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ゴブリン・ロード

「ゴブリン・ロードだと!?そんなもん、四星(クアッド)級のパーティが相手するような化け物じゃねえか!」


 ゴブリン・ロードは魔法を使う厄介な魔物ではあるが、単体ではそれほど強力というわけではない。驚異なのは、それに同伴している軍団だ。支配者がいることで統率力を高めたゴブリンとゴブリン・チーフからなる軍団は、場合によっては何百という数にもなる。

 三星(トライ)級が一人前の冒険者だとすれば、四星(クアッド)級はその上の達人冒険者だ。そのくらいのレベルでなければ、ゴブリン軍団の数の暴力に太刀打ちできず圧殺されてしまうだろう。

 対してこっちは動けないエトールを除けば、戦えるのはわずか四人。圧倒的に戦力が足りない。


 今、ヴォルグ達が置かれている状況は絶望的だった。


「……こんな状況じゃ、エトールを治療するなんて無理よ……!何とかしてこの包囲から脱出しないと……!」


 ストラは展開しかけていた〈下級治癒魔法(ヒーリング)〉の術式を解く。

 四方八方囲まれた状況では、どんなわずかな隙であっても壊滅に繋がる。エトールのことは心配だが、とにかく先に安全な場所に逃げることを優先するべきだ。

 ゴブリン軍団はヴォルグ一行を囲むように展開している。

 幸いなのは、最も大きな力を持つゴブリン・ロードが出入口の反対側にいること。これならば出入口に向かって一点突破を狙えるかもしれない


「オイ小僧ども。ここは一か八か、あそこを突破するぞ。それしか俺たちが生き残る方法はねえ」


 先程垣間見たレンの力――明らかに二星(デュアル)級という枠には収まらないあの実力さえあれば、不可能なことではないはずだ。

 しかし、アルスとレンは首を縦には振らなかった。


「ダメだよ。そんなことしてたら時間が足りない。今すぐ治療してあげないと、安全なところに着く前にエトールが死んじゃうよ」


 信じられないことを冷静に言うレンに、ヴォルグの瞳が鋭さを増す。


「な、何言ってんだ小娘!エトールがこの程度の怪我でくたばるはずがねえ!何を根拠にそんなふざけたことを……!」

「根拠ならあるよ。……今まで培ってきた経験っていう根拠がね」

「な、なん……!?」


 言葉を失うヴォルグに、周囲のゴブリン軍団に気を張りながらレンは続ける。


「ボクは今まで数えきれないほどの多くの怪我人を看てきた。親しい人も、大切な人も、それまで関わったことの無いような人も、擦り傷一つで大袈裟に痛がる人も、致命傷を負って血だらけになって死にゆく人も、たくさん……たくさん看てきた。だから分かるんだ。今すぐ処置しないと、その人は間違いなく手遅れになる」


 何を言ってる。適当なことぬかすんじゃねえ。そう一蹴するべきなのだろう。まだまだ青臭い小娘がそんな血生臭い経験を積んできているはずがないだろう、と。


 ――だが何故だろう。彼女が嘘を言っているとはどうしても思えない。


 言葉の節々から伝わる年端もいかぬ少女が発したとは思えない凄味がヴォルグにそう感じさせ、反論の余地を残させなかった。


「……例えそうだとしても、私が使えるのは〈下級治癒魔法(ヒーリング)〉まで。それじゃあ応急処置するだけでも時間がかかりすぎる……!敵に囲まれてるのに、そんな時間なんて……」

「時間が無いなら作ればいい。ヴォルグ、俺達でストラを守るんだ。そうしなきゃここから逃げられたとしても、仲間を一人犠牲にすることになる。……俺はそんな悲しいこと、絶対に起こしたくない!」


 洞窟に入る前にも見せた、一歩も引く気の無い力のこもった眼差し。そして純粋で濁りの無い透き通るような瞳。そんな瞳を、アルスは真っ直ぐヴォルグに向ける。

 その瞳の中には何にも勝る強い意思があった。


 ――なんなんだ、こいつらは?


 ヴォルグは唾を飲み込み、改めてアルスとレンを見る。

 組合支部では頼りの無い格下の田舎冒険者にしか見えなかった二人が、歴戦の強者のように見えた。


 ――こいつらは一体何者なんだ?

 本当に二星級(はんにんまえ)の冒険者なのか?

 本当に――ただの小僧と小娘なのか?


「……あいつらが動くよ!」

「来るぞ、ヴォルグ!!」


 混乱し始めたヴォルグを我に返らせたのは、今まで様子見と決め込んでいたゴブリン軍団が動き出したことを知らせるレンとアルスの声だった。


「……ストラ、エトールを頼む」

「……分かった。そっちこそ頼んだわよ……ヴォルグ」


 ヴォルグは戦斧を片手に立ち上がる。その目で見据えるは、先陣を切って飛びかかってくるゴブリンとゴブリン・チーフ。

 戦斧を握る腕に力を込める。仲間を瀕死に追いやった怒りと絶対に通さないという意思を乗せ――ヴォルグは全力で戦斧を振るった。


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