第12話:アルトの生存
『良いか、アルトよ。
LV.10000までは、迷いなく上げよ!
その先のことは、その時になってから考えれば良い』
アルトはクレイドルのそんな言葉に従って、今日も神々のレベルをサクリファイスし、神々を若返らせていった。
一方で、アルトがヴァルザックに見られたことで、王国側にも変化が見られていた。
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セレスティナは、その報を受けて涙していた。
「アルト……生きていてくれたなんて……」
「ガ~ン!見捨てられた……」
キリカも、ゴメンナサイする機会を得られず、ショックを受けていた。
「……女は、未練を残さない生き物だと思っていたがな」
「だから、ヴァルザックは女性からモテないのよ」
そう云うルシアンは、莫大な魔力を距離は遠いのに感じている事実から、自らの対アルトへの立ち位置を測りかねていた。
「元々、魔力も大きな人だったけど……コレだけの魔力を、人が個人で持ててしまって良いものなの?」
「ルシアンでも勝てない。ゴメンナサイしないと、今度はメッ!だけでは済まない」
キリカは、キリカだけは、アルトが生きている前提で活動していた。セレスティナですら、アルトの生存可能性には賭けられず、神殿で聖女としての活動に勤しんでいたのに、だ。
セレスティナとキリカは、アルトを追う旅に出る準備を始めた。ルシアンは、人類未踏の第九位階魔法の解明まで届いていないので、その旅に同行する予定は無い。ヴァルザックは、立場上、旅に出る訳にはいかない。セレスティナとて、本来はそうなのだ。
が、セレスティナは躊躇いも無く、『聖女』の地位を捨てた。そこまで想われているアルトに、ヴァルザックが嫉妬する。そして、リヴァイアサンに取り込まれて、急熱を出して倒れた。聖騎士団長が倒れたのだ。国にとって、危機的な状況だった。
幸いにも、ダンジョン・パレードは止まっている。アルトがダンジョンを出たことで、ヴァルザックで抑え込むことが出来た程度には落ち着いていた。
セレスティナは、請われて一度のみ、ヴァルザックに回復魔法を掛けた。だが、心此処に非ずの彼女では、『聖女』としての回復魔法能力を発揮出来なかった。そして、二度目は明確に断った。
元のアルトの全魔力を得たセレスティナは、今や圧倒的な攻撃魔法の能力にも目覚めていた。ましてや、邪な心を抱いた神官や国王は、セレスティナから『聖別』されるだけで、無力化する。そうはさせる訳にはいかなかった。
今は、アルトの関心がこの国自体に無いから、現状で済んでいる。永く生きたクレイドルの、『復讐は虚しい』と云う言葉も重い。ある意味、この国はクレイドルに救われた。
だが、『聖女』がこの国に関心を失ったのは、重大な問題事であった。『聖騎士団長』が倒れたのも痛い。
今、この国が他国から攻められたら、滅んでもおかしくない。
だが、国王は皆に隣国の邪神の討伐を目的として、隣国への侵攻計画を立てていたのだ。
攻め込むなら、最大戦力を以って奇襲。だが、この国の最大戦力は、隣国への侵攻を断った。
唯一、ヴァルザックは好戦的だったが、一人では国は落とせない。人間の限界に囚われている限り。
対してアルトは、この国だろうが隣国だろうが、一人で攻め滅ぼせるレベルに到達していた。
ましてや、『神剣』を携えているのだ。
気持ちも、ドワーフ達との酒盛りで、リフレッシュしている。
この国への恨みは、忘れつつあった。
今更、セレスティナに靡くか、キリカのゴメンナサイを容赦するものか、判ったものではない。
だが、セレスティナはアルトを求めており、キリカも反省している。二人は、アルトが居ないとダメだろう。現に、セレスティナの『聖女の資格』は失われつつある。皆を愛することは出来ない。ただ、アルトを愛する気持ちに囚われていた。
キリカは、恩を仇で返した罪悪感に駆られている。
確かに、キリカはアルトに致死性の無い毒を盛ったが、『生贄の宝珠』と『生贄の壺』はキリカの計算外だ。
確かに、キリカはその毒をアルトに盛らなければ、国から人として扱われることはなかっただろう。だが、独断で実行し、アルトには相談して庇護して貰わねば、拾われた恩に報いることは出来なかっただろう。庇護して貰った上で、国に逆らえばこんな事態にはならなかった。
セレスティナとキリカはアルトを追う旅に出た。
ヴァルザックとルシアンは国に残った。
思えば、危うい旅に二人は出たことになる。
野卑な野郎に絡まれたら実力を行使して追い払わねばならない。しかも、そう云う連中に絡まれ易い二人なのだ。
ヴァルザックですら、止めなかった。止めても無駄だと判っているからだ。
ルシアンは、研究の成果の御守りを二人に渡し、男除けはしておいた。
そして、二人はドワーフの里にアルトの訪問の情報を得た。
二人は一路、ドワーフの里へ向かう。
ただ、女性の身にして、酒を手土産にするドワーフの里へと向かう情報には疎く、門前払いになるのだが、辛うじて、アルトの情報の断片を得るのだった。
「キリカ、どう思う?」
「……ゴメンナサイしないと、絶対許して貰えない」
「そうよねぇ……今は眼中にないって感じ」
セレスティナは小石を蹴った。アルトに当たれとばかりに。
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コツンッ。
「痛ぇッ!」
アルトは、後ろから頭に当てられた木ノ実に、振り向くと樹の上に嗤う猿を見つけ、そして同時に、後ろを歩く女性二人組みに、セレスティナとキリカの幻を見た。
「あー……アイツら、どうしてッかなぁ……」
今のアルトの知覚能力は、一瞬にして千里を見通した。
「……あっ!あのタリスマン、ルシアンが持たせた道標だな?」
一瞬にしてソレを看破すると、悩んだ。
すると、ソコにいた二人組みの女性が、三人の男に絡まれていた。
「おい、お前ら。止めておけ」
「アァン!?何だ、おま──ヒイッ!」
アルトの威圧に、三人の男が大袈裟なほどビビるばかりか、威圧に当てられていない二人の女性も軽くビビる。男三人は逃げ出した。
三人が去ってから、威圧感を消し、ニコッと笑顔を作ったアルトが、二人の女性に話し掛ける。
「お気を付けて」
「は、はい。……ありがとうございます」
「さて」
アルトは、早速セレスティナとキリカの方を向く。距離は遠いが、『人除けのタリスマン』の強い魔力が、アルトからしてみれば目立つ。まぁ、その為にルシアンが持たせたのだろうが、とアルトは思い、『旅の神様』から貰った転移の魔法で、アルトが通った経路の二人の近くまで飛ぶ。
キリカが、その気配に気付いてビクついてるのが、アルトにしてみれば面白い。
距離にして、徒歩10分程の場所だ、見通しが良ければ見えてもおかしくない距離だが、木々が邪魔して、見通せる程ではない。
キリカが見るからに動揺して動き回り、アルトの接近寸前から、蹲ってしまった。
「……ん?」
遂に、アルトはセレスティナとキリカに再会した。
「あ、アルト……」
「ゴメンナサイです!ゴメンナサイです!ゴメンナサイ……」
「ん?キリカは何をしているんだ?」
「土下座、だそうよ。それよりも──」
セレスティナは、勢い良く駆け出して、両手を開いてアルトに飛び付き、抱き着いた。
「おかえりなさい、アルト……」
「ああ、うン。戻ったよ」
「ゴメンナサイ。あんなことが仕組まれているなんて、知らなかったの!」
「セレスティナは……そうだろうな……。
で、キリカ。誰の命令でやった?」
「神官長の命令デス。
殺しはしなくて良いと言われて、その代わり、効果が確実な強力な毒を盛るよう命令されたデス。
ドラゴンが意識を混濁とする毒を盛ったデス……」
「判った。でも、結果論、俺が無事だったから、許す!」
「メッ!はしないデスか?メッ!は?」
「しないよ。キリカは薬で、命令には逆らえない精神に洗脳されているのを利用されたんだろ?」
「ハイッ!事前に言っちゃダメとも命令されたデス」
「キリカのその洗脳、何とか解ければ良いンだけどなぁ……」
「洗脳を解く薬の作り方は知っているのデス。でも、自分で作って飲んじゃダメって命令されたデス」
「あー……最初に洗脳された時なのかなぁ……。
ン?作り方は知っている?」
「ハイッ!熟知しているデス。
でも、作っちゃダメなのデス」
「……材料はある?」
「常備しているデス」
「材料、出して。作り方を説明出来る?」
「分量測るのが大変なのデス。分量間違えると、私は死ぬのデス」
「……分量も説明出来る?」
「説明は幾らでも出来るデス」
「じゃあ、全部出して、分量教えて」
そう言われて、キリカが説明した分量を訊いて、既に『薬神』の加護を得ているアルトは、疑問を抱いた。
「コレ、分量は正確?」
「いえ、間違った分量を説明する命令を受けているデス」
「……足りない材料は無い?」
「無いデス」
「余計な材料も無い?」
「無いデス」
アルトは腕を組んで悩んだ。
「確かに、コレを調合すれば、致死毒になる。
でも、ワンパターンだけ、死なないけど、特に効果が見受けられない調合がある。
その調合、試しても良いか?」
「アルトに任せるデス」
道端に寄って、アルトは薬の調合を30分掛けて調合した。
「良しッ!キリカ、この薬を呑めるか?」
「その薬を飲むことは命令で禁じられているデス」
「なら、上向いて、口を開いて。コレは命令だ」
「はいデス」
アルトはキリカの口に調合した薬を流し込んだ。
だが、嚥下しない。
「キリカ、口を閉じなさい」
キリカは口を閉じる。
「はい、キリカ。唾をゴックンして」
ゴックン。
「……え?」
キリカは、薬を飲めたことにビックリした。
「飲めたのデス」
「古い命令が解けかかっていたンだろ」
「……効果が完全に効くまでに、一週間掛かるのデス」
端から、洗脳がそう簡単に解ける訳がない。
だが、アルトは重ねて訊いた。
「その、一週間と云う期間は正確?」
「判らないのデス。一週間と答えろと命令されているのデス」
「そっか……厄介だな」
毒効の中和の加減の為に、他のパターンの調合をしても、薬効は見込めない。
とりあえず、アルトは一週間様子見をすることにした。
そして、キリカにばかり構っていたことに、セレスティナが拗ねて、そのご機嫌を取るのに、アルトは苦心するのだった。




