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レン vs マルベック②

 五体目が外れ、そして六体目を斬るも――また剣がすり抜ける。

 ここまで外し続けてレンは違和感を覚えた。

 どれがハズレか露になる度、本物へ攻撃が及ぶ可能性が高まっていくはず。なのに八体のマルベック全てが薄ら笑み浮かべたまま。絶対に攻撃が当たらないという余裕が見てとれるのだ。

 レンが見ている限りでは、八体とも最初の位置から動いていない。見ていない隙に本物が動いて幻影と入れ替わっているということも無いはずだ。

 そもそも、斬られた幻影をそのまま残しておく意味もない。数は増やせないにしても、また新たに幻影を作り直せば更に混乱させることもできるはずなのに。


(そういえば、攻撃が飛んできたのは最初だけだったな。何でもっと激しく攻撃してこないんだろう……)


 位置が知られるような行動を慎んでいるのか。

 ――いや、そんなことで攻撃を躊躇するようではレンを倒すことなどできない。

 ならば強力な魔法を放つ準備をしているのだろうか。

 ――いや、そんなことをしていればすぐに本物の見分けがつく。いくら強力な魔法だろうが、放つ前に斬られてしまっては意味がない。


「一体何を考えて……っ!」


 レンの脳内に閃光が走る。その閃きに従い、レンは自分を包囲する八体のマルベックの()()()()()目を向ける。

 ここから数十メートル離れた場所――目を凝らしてようやく見える位置に、マルベックの姿があった。


「しまった。最初からこの中に本物なんていなかったんだ」


 八体の内、一体が本物など誰も言っていない。しかしレンはその中に本物がいると思い込んでしまっていた。本物は幻影に紛れてこの場を離れたのだろう。

 主に魔術師が敵との距離を離すために使われる転移魔法の一つ〈空間跳躍(ジャンプワープ)〉、あるいは自身を透明化させる〈不可視(インビジブル)〉――それらの魔法と〈幻影の鏡(イリュージョンミラー)〉を組み合わせれば、姿を隠しつつ距離を離すことは可能だ。


「……気づいたか。だが貴様が幻影と踊ってくれたおかげで、充分に魔力を練る時間を稼げたぞ」


 魔術師に時間と距離を与えてしまうことにメリットなどない。

 マルベックの頭上には、大きな魔力の輝きが浮かび上がっていた。何らかの強力な魔法を放つ準備をしていたのだろう。幻影を新たに作ることをしなかったのはこのためだ。


「させないよ!」


 幻影を突き抜け、レンは本物に向かって全力で走る。

 時間を与えてしまったのなら、それを帳消しにする速度で斬りかかればいい。

 もう自分は戦いを仲間に委ねるような非力な【聖女(レントローゼ)】じゃない。立ち塞がる敵を自分で倒すために、今度は戦士として自分を鍛えてきたのだ。

 マルベックとの距離がぐんぐん縮む。

 表情が見える距離まで近寄っても魔法はまだ発動していない。

 更に距離を詰める。間合いに入った瞬間に斬撃を繰り出すために腕に力を込める。そしてレンは剣を水平に構え、飛びかかった。


「――残念だったな」


 一切の動揺のない静かな声がレンの耳に届く。

 マルベックが勝ち誇ったような笑みを浮かべていることに気づいた時にはもう遅かった。


電撃機雷(エレクトリックマイン)

 敵の存在を感知して発動する機雷型の魔法。


 電気を凝縮した球体がレンの前に現れ、炸裂する。

 効果範囲内に強力な電撃の場が作られ、その衝撃がレンの体を貫くと共に弾き飛ばす。

 視界がバチバチと点滅し、ぐるりと回り、次の瞬間には地面しか見えなくなった。


「……ぁ……!」


 地面に叩きつけられた痛みと電撃が身を焦がす痛みに、レンは言葉にならない悲鳴をあげる。弾き飛ばされた影響で手からすり抜けていった剣は、空中で回転して倒れているレンの右横の地面に突き刺さった。

 体が急激に重くなり、指先を動かすことすらままならない。それでも全身の力を振り絞って顔を上げると、そこにマルベックが悠々と立っていた。

 空中にプールされた魔力が後光のように輝き、レンに影を落とす。


「何も警戒せずに飛び込んでくるとは……どうやら、私は貴様を買い被っていたようだな」

「……まだ、終わってない」


 尚も立ち上がろうとするレンに、マルベックは驚き半分飽きれ半分の表情を浮かべる。


「まだ戦うつもりとは……。何がそんなに貴様を奮い立たせている?」

「ボクは……君を倒すと……アルに誓った。アルはボクに……『任せた』って言った……。だから……」


 レンは突き刺さった剣の柄を握りしめる。

 息が苦しい。思うように力が入らない。それでも――

 ふらつく体を剣を杖代わりにして支え、レンは内なる想いを口にする。


「さっきから口にするそのアルという名、共にいた男のことか?余程慕っているようだが……あのような()()に与するとは、理解できんな」


 ――。

 ――――。

 ――――――今、なんて……?


 聞き間違えかと思うような言葉が投げ掛けられ、レンの心にじわりと黒いものが広がる。


「あの土精(ドワーフ)の女はともかく、あの男には何の力も感じん。そのような矮小な存在の分際で我々に歯向かうなど、愚の骨頂と言わざるを得んな」


 ――愚の骨頂……?アルが……?

 じわりじわりと心が黒く染まっていく。


「だが、そうだな……それほどまで大切な存在なら、貴様の亡骸に奴の首を添えてやろう。最も……虫けらの首など、加減を間違えて踏み潰してしまうかもしれんがな!」


 ――虫けら……?

 アルのことを……?

 ボクの大好きなアルのことを……虫けらって……。


 許せない。


 許せない!


 許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せな――――



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