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第1話:絶頂からの転落

 アルトは、18歳のその時、一匹のドラゴンを倒して、人類の上限と言われるレベル99に到達した。

 そのドラゴンは、水辺に棲息するウォータードラゴンだった。

 パーティーメンバーと協力して、トドメを刺したアルトだけがレベル99に到達した。


「皆、済まないな」


 自分一人がレベル99に到達したとあって、アルトは仲間にそう謝罪した。


「いいのよ」


 アルトの幼馴染であり、聖女であるセレスティナはそうアルトに言った。


「トドメを刺すのはリーダーの特権だもの」

「そうだな」


 追従(ついじゅう)したのは、剛腕の聖騎士・ヴァルザックだった。


「パーティーの先陣を疾走(はし)るお前がトドメを刺さずに、誰がトドメを刺す?」

「あら。悪かったわね、トドメを刺せる火力を出せなくて」


 唯一、アルトに代わりトドメを刺せる可能性のあった、大魔導士のルシアンが少しスネて言った。


「ハハッ、ルシアンの得意な火魔法では、ウォータードラゴン相手に火力を出せなくても仕方あるまい」

「……何ならアタシなら、頭を刎(は)ねる事が出来たかも知れない」


 ルシアンの言葉にフォローしたアルトに、影縫いのキリカが心強い言葉を紡(つむ)ぐ。


「ドラゴンの頭は流石に無理だろう」


 ヴァルザックに突っ込まれると、キリカも反論はしない。キリカは暗殺者の一族の少女で、アルトに拾われた過去を持つ、パーティー唯一の未成年だ。とは言え、アルトがレベル99に到達した今まで世話になっていたので、そこいらの暗殺者になぞ負けない実力を持つ。


「さて。コイツを捌いたところで、王都へ凱旋(がいせん)して、俺は英雄の仲間入りだー!」


 アルトの言う通り、この世界では、レベル99到達者は英雄として扱われ、王都で凱旋パレードをすることになる。


 そうしてアルトは、世界の悪意に気付かぬまま、凱旋パレードを迎え、人類最高峰の才能と称し、そして、陰謀に巻き込まれていくのだった。


✩★✩★✩★✩★✩★✩★✩★✩


 パレードを終えて、神殿での無礼講パーティーが行われた。

 贅を尽くした料理が振る舞われ、アルトはキリカから「コレも美味いぞ」と勧められる儘(まま)に食べ進める。

 そして、神官と乾杯をしてワインを飲み干した時のことだった。


「……?」


 酔っ払った、訳では無い。アルトは目眩から、左膝を着いた。


「……ようやく効いてきたか」


 神官の態度が一変した。アルトを英雄として讃(たた)える態度から、アルトを陥(おとしい)れる態度へと。


「神託が下った!」


 神官長が託宣(たくせん)する。


「英雄アルトを、邪神を封じる為に、生贄(サクリファイス)すると!」


 アルトには、その言葉の半分も聞き取れない。当然、意味は通じない。

 だが、何らかの陰謀があった事には、アルトの頭も回った。


「英雄のレベルをサクリファイスせよ!」


 神官長は告げる。唯一、セレスティナがアルトに駆け寄った。


「アルト、大丈夫!?」


 当然、その言葉も半分程しか通じない。


「その圧倒的なパラメータとスキルは『生贄の宝珠』へ!」


 アルトに怪しげなオーブが近付けられたかと思うと、アルトは圧倒的な脱力感を覚えた。


「レベル1になった英雄は、『生贄の壺』へ!」


 セレスティナを抑え込み、神官達は怪しげな壺をアルトに近付けた。直後、アルトの姿は消え失せる。


「放して!アルト!」


 最後まで抵抗したのは、セレスティナただ一人だった。


「お前は強くなり過ぎたんだよ、アルト」


 ヴァルザックは言い捨てるように言葉を放った。


「……でも、未だ死んだ訳じゃない」


 キリカは、セレスティナとは違う意味で、アルトの死を否定した。


「アルトぉ!」

「聖女様なら、大聖堂の意向に従い、邪神の封印にお力(チカラ)を貸して下さいませ」

「でも!」


 神官長は神妙な面持ちで云う。


「神のご意向であります」

「そんな!」

「然(しか)る後に!」


 神官長は言い放つ。


「英雄の莫大なる魔力と『状態異常全無効』のスキルは聖女セレスティナ様へ!」

「……え?」


 動揺したセレスティナは呆然とする。


「英雄の肉体耐久性(HP・DEF)と防御特化スキルは聖騎士ヴァルザック様へ!」

「はい!」


 むしろ、アルトの拘束側に協力的だったヴァルザックは喜色満面に返答する。


「英雄の極限まで到達した魔法演算能力は大魔導士ルシアン様に!」

「あ〜い」


 生贄の宝珠と生贄の壺を用意したルシアンは適当に返事をし。


「英雄の超人的な敏捷性(AGI)と危険察知能力は影縫いのキリカ様に!」

「……だから、対ドラゴン戦の直後でなければ、この危機を察知されていたのよ」


 何かと、疑問の余地の残る事態であった。『状態異常全無効』のスキルを突破する毒なぞ、キリカの腕で無ければ用意する事すら出来なかった。


「……それで、英雄の超人的な攻撃力は誰が受け継いだのだ?」


 ヴァルザックの指摘に、神官達は「あっ!」と意表を突かれた反応を示す。


「ま、まぁ、邪神相手にそこまでの攻撃力は必要あるまい」

「……で?邪神は何処に居る?」

「隣国だ!」

「隣国ぅ?まさか、侵略戦争の先陣を務めさせるつもりじゃあるまいな?」

「それこそまさか!そんな訳があるまい!」


 神官長は冷や汗を垂らしていたが、ヴァルザックはそれ以上追及はしなかった。


「で?英雄様は今何処に?」

「フンッ!地下ダンジョン最深部よ!

 まさか、そこからレベル1で帰っては来(こ)れまい」

「見通しが甘いことで。……そんなことじゃ挫(くじ)ける奴じゃないことは、俺たちが一番良く知っている!」

「うん、アイツは攻撃力だけが残っていても、充分な条件よね」

「アタシの毒をあれだけ摂取して、未だ生きている事実が全てなのよ」

「アルト君が簡単に死ぬ筈が無いわ!」


 神官長がニタァッと嗤(わら)った。


「その能力は、全てあなた方にサクリファイスされておりますよ」

「……サクリファイスされた経験値を与えた、と考えるべきなのよ」


 唯一、毒の効果を知っているキリカが呟(つぶや)いた。アレは、致死性を奪うことで、初めて逆にアルトに効果を与えたと云う事実を。


「地下ダンジョン最深部、ねぇ~。却(かえ)って、アルトに経験値を稼ぎやすくしただけの気がしてならないわ」


 ルシアンは、そう言って場を離れようとした。


「ど、何処に行く、ルシアン殿!」

「魔導院。そこで前人未到の第九位階魔法を解明して、『叡智の冠』として最高権力者に君臨する!」

「じゃ、邪神は如何する?!」

「邪神、ねぇ……。いい加減、都合の悪くなった神々を一括りに『邪神』扱いするのは、お止めになったら?

 悪趣味にも過ぎますわよ?」


 又、ヴァルザックも離席しようとする。


「ヴァルザック殿!」

「勘違いするな。人類最強の『不落の盾』として、聖騎士団長にでもなってやる。

 その代わり、いつまでも俺を二番手に添えた儘だったアルトの奴の存在だけは、その存在そのものの抹消をしなければ、俺はこの身を翻(ひるがえ)す」

「ヒィッ!」


 ヴァルザックの威圧は、神官長の腰を砕いて尻餅を突かせた。


「私はアルトを信じる!」


 セレスティナはブレない。絶望的な条件だけど、アルトの死を受け入れない。


「大聖堂への借りは返した。

 アタシは、アルトに『ゴメンナサイ』して許して貰う」


 キリカは、これまでの大聖堂への恩を返し終え、今度はアルトが無事だった場合の対策に打って出る。


「じゃあね、皆」

「今度こそ、俺は一番になる!」

「アルトは、そう簡単に死なないんだから!」

「……ん。真面目に『ゴメンナサイ』しないと、今度ばかりは許して貰えない」


 4人は、教会の意向に背いて、それぞれの道を歩み始める。

 そう、英雄から引き継いだ能力に従って。

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