翌日は(進藤side)
好きとも言ってなかった不甲斐なさにしばし本気で落ち込んだ。
てか、両想いになってからって…
俺、この一ヶ月めちゃくちゃ浮かれてたのに、澄の中ではどういうことになってたんだ?
とはいえ、澄から告白された時の自分の、あのあり得ない自分の態度では、俺に好かれてるなんてとても思えなかったんだろう。
あの日に戻れたら俺は俺をぶっ殺す。んで今の俺が澄の告白を受けて、その場で抱きしめて俺も好きだって言おう。
土曜日。
ベタだけど遊園地の観覧車で告ろうと決めて、待ち合わせ場所に行くと、すぐにナンパされる。
「いや、これからデートなんで、いいです」
断って周りを見渡すと、澄は澄でナンパ男に捕まってるのが見えた。
すぐに撃退するが、本当に澄は危なっかしいと思う。
高校時代だって澄は男子から安定した人気があって、自分で言うのもなんだが俺みたいな男がべったりくっ付いてなかったら言い寄られてとっくに他の男と…あー、あー、考えたくねえ。
付き纏ってて良かった。
遊園地では予想外に澄がはしゃいで、サンダーなんとかだのスプラッシュなんとかだのに連続して乗って、緊張してたのもあってちょっと気分が悪くなった。
「ごめんごめん」
休憩がてら昼メシを食べて、冷たいお茶を飲んだら大分落ち着く。
「おかわりいける?」
とフードファイターのようなことを言い、澄がまた絶叫系をハシゴし始めたので、出来れば夕陽を見ながらとか悠長なことを言ってられず、観覧車に誘った。
…最高だった。
想いが通じて潤む澄の瞳も、必死に俺にしがみつく指も、蹂躙される小さな舌も。
キスがこんなに気持ちいいもんだなんて、知らなかった。
すっかり夢中になって、我慢出来なくて柔らかな胸を触るとビクリと震えて…
家に連れて帰って、すぐに全部俺のものにした。
無我夢中で澄の一番恥ずかしい場所を突きまくって、身体中に所有痕を付けた。
三回して、気絶するように眠って、起きた澄の服を取り上げる。
裸のままの澄ベッドから引きずり出して、無理矢理俺の膝の上でご飯を食べさせたりして…結局俺が澄を食べることになったりして。
結局この日、処女だった澄を散々貪ってしまった。
翌日も澄を帰す気にならない。
お風呂上がりにバスタオルを巻き付けながら「風邪ひく」と言われたら服を出さない訳にいかず、俺の高校時代の体操着の上を貸した。
全裸にジャージを羽織る澄…めちゃくちゃエロい。
いっぱいキスして、発情し掛けて、いやいや澄は昨日まで処女だったんだから無理させちゃあかん、と自分もシャワーを浴びに行ったけど、風呂を上がったら澄が乾かした髪を器用にボールペンで纏めて洗い物をしていた。
…生足綺麗。可愛い。髪の毛も纏めてるの、超可愛い。高校時代、体育の時はよくああやってまとめてたなあ…。
と、いうことで、キッチンで立ったまんま一回、ベッドに連れてってもう一回、澄をたっぷり可愛がった。
事後、俺は有頂天で、ぐったりする澄の横に転がってギュウっと抱き締めながら、つい、…失言をしてしまった。
「あー…澄、可愛い…。体操着エッチ興奮する。もっと早く付き合ったら良かった。制服でエッチとかしたかった」
「…」
その瞬間、澄が身体を強張らせた。
「…澄?」
「……帰る」
澄が硬い声で言う。
「え?」
「服、返して。…帰る」
俺の腕を振り解いて身体を起こす。
「え、どうした?」
「服、返して」
いつもの無表情、よりももっと硬い表情で、怒った声で繰り返す。
…やばい。俺、今、なんかやらかした?
思い返そうとするより早く、澄が
「返してくれないならこのまま帰る」
と立ち上がる。
「だ!ダメに決まってるだろ、そんな格好…」
全裸にジャージだけ着て、纏めてあった髪はとっくに解け、太腿に伝う汁…事後丸出しだ。3秒で襲われる。
「なんで怒ってんの?」
慌てて澄の鞄を取り上げて、出ようとする澄を通せんぼするように、玄関に続くドアを身体で塞いで立って俺が訊くと、
「わからないの?」
と聞き返される。
そう言った澄の顔は…怒ってなかった。ただ、悲しそうだった。
『何がまずかったかわかんねえのか偽善者』
義姉にいつか言われた言葉が脳裏に蘇った。
あれ、いつだっけ…?
そうだ、高校ん時、澄の告白を阻止するために付き合った青木と、澄の前で喧嘩を…
そこまで思い出したところで、俺は冷水を浴びたように青褪めた。
――何がもっと早く付き合えば良かった、だ!!
「ま…待って。待って。わかった。ごめん。俺が悪かった」
そんな言い方をしたら適当に謝ってるように見えてしまうのに、俺はとにかく急いで澄に許して欲しくて、勢い込んで謝る。
「なんで怒ってるかわかって―」
澄が声を震わせて、俺は思わず抱きしめた。
泣かせたくない…
「わかってる」
俺は、
「中学の…卒業式の時、行かなくてごめん。」
とうとう、それを言った。
澄が腕の中で身体を強張らせた。
「高2の時も、告白されるってわかっててわざと他の女と付き合って、傷付けて、ごめん。ごめんな」
…ああ、こんなこと言ったら、振られるかも…
言わないで済ませようとしてた狡い自分を振り切って、俺は言葉を紡いだ。
「渋谷のカフェに一緒に行った時、いなくなってごめん。そのあと呼び出されたの、すっぽかして…ごめん。二度としないから」
澄が腕の中でしゃくり上げる。
「ちゃんと話すから。何回でも謝るから。何でもする、澄、俺…なんでもする」
だから、捨てないで。
澄は何も言わずに、俺に縋り付いてわんわん泣いた。
ああ、ほんとに俺はクズだ。
手放した方が澄が幸せになるってわかりきっていたのに、ずっと、ずっと、どうしても放せなかった。
綺麗な黒い髪が俺の視界で揺れる度に、その瞳が俺を真っ直ぐ見つめる度に、その声が俺の耳をくすぐる度に…どんどん心を奪われていた。
本当はずっと、ずっと、とっくに好きだったんだ。




