……」
アルトは目が覚めて、真っ先に地底に眠るドラゴンの姿を目にし、驚愕に震えた。
「あ……何故、危険を察知出来ない……?」
先日倒したウォータードラゴンなぞ、相手にならない程の驚異的なエルダードラゴン……或いは神龍だった。
『何ぞ用か、小さき者よ』
やけに甲高い声の仮称・ドレイクが、鎌首を擡げて問い掛けて来た。それ程もの存在が、人間一人に興味を持つことが先ず、意外だった。
「あ……あなたはドレイクか?」
『フンッ!狩りに来た訳でもあるまいのか。
折角ならば、我が首を落として、この退屈な生を終わらせてくれれば良かろうに』
「──は?あなたは死にたいのか?」
『ウム、出来るだけ楽に、の。
他の能力は未熟な癖に、儂の首を落とす能力だけが突出して長けておる。
もう、生きても退屈なだけじゃ。いい加減、首を落として行け』
「……代わりに、一つ条件を飲んで貰えないだろうか?」
ドレイクがその首をアルトの前に晒し、まるで『斬って落とせ』とでも言わんばかりの態度でこう言った。
『好きにせよ。済んだら我が首だけ落として行け』
「内容を訊かなくて良いのか?」
『興味無い。もう、未練は無い』
「なら……『レベルサクリファイス』!」
そのスキルを使った途端、ドレイクの身が目に見えて若返って行き、逆にアルトはレベルがどんどん上がって行った。そして遂には、ドレイクはベビードラゴンとでも云うべき小さな身体になり、アルトのレベルは……『728レベル』まで次々にレベルキャップを外して上がってしまった。
「『はっ!?』」
その声は重なった。まるで双子のように。
『何じゃ、コレは!若返って、エネルギーに満ち溢れておる!』
「何だ、コレ?──はぁッ!?人間の限界を超えている!」
一人と一柱は、揃って声を重ねる。
「『どういうことだ!?』」
その時、初めて、お互いにとって不本意なことが起こったことをお互いに知る。
「なぁ、もし名があったら、名前を教えて貰えないか?会話するのに、名前が無いと不便でならない」
『我が名か……貴様が適当に付けてくれて構わんぞ?』
「名前を付けるのか……ドレイクだったみたいだから、『クレイドル』でどうだ?」
その名が与えられた瞬間、クレイドルの身体は光に包まれた。
最初は直視出来ない程の光だった。それがゆっくりと収束していく。
やがて、そこに居たのは、レベル1のネームドモンスター、クレイドルだった。
『クククッ、良いぞ!我が身が若返ったことで、永年取れなかった長寿が故の精神的疲労感から解放された!
この身ならば、まだ幾ばくか生きても良いか!
おい、貴様。付いていってやる故、名を名乗れ!』
「俺はアルトだ。
さて。色々と失われたスキルは再習得するとして、舐めた真似してくれた神官達には、少し後悔して貰わねばな!」
『辞めよ。復讐は何も産まん。憎しみの連鎖が繰り返されるだけだ』
意外にも、クレイドルは非戦的であった。
『それよりも、外の世界に出るぞ!
こんな退屈な場所に居ては詰まらぬ』
そう言われて、アルトは天を見上げた。
「空を翔ぶ魔法が使えれば、一発で地上に出られたのだけれどもな……」
『ソレでは詰まらぬ。
地下牢に閉じ込められた魔物を狩って、レベル上げをしつつ、地上へと向かうぞ!』
フッと軽くアルトは笑った。
「非戦的かと思えば、レベル上げには積極的かよ」
そう言ってから、先ほど、自分が使った能力を思い起こした。
「『レベルサクリファイス』、かぁ……。強力な能力だなぁ……」
一度は、ソレで無力化された。
だが、跳ばされた先には、もう未練の無いドレイクが居て、経験した『レベルサクリファイス』に無抵抗で受けた。
結果が、アルトの大幅レベルアップと、ドレイクこと、クレイドルの若返りだった。
ただ、クレイドルは『名前付き魔物』としてレベルこそ上がらないものの、チカラを手に入れた。それに、そもそもミニマムとはいえ、ドラゴンはそもそもが強い。
そんなものを、わざわざ名前を与えて強化してしまった。
「……まぁ、強力な同行者と思おうか」
『何じゃ?名前を与えられたからには、儂は貴様に付いて廻るつもりじゃぞ?』
「ハイハイ、っと。……おや?状態異常全無効の能力が『極』のレベルに跳ね上がっているぞ?」
『儂から奪った能力ではないか!』
「奪った?……確かに、見覚えの無い能力もある」
『鑑定』の能力でステータスを見るに、『ブレス能力』等のクレイドルから得た能力もある模様だ。
つまりは、『レベルサクリファイス』は経験値やステータス、スキル等を奪う能力と思われる。
「しっかし、エゲツない能力だな、『レベルサクリファイス』。
……コレ、自分に使ったらどうなるんだろう?」
アルトは、小さく『レベルサクリファイス』と呟いて光に包まれ、落ち着いた時には、一見、何も起こっていないように思われた。
だが。
「うン?『レベルサクリファイス無効化耐性』?
……つまり、二度とレベルサクリファイスされない耐性を得た?」
その言葉の意味を考えた時、アルトはその意味を悟った。
「……そうか、アイツらから、二度とレベルサクリファイスされなくなったのか。
良いぞ、この耐性は。
出来れば、『極めて』おきたいところだな!」
『『極める』等と、そう簡単に言うものでは無いぞ?』
「ただの努力目標だ。それを決めておかないと、後々困ることになる」
『では、先ずはココのフロアボスでも撃破しようぞ!』
「……クレイドル。お前、フロアボスじゃなかったのか?」
『フフフ……。儂は、フロアボスをも超越する隠れボスよ!
普通、勝てるものではないのだが、ドレイクになること、早数千年、精神的疲労感で希死念慮に囚われておった。
まさか、若返った上に、その精神的疲労感から解放される時が来るとは信じられずにおった!
先ずはフロアボスだ。食うには適しておらんが、良い経験値となろう』
「じゃあ、フロアボスって……」
『『蠅の王』じゃ。
それなりに強いが故、油断することの無いように、な!』
「クレイドルがそれなりに強いと云うからには、相当強いんだろうな」
『そこは、ほれ。レベルサクリファイスを使えば、ただの大きな蠅よ。
出来れば儂がレベルサクリファイスしたかったところじゃが、貴様のように体験したスキルを使い熟すほど器用では無いわい』
「ところでクレイドル。お前、雄雌どっちだ?」
『声を聞けば雌と判ろうが!全く、それぐらいも訊かねば判らんか!』
「そうか……一人称が儂で、その割には声が甲高かったから、どっちかと困惑したんだが。
オーケー。序でに聞いておくが、人の姿に化けられるか?」
『なれる!……見たいか?』
「いや、見たいかどうかと云う問題じゃないから、必要になってからで良い」
『何じゃ。詰まらぬ男よのぉ……』
アルトは、元・神龍だった同行者をちょっと軽く考えて居たのが、後にどれほどの影響を世界に与えるものか、かなり甘かったことを思い知ることになるが、それはまた、後の話だった。




