第五話 王都での日常
王都へ来て最初の日。
ルミアの案内で宿を決めた三人は、ギルドから歩いて十分ほどの宿へ泊まることになった。
「部屋はどうする?」
宿のおかみが尋ねる。
ルミアは迷わず答えた。
「三人とも女の子だし、隣同士の二部屋でお願い。」
「ヴィルちゃんとアイナちゃんは二人部屋でいい?」
「はい!」
ヴィルが元気よく返事をする。
アイナも静かに頷いた。
「じゃあ私は隣ね。」
荷物を置くと、その日は長旅の疲れもあり早めに休むことにした。
◇ ◇ ◇
翌朝。
ゴンッ!
「いたぁぁ……。」
聞き慣れた音が部屋に響く。
アイナが目を開けると、案の定ヴィルがベッドの横で頭を押さえていた。
「また落ちた……。」
「毎回だね。」
アイナは苦笑する。
「なんで落ちるんだろ。」
「私にも分からない……。」
ヴィルは照れ笑いを浮かべながら立ち上がった。
一方アイナは鏡の前で格闘していた。
「……。」
寝癖がぴょんと跳ねている。
何度とかしても元に戻ってしまう。
「うぅ……。」
ヴィルが後ろから覗き込む。
「今日はすごいね。」
「笑わないで。」
「ごめん、ごめん。」
ヴィルは櫛を受け取った。
「私がやるよ。」
「できる?」
「たぶん!」
数分後。
「いたたた!」
「ご、ごめん!」
「引っ張ってる……。」
結局二人で笑いながら何とか寝癖を直した。
「よし!」
「これで大丈夫。」
アイナは鏡を見て安心したように頷いた。
「ありがとう。」
「どういたしまして!」
◇ ◇ ◇
準備を終え、二人は隣の部屋を訪ねる。
コンコン。
「ルミアさん。」
「入っていいですか?」
「いいよー!」
中から明るい声が聞こえた。
扉を開けると――。
「え……。」
「わぁ……。」
二人は固まった。
部屋中に服が散らばっている。
椅子には上着。
ベッドには靴下。
机の上には食べ終わったお菓子の袋。
「どこいったかなぁ……。」
ルミアは床に座り込み、服の山をかき分けている。
「あった!」
そう言って持ち上げたのは片方だけの靴下。
「違った。」
また探し始める。
「ル、ルミアさん……。」
ヴィルが恐る恐る声を掛ける。
「あっ、ごめん!」
「ちょっと服が見つからなくて。」
そう言いながら今度はベッドの下を覗き込む。
「あれ?」
「下着どこ?」
ヴィルとアイナは顔を見合わせた。
(意外……。)
(こんな苦手なことあるんだ。)
いつも頼りになるルミア。
強くて優しくて何でもできると思っていた。
でも目の前では必死に服を探している。
「ルミアさん。」
アイナがベッドの上を指差した。
「そこ。」
「あっ!」
「本当だ!」
ルミアは顔を真っ赤にした。
「見なかったことにして!」
「はい!」
「もちろん!」
二人は思わず笑ってしまう。
ルミアも照れ笑いを浮かべた。
「戦うのは得意なんだけど……。」
「掃除だけは昔から苦手なの。」
「安心しました。」
アイナがぽつりと言う。
「え?」
「ルミアさんにも苦手なことあるんだ。」
ルミアは笑いながら頭をかいた。
「いっぱいあるよ。」
「だから完璧だなんて思わないで。」
その言葉に二人も自然と笑顔になった。
◇ ◇ ◇
朝食を済ませると、ルミアが言った。
「今日は依頼は受けない。」
「まずは王都を覚えよう!」
「やったー!」
ヴィルは大喜びする。
三人は王都を歩き始めた。
まず案内されたのは冒険者ギルド。
「ここは毎日来る場所。」
「迷わないようにね。」
続いて武器屋。
「装備を買うならここがおすすめ。」
「鍛冶師の腕がいいの。」
魔道具屋。
薬屋。
市場。
どこも規模が大きく、ヴィルは終始目を輝かせていた。
「広い!」
「何でもある!」
アイナも興味深そうに周囲を見渡している。
◇ ◇ ◇
昼頃。
三人は巨大な建物の前へやって来た。
「ここが闘技場。」
ルミアが説明する。
「大きい……。」
ヴィルは見上げる。
何万人も入りそうな建物だった。
「大会の日は満員になるよ。」
「私も何度か出たことある。」
「えっ!」
「ルミアさん出たんですか!?」
「三位までだけどね。」
ヴィルの目がさらに輝く。
「すごい!」
「私もいつか出たい!」
ルミアは笑った。
「そのためにも修行だね。」
「はい!」
◇ ◇ ◇
午後は飲食店巡りになった。
王都名物の串焼き。
果物をたっぷり使った甘いパイ。
冷たい果実ジュース。
ヴィルは幸せそうな顔で食べ続ける。
「おいしい!」
「王都最高!」
アイナも甘い焼き菓子を食べながら微笑んだ。
「……おいしい。」
ルミアはそんな二人を見て笑う。
「ヴィルちゃん。」
「食べ過ぎると夕飯入らないよ?」
「別腹です!」
「若いねぇ。」
三人は顔を見合わせて笑った。
◇ ◇ ◇
夕暮れ。
宿へ戻る道。
ヴィルは満足そうに空を見上げた。
「今日は楽しかった!」
「王都ってすごいね!」
アイナも静かに頷く。
「まだ全部回れてない。」
「うん。」
ルミアは二人の前に立った。
「今日見せたのは王都のほんの一部。」
「明日からは依頼も受けるし、ダンジョンにも行く。」
「もっと忙しくなるよ。」
ヴィルは笑顔で答える。
「望むところです!」
アイナも力強く頷いた。
「強くなります。」
ルミアは優しく微笑む。
「その意気。」
「じゃあ明日から、本格的な王都での冒険を始めよう。」
夕日に照らされながら歩く三人の背中には、これから始まる新たな日々への期待が満ちあふれていた。




