エピローグ
―エピローグ―
「すっごく素敵だったよシェイレーヌ!」
「ありがとう」
リンクウェル様との結婚式を終えて、与えてくれた自室で息をつく。一緒に来てくれたレイカリラはさっきからマシンガンのように感想をくれていた。それに笑いながら、先ほどの結婚式を思い返す。
豪華な飾りつけに、たくさんの人。緊張したけれど、リンクウェル様がいてくれて、愛しいと言うように見つめられて、嬉しさの方が勝った。誓いの口づけも、触れた手も優しくて。
「――……」
自然と顔がほころぶ。
早くこの結婚式の写真ができないかな。そう、テーブルに置いてある写真立てに目を向ければ。
「……あれ」
「? なぁに?」
そこには、小さなプレゼントがあった。それを見て声を上げたのは。
「あ、それ」
私じゃなく、レイカリラだった。
「知ってるの?」
「あ、うーん……昔、従兄さまが選んだのに似てて」
「リンクウェル様が?」
「うん、あれ? シェイレーヌに渡したはずだけど」
「? もらってないよ?」
「え? じゃあお礼だけ言ったのかな」
「あのときも言ったけど、私、あのパーティーでリンクウェル様に初めて会ったよ?」
そうプレゼントを手に取り言うと、レイカリラの声が止まる。それに違和感を感じて向けば、彼女は信じられないと口を開けていた。
「レ、レイカリラ?」
「うそでしょ!? もしかしてあげてないどころか会ってもなかったの!?」
「えぇえ、なに!?」
「それもう五年くらい前の話だよ!?」
「えええ!?」
むしろ五年前から知られていたのか。そこにも驚きだ。
「まだシェイレーヌが”僕”って言ってた時だよ!」
とんでもない黒歴史も掘り返されてそれも驚きだよ。
「やめてよ掘り返すの!!」
「えー、私は好きだったよ?」
「ありがとう、でも今は恥ずかしい……」
ベイル様と友として育った私。その歴史は少し複雑だ。婚約者という話になったからこそ女性らしさを磨いたけれど、その話が出るまで。
私はベイル様と「男友達」として育ったのである。
ベイル様に引っ張られるように一人称は「僕」だった。直すのはそれはもう大変だったものだ。ベイル様の前では変わらず「男友達」を求められたし、けれど人前では「女性」であることを求められたし。なかなか矯正ができず、中学時代の途中まで咄嗟のときにはそれが出てしまっていた。その恥ずかしさによる熱を冷ますように、手で顔を仰げば、レイカリラの目は哀れみに変わる。
「それにしても、いざというときほんとに度胸ない従兄さま……」
それに、今度は私が笑った。
「あはは、そうかなぁ?」
「そうだよ! 渡すって言ったから中学三年の修了式!! こっそり学園に入れてあげたのに!!」
とんでもない告白を五年越しにされてるけれどそこは置いといて。
彼女の言葉に、違うことが思い至る。
「――ふふ」
「? シェイレーヌ?」
「ううん、やっぱり、君のお従兄さんは優しい人だよ」
「?」
中学三年の修了式と言えば、私とベイル様が大きくすれ違った日だ。婚約者としての務めを果たしたい私と、友としていてほしいベイル様。学園で言いあったのは、今でも覚えている。それを見られていたんだろう。本当のところは、本人にしかわからないけれど、きっとリンクウェル様のことだ。話しかけずにいてくれたのだろう。その心遣いに、今とても救われた。心のむずがゆさも感じながら、プレゼントを撫でれば。
「!」
かさり、手紙が落ちる。
「あれ、あのとき手紙なんて書いてなかったけど」
「君たち従兄妹は本当に互いに行動が筒抜けだね……」
この長いようで短い婚約期間、一番驚いたのはそこだ。レイカリラはここに行った、リンクウェル様はあそこに行っていると互いの行動をまぁよく知っている。その仲の良さをうらやましく思いつつ、手紙を開ければ。
「――ふふっ」
「なになに!?」
「ないしょ」
嬉しい言葉が書いてあり、それはレイカリラから隠す。
えーっとむくれながらも楽しそうな彼女には「行ってくるね」と言って部屋を出た。
歩きながら、また手紙を見る。
青い髪飾りに添えられた、つい最近書いたであろう、その手紙を。
拝啓 シェイレーヌ
そこに続くのは、いつも通り一文だった。
あなたを心から愛している
まるで塗り替えられるように伝えられたその十五文字を、抱きしめて。
「次は直接言ってくださいね」
こぼせば、「もちろん」と言うように風が吹いた。
『”よくある話”と幸せを諦めた令嬢は、その”よくある話”で幸せを取り戻す』




